クジラの子らは砂上に歌う を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
月刊ミステリーボニータという離れ小島からやってきた、10月のハイ・ファンタジー爆弾。紙の質感と水彩の色合いを宿した背景の上で、閉じて終わった世界に収まりきらない感情が躍動する
何もわからないままクオリティで殴られる快楽に満ちた、素晴らしい第一話
これもPVを見て相当に期待していた作品だが、当然のごとく裏切られた。砂海を泳ぐ、泥でできたおもちゃのクジラ。そこに閉じ込められた短命なる異能力者と、数少ない無能力の支配者。感情を殺す規律と、そこから溢れる青い想い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
上質な絵本の中に迷い込んだような酩酊と、ゾワリと迫る残虐の気配。
主人公チャクロを歴史の記録者にすることで、ナレーションを自然と入れ込み、異質な世界への説明をスムーズに流せる構造がまずいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
閉ざされたクジラの子供である彼は、目の前の小さな世界は知っていても、大きな世界の成り立ちは知らない。それを知ることが、記録者を主役に据えたこの物語の根源だ
感情が抑圧され、理由なきしきたりに縛り付けられる小さな世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
異能力を持った短命多数者が、長命なだけの只人に支配され、服装からして階層化されている世界。
神の視点から見ればディストピアで、個人の主観としては小さな泥のゆりかご。暖かく、湿っていて、子供を逃がさない。
優しいチャクロは、そんな世界を愛している。短い人生を、割り振られた記録者という役割を果たし死んでいく『当たり前』に納得している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
しかし彼はリコスという『外』に出会い、オウニという『外』を切実に希求する少年に巻き込まれ、泥クジラから旅立っていく。
小さな世界の小さな『当たり前』に納得しているモノ。反骨の相に導かれるモノ。そもそも、小さな世界の『外』から来たもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
第1話ラストで結成された集団が、見事に泥クジラへのアンビバレントな対応を背負っているのは面白い。その小さな感情の反発が、世界全体に拡大していく予感がある。
針穴のように小さな、チャクロの小さな世界。クジラの胎内から開放されたオウニだって、『外』を知っているわけではない。知らないからこそ反発し、システムに飲み込まれていたのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
子どもたちを飲み込んで離さないクジラの暖かさ、泥の温もり、閉ざされた恐怖が、美麗な背景から無言で立ち上がる。
紙の荒い質感の上に、水彩がしっかり乗っかった色彩。非常に特殊で、しかしこの異質な世界を描ききるにはドンピシャな美術が、主人公たちが閉じ込められ、脱出することになる世界に僕らを引き込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
絵本の中に吸い込まれたようで、でも夢物語ではない。生き死にのザラつきがある不思議な感覚。
冒頭の葬礼シーンがとにかく見事だ。彼らは人間にとって最も根本的な尊厳を、儀礼として見送る風習を持っている。同時にシステムはそれを抑圧し、チャクロの瑞々しい感情はそこから涙となって溢れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
砂と泥に満ちた世界では、死者は荼毘にはふされない。罪人の入墨ににた印で、砂海に還っていく。
異質なものと、とても普遍的なものがギクシャクと同居して、圧倒的に美しい存在感を放っている。『この世界はそういうもので、そこに生きる人はこういう人です』と、当たり前に繰り返される生き死の儀礼を追いかけることで伝えてくる、沈黙なる雄弁。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
ハイファンタジーに必須の、強い語り口だ。
少年少女の幼い煌めきを見事に切り取る、飯塚晴子のキャラクターデザインもあいまり、見たこともない世界は拒絶の気配より、妖しい誘惑が先に立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
絶対に危うい場所で、目を背けたくなるような残酷が待っているのに、引き寄せられていく。
世界の謎を追うミステリでもあるこのお話には、必要な力だ
500人の人を載せた泥クジラには、様々なしきたりがある。『良い子』であるチャクロには当たり前のルールは、僕ら(と、『悪い子』であるオウニ)には異質なものと写る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
システムへの反発を肯定できないほど、砂の海の中で孤立し、追い込まれた泥クジラの生活が、薄暗い胎内の描写から見て取れる。
そして物語は、そのしきたりから外れた存在、アウトサイダーであり殺人者でもあるリコスとチャクロが出会うことで始まる。ボーイ・ミーツ・ガール、あるいは楽園でイノセントが罪と出会う物語。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
泥クジラの魅力的な異質性で足を止めず、ベーシックな物語エンジンを回して始まる。とてもワクワクする。
異質にして美麗なる砂と泥の世界そのもの。少年少女の出会いと旅立ち。しきたりに秘められた秘密。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
話を牽引するエンジンが複数あり、どれもベーシックで力強いのは、非常に良い。一番強いエンジンは、泥の船の中の生活が生っぽく迫ってくること、そこに宿る感情に熱があることだろう。
感情の発露を禁じられ、定められたルールに従って生きるとしても、ヒトは何かを思い、システムからそれを溢れさせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
チャクロの幼い純真もグッと胸に迫るが、個人的には無印と印持ちの垣根を超え、世界のルールに挑もうと善意の斧を振り回しているスオウに、強い好感を抱いた。
スオウとサミが兄妹であるなら、印の有無、寿命の長短は血では決まらない、ということだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
必ず自分より早く死ぬ妹を運命から救い出すために、スオウはシステムの中でシステムに抗っているのだろうか。彼の思いが報われることはあるのだろうか。流れる日常の裏にある感情を、自然と知りたくなる。
どっしりと泥クジラの『当たり前』の生活を描いた結果、その優しく息苦しい抱擁の質感も、よく分かるようになっている。だから、そこから抜け出したいと強く願うオウニの反発にも、しっかり共感できる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
あそこは何かがおかしい。それが『当たり前』なチャクロはそう思わなくても、僕らはそう感じる。
そういう感情を背負って、オウニは全力で走り、チャクロを連れて世界の外に出る。チャクロを保護し支配していた『当たり前』が壊れて、世界への窓が空いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
運命は当事者の意思を斟酌しないという意味でも、勢いのある良い出だしだ。欲しい所にスパッと、描写と展開が入る感じだ。
クジラの胎内で微睡む少年と、そこから目覚め抜け出したいと願う少年。正反対のベクトルが衝突する中心に、謎めいた『外部』として少女がある。この構図も良い。絶対に何かが起こる配置だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
リコスは一体何を背負っていて、泥クジラと出会って何を学ぶのか。Apathyな彼女は、感情を取り戻すのか
巻き込まれたチャクロ、未知に飛び込んだリコスがそうであるように、僕らもまた、これから先の物語はさっぱり分からない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
だが絶対に何かが起こるポテンシャルを、この美麗なる世界はしっかり持っているし、ベーシックな冒険譚の王道をしっかり踏んだ第1話から広がる物語も、期待と興奮に満ちている
三人の少年少女が漕ぎ出した、巨大な砂の世界。赤く血塗られた刃、老人の姿をした抑圧、泥のクジラの抱擁。不穏な空気はのどかな日常の中にみっしりと満ちていて、冒険の予感が風穴を開けた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
そこからどんな景色が見えて、残虐なる風が巻き起こり、世界の真実と出会った少年は何を思うのか。
まったく、脳髄の中に期待と想像しか巻き起こさない、見事な第1話だった。この砂と泥の世界に何が隠されているのか、異世界の風を胸いっぱいに摂取したい。思う存分、物語の先を見たい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
その願望は、主役たちの冒険に乗っかって必ず叶えられるだろう。いいアニメが始まった。来週も楽しみだ。
スタッフインタビューで美術監督・色彩設定・撮影監督がコメントを求められているあたり、自分たちの強みをしっかり把握し、視聴者にも届けようという意欲を感じるな。やっぱファンタジーは美術だよなー…最の高っすわ。https://t.co/H0Wr11DbJH
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
追記 隠したナイフが似合わない僕を
クジラの子ら追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
『デストロイヤー』たるチャクロは印を過剰な攻撃としてしか使えないわけだが、リコスの攻撃から身を守る時は適切に使えている。
生活の道具を獲得するには過剰な彼の攻撃性が、リコスが殺人を犯す危機から彼女を遠ざけ、適切な自己防衛として機能したのは面白い。
異能が『当たり前』の世界で、エリートとはいえない居場所に主役が追い込まれている原因を、例外的に飛び越える描写。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月10日
その原因は死が眼前に迫ったからなのか、リコスとの出会いが特別な運命だからかは、今後見えてくることだろう。世界の不穏さは、チャクロに優しさだけでなく凶暴さも要求しそうだし