イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルタイムプリパラ:第33話『ガァララ塔のひみつっす』感想

アイドル不毛の地パパラ宿に咲いた、虹色の夢の花たちの物語、今週はガァララの秘密に切り込みつつ、にのの長い戦いに一つの決着が付く回。
プリパラらしく、ガァララにみちる、ミミ子にチア子と横幅広く描きつつも、血湧き肉躍るヒロイック・アクション多めで主役をしっかり立て、夢とプライドを取り戻す展開を盛り上げる。
『部活の助っ人』という初期要素を『ヒーローアイドル』という夢で救い直し、にのの過去と現在と未来、全てに意味があることを堂々宣言する、見事なエピソードでした。
Heroという『男の職業』を女の子が背負ってもいいこと、背負えるのだと描く筆は、前回ダンプリと女子プリが混じり合うことで生まれた可能性を引き継いでもいて、話数を跨いだ豊かさを感じることも出来ました。


というわけで、色んなものが描かれている今回。
今後の展開や過去の伏線なんかもしっかり描写されていましたが、そうするために必要なのは、主役をしっかり立てること。
第10-12話、第18話、第24話と積み立ててきたにのの物語、そこに一つのエンドマークがつく今回は、にのらしさが随所でしっかり輝く、骨の太い物語になっていました。
フィジカルと気が強い彼女の特性を活かして、体を張ったアクション多めで進む中盤は独特の面白さがあったし、シオンとの関係性、助っ人として頑張った日々、過去の蓄積全てを回収するライブシーンも、とても良い仕上がりでした。

にのは今回、あくまで一人で悩み、一人で決断し、一人で戦って、一人で夢を取り戻します。
『みんな』の良さを強調しているプリパラらしくない展開にも思えますが、冒頭チームの誘いを断るシーンで、その理由は鮮明に描かれています。
仲良くなってきた状況や、友情の快楽に流されるのではなく、むしろそこに高い価値を見出しているからこそ、『みんな』になるには『自分』を取り戻さないといけない。
それはバックに奪われた夢のジュエルという、物理的なアイテムであると同時に、かつて何も出来ないまま夢を奪われ、本当の『自分』と一緒に見失ってしまった『プライド』を取り戻す行為なのだと思います。

にのは元々勝ち負けに拘るタチで、勝てる自分・強い自分への自負が太い。
だから第11話で『負け』という結果が迫った時非常に動揺してしまうわけですが、それは彼女がナチュラルに持っている性格であると同時に、バックに夢を奪われた経験が影を伸ばしていたのではないか。
今回孤独なヒーロー候補として、自分の可能性を試すように走り回るにのを見ていると、その傷を実力で奪い返し、仲間に誇れる自分を取り戻したい気持ちを、強く感じます。
にのが『ヒーローアイドル』という夢を取り戻すのは、一種のリベンジマッチというか、たかが夜の神の眷属程度に『夢=自分の一部』を奪われたまんまじゃ終われない、負けん気の戦いでもある。
ときに暴力だって飛び出す、『女の子らしくない』戦いは、にのらしくて良いものなのだと。
そういう孤独な戦いは、『みんな』で平和裏に戦う普段のプリパラと何ら変わりなく勝ちがあるものなのだと、今回の話は言ってくれているようで、僕はとても好きです。

基本女児アニとしてパッケージされている(そうは見えないけどさ)プリパラは、攻撃性や凶暴性を世界から排除しません。
ガァルルは言葉の代わりに噛み付くことがコミュニケーション手段だったし、ガァララは現在進行系で他人から夢を奪っている。
そういうものも世界にはあって、ということは、それを個人の根幹に据えるアイドルだっている。
大股開きで走り回って、バックと取っ組み合いの戦いをして、口に手を突っ込むような『はしたない』行動も、プリパラではOK。
こういう野獣的なギラツキをアク抜きしきらないことで、『仲間だけどライバル』として競い合う展開から熱量が逃げないのも、アイドルバトル物語としては大事だと思います。

というか、神が一方的に人間の大事なもの奪っているのに、なんで人間だけが『おしとやか』に戦わなきゃいけないんだっていう、ある種の神話的リベラリズムすら感じますね。
神話的存在を過度に持ち上げず、ノータイムで人間の土俵に引きずり倒して、フラットな状態で勝負させるプリパラの欲望、僕はやっぱ好きだな。
そういう意味では、人間中心主義という意味でヒューマニズムの物語だし、ルネサンスの物語であり続けるんだろうなぁプリパラ。


にのが一人で頑張って戦う今回、にの個人のプライドと同じくらい、あるいはそれ以上に、『みんな』の価値は色濃く描かれていました。
そもそも、取り返すべき『ヒーローアイドル』は『みんな』の笑顔を守り生み出す存在なわけで、ともすれば個人主義に曇った虹色近視眼持ちのゆいよりも、にのの中で『みんな』の価値は大きい。
ここら辺の『視野の広い、常識的な対応』ってのもにのの特質として、ここまでの物語の中で幾度も描写されてきました。
あるいは『ヒーローアイドル』という夢を奪われても、その体温がにのの中に残っていたからこそ、ステージを離れても『助っ人』という形で『みんな』と繋がり、助けてきたのでしょう。
そのために鍛え上げた身体はバック相手の追いかけっこ、トラップだらけの夜の塔でもへこたれず、自分の、そしてチア子の夢を奪還する足場になってくれる。
個人的なプライドと、『みんな』に繋がる意思は相反するものではなく、相補う性質も持っているわけです。

こうして今回、にのが一つの結論にたどり着いてみると、『アイドル』という答えから遠くはなれているようにみえるものが、実は無駄でも無価値でもなかったと、再評価されているように思います。
『アイドルとかバツっす』と言っていた時代、にのはアイデンティティの足場を『助っ人』『負けない自分』に置いていた。
ゆいの虹色の夢、あるいはシオンへの憧れが引っ張り出す形でステージに立って、『アイドルマルっす!』になって、そういう自分は少しずつ変質し、違う形で描かれるようになった。
でも今回、あえて『みんな』から離れ、虹色にの個人として夢とプライドを取り戻す戦いに挑んで、『助っ人』積み上げた過去、鍛え上げたフィジカルが彼女を支える。
早朝の観客席には、彼女が『助っ人』として向かい合った人たちが駆けつけて、堂々の『ヒーローアイドル宣言』を見届けてくれる。

そういう風に、過去は現在に変化しつつも無になるわけではなく、現在を支え、祝福してくれる。
戦って奪い直した現在もまた過去になり、より新しい、より善い未来を支える足場になる。
夢のジュエルという『過去の遺産』を奪い合う今回は、より遠い幼少期の夢だけではなく、その夢を奪われたあとなんとか生き延びてきたにのの奮戦も、そこから先に伸びていく無限の可能性も、虹色にのを構成する全てを肯定し、輝かせる。
そういう広汎で公平な視座は、凄くプリパラらしくて良いな、と思います。

今回『勝った』ことが終わりではなく、むしろこの勝利を新しい出発点にして、もっとたくさんの『みんな』に、より誇らしく思える『自分』に向かい合う未来に繋がっている姿勢は、『負けない』ことに価値を置きすぎていた過去のにのとは、大きく違っています。
ここら辺、今回達成する前に"あっちゃこっちゃゲーム"の"臆病な自分をバグらせちゃって"という歌詞で予言されてるのは、やっぱ凄いな。
『負ける』ことに過渡に怯えていたにのは、『臆病な自分』『夢を奪われた過去』を積極的に見つめ、バグらせることで、問題解決の道筋を立てた。
そうやって自分を否定することは怖いことで、『シオン先輩を超える』という分かりやすくて直線的な目標を立てて、『夢』だと自分を納得させようともした。
にのがここまで歩いてきた物語は、迷い路あり、自己欺瞞ありの人間臭い道で、そういう泥臭さをちゃんと切り取ってきたからこそ、『みんな』のために戦い歌う『ヒーローアイドル』という到達点が、嘘っぽくならない。
キラキラな新衣装とか、激しく楽しいアクションシーンとかでしっかり楽しませつつ、そういう根源的な変化の意味をちゃんと切り取ってくるのは、本当に凄いし素晴らしい。

今回さらっとなんですが、にのがシオンに抱く思いがちゃんと描写され、それをシオンがちゃんと見守ってる描写もあって、この二人がずっと好きな自分としては嬉しい限りでした。
『勝ち負け』にこだわっていたにのの世界をぶっ壊したシオンを目標に追いかけて、シオン自身に『そんな小さな夢、面白くないだろ』と否定されて、迷って迷って、一人で戦って夢を取り戻す道を選んだ。
そんな虹色にのの戦いが『勝利』に終わっても、彼女の中で東堂シオンはとても大きな憧れで、『勝ち負け』を超越した部分でにのを支え続けている。
そしてそんなにのの想いが、ステージから電波を伝ってシオンにちゃんと届く。
多分シオンも、にのから溢れ出すリスペクトを活力に変えて、これからもっと善い場所に飛躍していく。
ほんの小さな台詞とカットなんですけども、その一連の流れを想像できる描写があるってのは、物語が誰かの胸に届くために必要な説得力をぎゅーっと圧縮し、全力で叩きつけるためには絶対必要なことです。
そういうことを見落とさない、やりきってくれる視力と腕力がプリパラにあることを確認できて、とても良かった。


こんな感じでエピソードの主役、にのの『自分』と『みんな』に向き合う戦いをぶっとく描きつつ、今回の話しも横幅は広かったです。
血気盛んなにのが中心にいるので、今回ガァララやバックは『悪い敵』……と思いきや、フランクにリッチビーナスに入店したり、『夜』という領域ににのが乱入してきたり、交流の可能性が切り取られていました。
プリパラが白黒二元論で話を作るはずがないわけですが、やっぱガァララはぶっ倒す『悪い敵』であると同時に、『みんな』の一人としても描かれてんだな。

リッチビーナスのシーンはマジご褒美で、何かと当たりが強いしゅうかを認めてくれる人が側に居たり、あんだけ自分を閉じていたミミ子がしゅうかやガァルルと素直に交流してたり、ガァララが自分でバイトしたりあろまげ以外のダチを作ってたり、言葉にし難い幸福感がありました。
リッチビーナスに集ってたメンバーって、黒い想念の集積した出来損ないのボーカルドールだったり、愛が憎しみに反転して大暴れした地獄の使者だったり、金と現実主義でパパラ宿のオーソドックスと戦う銭ゲバ戦士だったり、キラキラした価値観から遠いキャラ。
でも、そういう部分も人間の属性で、そこから生み出されるものが豊かで、『みんな』に欠かせない意味を持ってるってことは、プリパラが逃げずに描いてきたもんです。
ここら辺は、『助っ人』だった過去が現在を支えてるにのとも通じる描写かな。

今回夢喰いの魔人・ガァララを恐れることなく受け入れ、むしろ『強烈な欲望を感じる』と肯定したり、一瞬の邂逅を忘れずにガァルルが覚えていて『可愛いドレス』を勧めたり出来たのは、彼女らがただ光にいるのではなく、光があれば必ず生まれる影にキャラクターを浸し、薄暗い経験に学んだからこそかな思います。
ここら辺、『助っ人』だった過去が今回のアクションを支えたにのにも通じる、過去から続く現在、現在が生み出す未来への連続性だと思います。
今回『女の子に大人気のブランド』であるリッチビーナスに、客として普通に入店し、『アイドルをしたい、可愛くなりたい』という普遍的な願いを否定されず共有できたのは、ガァララにとっては凄く良いことだったのでしょう。

同時に、彼女がバックとやってる夢喰いは洒落にならない悪辣さで、そこら辺はにののヒーロバトルの『敵役』をやることで描写すると。
『敵』の人間性を肯定的に受け入れつつも、その行いの過ちは見逃さず。
こういうバランス感覚は、やっぱ良いなと思います。
書割仕事をキャラに押し付けないというか。


にのが自力で闘いを挑むべく『夜』に飛び込んでいったのは、個人的に面白い描写でした。
第31話では絶対的な障壁に見え、実際に乗り越えることが出来なかったからガァララ(そしてパパラ宿)が歪んでしまった昼と夜の境目。
敵地に乗り込む形ではありますが、それは絶対的なものではなく越境可能なのだと、今回のエピソードは言っています。
そうやって境界線を乗り越えて対話することは、楽しいし実りもあるよ、ってのは前回のプリプリフェスティバルで形を変えて語られていましたが、夜と昼の対話が可能なら、ガァララを縛り付ける宿命をどうにかする手段も、また見つかるのではないか。
そういう想像も膨らみます。

にのが失われた過去と対話し、夢現に過去と出会うのも『夢のなか』……夜の属性なわけで、リッチビーナスと合わせ、対話可能性はそこかしこに埋まっている気がします。
ベットでうつらうつらしてるシーン、『小学六年生のにの』『幼稚園時代のにの』『プリパラ内部のにの』という、虹色にのの三相が妖しげに揺らいでる場面で、ファンタジックで好きなんですよね。
プリパラ自体が現実を離れたバーチャルな、目を開けて見る『夢』なわけで、ガァララという夜の精霊がメインに入ってきた結果、目を閉じてみる『夢』が重要なファクターとして描かれてるの、オカルトオタクとしてはビンビン来る。

あと、チア子のジュエルを奪還し、彼女がヘアメイク&メイクスタイリストという夢を再獲得する流れも、非常に良かった。
第9話の仕上がりが良かっただけに、チア子がせっかく見つけた夢を略奪され、『自分』を見失わされている状況は痛ましかった。
その苦しさが実感を伴っているだけに、今回華麗にチア子の喪失を埋め、『自分』を取り戻させるにののヒロイズムも、一層輝いていました。
『みんなを守るために戦うヒーロー』っていう、古くて新しいにのの夢を題目で終わらせず、具体的で顔が見える大事な『みんな』の代表として、実際にチア子の夢を取り戻させている所が、とても良い。

『ヒーローアイドル』虹色にのはただの夢でも無力でもなく、確実に『何か』を成し遂げうる立派な存在なのだなぁ……。
にのもチア子も、ジュエル再獲得してた時虹色アイだったけども、あれはゆいの専売特許ではなく、夢見る少女(というか人間)が全員持っているパワーであり、異形なんだろうなぁ。
アイドル力枯れ果てた呪いの土地パパラ宿で、ただ一人『女の子アイドル』を諦めなかったゆいの特殊性が、ここまで物語を牽引してきたわけだけども、それは感染し拡大するし、実は誰もが持ってる普遍的な強さ/歪みなんだろうね。
こりゃ、最終決戦で全員虹色眼あるな……想像すると怖いなかなり……。


『夜と夢』といえば、持ち歌"GOスト♭コースター"にセクシャルな誘惑を込めつつ、『夢の中でも夜更かし』を勧めてくるミーチル。
にのが『ヒーロー』として必要なプライドを求めてチームを蹴ったのとは、また別の理由で彼女は、チーム結成を拒んでいます。
『プー大陸浮上』『ふるさとへの帰還』という彼女の『夢』は、あろまがその場しのぎで付いた『嘘』であり、追い求めても叶わない虚像なんだけども、そもミーチル自体がみちるの虚弱な人格が自己防衛とストレス発散のために生み出した虚像みたいな所あるしね。
そういうあやふやさと、自分の延長線上にいるはずなのに完全にコントロール不能な危うさは、みちるの物語を語っていく中で大事なのでしょう。

にのが『バックに夢を食われた』という因果に支配され、『夢のジュエル』を戦って奪還すれば新しい場所にたどり着けていたのに対し、みちるには食われる夢がありません。
ミーチルの望むままにプー大陸を追い求めていても、嘘(あるいは妄想)でしかない夢の故郷に帰還する手段はない。
今回これまでの物語のうねりも使って、実際に握りしめることが出来る『物質化された過去』をにのが取り戻す解決法が、みちるには通用しないよ、と暗示されてるのは、なかなか面白いですね。
どういう角度から掘って、どういう決着させるんだろうか。

ミーチルがみちるの夢と、あろまの嘘によって作り出された蜃気楼だとしても、彼女が居てしまっている事実と、惹きつけられたファン、彼女の活動の意味が無価値になるわけではありません。
にのが『物質化された過去』を求めて戦う、フィジカルな実感に満ちた今回のアクションと同じくらい、みちるとミーチル(と、彼女を取り巻く人々。最初ガァルマゲドンの閉じた家族性に腰までつかってたみちるが、年下のらぁみれにの達と関係を深めている描写がひっそり続いているの、僕とても好きです)の『あやふやな夢』は大事なものだと思います。
今回見せてくれた筆の冴えを活かし、幸田みちるが自分を見つける戦いも、彼女らしく描いてほしいなと期待しています。


そんなわけで、『ヒーローアイドル』虹色にの、そのオリジンのエピソードでした。
夢がないから『勝ち負け』に過剰に拘る脆い自分から出発し、空っぽの夢を肯定し、憧れに出会い、仲間と歩み、一人戦うことでプライドと過去を取り戻し、胸を張って『自分の夢』を世界に宣言できるようになる。
ここまで積み重ねてきた虹色にのの迷い路、全てを祝福する優れた仕上がりで、非常に良かったです。
ここが到達点であると同時に出発点でもあって、まだまだ物語は続く、にのは立派なアイドルになると感じられるステージだったのも、とても良かった。

同時に各キャラクターの現状が様々な角度から切り取られるエピソードでもあり、しゅうかとガァララの接近、みちるとミーチルの乖離、ガァルルやミミ子の変化なども描かれていました。
メインキャラクターの大事なエピソードを熱量込めて描き切りつつ、今後物語を展開していくキャラクターの足場も組む。
こういう目の良さが、プリパラの強烈なメッセージ性を支えているのだと確認できる、良いエピソードでした。

そして来週は、今週にのが踏み込んだ夜の塔に、仲間たちも挑む展開に。
第3クールの目玉として、悪辣さと憐れみ、幼い悪意と無邪気な夢を振りまいてきたガァララに主役たちが接触することで、お話がどう転がっていくのか。
非常に楽しみですね。