宇宙よりも遠い場所を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
いしづかあつこ監督の最新作は、女子高生×南極探検ッ!
夢を持たない少女が、真っ白な極地に夢を馳せる少女と出会い、青春のハレーションへと踏み出すまでの第1話。
作品世界を切り取る筆が細密で、そこに独自のテンポとギャグとポエジーが乗り、不思議な間合いを産んでる
というわけで『南極』である。が、いきなり行き着く話ではなく、主人公が運命の女と出会い『南極』に向かおうと決意するまでの、青春の煩悶をじっくりと追うスターティング・オーヴァーである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
キャラを見せる意味でも、大きな目標をどっしりトンチキに追うテンポを見せる意味でも、この出だしは良い
いしづかあつこといえば”ハナヤマタ”や”ノーゲーム・ノーライフ”で見せたビカビカ色彩によるポップな画作り…と思っていたんだが、色彩はちょっとくすんだ感じに落ち着いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
白い縁取りが作品のリアリティラインを、そっと囁いている感じ。
話の方も、何者にもなれないまま高校生になった少女のモヤモヤをどっしり追いかけ、基本あんまりぶっ飛んでは行かない。(ここの感情表現とかは、時折濃口派手めに笑わせてくるけども)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
何かを求めてもズル休みは出来ない、東京にすらいけない、100万円で右往左往。そういうお年頃である。
草薙の美術力がそういう地道な青春を巧く下支えして、館林の日常は地道で暗い。ギュッと狭苦しいローカルな空気が、主人公キマリを包んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
優しく暖かな、当たり前の日常。それは悪いことではなく、逸脱からの保護具としても機能している。普通であることは、平和であるということだ。
しかしその揺りかごから、キマリはずっと出たいと思っている。色彩が落ち着いてもいしづかあつこの超表現主義は健在で、薄暗いキマリの心理を反映するかのように、空は曇り雨は降る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
どこにもいけない自分への情けなさは、涙の代わりに傘を伝って、靴に落ちる。
基本的に『普通の高校生が、普通じゃない何かに出会う』というオーソドックスなら韻を踏んでいるのだが、そこに漂う感情を画面が徹底的に無機物で追いかけ続け、裏打ちし続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
マニアックな象徴性が、ポップでおバカなキマリの性格と不可思議なミスマッチを起こしていて、妙なグルーヴがある。
例えばキマリの自室。何も見つからない冒頭、彼女の部屋は乱れに乱れているが、『何か』を求める心理は部屋を埋める少女漫画雑誌に、そこに踊る『Romance』の文字に反映されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
その暗示を追いかけるように物語は展開し、キマリは黒髪ぱっつん女子の形をしたロマンスに出会い、光に駆け出す。
報瀬さんに『本気なの?』と問われて、キマリは自分の思いを整理する。ズル休みすら出来ず、どこ行きの電車に乗ればいいか全く分からなかった彼女は、よく知りもしない女の手を取ってまずは広島、そして南極を目指す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
その決意を映して、部屋はピチッと整理される。ロマンスが居場所を見つける。
事程左様に、小ノアに目の映像は明確な意図と意味を持って配置が決まっていて、ガンガン無言で物語る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
台詞と仕草で展開する表層の物語と、暗喩で描かれる深層の物語。2レイヤーの遠近法が、素朴なデザインと噛み合って、独自のテイストを産んでくる。好きだな、この味。
例えば100万円拾った直後の駅の看板とか。金を返すか返さざるかの問に悩む時、心と腕に『倫理』を握りしめたりとか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
状況を示すアンカーは常に画面に踊っていて、青春を跳ね回る浮かれポンチな本筋を、グッと地面につなぎとめるのだ。ここらへんは『いしづかあつこッ!』って感じで、最高に良かった。
報瀬さんが本気を問う東屋とか、マジ何の脈絡もなく生えてくるからな…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
光と闇が交錯し、腰を落ち着けるものと前に進むものを対比させ、荒野に接続されたシェルター。物語がそれを求めているのなら、全て蹴っ飛ばして存在させる。その強い意志が健在だと感じられたのは、期待感を高める。
あんまビカビカはしていないが、今作でも明暗の対比は元気で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
キマリを取り巻く闇がそんなに色濃くなくて、暖かな日常に照らされて白ボケている所が結構好き。それは曖昧模糊で薄暗い、何者にもなれない僕らの安寧の色なのだ。
何も見えなくなるほど絶望的じゃないが、よく見えなくて息苦しい。
そこから抜ける。圧倒的に強い光に吸い寄せられ、決意を込めて前に進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
青春が踊りだす第一歩を『南極』という、フックのあるポイント一つに絞ったのは面白い。形が見えなかったからこそ息苦しかった平和な薄曇りが、『南極』という具象、報瀬さんという女を手に入れた瞬間に、バッと晴れる。
象徴主義をただ使うのではなく、出会いの運命力を強調する形で使ってくるのも、個人的にはグッドナイスである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
主人公が運命と、それを象徴する『誰か』と出会うのは、導火線に火がつく瞬間だ。ビビっと刺さるように仕上げてくれるのは、今後そこに流れる濃厚な感情を予感させて期待が高まる。
とは言うものの、完璧に綺麗には仕上げず、どっかマヌケな空気を出してくるのも好きで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
キマリと報瀬を繋ぐのが『百万円』という生々しい(けどどっか現実感のない)オゼゼなところとか、そのマーカーが『いい匂い』なところとか、出会いの場所が便所なところとかね。
報瀬さんは上っ付いた夢を追いかける、ざーさん声のフワフワ女なわけだが、百万円なくして便所で号泣したり、結構すぐにキマリと仲良くなったり、匂いと手触りもある女だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
それは彼女が象徴する『南極』の感触にも繋がっていて、上っ付いた題材を視聴者に引き寄せてくる。
キマリも底抜けのアホっ子ドジっ子と思わせて、世界を詩的に認識しているロマンティックなキャラだということが、多用されるモノローグから見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
ココらへんの夢と現実の遠近法も、好みの描き方であった。デカいネタを泥臭く、アタリマエのことを夢っぽく描くの、僕は好きだな。
かくして女と女が出会っちまったわけだが、『南極』には行けないメガネの親友、めぐみちゃんが結構いい子だったのは、好きな描き方だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
報瀬さんが『南極』を背負うように、彼女は『日常』を象徴する。キマリがこれから背中を向け、離れていく館林にずっと居続ける女の子だ。
確かに南極は凄い。真っ白で、寒そうで、ビカビカしてる。薄暗い日常から這い出して、前に進んでいきたいと思わせる引力がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
でも、そこに対置される館林の日常は、『悪いもの』ではなかろう。当たり前に心地よく、普通に平和な日々には、実は普通じゃない良さと意義がある。
それを淡麗な美術と、トンチキなこといい出した友人をしっかり支えてあげるめぐみちゃんのニンで見せてくれたのは、好きな視点だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
日常が『悪い』から飛び出すのではない。そこに温もりを感じつつも、そこから飛び出したくなる衝動を受け取ったからこそ、キマリは広島への電車に乗ったのだ
キマリは今後、出会ってしまった新しい女にズブズブになっていく。失われた母を追って百万タメたクレイジーガールに手を惹かれて、どんどん前に進んでいく。めぐみちゃんは置いていかれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
でもその距離は、寂しいものであっても悪いものではなく、光に踏み出してしまったものが産む必然の一つだ。
『南極』と『館林』を対置するこの第1話で、置いてけぼりにされる日常にそういう視線を向け、キャラに凝集させてくれていたのは、なんか良いなと思った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
今後どれだけ館林にカメラが帰ってくるか判らんけども、優しく美しく切り取ってほしいもんだと思う。めぐみちゃんとも仲良くな。
館林が地味で薄暗いことで、『南極』のビカビカ輝く光がより強く見えて、キマリが出会ったものの光度が鮮明にもなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
その光に吸い寄せられて、特別な場所に歩いて行く話なのだから、その明暗で殴りに行くのは正着だ。ポップでエキセントリックな雰囲気の中で、その初撃はしっかり入っていたと思う。
ともかく女は女と出会い、『南極』へ向かう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
とはいえ、『南極』である。なまじっか季節が冬なだけに、『今素っ裸で外に出てくより、南極全然さみーんだろうな…』と想像できてしまう、身近な異界である。
その近くて遠い想像力を、作品がどう描いてくるか。ここはとても大事だろう。
何かに出会い、心が動く。それで現実が転がっていくタイプのお話だということは、第1話で見事に示せた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
しかし『南極』は冷たく、ハードだ。実際行ったことはなくても、そういうイメージが僕にはある。
上っ付いた青春と、汗かきべそかきそれが瞬時に凍りつく『南極』をどう混ぜ合わせるか。
実際に南極にたどり着いたときの皮膚感覚は、OP映像からも垣間見える。冷たくて、抜けるように高く明るい光に包まれた『the南極』っていい塩梅だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
その高みに、どう説得力を載せてキャラを連れて行くか。しんどい状況を乗り切れるタフさを、ただの可愛い女子高生に乗せていくか。
日常への倦怠感を足場に、出会いの高揚感を見事に描いた第一話の次は、そこが大事になる気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
まずは広島。そこで何に出会い、デカすぎる『南極』にむかってどういう歩みを進めるか。ジワリジワリの積み上げ描写に期待したい。同時に、『何か』を見つけたとき胸に生まれる、独自の音楽にも。
『南極』への距離を詰めていくのに必要な、リアリティとファンタジーのバランス感覚。それはこの、気合の入った第一話で巧く示せたと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
望むなら、全編この調子で統一感を出し、山あり谷ありを納得行く形で届けてくれればベストだ。急にトーン変わると飲み込みにくくてなぁ…。
そういう余計な注文をつけたくなる、とても良い第1話でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年1月2日
『南極』がビカビカして心くすぐられる所、キマリと報瀬さんとの出会いが『あー、人生変わっちまうな…』って『圧』に満ちてた所、とても良かったです。出会いは『便所』なのに、どっかロマンチックでなぁ…そういうの好き。来週も楽しみ。