クジラの子らは砂上に歌う を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
接触と胎動。永遠に続く揺籃の日々は、血と銃弾で終わりを告げる。明滅する生命、不穏なる謎の群れ。泥に塗れた子宮で微睡む夢は、否応なく醒める。
増え続ける謎が、日常描写と並走して不協和音を煽り、ラスト衝撃の展開へと続く。引き込まれる第二話。
作り込まれた巨大な異世界を、主人公・チャクロの痛みを伴う成長ととも解明していくこのお話。たしかに『ミステリー』ボニータ連載作だなと感心するが、これをただの列挙ではなく、熱量のある謎として引き込むために、色んな工夫がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
それは色彩の変化であり、繰り返されるモチーフだったりする。
泥クジラが持っている閉鎖性と欺瞞は先週も強調されていたが、リコスのいた島≒外部≒巨大な墓に三人が飛び込み、感情を蓄積する巨大な怪物と出会うことで、その対比は鮮明になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
記録者というチャクロの役割を、非常にグロテスクに先鋭化したような怪物には、能力を使用できる『印』が刻まれている
あの生物が何であるかはまだ説明されないが、そこに蓄積された知識を受け取ることで、チャクロはリコスの失った感情と、感情を剥奪されることへの抵抗を見つけた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
オウニが泥クジラからの開放、戦争への憧れを見つけたのと、面白い対比だ。死を前にして悼み祈る少年と、開放に心躍らせる少年。
第1話冒頭での葬儀と、リコスが築いた巨大な塚は分かりやすい照応だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
感情が本当にないのならば、そこに祈りも墓碑銘もいらない。死者を厭い悼む心があればこそ、リコスはチャクロと同じように死の塚を作った。
その感情と響き合うように、チャクロは顔も知らない死者のために祈る。
照応には当然差異がつきもので、泥クジラでは砂に流され消滅していた死体(と、それに付きまとう感情の揺れ、穢れ)は、塚では永続する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
剣と銃で殺し合うことが当たり前の世界と、死と戦争を剥奪し、平和を捏造してきた世界。その対比は、葬送儀礼の差異でより鮮明になる。
来るべき惨劇を予言するように、血の色の夕日に染まった砂の海、死の島。臓物のごとくうごめく地下施設の昏い光は、泥クジラの白っぽく柔らかい色彩と、非常に明瞭な対照をなす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
死を遠ざけて常に明るい泥クジラにも、罪を隠す牢獄があり、そこは暗い。薄暗いこそ、隠していた真実に通じている。
血の色の夕日を抜けて、胎内の薄暗い景色を通過し、日常に帰る。明るく、朗らかで、永遠に続く平和の日光。陽の光のなかで、子どもたちはとても明るく、楽しく、大人になっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
セックスの前段階としての、微笑ましい恋の鞘当て。管理社会における性の解放として、青紫の闇と飛蝗の光がある。
人間が社会を維持し、生死の明滅を繰り返すためには、世代を繋がなければいけない。人間は当然の成り行きとして番になり、生殖する。それが可能な、戦争のない世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
泥クジラが幾度も繰り返してきただろう、番が生まれる夜。それが『増えすぎたゆえに旅立つ』飛蝗に照らされているのはとても暗示的だ
当たり前のように積み重ねてきたものは、全て唐突に奪われる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
感情を廃し、歴史を蓄積するチャクロの仕事。穏やかに生死の明滅を繰り返す、泥クジラの日常。サミの命。
三年前は恋も知らなかった子どもたちは、今ちょっと大人になって、三年後には番となっている。そういう『当たり前』の消滅。
しかし、記憶と感情を食うアーカイブに記されていた『外の世界の当たり前』は、心のない兵士が殺し合う戦争だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
銃口の意味も知らず、好奇心で前に出たサミがチャクロの命を救ってしまうシーンの無垢さが、凄く辛い。闇と光、二つの『当たり前』が衝突し、全てが変わってしまう瞬間のための贄。
でもそれは隠されていただけで、泥クジラは特別な楽園でもなんでもない。市長をお飾りの人形にして、感情を押し殺して、印持ちと無印の間に階級格差を作って。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
そこがユートピアなどではなく、朗らかなる絶望郷でしかない『当たり前』に、チャクロも到達する。してしまう。
能力の証明として入墨(古式に習って『黥』と書けば、正しく罪人の証であり、『鯨』ど同音である)を刻まれた、咎人達の理想郷。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
どす汚れた死のカルマ、あの島を支配していた血の色の闇がただ隠蔽されていると直感したからこそ、オウニはアウトサイダーになったのだろうか。
泥クジラが押し付ける、心地よい抑圧。光に満ちた揺り籠の中で永遠にまどろみ続けられる時代は、サミを贄にして奪われてしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
オウニはそれに喜ぶだろうし、チャクロは泣き叫ぶだろう。『兵士になんてならなくていい』『殺し合いで死なない』場所は破綻したのだ。
そんな泥クジラの子に同質化し、あるいは異質性を際立たせているリコス。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
島から離れ、怪物から遠ざかれば、失ったはずの感情は簡単に蘇る。家族を思い出し、涙を浮かべ、夜を飛ぶ飛蝗の輝きに心をざわつかせる。チャクロは無邪気に『同じ』と言ったが、兵士である彼女が泥クジラに破滅を連れてきた。
チャクロの体温と匂いが染み付いたフードを被り、人間性の吐露と同時にそれを外す。一連の仕草が、リコスが泥クジラの子供になれるかもしれない可能性を示唆し、銃弾が鮮烈に奪う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
赤紫から黒、オレンジから青紫へと移り変わるライティングのように、リコスの描写もグラデーションを為している。
泥クジラの罪人たちが、嘘と穏やかな矯正、異物の排除で作り上げた感情剥奪。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
それは『外部』でリコスになされたように、感情の危うさを理解した施策だ。罪人として世界から切り離されても(されたからこそ)、世界の根本に巣食う業には対応しなければならない。泥クジラもまた、あの怪物と同じ装置だ
ラストの襲撃が、チャクロの『記録』を最後にするということは、泥クジラのシステムがそれを維持できなくなる、ということだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
リコスが感情剥奪のシステムから、一緒に心と敵を殺す仲間からひと足先に奪われていたように、チャクロもまた幸福なる母体から切り離される。産褥に血が流れる。
どれだけ抑圧しても、剥奪しても、厄介な爆薬だと理解していても炸裂する感情。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
蝗のように無軌道に膨れ上がり、繁殖して飛び立ち、一瞬の輝きを見せて躯を晒す『それ』こそが、この登場人物の多い作品の主役なのかもなと、あっさりと退場したサミを見ながら思う。
あの時おんぶしてあげれば、サミは生き残ったのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
その意味を知らないまま、サミではなくリコスを番として選び、心の傷を背負ってあげる選択をしたチャクロの残酷を思う。
そんな外野の感傷を置き去りにして、泥クジラが隠蔽してきた世界は道化の仮面をかぶり、銃弾とともにやってくる。
印持ちの妹をとても気にかけていたスオウは、サミを失ってどう思うだろうか。むき出しの殺戮を前に、罪人の証たる『印』と異能力、爆裂する感情はどういう作用を見せるのか。老人たちは、どんな色の真実を隠しているのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
気になることがたくさんありつつ、次週は戦争である。
それを欺瞞と知りつつも、泥クジラの穏やかな日々、無邪気な子どもたちの暮らしは見ていてとても気持ちいいものだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
飛蝗は狙い通り幻想的で、ロマンチックで、恋の予感が甘く漂っていた。サミは可愛かった。
でもそれは、一炊の夢だ。輝いた蝗が躯を晒すように、夢が覚める。
オウニが待ち望んでいた戦争と開放。チャクロが夢にも見なかった日常の破綻。感情を剥奪するシステムから離れ、涙を流したリコスは戦場の到来を前に、兵士に戻るのか、別の道を選ぶのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
楽しみというのは、あまりに鮮烈で痛い展開はしかし、急ではない。世界はそういうふうに、いつでも残酷なのだ。
追記 "だれでもカインを殺す者は、七倍の復讐を受ける。"
クジラの子追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
異能力を可能にする入墨は、殺戮者たるカインの証でもあり、怪物はそれを剥奪することで子どもたちを無垢の殺人者として機能させていた。
泥クジラでは感情は剥奪されるのではなく、抑圧される。『印』が生み出す力も、平和の中で安全に使用されてきた。
今感情の剥奪を前提とした殺戮社会と泥クジラが接触し、戦争が始まった。何も知らないまま、友を迎えるかのように銃口に身を晒したサミのように、生き残った人たちは振る舞えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
迫りくる死を前に、『デストロイヤー』は資質を正しく使うのか。『記録』の剥奪がチャクロを兵士として覚醒させるのか
全ては照応され、対比され、相互侵犯の中にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
『同じだよ』とリコスに告げた純朴さは、そのままリコスが背負う兵士としての業がチャクロにも適応される平等さを照らす。
デストロイヤーの黥が、楽園を追い出されたカインの印となるか、否か。代理殺人者としてオウニが先に『童貞』を失うか。
残酷な青春物語という、"蝿の王"とも通じる太いベーシックを支えに、詩情豊かにハイファンタジーを語っていくこのアニメ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2017年10月17日
見てると脳髄の色んな所がつながって、つい夢っぽい語りになるなぁ。権力装置と性/生/生成。フーコーっぽいなと、勝手に見て取った。