イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスター SideM:第3話『飛び立つ勇気』感想

夢破れたイカロス達が新たな太陽を目指すアイドル神話、第三回はDRAMATIC STARSの潤滑油、柏木翼の秘めたる傷。
SideMの強みであるテンポの良さ、物分りの良さを最大限に活かし、一話でユニットデビューまでの苦労、アイドルにかける思い、運命共同体としての繋がり、辿り着いた最高の景色まで、非常に収まりよく描いていました。
翼を取り巻くユニット仲間・輝や薫の人格や関係性のみならず、未だデビューせざる仲間たち、男たちの心を信じて見守るプロデューサーの頼もしさなど、脇の描写までバッチリでした。
1クールに圧縮されたディスアドバンテージをむしろ活かし、小気味良い物語を作り上げるタフさを感じられるエピソードでしたね。

というわけで、第1話からの引き継ぎでまだまだドラスタ応援期間。
輝のオリジンは既に語ったので、今回は翼のオリジンにみんなでたどり着き、その先の未来へと進んでいくまでを描く話です。
アタリのキツい桜庭先生、主人公力の高いレッド天道に比べると、柏木君は調整役というか潤滑油というか、あまり良さが目立たないキャラ付け。
しかしそういう存在にも苦しみや悩みがあって、目立たないけどもかけがえのない役割と夢があって、そういうものが混じり合ってDramaticStarsという船が空に飛び立てる。
どうしても目立たなくなりがちな『良い人』をしっかり真ん中に据えて掘り下げることで、他の連中の人間味も見えてくる、良い構成だと思いました。

ドラスタの人間関係は結構面白い三角形をしていて、その構成は状況によって変わります。
誰かが出過ぎても、引っ込みすぎても上手く行かないわけで、翼は一歩引いてそこら辺のバランスを取り、三角形が三角形として機能するよう調整しているわけです。
普段は自分の起源=夢を隠していてアタリもキツい桜庭が孤立し、輝と翼がラインを引く二等辺三角形
ステージに上ると、それぞれが精一杯のパフォーマンスを見せる、平等な正三角形。
そして今回は、失敗への強いトラウマで後ろに引っ込んだ翼をめぐり、輝と薫が同じラインに並ぶ変則的な二等辺三角形を作ります。

輝と翼がギャーギャー言い合い、翼が間を取り持つ『いつもどおりの三角形』が崩れてしまっている異常性を示すためには、まず『いつもどおりの三角形』を見せる必要があります。
なので冒頭、赤と青は仲良く喧嘩して、緑が緩衝材に入る構図が楽しく展開される。
ドラスタの日常を追いかける中で、まだ自分をさらけ出さず距離を取っている薫の孤立、輝-翼の温もりラインの繋がりなんかも描写されます。
翼の大食漢っぷりに驚く薫を、輝が「おまえ、翼と飯食ったことないな?」と煽ることで、『輝は翼と飯を食う=運命共同体になる儀式を既に済ませているが、薫はそこから間合いを置いている』と解らせる運びとか、非常にスマートでしたね。

そしてそれは、物理的な立ち位置となって、映像の中で巧妙にレイアウトされる。
空港のシーンが一番顕著ですが、フライト失敗の失敗を引きずり、運命共同体の一員になれなかった孤独を抱える翼は、金網側に寄って線を引いています。
その外側から輝が声をかけるわけですが、優しくても他人事の言葉は一線を越えることはなく、翼の気持ちには届かない。
まだ自分の起源を隠していて、素裸の自分を見せるつもりがない薫も、当然その線は越えられません。
ここら辺の緊張感と力関係を、そこまで強調せず、しかし確かに画面に落とし込んでいるバランス感覚は、SideMっぽいなと思う。

(デレアニは客がドン引きしようが、読めなかろうが、徹底的に画面を『意味と意図』で埋め尽くすことで独自性を作っていた。
どっちが良いという話ではなく、展開する物語のトーンにふさわしい演出、製作者の人格が選び取る表現法ってのはそれぞれあって、それが作品の個性になる、という話です。
ポップさを泥臭い熱血を両立させ、高く高く伸びていく憧れへの視線を維持し続けたアニマスの透明感も、また個性だと思います。僕は全部好き。)

ここで一旦別れてウジウジするなら話は長引くわけですが、そこは二十歳超えた大人、お仕事一緒にやる仲間に自分の傷を見せ、なぜ『最高の景色』をアイドルに求めているかを公開していきます。
命を預け合う仲間と、一緒に飯を食うルーチーンを捨てられない翼の中で、『フライト』という行為は未だでとても大きい。
それは幾度も切り取られる『飛行機の模型』の扱いでもよく分かるし、三人の問題が解決するのが事務所でも楽屋でもなく『空港』でもあることからも感じ取れます。
無残に砕けても胸に突き刺さっている翼の残骸と、どう向き合い新しい空を目指すかは、とても大きな問題なわけです。

翼が失敗を恐れるのは、自分が傷つくことへの恐怖もありますが、ユニットとして一つにまとまり、輝や薫の夢も背負っているから。
乗客乗員の命を背負って飛ぶパイロットの倫理は、翼の中で大きく意味があるわけです。
翼がただ自分ごとに悩んでいるのではなく、他人を背負っているからこそ苦しんでいると知った輝は『線』を踏み越え、自分もまた翼と同じ恐怖を抱えていること、翼の夢もまた、運命共同体である自分が背負って飛ばなければいけない大事な重荷であることを伝えます。
輝がなんでそうしたかといえば、そりゃ彼が『正義のヒーロー』を目指していて、英雄はいつだって他人のために失敗を恐れてしまう優しいやつを、見捨てなんてはしないからです。
一線を越えて前に出る勇気は、『正義のヒーロー』をアイドルに夢見る輝の特権であり、強みでもあるのでしょう。


桜庭の物語はまだまだ先なので、今回線を超えるのはあくまで輝の仕事であり、薫は一歩引いたところから状況を見て、あるいは怒ります。
足元がアップになって前に出るカットはつまり、感情が動いていることを表現しているわけですが、薫の場合これがほとんど『怒り』として表現されているのが面白い。
輝が『優しさ』で踏み込むところを、薫は『怒り』をエネルギーにしてクールな仮面を引剥し、前に出てくるわけです。

んで、作品もキャラクターもそういう桜庭の個性をしっかり判っている。
ただ何かを隠し嫌味なこと言うだけの『やな奴』として描くことも可能なポジションなんですけども、薫が他人の不調に真っ先に気づく目の良さを持っていることや、彼の怒りが私憤ではなく公憤の要素も含んでいることを、このアニメの映像は丁寧に描いてきます。
例えばリハで失敗してキツいこと言って、翼がトラウマ直撃されてガン凹みしてるのを見て取って、「次成功すればいいだけの話だ」とフォローを入れるところとかね。
桜庭先生の目の良さは、翼が縁の下の力持ちとして色々調整して、ドラスタの三角形を維持してくれていることを見逃しはせず、ちゃんと感謝を言葉で伝えてもいるからなぁ……ここら辺の心配り、伊達に年食ってねぇなと思う。

前に出て、寄り添って、優しくする天道の生き方は好ましいけども、それが取りこぼすものが必ずある。
受け身で、相手に合わせて調整役を買って出る翼のスタイルで、拾いきれないものが必ずある。
まだメインエピソードは来ていなくても、薫のスタイルだけが背負える可能性を既に見せて、期待感と好ましさを高めていく運びは非常にクレバーだな、と思いました。
対立しているように見えて「荒療治が過ぎやしないか」と言ってくる輝も、桜庭先生が『治療』としてキツい薬を処方し、翼が自力で奮起できるよう不器用にサポートしていることを、既に理解してる感じですね。
ここら辺の裏事情を読む眼、人間いろいろの真実を把握している感じは、成人済みの年齢設定を描写とドラマの中で活かしていると思います。

今回の話は、冒頭のインタビューが巧みに機能している構成です。
話の主役である翼が答えた『最高の景色』が、音楽番組のステージというフィナーレでしっかり回収されるところもそうだし、心の一線に勇気を持って踏み込み、本物の自分を引き出す手助けをしてやれる輝の『正義のヒーロー』っぷりも良い。
他の二人に比べて『トップアイドル』という薫の答えは、形だけで中身が無いわけなんだけども、『それが翼の次に来るドラスタの課題なんだ』という露骨なメッセージも踏まえると、むしろ誠実でしょう。

『色々事情はあるが、今は明かすタイミングではないッ!』と殴りかかってくる、意味深な桜庭黄昏~イルカのブレスレットを添えて~のシーンを見れば、彼が何かを求めていて、それを隠していること、今回の翼のようにそれが明らかになり運命共同体の中で共有されることは、一発で理解るしね。
翼の飛躍をしっかり真ん中に据えつつ、次の話が乗っかる土台も並走で仕上げていく手際と貪欲さは、なかなか凄いなぁと感心です。
輝の私服を構成する『スカーフ』を嫌いつつ、アイドル衣装(翼曰く『俺達の新しい制服』)では自分のものとして取り込んで、ユニットとして一体になる未来、それを受け入れより強く繋がるドラマを予感させるところとか、とっても好きよ。


アタリがキツいけど優しい、冷たいようでいて仲間を頼っている。
桜庭の難しいポジショニングを成立させているのは、細やかな視線の演技です。
TV出演と聞いた瞬間、文字通り目の色が変わるシーンを入れることで、彼がアイドルとして露出度を上げ、成功することで『何か』を求めていることが判る。
翼や輝と同じように、血眼になれる『何か』が薫にはあって、それがドラスタを運命共同体として結びつけている。
それを感じ取っているから、仲良く喧嘩しつつ三人でやろうと輝は思っているし、翼も間を取り持とうと積極的に動く。
そういう人間関係の微細な間合いを測るメジャーとして、アイコンタクト用のメディアとして、『眼』は非常に有効に使われている。

『眼』の演出は、プロデューサーを描く筆でもしっかり活きています。
翼が居残り特訓を申し出たとき、またインタビューを受けたとき、彼は『飛行機の模型』が翼にとってどれだけ大きな意味を持っているか見て取って、それが地面に投げ捨てられてしまっている楽屋のやり取りも無言で理解する。
飛べなくなった翼に原点を思い出させるべく、あえて『空港』に連れ出して、大人三人の自浄作用を信頼して『場』だけは用意するスタイルは、スマートかつ効果的でした。
置き去りにしてしまった夢と対面すると傷が痛むけども、そこに立ち返らなければ翼にかかった影(レッスン場での暗示が見事)は払えない。
翼が線を超え、過去を乗り越えるための場所づくりをしっかり見切って果たす所に、Pちゃんの『眼』の良さ、有能さが現れています。

見慣れないポスターが空間を埋め尽くし、モニター越しにしか見たことのないアイドル(秋月涼 is Back!)が実際にいるTV曲は、三人にとって異界です。
そこが新しい場所だからこそ、見える景色は最高のものになるわけですが、ナイーブな傷を公開しお互い踏み込む場所としては、あまり相応しくない。
そういう空気をしっかり感じ取って、なおかつ『ドラスタは自力でバランスを立て直せる』と判断したからこそ、Pちゃんは『後はお若い方で……』みたいな空気出して後ろに下がったのでしょう。
お茶という『口に入れるもの』を抱えているカットが入ることで、翼が『運命共同体を作る儀式』と言っていたファミレスの食事シーンとの呼応が生まれて、翼以上に『見守る役』であるPちゃんもまた、夢へと一緒に飛ぶパートナーであることが強調されていたと思います。

Pちゃんは過去作のプロデューサー達が躓いていた小石を、片っ端から優雅に蹴り倒して、仕事を順調に進めていきます。
デビュー前のアイドルたちが不安にならないよう、今後の青写真をしっかり共有するし、新人アイドルの身の丈はソフトに伝えるし、自分がやんなきゃ!と過剰にガムシャラになって空回りすることもない。
非常に優秀なんですが、それはあくまでアイドルが輝く舞台を整える準備にとどまり、主役はアイドルに譲っている。
メタ的にも、作中描写的にも分をわきまえ、夢を持ち、着実に一歩一歩進んでいく頼もしさに満ちていています。
SideMのスマートな進行は、かなりの部分Pちゃんの人格に支えられてる感じですね。
……ということは、Pちゃんが何らかの理由で抜けると、大嵐が315プロに襲いかかるわけだなぁ。


こんな感じで、色んな人の強さや輝きを小気味よく描いている今回。
コンパクトな出番の中で、未だデビューを待つ雛鳥達の顔もちょっと見えて、今後の期待も高まってきます。
年齢的に凸凹してるBeitで、『難しいお仕事の場所』に我慢できず飛び込んできちゃうのが最年少のピエールだったり、それを残り二人がフォローしたり、コンパクトに関係性見せるの巧いですね。
基本祝福ムードでまとまる(それも、Pちゃんが情報共有をキッチリやった結果だと思うけど)中、恭二くんが「次は俺達も続きますんで」と軽くギラつく所、『仲間だけどライバル!』って感じが出てて最高に良かったですね。
ああいうコンパクトなくすぐりがあると、話の軸足が彼らに映ったときスッと入り込めるし、期待も高まるわけで。
大人数を扱う物語を運営する上で、こういう細かい仕事の上手さはホント大事だなぁと思います。

自分としては、315プロに馴染み、後輩といい距離を作ってるJupiterの描写がやっぱ嬉しくて。
翼が『最高の景色』を夢見るようになった彼らが身近にアドバイスすることで、ドラスタのデビューは安定感と輝きを確実に増しただろうし、あの優しい連中はそうやって後輩の役に立てることを、喜んでいるでしょう。
芸歴や実力、前歴や性格はバラバラでも、むしろバラバラだからこそ繋がりあえる事務所という『場』は、Jupiterが961で望んでも得られなかったもの、765を羨ましく見上げていた大きな理由だと思いますからね。
そういう『場』を与えてくれたPちゃんにも感謝深まるし、最後のホワイトボードのメッセージも良かったし、やっぱこういう目配せ巧いの素晴らしいですね。


というわけで、ドラスタの緑担当、いつも優しい柏木翼の内面に、ぐっと踏み込むエピソードでした。
『良い人』ってどうしても『都合の良い人』『物分りの良い人』になりがちで、物語的に報われたり掘り下げられる優先順位が下がりがち。
なんですが、彼がドラスタで果たしている役割を見据えつつ、そこで収まらない個人の夢と傷をちゃんと共有し、よりドラスタになる話をここで持ってきたのは、とても良いと思います。
色々制約が厳しい中、キャラや物語に極力公平であろうとする姿勢を感じさせてくれるのは、凄く好きですね。

翼のコアを『飛行機』にまとめ上げた結果、それを取り巻く輝や薫のキャラクター性、関係性もよく照らされ、見通し良く楽しめました。
桜庭の事情や感情が大爆発する準備が着々と整えられていて、そっちにも期待が高まる感じでしたね。
大人の配慮を感じさせつつ、踏み込むべき一戦を前にためらわない輝のヒロイズムもパワフル直球勝負で描かれてたし、それを遠くから見守り整えるPちゃんのありがたみ、事務所の仲間の鼓動も感じられた。
とても良いエピソードでした。

さてそれを踏まえての次回は、凸凹年齢差のバイト仲間ユニット、Beit回っぽく。
年齢高めのドラスタは物分りの良さをテンポにつなげ、独特の魅力をアピールしてきましたが、ちょっと若めのBeitをどう描いてくるか。
エモいアイドル描かせたら天下一品、木村隆一のコンテはどう唸るのか。
今から非常に楽しみですね。