宇宙よりも遠い場所 第12話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
いつも明るく賢い、四人組の知恵袋・三宅日向。その英明さにつきまとう陰りが、遠い日本、打ち捨てた過去から蘇る。
打ち払っても打ち払っても襲い来る、痛みと悔い。
許すべからずを許すべきか。物分りの悪い女たちの、魂の叫びの物語。
というわけで、ついにやってきた日向のエピソードである。彼女の賢さや視野の広さ、自制心の強さに助けられてきた南極行だが、この作品のカメラは彼女を無敵の天使にはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
当たり前に弱くて、優しくて、その優しさが自分を押さえつけもして。賢く強いからこその欠陥は、例えば第6話で描かれている
あの時正面ガチンコでぶつかり合って、生まれた報瀬との信頼感があってこそ、今回の展開がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
後ろに下がらずとも前に進める、それを支えてくれる仲間の存在をシンガポールで、館林で確認できたからこそ、今回の物語は『過去より現在』という綺麗事を空っぽな題目ではなく、血の通った実感にする。
日向の過去はキツくて、彼女を学校と共同体から追い出し、他者への信頼を傷つけ、大きく生き方を変えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
その先にコンビニがあり、大検があり、南極がある。それは重たく大きくて、無視できる存在ではない。だからこそ、日向は荒れる。いくらでも返って来て、痛みがぶり返す。
これを他人の見えるところでやらない、やれない気質が三宅日向だと思うが、『性格の悪い』報瀬はそういう配慮がない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
いや、あるんだが、最後の最後の土壇場で堂々と表に出して、自分が言うべきだと思った言葉、為すべきだと思った行動に飛び込んでいく。南極に来るべくしてきた女である。
急にクソをなすりつけられて、傷ついているはずなのに道化ぶって。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
追い込まれても周囲を慮ってしまう日向の賢さ、優しさが、どうにも痛かった。
館林産のたぬき妖精と、人付き合いの距離感が変なアイドルはさておき、報瀬はなぜ、日向の震えを気にかけ続けたのだろう。
『南極に行く』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
かなわない夢を堂々宣言し続けた報瀬は、嘲り笑われてきた。傷ついてきた。『ざまーみろ!』と吠えたい輩が沢山いて、でもそれに足は取られずしゃくまんえん貯めて、仲間を作って実際『南極』にたどり着いた。
その歩みには、痛みが満ちている。無神経と透明な害意に傷つけられている。
無論そういう痛みは、四人全員にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
無邪気なキマリも、出発直前にめぐっちゃんにぶっ刺されて、人間の黒い業を知った。友情を求めつつ手に入れられなかった結月も、乾いた付き合いに傷ついてきただろう。
だが、そういう薄暗い感情と、それが自分の中に引き起こすものとの付き合いは。
報瀬が一番長い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
愛した母が帰らない日々の空疎さに心をえぐられ、終わらせるために『南極』を目指し、その切実さを見ようともしない連中に踏みにじられ続けて、それでも『南極』を諦めきれなかったバカな女は、自分のことのように他人からの痛みと、自分から湧き出る痛さに振り回される日向が判る。
『敵』と『味方』を明瞭に分けることで母なき世界を生き延びてきた報瀬は、仲間を傷つけるヘラヘラした害意を前にして、一切緩まない。ポンコツの顔を見せない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
『敵ができるとシャンとする』
仲間たちの評価は、いつでも正しい。
日向はなぜ、許したいと願ったのだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
報瀬は『許すもんか』の推進力を活かし、プンプン怒りつつ『南極』まで来た。『敵は敵、私は私』というはっきりした線引は、更に敵を増やすが安定はする。
良くも悪くも、起用には立ち回れない女は、自分の憎悪相手にも同じように振る舞う。
対して日向は、あらゆるモノがよく見える…見えてしまう少女だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
世界の道理も、本来あるべき『正しい答え』も、自分を傷つけたのと同じ害意を自分も持っているやるせなさも、そこから抜け出るための手段としての『許し』も、全部見えてしまう。
感情を出したら空気悪くなるな、という予測も立つ。
そしてそこで、自分を引いて距離を作り、相手も自分も傷つけない選択肢ができる子だし、そうやってきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
それが、彼女の中の『淀んだ水』なのだろう。だがその心配りが、バカどもを結びつけ、助け、守ってきた事実を、僕らはずっと見てきた。器用すぎて不器用なその淀みが、痛い程に愛おしい。
2話で出会って合計9話、『南極』を目指して共に歩いて、色んな物語を共有してきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
第5話で悪意との向き合い方について語っていた日向の源泉が明らかにされる今回、しかし物語は過去ではなく、常に現在を書き続ける。
回想シーンはかなりサックリめ、タンカを言われている友人タチの表情は書かない。
それは衛星通信の向こう側、『南極』に来なかった側の世界だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
そこに囚われるのではなく、そこから飛び出そうと決意したからこそ、少女たちは今、紛れもなく自分の足で『南極』に立っている。地質調査もするし、年越しそばも昭和基地で食べる。
それは彼女たちが凸凹道を疾走して掴んだ『今』なのだ。
大事なのはそこで、しかし『今』は常に『過去』に繋がっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
シンガポールでガチったこと、館林で出会ったこと、いじめられたこと、傷ついたこと。
澄んだ清水も、淀んだ水も、全てが今の日向を、報瀬を作っている。その連続性を前にして、どう『今』を『未来』と繋げていくか。
日向が悩んでなかなか動けず、報瀬も悩んでそれでも踏み出したのは、そういう繋がりとどう向き合うか、だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
過去との、人との繋がりは良いものもあれば、悪いものもある。ときには思い切って過去を断ち切り、縁を切り捨てる勇気も…周囲を見ない愚かさも必要になる。
報瀬のタンカの前、のんきに前髪をいじる少女たちの姿が切り取られる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
精算したい、許して欲しいと言ってくる割に、真剣さに欠けた表情。
それを『いらない』と切り捨てられない賢さは、日向がアドレスを消去できない様子から見えるし、『いらねーよボケ!』と喝破できる強さが、報瀬にはある。
あの子らを見ていて、僕は5話のめぐっちゃんを思い出した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
遠い場所に行ってしまう前に、心に突き刺さった棘を引っこ抜いてキマリにぶっ刺し、許しではなく絶縁を望んだあの子は、いろいろひどいことをした。
ただ、手が触れられる距離に、手遅れにならない時間に、『今』飛び込む熱量があった。
あの時、あの間合いでなければキマリの『絶交無効』は出来なかった。そういう運命的な一瞬をもぎ取れるものと、ヘラヘラ笑いで取り逃してしまうものがいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
『南極』に来れるものと、それを嘲笑うもの。その切断面は、非常に冷徹で鮮明だ。しかしこの作品、その無残さをクローズアップでは書かない。
語りたいのは『今』飛び出した存在の光であって、飛び出せなかった凡俗の淀みではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
同じように淀みを溜め込みつつ、運命的な一瞬に堰を切って飛び出せる存在を切り取りたい。踏み込めなかった存在(過去の主役含む)は、それを嘘なく成立させるための後景でしかない。
物分かりよく許し、正しく生きる選択肢も、あの瞬間にはあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
しかし報瀬はそちらではなく、自分の心で渦を巻く嵐を表に出し、それに親友を乗っけて高いところに、自由な場所に飛び出させることを選んだ。
その踏み込みが、囚われていては前に進めない『過去』を後景に下げて、日向を開放する。
その熱量は、バカさと同じだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
南極上陸に『ざまーみろ!』と吠えたり、しゃくまんえんを仲間のため迷わず使おうとしたり、そういう『かっこいいバカさ』だけじゃなく。
レポートのたびにカチコチで、テンパるとホントグダグダな、『かっこ悪いバカさ』も含めて、小淵沢報瀬なのだ。
それは日向が、自分を傷つけると知っていても周囲をよく見て、適切な距離を保って賢く生きてしまうのと同じように、最高の結果も、残念な結末も連れてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
選ぼうとしても選べない。変えようとしても変わらない。個性は祝福であり、呪いでもあるが、今回報瀬の個性は、最高の結果をツモった。
南極の一番きれいな水。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
二人の心に溜まっていた水は、何かを害したり、歪めたりする性質をもう持たない。でも、水が溜まっているとなかなか前には進めないから。
強い言葉で過去を断ち切り、『人を傷つけたなら、それに向かい合って生きていけ! お前も前に進め!』と吠えて、水を逃した。
だから、少女たちの眦には涙が光るのだろう。それはあの水よりも綺麗な、感情の流体なのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
それを賢くて硬い、日向自身にはどうしても崩せない堰をぶっ壊して出してやった報瀬は、歴史の教科書に載るくらい立派なことをした。し続けているし、今後もするだろう。大失敗も。
第6話では最後に膝カックンを入れた、報瀬のかっこいい見せ場。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
隠されていた陰りが公開され、報瀬のことを『世界最高のバカ』だと僕らが思い知った今回は、そういうことはしない。
報瀬は最高にイカすリーダーで、日向を『南極』に連れてきた最高の友達なのだ。疑いはもはやない。
そしてその道程は、日向自身が見つけた光に『飛び込もう』と思い、実際前に出た結果であるし、日向がいなけれたどり着けない旅でもあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
あの子が賢くて、優しいことが、どれだけ助けになってきたかを、僕は見てきた。
その美質を変えることなく、新しい可能性へと押し上げた今回、最高である。
話の舳先に立って、ヒロインを守り牽引する報瀬。賢さの苦しみ、優しさの痛みを切実に見せてくる日向。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
二人に比べると、たぬきとアイドルは控えめな出番であった。ホントキマリは、茂林寺有する館林に愛されてる子だなぁ…バカだけど。
配牌喋ったらゲームにならない麻雀を、キマリは知らない。おんなじように、報瀬と日向が共有する複雑な陰りは、純真無垢な彼女からはちょっと遠い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
そのピュアネスが成し遂げたことを大事に積み重ねつつも、分からんものは分からんとちゃんと描くのは、信頼が置ける筆致だと思う。
あれは逆に言うと、めぐっちゃんとの離別、叩きつけられた害意を巧く乗りこなして、『今』に接合できたがゆえの無関心でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
日向が人生捻じ曲げられたものを、めぐっちゃんはど真ん中から正々堂々叩きつけて、キマリもそれを受けた。訳分かんないなりに、最善手を打って傷を残さなかった。
そこら辺にも、過去に向かい合って今を生き直すものと、もやもやを抱えて出口を見つけられないものの残酷な差異は、切り取られていたように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
めぐっちゃんはあの離別を経てなお、LINEを送る。キマリはそれを見て、ひらがな一文字でも理解ってしまう。
ひなたと少女たちは、そうはなれなかった。
それは『南極』と『日本』、『現在』と『過去』に隔てられていて、簡単には埋まらない。あの場にキマリの家族がいたのは、僕は凄く意味のあることだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
『日本』に居残ることが、無条件に価値を剥奪するわけではない。ただ、待つには待つのに、信じるには信じるのにふさわしい姿勢があるのだ。
アイドルの方は幼くはない…というか、自分の中の幼さを、仕事場に引っ張り出されて巧く育てられなかった結果、かなりトンチキなことになってる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
ので、キマリがのんきについて行こうとした真剣10代しゃべり場IN南極を、『ヤベーって空気読めよ』と押し止める。ここら辺のセンサーは、やっぱ鋭い。
南極行で待望の友情を大量投与された結果、友情センサーが過剰発達して、『友情っぽいこと』を前にするとあっという間にポンコツにもなるけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
まぁあの報瀬のタンカは『ぽい』ではなく、これ以上ないほどド本物だけども。言いよどんだタイミングで、キマリがベストなトス上げするところがいい。
青春ど真ん中をぶっちぎる子供を見て、折れ曲がった大人たちが自分の道を見直す歩みも、この作品の特徴。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
貴子が失われた場所、取り返しのつかない『過去』に足を運ぶべきか悩む吟は、『アンタも前に進みなよ!』という叫びを聞いて、足を進める。
それを狙ってやれるほど報瀬は賢くないし、周囲を見渡す目の良さがないからこそ、今回の結末がある。そういうのは日向の担当で、そこにはすごい痛みがつきまとうことを、今回のお話は丁寧に書いていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
そして、バカが突っ込むからこそ生まれる風穴のデカさ、風の気持ちよさも。
日向も吟も、報瀬の開けた穴を自分に引き寄せて、新しい景色へと飛び出していく。そういう事ができる人たちの強さを、そこにつきまとう痛さと一緒にちゃんと描き続けているアニメらしい、良いエピソードだと思いました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
除夜の鐘は煩悩落とし。でも、日向も報瀬も許しはしなかった。許さないという煩悩を自分の内側に取り込んで、外側に吠えることを結末とした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年3月21日
そんな『正しくない』決断も、南極のドラム缶は祝福してくれる。
新しいけど、過去と繋がっていて、でも囚われるわけではない。次回も楽しみです。