イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスター SideM:第4話『ハッピースマイル』感想

故国を追われても、家を飛び出しても、ホームはいつでも胸の中にある。
そういう感じのSideM第四話、Beitとお祭りを巡る一騒動です。
最年少のピエールくんの無垢さと危うさ、難しい年頃な恭二くんの頑なな表情、どっしり後ろから見守るみのりさんの頼もしさ。
物語内部の役割をハッキリ振り分けて、Beitがどういうバランスでお互い支え合い、自分たちを引っ張っていっているのかを、疑似家族的な温もりを大事に描く回でした。
彼らがアイドルになる前からのホームと言える『商店街の祭り』をステージにすることで、異邦人であるピエールの個性や、『家』から飛び出しても抜け出しきれない恭二の陰りも、しっかり切り取れていた印象。
おもしろ高校生五人組のHigh Jokerを助っ人として巧く使うことで、今後の展開への目配せもしていて、SideMアニメらしい手際の良さ、スマートさを感じるエピソードとなりました。


というわけで、仲良し三人組なBeitがメインになる今回。
ドラスタ軸で進んできたここまでの三話に比べると、ユニット内部での役割分担が最初から明瞭で、それが最後まで継続されていく安定感が強いエピソードでした。
最年少のピエールくんは、年相応の元気な危うさと、自己を鎧わないがゆえの無垢さで話を牽引。
思春期真っ盛りの恭二くんは、家を憎みつつ支配されているアンビバレント、自分を縛ってしまっている不自由さと闘う仕事を。
そんな二人を見守るみのりさんは、自分の話はあんまりせずに、心労を気遣いコミュニケーションを仲立ちし、年長者らしい落ち着きと頼りがいで支える。
ユニットとして、それを超えた仲間として、それぞれの強みや個性で支え合ってBeitが成り立っているのだと実感できる、堅牢な構成でした。

『地元商店街の紹介ビデオ』という、コンパクトでローカルな仕事から始まる今回。
事務所も知名度も小さくて、それ故ぬくもりを肌で感じる距離感で仕事ができる『第四話』だからこその導入だと思いますが、アマチュアがのんびりやってる雰囲気は、仕事を飛び出して話全体に敷衍していきます。
これはそれぞれ『家』を持っていないBeitメンバーが、疑似家族を形成することでお互いに繋がり、役割を与えあっている姿と、面白いシンクロを為す。
政争に巻き込まれ亡命してきたピエールが末子、鷹城の名前を捨てた恭二が長子、みのりさんが親代わりという繋がり方を選ぶことで、孤独だった(だろう)三人は関係を作り、商店街の人々にも助けられつつ生き延びてきたのかな、と思わせる描き方でした。
たこ焼き屋さんで、熱々たこ焼きという『危険』を前に、真っ先に舌を火傷してしまうピエール、それを笑いつつも自分も傷つく恭二、完全に状況を乗りこなすみのりさんという描き方が、非常に分かりやすい。
自分の痛みにかまけてたら、何にも知らない子供をケアする余裕なんて、『大人』からはなくなっちゃうからなぁ……慎重と安全は、何も自分のためだけじゃないっていうね。
みのりさんはトラブルメイカーな二人を自由に遊ばせる立場上、自分の過去を語りはしませんでしたが、子供二人のバックボーンを考えると、彼もまた『家』を失ってるんだろうなぁ。

とにかく前に出る幼いピエールが一番危ないように見えて、なまじっか自分を鎧ってしまっているだけに問題を表に出せない恭二が、今回のお話では一番危うい存在として描かれています。
楽しい仕事描写の合間にも、笑顔が巧く作れないヤバさと、それを見逃さず一言かけてくれるみのりさんの『親』っぷりが差し込まれる。
ピエールが無邪気に引き起こした一大事を前に、自分のこだわりよりも仲間(こう言ってよければ『家族』)を守る決断をしたことで、恭二の中のわだかまりが少し溶けて、笑顔が光の中にさらされる。
弱いものをただ守っているように見えて、その実守る側が弱いものに癒やされ、道を教えてもらえる『家族』の不思議が、巧くアイドルユニットの関係性に組み込まれた描き方でした。


疑似家族をフィクションで描くとき、家族の堅牢な繋がりや関係性萌えが前に出すぎて、『家』を捨てた/捨てざるを得なかった痛みが置き去りにされたり、年齢差がそのまま力関係に反映されすぎる時があります。
年が若い存在がとにかく無力で、もしくは無垢で、年長者が失った理想や現実の傷を、ただただ背負わされる存在になってしまう描き方は、僕はあまり好きではない。
のですが、今回のピエールの描き方は危うさと強さのバランスを上手く取り、チャーミングでピュアな魅力を存分に強調しつつ、亡命の悲しさを端っこで匂わせる、いいバランスでした。

何かと抱え込んで闇の中にいる恭二に比べ、ピエールはとにかく開けっぴろげで悩まず、前向きに進んでいきます。
後ろを振り向かないエネルギーがユニットを牽引するという意味では、Jupiterの冬馬に近いポジションなんだと思います……二人とセンターだし。
『家』との確執がアイドル最大の武器である『笑顔』を作らせてくれない恭二にとって、ピエールに手を引っ張られることで前に出るきっかけが掴め、自分ひとりでは転がっていかない運命を動かせる。
そんな二人の関係を後ろで見守りつつ、みのりさんも手を引かれ/繋いで/守って一緒に進む。
この関係性はお祭りデートの冒頭でしっかり、絵力込めて印象的に描かれていて、巧い象徴化だな、と思いました。

同時にピエールは、自分の祖国から遠く離れていることを忘れているわけではない。
お祭りの内容を聞いて『一つになることは善いこと、だからやりたい!』と出てきたのは、『一つになれない』からこそ『家』を追われ、異国で暮らす彼の現状が言わせた台詞だと思います。
SPのオジサン達と合わせて少しコミュニケーションが不自由なんだけども、必死に自分の思いを伝えよう、手にはいらない夢(失われた『家』、ファンの笑顔)を掴もうとする彼は、ただ守られるだけの子供ではないわけです。
ここでもみのりさんは年長者の実力を活かし、SPさんの仕草を通訳する立場にいますね。

ピエールがどんちゃん餌にドナドナされて、ステージに穴が空きそうになる展開はちと強引かとも思いましたが、『祭り』というセッティングと合わせて彼の異邦人っぷりを強調したかったのかな。
非常に日本的な行事である『祭り』に瞳を輝かせるのは、それをよく知らないピエールの特権。
法被(サブタイトルにもある『ハッピー』と重ねてるのは好きです)を団結の象徴と見たり、で店一つ一つに喜んだり、ピエールの無垢な視点を通じて、慣れ親しんだ風景が隠している魅力が顕になってくる。
しかし『知らない』ということは弱さでもあり、異国の地に放り出されたピエールは帰還の道を見つけられない。
でも、そういう弱さは『知ってる』二人が携帯電話で受け取り、ドラテク全開の車(50km/hはぜってぇ嘘だろ)を運転できる『大人の特権』で解決すればいい。

幼いこと、無知であること。
知っていること、成長してしまっていること。
それぞれの強さと弱さを際立たせる構図を、ローカルで温かい『祭り』というセッティングに重ねることで、過剰に図式的にならないよう、楽しく食べさせる。
SideMアニメの強み(だと僕が思っている)であるバランスの良さが、図式としても演出の方向性としても、よく生きた回だったと思います。

SPさん達は無言芸で巧くテンポを作り、ちょっとシリアスでとっても楽しいこのエピソードを支える、良い脇役でした。
ピエール拉致の下りの無理くりさを引っ被って、『SPとしてはどうなの?』と思わなくもないんだが、まぁ話の展開上あの人らが解決しても困っちゃうしなぁ。
みのりさんを通訳にコミュニケーションできているところとか、情のない仕事ではなくピエールLOVEな部分を見せたりとか、NG出して邪魔もされたお神輿に自分たちも参加して和解しているところとか、脇役ながら気を配った描き方をされていて、柔らかで温かいエピソードのムードを盛り上げてくれました。
声のついてるイケメンアイドルだけではなく、画面の端っこを支えるこういうキャラの描き方に情があると、見てていい気持ちになるね、やっぱ。
ここら辺は商店街の人達の、サッパリとしてるけど暖かい描き方も同じか。


どんなものにも興味津々、いつでも光の中にいるピエールに比べ、思春期戦闘真っ最中の恭二は何かと暗いです。
おにぎり食べるシーンでも、歩道橋のシーンでも、恭二は常に影の中にいて、みのりさんが光の中で相対している。
ここで『気づく』のが常にみのりさんで、幼い/知らないことがアイデンティティであるピエールは徹底して『気づかない』のは、ユニット内の役割分担を崩さない今回らしいな、と思いました。
三角形のバランスが揺れ動く複雑さを描くには24分はちょっと短すぎる、と判断したかな。
今回見せれたものの豊かさを考えると、ズドンと芯を据えて動かさない立ち回りは正解だったと思います。

恭二の顔に影差しているのは、飛び出したはずの『家』です。
ここら辺の示唆も非常に分かりやすくて、新たな『家』になった地元商店街を脅かす『鷹城』の名前が出た後、曇る恭二の顔と『鷹城』のネームプレートがアップになる。
台詞で全部言うでもなく、過剰に視聴者に読ませるでもなく、分かりやすい暗喩で意味を織っていく演出の明朗さは、SideMの強さだなぁ、やっぱ。
意味を取れなかったり、取り違えたりするほど難解でもなく、詩情を蒸発させてしまうほど直線的でもない、いい位置を確保していると思います。

笑顔が巧く作れず、(ローカルでアマチュアなものですが)アイドルの仕事をこなせない恭二を、『親』であるみのりさんはとても心配しています。
それとなく水を向けて、捨てた『家』と自分との距離感を調整するよう促すのですが、恭二は話題をそらして逃げてしまう。
これは幼いピエールの開けっぴろげさとは正反対の、『知っている』からこその防衛行動です。
画面をズバーっと縦に切り裂く切断面、電灯の柱が非常に分かりやすい心理演出ですね。

問題の渦中に飛び込めば傷つくことを、身を以て知っているから遠ざけてしまう、大人のズルさ。
傷を受けてなお、より良い生き方のために問題に切り込んでいくことを選択できる、大人の強さ。
『家』との付き合い方という『難しいお話』と、最年長のピエールを遠ざけて対面する二人は、ピエールが持っていない『大人』の二側面を、それぞれ背負っています。
痛みに耐えられない程度には子供で、無邪気に全てをさらけ出せる程にはもう子供ではなく、身を引いて自分を守る手段を知る程度には大人で、傷つかなければ手に入らないものに踏み込める程大人ではない。
思春期真っ只中、鷹城恭二はなかなか難しい子です。

日常的な距離感ではなかなか切り崩せなかった恭二の悩みは、『祭り』とピエールの不在という二重の非日常によって壊されていきます。
新しい『家族』となり、アイドルユニットという運命共同体でもある仲間を守るために、捨てたはずの『鷹城』に頼ろうとする決断。
それは恭二にとって、自分のこだわりと痛みを乗り越え、新しいステージに立つ選択です。
ピエールからのSOSが間に合った結果、実際に頭を下げるところまでは行きませんでしたが、『俺のこだわりより、仲間を助けたい』と思えたことは、彼を守る不要な鎧を捨てさせ、少しいい方向に進ませた。
その決断の意味を『親』であり『大人』であるみのりさんは知っているので、ちゃんとお礼を言って労う……なんてデキる男だ……。

ピエールのために、自分の中の思春期を殺した恭二は、冒頭巧くいかなかった笑顔が自然に出て、より良く『アイドル』出来るようになっています。
個人レベルの変化が仕事に繋がっている描写で非常に好きなわけですが、彼の変化を夕日が祝福するように照らすのも、良い演出です。
ここまで恭二の顔は内心を反映して常時暗かったので、問題解決(ピエールの回収だけではなく、『家』との距離感に一歩踏み出した)の報酬として、分かりやすく光に向かう形ですね。
それは同時に、みのりさんが常に足場を置く『大人』に近づいたということだし、ピエールが身を置く『子供』の率直さを取り戻した、ということでもある。
『年齢や経験は、より善い未来をつかむことの絶対条件ではなく、それぞれの在り方で光に向かい合うことが出来る』と言われているようで、恭二の明暗青春旅を見るのは気持ちが良かったです。
『大人』と『子供』、どっちかを特権化された『正解』だと言い切られてしまうと、どうにも息苦しくなっちゃうからね……それより、『子供』であった思い出が『大人』を支えているし、『子供』はいつか頼もしい『大人』になれる、って描き方のほうが、開けている感じがします。


ヤンチャで無邪気なピエールと、『家』と『思春期』という二大モンスターと取っ組み合いする恭二。
二人を前面に出した結果、みのりさんはあまり内面を語らず、過去も描写されませんでした。
彼が非常に物分り良く、頼もしく見守ってくれるお陰で、話が収まりよく展開した部分はあるのですが、むしろ(展開的にも、キャラクターの人間関係的にも)功労者であればこそ、今回見せなかった『大人』の陰りを見たくもなります。
話数の捌き方には難しいかもしんないけど、強くて優しい『大人』が『大人』になるまでの過程、そこで受けた傷は面白い物語になりそうだし、『大人』の役割だけをみのりさんが背負うのは、ちょっと不公平な感じもあるし。
ひとしきりユニット回が終わった後、巧くみのりさん軸で話が回ってくると、収まりが良いかなぁ、と思います。
ここら辺はメインである翼を彫りつつ、薫の問題と可愛げをそれとなく伝えてきた第3話に、通じる描き方かなぁ。

主軸をしっかり展開しつつ、サブキャラクターの描写を入れ込んで、今後の展開の足場を事前準備していく。
SideMの眼と手際の良さは今回も健在で、ドラスタのサインを巡るキャイキャイがたこ焼き屋さんでのサイン書きに繋がったり、未だメイン回が来ないHigh Jokerをサポートとして使いこなしたり、巧く横幅広く描いていました。
Pちゃんに呼ばれた時、持ってる食事(あるいは『食事を持たない』こと)だけでキャラを見せておく所とか、非常にスマートでしたね。
食えないくらい抱え込んでお面まで引っ被ってる浮かれポンチメガネ野郎と、唯一食事を手にしてないクールボーイの黒髪くんが、個別回来たときの重点になるのかなぁ……『Dansu』と『Dance』の下りとか。
既に安定した関係性を獲得してるBeitがたこ焼き屋で睦まじく食事を取ってるシーン含めて、第3話で翼が『一緒に飯を食うことが、運命共同体を作る儀式なんです』と言っていた描写と共鳴していて、個人的に面白かったですね。

Pちゃんは『大人』役をみのりさんが担当してくれる分、仕事を取らないように引っ込んでた感じですが、相変わらずアイドルの自主性を尊重し、打てる手は的確に打つ優秀っぷりでした。
今回はBeitが積極的に仕事の方向性を決めるシーンが多くて、祭りに参加することも、そこで『幸福と一体感の象徴』である法被を着ることも、警察ではなく自力でピエールを救出することも、アイドル側から提案している。
この積極性は話を過剰に混乱させないための舵取りでもあるし、前職と個人史を背負った『男』が主役のSideMらしさでもあるし、自分で選んだ道を自分で切り開いていくタフな描写でもあります。
仲間が整えてくれた道に乗っかりつつも、自分の力で新しい道も見つけ、切り開いていく自発性は、話も早く展開するし見てて手応えあるし、良いもんですね。
漠然とした『夢』をぶつける段階から半歩進んで、具体的な段取りまで整えて提案してくるところが、年齢高めのキャラ設定としっくり来る感じだ。


というわけで、Beitの基本構造をしっかり見せ、末っ子ピエールの天真爛漫、長子恭二の複雑怪奇、保護者みのりの泰然自若、それぞれの良さを確認できるエピソードとなりました。
事務所もアイドルもまだまだ発展途上な『今』だからこそ出来るローカルなお話を、失われた『家』の再構築と重ねて展開する物語は、なかなかに優しくて良かったです。
若い二人の輝きとつまづきをしっかり見守ってくれたみのりさんが、主役となって弱さを出せるお話がもう一回来ると、マジで文句はないですね。
期待したいところです。

んで次回は、教師三人のトンチキユニットS.E.Mのエピソード。
今回年齢的に凸凹な三人を『疑似家族』としてまとめる手腕が鮮明だったので、平均年齢28.3才の『大人』軍団をどう描くか、今から楽しみです。
色んな年の連中がいて、色んな強さと弱さがあって、色んな『正解』が無限にある。
せっかくキャラの多いコンテンツをアニメにしているので、エピソードごとに切れ味鋭い描写を積み重ねて、多様性を面白く肯定できるお話になってくれると、僕はとても嬉しいです。
さて、どうなるかなぁ……宣材写真撮った時のスネ毛がセクシーだったから、もう一回出ねぇかな。