イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”

TNMスタイル別参考作品紹介ショートレビュー”Across the Nightmare”
第1回 タタラ『Dr.Stone
稲垣理一郎Boichi集英社

突如として世界を襲った人類石化現象。3700年の時が過ぎ、文明の気配が消え去った関東を舞台に、天才科学少年・千空の冒険が始まる…。

というわけで、天下の少年ジャンプで科学技術が無双する、ど真ん中少年漫画である。主人公・千空の武器は怜悧な頭脳とクレバーな判断力…なんだが、冷たく見えて誰よりもアツい千空の気持ちが、科学技術ウンチクに熱を通している。
いわゆる『科学者』のイメージを、とても良くぶっ壊しているのだ。

謎の石化現象により原子化した世界を舞台に、現代知識で大暴れ。
ともすればヤダ味が漂う題材だが、その技術を生み出した血と汗、文明を支える思いに強いリスペクトがあるため、ただの無双とはならない。
友情・努力・勝利のオールドスクール・ジャンプイズムが、『科学』に全力で注がれている。

よく取材され、読者に届くように整理された科学知識も面白く、また少年たちの出会いと運命が炸裂するメインストーリーも、心を震わせてくる。
『科学』を武器に悪夢を切り裂いていく、トーキョーのタタラが学ぶべきものが、この漫画にはすべて詰まっている。必読。

 

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第2回 トーキー『スポットライト 世紀のスクープ
(トム・マッカーシー、オープン・ロード・フィルムズ)
第88回アカデミー作品賞を受賞した、カトリック教会内部での性虐待にまつわる報道ドラマ。

ボストンの日刊紙”ボストン・グローブ”の精鋭報道部隊”スポットライト”。
彼らが協会の巨大な闇に挑むッ! と書くと、シンプルなヒロイズムの話に見えそうだが、この映画が切り取る状況は複雑だ。
加害と被害は入り乱れ、正義と真実は曖昧。時に暴力ともなりうる報道の剣をどう使うか、トーキーは悩む

その道程は険しい。協会組織の妨害、『素直な信仰』を愛する人の善意の刃、911テロによる中断。
それでも、《暴露》するべき真実があると信じて、トーキーは走る。その不屈と公平さは、ダスクエイジの報道戦士にも大いに参考になるだろう。

個人的には、公平たらんと己を戒める描写、容疑者も含めてすべての人の声に耳を傾けよう務める努力が丁寧に積み重ねられているところに、トーキーのスタイルで大事な部分がみっしり詰まっていると思う。 
そして世界の多様性を見つめつつ、己の信念一つを世に問わんとあがく”スポットライト”の奮戦にも

 

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第3回 クロマク『ユージュアル・サスペクツ
ブライアン・シンガー、アスミック)

コカイン密輸船爆破事件を唯一生き残った、小悪党ヴァーバル。
刑事との尋問の中で浮かび上がる事件の謎、絡み合う欲望…。

というわけで、95年公開、アカデミー脚本賞のクライム・サスペンス古典である。
取調室と回想を行ったり来たりする構造の中で、ワル揃いの常習容疑者(ユージュアル・サスペクツ)達がハメられた巨大な陰謀、犯罪の罠の総体がだんだん見えてくる。
謎の露出と絞りが、異常に巧い。

ワルたちの小粋な『仕事』ぶり、スピード感溢れる展開、サスペンスとアクションが同時進行していく異常なドライブ感、フェアにハメてくるシナリオ構造。
即座にTNMでパクれ。
あらゆる要素に『圧』がある、犯罪映画の金字塔。
謎のクロマク『カイザー・ソゼ』の存在が、話にぶっとい芯を入れている。

問題があるとしたら、あまりにも名作で古典なので、ネタバレがWeb上に溢れまくっていることか。
未見の人は検索やめて、今すぐ視聴にゴー!

なお、僕のハンドルの『コバヤシ』は、この映画に出てくる《腹心》ミスター・コバヤシから取ってたりします。
超面白いから今見てね!!

 

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第4回 エグゼク『ウルフ・オブ・ウォールストリート
マーティン・スコセッシパラマウント映画)

人生のどん底から億万長者へ!ゴミクズ債権を売りつけて銭にまみれた男の、勝利と破滅のカーニバル。

というわけで、スコセッシのファック感覚が三時間ずっと唸りを上げる、ハイパーテンションゼニゲバ祭り映画である。
薄汚い嘘と欲望、麻薬と女、ろくでもない金の使い方。
全く洗練されていないエグゼク達の内臓が、ノンストップで脳髄を殴ってくる。
ほんとにこの監督”沈黙”取ったの?

超ろくでもない成り上がりセレブたちの乱行が最悪に笑えるが、生き馬の目を抜く超資本主義社会の根っこ、人間のカルマを切開する鋭さもしっかりあって、ただ笑い飛ばすだけではない重たさがある。
それをしっかり飲み込める、アホバカ元気なハイテンションも同時処方してくれるのが、ありがたい限りだ

すっかりスーパークズ俳優と化したレオ様渾身のゴミクズ演技も最高だし、想像の三倍くらい不謹慎なヤリスギ感も素晴らしい。
FBI捜査官のソリッドな描写も、狂乱する資本といい対比になっていて、イヌ映画としても面白い。
笑いと涙、欲と嘘。色んなモノが詰め込まれた、欲張りな映画だ。

 

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第5回 マネキン『ロリータ』
ウラジミール・ナボコフ、新潮社)

ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。
奔放なる少女と、彼女に運命を狂わされた男が歩く、詩的破滅行の詳述。

マネキンは難しいスタイルだ。
職業や能力というよりも、生き方…まさにスタイルを捕まえることが大事で、なかなか表現しにくい。
甘えん坊で弱ければ、あるいはズルくて強ければ、無条件にマネキンである、というわけではない。
強さと弱さの同居、狡知と純朴の共生。
矛盾が強いスタイルである。

そんなスタイルの尻尾を捕まえるとき、このあんまり原作が読まれていないのにすっかりポップアイコンになってしまった小説は、強い示唆に富む。
少女という弱さ故に男を支配し、弄び、破滅させるドロレス。
それに振り回されつつ、破滅の炎に喜んで飛び込んでいくハンバートの弱さ。

社会的、精神的、肉体的…そして性的な強さと弱さは技巧的な文章の中で幾重にも姿を変え、愛される資格を持ったマネキン・ドロレスと、愛されないマネキン・ハンバートの運命は衝突を繰り返す。
愛の不在、夢の破綻。
自分の足で立てないマネキンたちの躍動が、みっしりと詰まった傑作である。

 

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第6回 ミストレス『劇場版 アイカツ!
(木村竜一&矢野雄一郎東映

星宮いちごの憧れだった神崎美月は、自分を打倒したいちごの成長を受け止め、引退を決意する。一人のための歌、皆のための歌

というわけで、アイカツ劇場版である。
『アイドル』の生き方を明るく楽しく、真剣に書き続けたシリーズがついにたどり着いた劇場版は、第2部ラストで主役に負けたラスボスが、玉座から去る決意を固めるところから始まる。
ステージを通じ、いちごは自分が受け取ったもの、溢れる思いを届けようとする

それは美月への個人的な思いだが、『アイドル』である彼女の夢は歌となり、ステージとなり、世界中のあらゆる人へのエールとなる。
人を元気づける、心を動かすというのはどういうことか。
いちごがたどり着いた最高の《ファイト》…劇中歌”輝きのエチュード”に、全ての答えがある。

そこにたどり着くまでの道のりは、汗と努力と根性で敷き詰められたアイカツスタイルだ。
一つの曲、一つのステージを作り上げる苦労をちゃんと描いていることが、ミストレスがのんきな後方支援要因ではないことも教えてくれる。
魂を込めるからこそ、歌は届くのだ。
人類全員、アイカツ見ろ。

 

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第7回 ハイランダーうたの☆プリンスさまっ♪ マジLOVE1000%』
紅優A-1 Pictures
大人気アイドル乙女ゲーのアニメ化第一作。とんでもない個性を持ったプリンスと純朴な少女・七海。出会いと飛翔の物語

というわけでうたプリである。
NOVAより現代に近づいたナイトメアには、ハイランダーの基点たる軌道がない。
なかなかイメージがしにくいスタイルになったが、そこで『トンチキ権力者のイケメンになぜか好かれ、ガンガンアプローチされて困っちゃう』乙女類型が、アーキとして生きてくる。

ハーレクインからの古典類型ではあるが、それを新たな装いで整えているのが乙女ゲージャンル。
特にこのアニメ第一作は、Elements Gardenの楽曲、実力派俳優たちの演技、頭のネジがぶっ飛んだ強烈な演出、熱血アイドルモノとしての骨の太さがベストなハーモニーを生み出し、熱く楽しく面白い。

顔が良くて頭がおかしく、性格が善良で社会的影響力が莫大。
いろんなハイランダー達が、色んな角度からアプローチしてくる様を楽しむ内に、ダスクエイジでの『ハイランダー』が見えてくる…と良いな!
オススメは鳥海さんが声やってる愛島セシル。
浮世離れした雰囲気とぶっ飛んだ設定が、マジ天上人。

 

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第8回 クグツ『プリンセス・プリンシパル
(楠正紀、Studio 3Hz × アクタス

それは、嘘をつく職業。東西に分割されたスチームパンク・ロンドンを舞台に、少女達が闇を駆けるスパイアクション。

というわけで、17年夏期に放送されたオリジナルアニメ。
それぞれの事情を背負い、スパイ組織『コントロール』に加わった五人の少女が、忠誠と詩情、嘘と真実の間で揺らぎつつ、蒸気と搾取に満ちたロンドンを駆け抜けていく物語である。
時系列をシャッフルしつつのオムニバスが、多彩な色彩を見せる。

美術の仕上がりがよく、悪徳と欺瞞の街『ロンドン』を舞台にしたアーバンアクションとしても楽しめる。
しかし作品の根本は、嘘が下手なスパイ・アンジェを主役とした人間の感情、国家という巨大な装置に巻き込まれつつ生き延びようとする叫びが、しっかり支えている。

黒星紅白のポップなデザインを活かしつつ、情け容赦なく人間存在を削り取る『組織』『国家』の残酷さをしっかり描いたこのアニメは、『クグツ』の参考資料にぴったりだ。
反重力ガジェットを活かしアクションでキャラ立てする立ち回りも、TNMらしいケレンの勉強になる。
あと激重極大感情のラッシュな。

 

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第9回 カブキ『ランウェイで笑って』
(猪ノ谷言葉、講談社

少年マガジン連載中、『ファッション』をテーマに取った熱血少年漫画。
デザイナー志望の少年と、背の小さなモデル志望。
二人の挑戦が、今始まる

カブキにも色々ある。
幸運なギャンブラー、あるいは可愛らしいアイドル。
<芸術>で判定するジャンルならなんでもカブキの領分だが、この漫画はモデルとデザイナー、衣装にまつわる芸術家達の卵の、熱い血潮をインクに描かれた熱血少年漫画である。

週刊マガジンには全くしっくり来ない題材ながら、巧くケレンを効かせ、乗り越えるべき問題を解らやすく描写し、心意気と努力と友情で前に進んでいく様子は、間違いなく少年漫画。
しかし『ファッション』を超次元にかっ飛ばす派手な戯画化はなく、あくまで現実の範囲で、物語は進んでいく。

嘘にはせず、しかし面白く。
難しい題材を難しいバランスで進めつつ、『ファッション』というテーマの崇高性、それに青春を捧げる少年少女の真っ直ぐな感情が、強い魅力を放つ。
キメの絵が『強い』ことが、青年誌的アプローチに少年漫画のテカリを載せている、なかなか面白い漫画だ。

 

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第10回 チャクラ『メガロボクス
(森山洋、トムス・エンタテインメント 3×Cube)

持つもの、持たざるもの。
階級に分断された街で、負け犬の拳と魂が唸る。
泥臭い描画が冴えるスチームパンク拳闘大作。

というわけで、”あしたのジョー”を原作に据えたボクシングアニメである。
『認可』と『未認可』に分断された世界。
下層の乱雑な息遣い。
鬱屈した感情。
それでも抑えきれないスタイル。
運命の出会い。
描かれているもの全てがあまりにダスクエイジであり、『チャクラ』が拳に何を託すか良く見える。

ボクシング漫画の金字塔を原案に据えつつ、大胆なアレンジで現代にその魂を問う。
リブート作品に必要なリスペクトと、あくまで己の物語を語り切るのだという気概は、計算され尽くした荒さで埋め尽くされた画面から、蒸気のように立ち上ってきている。

何しろ先週第1話が放送されたばかり、その真価はまだ判らない。
だが、そこで息づく『チャクラ』の魂、突き出される拳のアツさは、『何か』にたどり着きそうな予感をビシビシと伝えてくる。
このアニメを見ることは、現在進行系でダスクエイジと、『チャクラ』とシンクロするチャンスなのだ。
皆見ろ!

 

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第11回 カリスマ『MOUSE』(牧野修早川書房

そこはネバーランドと呼ばれた。
世界から見捨てられた少年少女が肩を寄せあい、カクテルボードで調合したドラッグで夢を見る。
狂暴なピータパン達の残酷童話

精神戦の演出は難しい。
肉体をぶっ壊すシンプルさに比べ、心を活動不能にする手段は魂の聖性に守られ、なかなかイメージしにくい。
しかしダスクエイジの技術とオカルトは、心を蹂躙する戦闘手段を可能にする。
しっくり来るイメージを掴むためには、優れた先行作に頼るのがベストだ。

18才以上お断り。
ドラッグ漬けの妖精たちが、言葉と麻薬で敵の精神に分け入り、心をすり潰す。
奔放なイメージに満ちたこの作品は、そんな精神戦の資料として非常に優れている。
『特注のドラッグカクテル』『世界の果ての島』という道具立てが、魂を食いつぶす特権にいい感じの言い訳をくれる。

しかし闘争の描写だけでなく、世界から見捨てられた少年少女の狂奔、それでも触れ合い理解り合おうとする哀切、ままごとめいた生活の危うさが、この作品にはみっしり詰まっている。
むしろそれこそが、ダスクエイジの残酷と詩情を掴む上で、一番強い助けになるかも知れない。
おすすめです。

 

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第12回 フェイト『湖中の女』
レイモンド・チャンドラー早川書房

私立探偵・フィリップ・マーロウに舞い込んだ一つの依頼。
つまらぬ人探しは美しい死体へと繋がり、LAの雑踏に物語が灯る。

というわけで、ハードボイルドというジャンルの超古典、基本中の基本である。
すでにポップアイコンと化したハードボイルド、『フェイト』的な振る舞いの全てがマーロウの中にあるわけではないが、ここをから全てが始まっている。
それだけの強度がある。

チャンドラーの乾いて美麗な文体、小刻みなドラマの運びは、読むタイミングを選ばない。
シリーズ第四作であるこれを選んだのも、あえて気楽に読み始めてほしいからだ。
どこから切り込んでも、マーロウは豊かでかっこいい。
シャープな会話、女々しさ、演技。
強がりを込めたスタイル。

アイコン足り得る強度を持った聖典は、存外読まれない。
原点に触れなくても、その子供たちが現在風の装いで、愉快に接近してくれる。
しかし時代を経てなお薄れない瑞々しさと力強さがあるからこそ、聖典聖典だ。
『フェイト』たる貴方自身の目で、是非《真実》のマーロウを読んで欲しい。
楽しいぞ。

 

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第13回 マヤカシ『とんがり帽子のアトリエ』
白浜鴎講談社

魔法が秘匿された世界。
魔法使いに憧れる少女ココは、そのタブーに触れたことで大きな不幸、新たなる運命と出会う。
鮮烈なる魔法学習ジュブナイル

というわけで、『マヤカシ』の最新鋭を切り取る月刊モーニング連載作である。
きっちり作り込まれた世界観、インクを媒介とする魔術の組み立て、謎を秘めたドラマ展開。
物語の骨格が太く、細やかな描画力、美麗な風景と人物の『絵』がそれを後押しする。パワーのある作品だ。

そこに少女の成長物語、魔法を教育され新しい世界が広がる喜びが、色彩豊かに踊る。『魔法』が持つ魅力と輝きが、ドラマと絵でしっかり描かれることで、ココが出会う変化は鮮明に、輝かしく映る。
魔法寮での穏やかな青春と、スケールの大きな冒険のバランス感覚も素晴らしい。

何よりキャラクターが瑞々しく生きていて、とてもかわいらしい。
個性豊かな仲間たちと笑い、学びながら、一歩ずつ運命を切り開いていくココを見守り、応援したくなる暖かさがしっかりある。
僕は子犬みたいなティティアChangが好きです。
完成度と熱量、溢れるイマージュとドラマが同居する快作だ。

 

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第14回 バサラ『東方Project
上海アリス幻樂団

それは世界の果ての物語。
現し世から切り離された幻想が行き着く隠れ里で、少女たちは空を舞う。
妖幻の魔術と弾幕の美術が混濁する、新世代のフォークロア

というわけで、STG、音楽、書籍に各種二次創作と、様々に拡大を続ける東方シリーズである。
ポップアイコンとして完全な定着を見せたが、怪人ZUNの博識から繰り出される民俗・歴史・神話知識はガチ中のガチで、分厚い背景設定を追うことが『バサラ』の歴史をたどることにも繋がる。

重くて硬い学識をポップにアレンジし、オタク文化の一つの潮流せしめた変奏の手腕も、もちろん参考になるだろう。
サイバネティクスと高度資本主義が暴れまわるダスクエイジで、いかにオカルトを楽しく遊ぶか。
そのためのヒントが、少女と弾幕のダンスの中に幾つも転がっている。

高度に巨大化し、今なお元気に躍動しているマルチプラットフォームなので、入り口は沢山ある。
入りやすさでいうと今は音ゲー収録のアレンジ曲なのかな…。
どんな入り方をしても、幻想郷は全てを受け入れる。
自分なりにこの最新鋭の魔導書を咀嚼して、ダスクエイジの『バサラ』を魅せろ。

 

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第15回 カブト『闇のイージス
七月鏡一&藤原芳秀小学館

闇を纏い、その男はやってくる。
鋼の腕と不屈の魂が、どす黒い悪意を弾く。
伝説の護り屋が夜を駆け抜ける、スタイリッシュアクション巨編

アイギス』の通り名で知られる不殺の護り屋、楯雁人の奮戦を追うハードボイルド・ディフェンダーコミックである。
義手一本で狂った悪意と、巨大な腐敗と渡り合う楯の背中には、スタイルへの強い矜持がにじみ、その生き方は文句無しで『カブト』の教科書だ。

敵や話のバリエーションが豊かなのも、参考資料として優れたところである。
企業、犯罪結社、とにかく狂暴な個人。
粒のたった敵のデザイン、そこで問われるスタイル。
アーバンでダークな雰囲気を滲ませる描画と合わせて、ダスクエイジの濃い闇、そこに灯る一筋の光が、見事に活写されている。

『カブト』たる楯だけでなく、法執行者の矜持に満ちた『イヌ』、殺すこと以外に何も持たない『カゲ』、世界全てをテロの炎に投げ込む『カタナ』と、あらゆるスタイルのお手本がある。
そういう強烈なスタイルが、お互いを照らし合い一つの物語を作る。
トーキョーナイトメアの理想形が、ここにあるのだ。

 

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第16回 ニューロ『紅殻のパンドラ
士郎正宗六道神士角川書店

人間と機械、国家と企業の境界線が曖昧となりかけた時代。
義体の少女ネネと、超高性能アンドロイド・クラリオンが出会う時物語は始まる

というわけで、サイバーエイジの形を作り上げた”攻殻機動隊”の正式スピンオフである。
時代的には攻機前夜、まだ電脳技術が一般的ではない頃合いを扱っており、ダスクエイジとの親和性は高い。
魂と機械、超越者の倫理。
百合めいた外装に反して、中身はハードコアにSFである。

医療、救助、スポーツ。
戦闘に偏りがちなサイバーパンクにおいて、一般的な領域における電脳受容を丁寧に話に盛り込んでもいて、そういう視座の広さも素晴らしい。
アクション面も色々ハッタリ(とパロディ)が効いていて、カット進行の参考にもなる。

そして何より、機械のような人間・ネネと、人間のような機械・クラリンが二人三脚でサイバーエイジを歩いていく鋼色の青春物語に、柔らかな体温がある。
機械の魔法で人助け。
凄まじくバロックな形ながら、実は超正統派魔法少女物語としても読める、非常に複雑な楽しさを持った作品だ。
変身もするよ!

 

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第17回 イヌ『機龍警察』
月村了衛早川書房

都市型犯罪の過激化と共に、大型機甲兵装『機龍兵』と、それを操縦可能なプロを採用した警視庁特捜部。
組織の軋轢と巨大な陰謀が、大都市の影で蠢き出す…。

月村了衛先生の、小説家としての出世作である。
躍動するアクション&メカニカル描写、積み重なる陰謀、陰鬱で複雑な過去の重層、巨大な組織同士が衝突する軋轢。
緻密に組み立てられたサスペンスと興奮が、あっという間に物語に引き込み、力強く読ませる。

ダスクエイジの正義もまた、この小説で描かれれるように複雑で、凄惨であろう。
行き場のない個人の思いと、巨大な組織の空疎な理論が混じり合う瞬間の、赤い火花。
それが巨大ロボット”機竜”を駆動させ、元犯罪者と警察組織の鼻つまみ者達は、己の牙を突き立ててる。

ド派手な見せ場を迫力満点で書くと同時に、ワケありが抱え込んだ傷の痛み、薄暗い瞳に込められた感情の細やかさにも、強い魅力がある。
”機龍”という巨大な嘘を成り立たせるために、緻密に組み上げた物語の技法も含めて、『イヌ』必携の参考資料だと言えるだろう。

 

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第18回 レッガー『91DAYS
鏑木ひろ、紅夏)

悪徳の街に愛憎の天使が踊る。
禁酒法時代、家族を皆殺しにされたアンジェロは名を偽り、復讐のために組織に潜り込む。
血は血を呼び、天使は罪に塗れていく。

というわけで2016年放送の、ジャズエイジを舞台にした組織犯罪復讐者物語である。 弱さを憎悪で塗りつぶしたアンジェロの、漆黒の殺意に塗り固められた旅路は、薄暗く痛ましく、マイナスの悦楽に満ちている。
抑えた色彩、シャープな表現。
アニメとしてのセンスも良い。

誰も幸せにならない復讐の暗さと、そのために掴み取った偽りの暖かさ。
嘘が嘘を呼び、死が死を拡大していくどうしようもなさが、たしかにそこにある感情の強さと絡み合って、強い負のカタルシスを呼ぶ。
その根源に『ファミリー』の血があることが、非常に『レッガー』らしい。

生きるべき身内と、死すべき外敵。
それを明瞭に分ければこそ、犯罪組織は己を立てる。
しかしその境界線は、情と欲望、愛と暴力で簡単に壊れていってしまう。
悪魔も時には、涙を流す。
『レッガー』に込められた温もりと激発、両方を存分に味わえる魔の酒。
それがこのアニメだ。

 

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第19回 カゲ『ニンジャスレイヤー』
(ブラッドレー・ボンド &フィリップ・ニンジャ・モーゼズ、KADOKAWA
悪徳の街、ネオサイタマに復讐鬼が走る。
ニンジャソウルを宿した超人たちの、サイバー黙示録開幕!

というわけで、みんな大好き忍殺である。
独特の言語センス、ガイジン目線のエキセントリックな日本像、トンチキな掛け合い。
尖った部分がきっちり受けて、大きな支持を受けているこの作品。
ポピュラーになったからこそ、声を大にして言う。

忍殺はかっこいいので、かっこいいロールの参考になる!

家族を理不尽に奪われ、禁断の力と契約し復讐鬼となったフジキドの生き様。
間断なく押し寄せる、多彩な刺客たちとの激戦。
殺伐とした暴力の合間に見える、人間としての情。
サイバーパンクとしてみても、ニューロもフェイトもエグゼクも大暴れ、非常に豊かに王道を、逆立ちしながら突っ走っている。

忍殺は面白い。
ネタにもなるし、イヤーグワー言ってるだけでも盛り上がる。
しかしその奥には、新時代のサイバーパンクイメージのスタンダードへとのし上がるだけの確かな物語的実力、乾いた詩情、キャラクターとドラマの強さが、しっかりある。
そこを踏まえた上で、ダスクエイジのニンジャを読め!

 

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第20回 カタナ『衛府の七忍』
(山口敬之、秋田書店

時は元和、徳川の秩序が日本を覆い尽くそうという時代。
圧殺されゆくまつろわぬ民の怨と哀を背負い、異影が血風を纏う。
鬼才による時代劇アクション。

シグルイ”の残酷、”エグゾスカル 零”の陰鬱を乗り越えた若先生による、血と笑いと哀しさに満ちた新感覚時代劇アクションである。
作者の強みである独特の言語センス、笑いと可笑しみへの力強いアプローチが随所に見え、楽しいシーンが多い。
テヘペロでやんす』と、侠客に言わせる才能な。

しかし根っこには、差別と残虐、秩序と暴力への鋭い視点が血みどろのママ鼓動している。
龍神の力を受け、死の淵から立ち上がった怨身忍者は軒並み被差別階級であり、人を人とも思わぬ徳川の治世に本気キメるべく、人外の闘いへ飛び込む。
そして秩序の側にも、守るべき理がある。

ぶつかり合う魂は、臓物まみれの死闘によってしか理解り合えない。
グロテスクに血肉が飛び散るバトルシーンには、凄烈な気合と理不尽への怒り、業への哀しみが、渾然一体と漂っている。
殺戮の果てに救いはあるか。
優しさは刃だけが証明するのか。
今一番アツい『カタナ』の生き様は、この本にある。

 

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第21回 カゼ『RED LINE』
小池健マッドハウス

宇宙最速を決めるためのサバイバルレース”RED LINE”。
目指すは史上最悪の独裁国家、ロボワールド。
砲弾飛び交う死のロードを、走り一つでJPが駆けるッ!

というわけで、あまりに気合い入れて制作した結果マッドハウスの経営が傾いたと噂の、小池監督渾身の劇場版アニメ。
全編疾走感モリモリの超作画、濃い口のキャラクターたちが感情むき出しでバチバチする熱量、飛び交うミサイル、鋼の根性、譲れないスタイル。
そういうモンの超ごった煮映画である。

色んなキャラと欲望がぶち込まれまくった過積載なアニメなのだが、主人公・JPの真っ直ぐな造形、青臭い憧れを全力疾走させる本筋の太さが、重荷をしっかり支えている。
ブレずにど真ん中。
JPの走りのように、分かりやすいストーリーが背骨となり、スタイリッシュな物語に体重を生み出している。

それに支えられ、音楽や映像、デザインは尖りまくる。
エッジの効いたデザインのヴィークルと『カゼ』が、個性をむき出しにぶつかり、競う。
そこにはスピードの向こう側へ突き抜けようという『カゼ』の魂が、しっかりと刻み込まれている。
102分があっという間の、スピードレースムービーである。

 

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第22回 カブトワリ『Spec Ops: The Line』
(Yager Development、2K Games

砂嵐に巻き込まれ、孤立したドバイ。
救援を求める声を受け、戦士達が荒廃の街に降り立つ。
悪徳と暴力の果てに、正義はあるか?

というわけで、近年隆盛目覚ましいFPSジャンルからこの一作を。
砂嵐によって孤立し、渇望と暴力が支配する世紀末都市と化したドバイを舞台に、鉄砲とジップラインアクションがバチバチ吠えるぶっ殺しゲームである。
仮想の血は痛みを伴わない。
暴力は娯楽、悪徳は喜び。
FPSは常にその無責任を孕む。

この作品は”地獄の黙示録”(あるいはその原案たる”闇の奥”)の幻惑性を積極的に取り込み、何が現実で悪夢か、全てが不確かだ。
暴力によって支えられる正義の不確かさ、正しさを求めて致命的に間違えていく男たちのあやふやさが、『ゲーム』というメディアの特質を最大限活かし、血生臭く描かれる。

モニター越しの戦争が当たり前になってしまった、近年の戦争。
その戯画として悪意をモニター越しに裏返しで描くこの作品は、仮想の銃弾が持つ重たさ、それが奪う命の意味を、仮想だからこそ赤く生臭い血で、しっかり描いている。
独特のテイストだが、噛みごたえ十分だ。
ドバイへようこそ。

 

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第23回 クロマク『ACCA13区監察課
オノ・ナツメスクウェア・エニックス

ドワー王国の監察官ジーンは、分断された13の自治区を横断していく。
クーデターの気配、蠢く陰謀、過去の秘密。紫煙の行方は…。

というわけで、オノ・ナツメのスタイリッシュ陰謀群像劇である。
13に分かたれ、気候も文化も精神性も異なる自治区という舞台立てが、まず雰囲気があって良い。
”もらいタバコ”のハンドルをもつジーンは、その断絶をひょうひょうと乗り越えつつ、各自地区の現状、抱える問題に接近していく。

その個別の歩みが繋がって、一つの王国の現状、物語の総体が見えてくる構図が、張り巡らされた陰謀のサスペンスと見事に重なって読ませる。
複雑に絡み合う政治と欲望、忠誠と私情。
重たい感情を推進力にしつつ、語り口は軽妙洒脱で、軽やかさと緊張感が同居している。

多数いるキャラクターもそれぞれのスタイルをしっかり持ち、複雑なプロットに埋もれない個性を輝かせている。
クグツにカゲ、ハイランダーにエグゼク。
様々なスタイルが閃くが、やはりクロマク達の指し手の交錯、陰謀のセオリーに強い魅力を感じる一作だ。
アニメ版も素晴ら氏い仕上がりでオススメです