ダーリン・イン・ザ・フランキスを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
神は楽園を去った。それでも、人は生きていかなければいけない。死せる土に種を巻き、恐怖に震えつつ明日を夢見る。
そんな寄る辺なき日々に、英雄はいない。遠い空に奪われた翼を求め、少年は足掻く。
その先に死の接吻が待つとしても、今宵星を睨め。
というわけで、高雄統子コンテ演出、重苦しく出口のないダリフラがロボットアニメのアガリ調子を蹴っ飛ばして帰還する、最終話直前である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
トリノスに取り残された、子供たちの現状。否応なくメンターとなった第13部隊の苦闘。どん詰まりの未来と一筋の希望。ゼロツーの不在とヒロのミーイズム。
そういうもんが、緊張感のある画面構成でみっしり語られる回である。自己言及されているエピソードは第7話、第13話、第17話あたりか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
あの時、『二度目の星はまともに見れないだろう』と僕は言っていたわけだが、そのとおりになった。予測が当たり、全く嬉しくはない。https://t.co/9kuZYxMVv3
相変わらず色んなものが描かれる回だが、全く新しいものが描かれているわけでもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
中心にいるのはヒロと、空疎なパートナーとしてのゼロツー。冒頭机に並べられたもの全てが、彼女の歴史を物語る抜け殻である。
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割れた手鏡には、何も写っていない。他者という鏡を覗き込み、自分の似姿を見つけていたゼロツー自体が、アパスに宿って空にいるのだから、そら当然何も写しはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
第5話以来、他人への思いやりとして描かれ続けた『器に入った水』は、今回も随所で顔を出す。
例えば、”メンテナンス”を受けれなくなって、生きる意味も方法も見失った9S。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
あるいは、”リーダー”としてゴローを気遣うイチゴが手渡す、白湯のコップ。
意味を成す水もあれば、無為に降り続く雨もある。地獄めいた場所でも、潤いはある。
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今回のお話で、第13部隊は始動的な立場に立つ。食事を配り、傷を癒やし、畑を耕す。生き残るための計画をサークルの内部で練り上げ、それをサークルの外部に拡大していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
望むと望まざると、彼らは地球に残された人類の先頭にある。一足早くパパ離れしていた彼らだけが、生きる手段を知っている。
しかしマグマエネルギーの搾取で疲弊した大地は、子供らを拒絶する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
”あなたは一生、苦しんで地から食物を取る。
地はあなたのために、いばらとあざみとを生じ、
あなたは野の草を食べるであろう。
あなたは顔に汗してパンを食べ、ついに土に帰る。(創世記 3:17-19)”
農耕と労働の苦しみ。死の痛み。出産の恐怖。楽園から追放されたコドモたちを、現実が追い詰めていく。
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”つぎに女に言われた、
「わたしはあなたの産みの苦しみを大いに増す。
あなたは苦しんで子を産む』(創世記 3:16)
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パパが製造した戦闘機械である間は、生にも死にも苦痛はなかった。
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だが今回ゴローは、英雄ならざる咎人全ての感情を背負って、『死んでいく仲間に何も出来ないのは、とても不安だ』と公言する。
見捨てられたことで、コドモたちは友を悼み、震えに手を差し伸べる尊厳を獲得したわけだ。
今までしていなかったこと、禁じられたことに手を伸ばすのは、とても怖い。フランクス博士(地球最後の人類)に”大人(オトナではなく)”になれと命令されも、優しくしなれていないナナは困ってしまう。
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だが彼女も、車椅子を降りて己の足で立つ。
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震える相手に手を差し伸べ、抱きしめる。これは第13部隊のパートナーシップの中では、普通に行われていたことだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
ヒロとゼロツーの、プラトニックな抱擁。あるいはミツルとココロの失われた逢瀬。
それは狭いサークルから溢れ、人類のスタンダードになる。
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記憶を奪われたミツルは、父たる責務の重たさに後ずさる。
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ココロは見に覚えのない妊娠(逆しまになった処女受胎)に怯え、社会のサポートを求める。
知らないことは、常に恐ろしい。震えるのも無理はないが、川は常に流れ続けている。
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冒頭ゴローによって回想され、イチゴによっても語られ直す、ヒロの言葉。
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『人は同じ川に入ることは出来ない』
水のモチーフは高雄演出(に支えられた、”静かな”ダリフラ全体)にとってとても大事だ。今回も、例えば第12話の回想をリフレインしつつ、幾重にも重なる。
あの時果たせなかった、ミツルとの約束。やはり水面は鏡面となって、少年たちの対峙を写す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
決意を込めた表情で、地上に残ると決めたミツルはかつての英雄に、何を伝えたのだろう。水面は、コドモたちのどんな感情を反射したのだろう。
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それが判るのは次回だが、この対峙に至るまで今回の話、かなり荒れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
英雄だった時代のヒロが語った言葉は、ギリシャの哲学者ヘラクレイトスの無意識な引用だ。彼は世界の基礎を”火”においた。
今回のヒロも、烈火のような個人的激情に従い、周囲を焼いていく。
第1部の彼が帰還したような、ゼロツーだけを見据える目線。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
それは”かつての英雄”を無意識に求める第13部隊の視線と正対せず、徹底的にすれ違っていく。
世界などどうでもいい。ただ、もう一度会いたい。守りたい。
思い返せば、そういう”火”の激情こそが、ヒロとこの物語を前に進めてきた。
実り少なく、痛みは多く。厳しい世界に放り出されたゴローは、かつてそうしたように、ヒロの言葉を求める。
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名前も道もないオレたちに、未来を指し示してくれ。アイデンティティを与えてくれ。すがりつくような視線を、しかし今のヒロは拾い上げられない。
ここら辺の断絶は、鮮明なレイアウトと明暗で演出される。
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ヒロに救済を求める少年たちが、置き去りにされた無明。そこから抜け出したヒロもまた闇の中にいて、ゼロツーを見つけた瞬間だけ光の側に出てくる。あらゆる人に、余裕はない。
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あるいは恵みを産まない冷たい雨の中、ゴローとヒロが対峙する瞬間。
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滴る雫がガラスを縦に走り、ゴローとヒロの断絶…世界を置き去りにしても個人の激情を優先する”火”と、そこに光明を見る男の姿を切り取ってくる。高雄演出の真骨頂だ。
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ゴローはかつてのイチゴのように、”みんな”を免罪符にヒロに詰め寄る。
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しかしイチゴほどは長く迷わず、”みんな”の奥にいる自分を見つける。
俺が、ヒロに死んでほしくないのだと。生き残り、ゼロツーを諦め、導いてほしいのだというエゴイズムと正対する。
最終的に、ゴローはヒロの身勝手に、自分の身勝手を背負って相対する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
俺がそうしたいから、しなきゃいけないから、そうする。
そう宣言したとき、ゴローはようやくかつて憧れた英雄の背中を、突破できたのかもしれない。ヒロを突き動かすエンジンを、自分にも搭載できたのかもしれない。
博愛という綺麗な題目を切り捨てて、帰るために死地に赴く。死ぬために作られた(と己を定義する)9sは、相応しく死ぬために。地球に唯一残った叫竜人たるヒロは、なんのために飛ぶのだろうか。
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真ん中できれいに分けたレイアウトは、見ているものの差か。
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神のいる天は、地面で泥にまみれるコドモたちには高くて遠い。人類開闢以前の戦いなんぞ、知ったこっちゃあ無い。
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しかしそこから降り注ぐものは、ささやかな幸福を壊していく。ヒロが身勝手に求める火星にたどり着かなければ、平穏はやってこない。
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元々、様々な表情の”空”を切り取ってきたアニメだが、コドモたちの立場の違い、心のあり様を反映して、今回の空は高く、広く、禍々しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
手が届かないと思い込もうとしても、神様たちの巨大な足は世界を踏みつけにしてくる。飛べない自分をしってもなお、飛ばなければ未来がつかめないから。
子供らは飛ぶのであり、ヒロはそういう”みんな”の問題から距離を取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
遠い空で、生贄となって血を流すゼロツーを取り戻すために。離別で終わる絵本の続きを、自分の血と涙と魂で描き直すために。
ここに来て、第13部隊はヒロと断絶する。そのことで、真実繋がりもする。
聖痕。物理的な傷を負わないまま血を流す現象は、キリスト教圏においては奇跡の権限として受け止められてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
アパスに意識を残し、神と戦い続けているゼロツーの抜け殻も、傷なき血を流し続ける。ダーリンのため、みんなのための贖い。
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天上で戦うゼロツーは、ヒロと同じように、ただただパートナーを思っているのだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
それとも、かつて遠巻きに灯火を羨ましがった人の輪を、少しは思い出しているのだろうか。
ヒロがたどり着いてくれなければ、その確認もできない。頑張って欲しいところだ。
打ち捨てたはずの”宿り木(ミストルティン)”に、旧世代の生きた土が残っている。明日を生き延びる可能性に、コドモたちは顔を輝かせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
雨は上がり、明るい光が指す。
共同体が生存できる希望を前に、しかしヒロは闇の奥にいる。
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”みんな”がいて、でもゼロツーがいない世界は、ヒロにとっては闇だ。その感情に、彼は嘘がつけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
たとえその燃え上がる感情が、道を見失った子供たちに名前を与え、灯火となった事実があっても、だ。彼は長い道を経て、身勝手な自己主義者に帰還する。
世界を構築する歯車であるのをやめて、自分の足で立つというのは、そういう身勝手さから切り離せないのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
第7話の無邪気なレジャーでは、気持ち悪いほど清潔に”灯火”を見つめ、同じ方向を向いていた子供たち。今回は、灯火を背中に、別々の方角を向く
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それでも、”みんな”でいることはこの薄暗い世界唯一の灯火であり、”みんな”でい続けるために彼らは進む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
もう、仲間が死んでも当たり前、名前がないのが当然の時代には戻れない。死者は墓を建てられ、その尊厳は歴史に刻まれる時代なのだ。
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9Sha墓を望むのかなと、少し考える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
死人の顔色をした彼らは、パパのメンテナンス抜きでは生き延びられない生命だ。約束された死を前に、せめて生まれてきた役割を果たすべく空に上るのなら。
それは、とても歪んではいるが、せめてもの尊厳を求める”人間らしい”行動な気もする。
ゾロメが第10話ラストで吠えた『オレたちは、可哀想なんかじゃない』という叫びと、今回の9Sの決起は繋がっているのだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
イチゴが”リーダー”として、人間として、せめて彼らに食事と水を与え、サークルに向かい入れようとした行いが、彼らを突き動かしたのだろうか。
それは、この先の物語…おそらくは9Sの死を見なければ、確たる事は言えない部分だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
尺もあんまりないが、彼らなりの墓標が目に見えるように、お話を進めてくれればいいな、と思う。いつ死ぬかわからない、第13部隊の子供たちにも。
泥に塗れ、死に怯える、小さくてつまらない日々。そこにあるちっぽけな不安と尊厳を守るために。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
命をかけてパートナーに手を取りに行く仲間を、けして見捨てないと自分を誇るために。
ゴロー達は再び、フランクスに乗る。もう、世界は”フランクスに乗らなくても良い世界”なのに、だ。
ヒロはそういう”みんな”とゼロツーを天秤に乗っけて、ゼロツーが重いのだと確言する。命に値段を付け、それを公言する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
残酷だ。そら、みんな泣く。みんなヒロのことが好きで、でもヒロは”みんな”を生きる意味にはしてくれなくて。無力さ、情けなさ。とても惨めだろう
そうやって、ヒロと”みんな”は分かれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
”みんな”の一部でなければ生きる意味がないと吠えていた物語開始時。
あるいは、無理やり”みんな”になる必要なんて無いと、導きの灯火になっていた幼少期。
そのいずれとも違う、ゼロツーと出会ってしまったヒロ。
でもまぁ、ヒロくんはそういう子だ。
そのことを、もしかすると死ぬ直前に思い知って、それでもなおヒロと同じ場所を目指そうと思えたのは、ゴローにとって良かったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
怒って、殴って、本気で目を見て。第11話でフトシが、ミツルとココロ相手にやった決着を、ゴローが再演した、とも言えるか。みんな立派だ。
なけなしの人間の証明を握りしめて、子供たちが船に乗る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
そういう風に作られたから。
そこにたどり着かなければ、己が己ではなくなるから。
そこを突破しなければ、”みんな”の明日はないから。
思いは当然バラバラだ。でも、それでいいじゃないか。
精神を吸い上げ統一するVIRMとは違う、バラバラな人間の微かな繋がり。それを突き立てるために、コドモたちは遠い遠い戦の星まで駆けていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
あるものは帰り、あるものは帰らないだろう。せめて、死んだモノたちに墓碑銘を刻めるような終わりになってほしいと、強く願う。
子供たちのちっぽけな現状、揺れ動く心情を追うことで、ヒロと”みんな”と9Sが死地に、クライマックスにたどり着かなければいけない理由を描くエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
膨れ上がったスケールに、コドモたちはあくまで、重苦しく切実な等身大の物語を背負って、闘いを挑むようです。それで良いし、それが良い
死闘の中で、ヒロは望まぬまま獲得してしまった、あらゆる人々の瞳を集める星のような資質の意味を、もう一度考えるのだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
それとも、今回到達(あるいは帰還)したミーイズムこそ己だと誇るのだろうか。
そういう部分も気になってますが、まぁ何より死なないでほしいですね、みんな。
サブタイトルとなっている”スターゲイザー”は、火星の戦いを見据える戦士であり、不安げに空を見上げるしか無い人間であり、ヒロという星に見せられてしまったコドモたちなのでしょう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年6月24日
星見たちの戦いが、尊厳に満ちたものであることを願っています。来週も楽しみですね。