シュタインズ・ゲート ゼロを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
愛が生み出す無限の地獄から、タイムマシンでも抜け出せない。穏やかな日常を取り戻したようにみえて、笑顔の下には絶望が渦を巻いている。
それぞれの想いが、曇天の下交錯する。激しく行き交う言葉と拳。さらけ出し、傷つけ合う人々の上、天はただ美しく輝く。
というわけで、先週の明るいムードから一転、バッチンバッチンに激重感情がぶつかり合うシュタゲゼロである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
今回シリアス調のお話をやったからと言って、前回までのコメディ調子が嘘になるわけではない。暖かな日常と、傷だらけの非日常は同居し、相互に影響し合う。
脆い被膜のような、リア充の仮面。岡部くんの(ある種の)逃避行動は”留学”に上手く結晶化され、何とか日常を繕っている様子を見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
しかし薄皮一枚剥げば、その下にはバカでかい傷がある。リーディング・シュタイナー能力者としての孤独。繰り返された喪失。摩耗した心。
今回はそういう岡部くんの現状、治り方と壊れ方をスケッチする話だったかな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
不完全なエンディングをベストだと思いこむしかない、ゼロに至るまでの岡部倫太郎。自分に言い聞かせるように、『コレでよかったから、お前らも諦めろ』と言い続ける主人公。
その痛ましさと必死さ。
それを受け取る周囲の人々が、どういう気持でいるのか。岡部くんの弱さと身勝手さを前に、どういう反応をするのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
キャラ一人一人の反応、尊厳と意志を持った人々が衝突した時の波紋を、丁寧に追うことで、物語の中心にいる人々の気持ちが見えてくる。それこそが、物語そのものでもある。
そういう感じのお話だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
ぱっと見袋小路でぶつかり合うだけにみえて、自分をさらけ出し相手に受け取ってもらうことで、徐々に道は見えてきている。過去の傷、現在の痛みだけでなく、未来の希望までしっかり捉えていることが、見ごたえに通じていた。
冒頭、前回のコメディ調子を引き継ぐように悪戦苦闘する、真帆とダル。黒色毛虫みたいなまほたんのシルエットがなんとも面白いが、あっという間に空は曇り、まゆりから高濃度の重力が出る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
前半五分、どっしりカメラを据えて岡部くんとまゆりを描いてくれたのは、彼女のファンとして嬉しい。痛い。
あまりにも長く一緒にいすぎたから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
”鳳凰院凶真”を演じてでも守らなければいけない聖域だったから。
運命に選ばれなかったから。
まゆりは岡部くんの織姫とはなりえない。それは紅莉栖の仕事なのだ。
笑顔の仮面に阻まれて、心のうちに入っていけない様子がどっしり描かれる。
ずっと好きな人が苦しんでいるのに、その本質に触れられない。愛で何でも解決する、特別な魔法が使えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
まゆりのもどかしさから始まる物語は、公園で再開し涙の弾丸で突破する形で終わる。だから、序盤の重たさ、逃げ場のなさは大事な要素だ。
それにしたって、ほんと辛い…まゆしぃが何を…。
雨の中、別々の傘に入る二人は横断歩道で切断され、バラバラの方向に進む。まゆりを生存させた岡部くんの決断が、まゆりを無力な姫に閉じ込め、まゆり自身も檻から出れない。岡部くんの痛みを想像できてしまって、手が差し伸べられない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
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ルカ子がまゆりと相合い傘して、まゆりの真心と恋慕をしっかり見て取るシーンがここから繋がるのは、ある種の救いだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
あまりにも思い合いすぎて、どうにも身動きが取れない二人。ルカ子はそこから距離を取っているからこそ、岡部くんが気づかない(気づかなければいけない)真実に目が行く。
雨中の断絶を保留したまま、岡部くんはラボへと迷い込む。途中まほたんの素肌ギャグなんぞ交えつつ、根本的に重たい会話が続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
"留学"出来るくらいに回復したようにみえて、岡部くんの心はズッタズタである。心に渦を巻く猛烈な痛みと後悔は、ちょっとやそっとでは癒えない。
巨大な傷は、岡部くん自身を損なってもいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
自分だけが特別だという意識(それは事実でもあるのだが)に囚われすぎて、他人の抱えている痛みがみえない。
皆自分の物語として、シュタインズ・ゲートに挑もうとしているのに、それを独占し、傷ついたまま自分を守ろうと、停滞させようとする。
そういう視野の狭さと臆病さを、ダルは殴ったのだ。自分や自分の娘ではなく、仲間のために怒る所が橋田だなぁ、という感じだが、ダルはまゆりが停滞していた線から、拳を以て一歩踏み込んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
お前が傷ついてるのは判る。その痛みがお前だけのものだってのも。でも親友として、あえて無神経に進む。
人はしょせん一人で、しかしそれでも繋がってしまえて。奇縁が結んで”ラボ”に集った一人として、岡部倫太郎と鳳凰院凶真を愛する代表選手として、ダルは拳を固く握り、思いを込めて叩きつけたのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
それは優しく見守るのと同じくらい、大事な踏み込みだ。
物語冒頭の岡部くんだと、この拳は受けきれなかったと思う。ゲロゲロ吐き戻し、優しく見守られ、行ったり来たりしながら自分を取り戻してきたから、今回のぶつかり合いにも耐えれたのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
そう思うと、やっぱりここまでの物語、折り重なる真心の描写には大きな意味があった。
人が生きていけないほどに傷つき、それでも生き延びてしまって、その上で何をするか。選択肢を間違えた主人公は、どうすればもう一度主役になれるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
完結したシュタゲに付け足された物語は、自動的にそういうテーマを背負う。それを説得力込めて描くためには、人間心理の蓄積が大事だ。
アニメが”動く絵”である以上、それはヴィジュアルに託される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
石破天驚拳でぶっ飛ばされたオカリンと、ダルの間にある断絶。それをとりなして、ハンカチ(心のケア用品)を差し出し受け取るオカまほの姿。
同ポジを活用して、心理の変化を見せる”絵”
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天候も上手く演出されていて、まゆりとの不穏な思い合いから雨は本降りになり、ダルの感情と一緒に激発する。超えられなかった一線を突き抜け、本音を受け取った痛みはけして悪いものではなく、雨は上がっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
不定の未来を写すような、紫色の空が屋上に反射する。鏡合わせの二人がそこにいる。
そう、再び屋上である。何かとエモい会話が集約してきた屋上は、今回も感情が踊る劇場としてしっかり機能する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
ウユニ塩湖めいた、神秘的な反射を見せる水たまり。ジェイコブス・ラダーが差し込む神秘的な光景のなかで、二人は感情をぶつけ合い、己をさらけ出していく。
”牧瀬紅莉栖の不在”で繋がったはずの二人だが、実はその哀しさはすれ違ってもいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
岡部くんは”死せる紅莉栖”を思い出の中に独占し、彼女が託したβ世界に安住することで、紅莉栖を独占すらしている。前に進まないこと、腐敗し続けることで、低いポテンシャルで安定し続けている。
真帆が『アタシだってつれーし、いてーよ! でもそこから這い上がって、何度でも挑み直す以外に人間の戦い方なんてねーだろ! それをアタシから奪うなよ!』と吠えたことで、岡部くんは死せる紅莉栖との共寝をぶっ壊される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
紅莉栖は、岡部くんだけのヒロインではないのだ。
岡部くんが”傷ついた主人公”として、”死せるヒロイン”を独占してしまうことは、真帆が紅莉栖を振り切ることで紅莉栖を再生させる歩みを邪魔することにも繋がる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
そして岡部くん自身も、死せる紅莉栖と癒着し続ければ、その毒で死んでしまう。どこかで、ある種の諦めと決意を見せる必要がある。
ブチブチと心を引きちぎられながら、強引に高いポテンシャルに引き上げる。見守る優しさではなく、本音をぶち当てる身勝手でもって、主人公と対峙する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
今回のお話は、ダルと真帆とまゆりの連合軍が、岡部くんの壁をそれぞれ乗り越えていく話だ。拳に決意に涙、それぞれ武器が違うのが面白い。
岡部くん自身も、そんな他者の主張を心のどこかで認めている。元々まゆりが壊れないよう”鳳凰院凶真”になった男、他人の痛みを考えられる男なのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
屋上の水たまりはシーンの感情、二人の距離感を反映して、自在に姿を変えていく。
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明日に挑む決意を共有しつつ、どこか独善的なエゴイズムで距離を取る。岡部くんのアンビバレントな心理を反映して、水たまりはときに繋がり、ときに離れる。鏡面に心が反射して、長い影を伸ばす。それはもう一つの世界の、もう一人の自分の残影。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
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”牧瀬紅莉栖の不在”を共有する二人は、屋上の対峙をもってようやく、むき出しのまま向き合えた。お互いの傷をいたわるだけでなく、傷を切開してその奥にある感情を開きあう所までやってきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
その劇烈な痛みを直視しなければ、岡部くんは変われない。救われない。癒やされない。
ダルは親友として、真帆は紅莉栖を共有する存在として。岡部くんの欠けた心に踏み込む特権を、しっかり持っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
それを振り回し、岡部くんをなぎ倒してしまうのが怖かったから、二人共踏み込まなかった。でも、優しいだけじゃ前には進めない。傷を切り開き生まれ直す時が、次第に近づいている。
それは衝突と痛みに満ちた、苦しい展開だ。しかし真実、岡部くんが抱え込んでいるものをさらけ出し、物語を先に進めるためには絶対必要な工程でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
なので、衝突は不穏さと希望を奇妙に共存させ、可能性を見せる”絵”で伝えられる。シリーズ構成の視力が異常に良いのは、シュタゲゼロの強さだな。
真帆とのぶつかり合いから逃げるように、岡部くんは屋上を降りる。決意を込めて”牧瀬紅莉栖の不在”と向き合った真帆は、心理的にも倫理的にも岡部くんより上にいる。なので、屋上に残るのは彼女だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
逃げ出した岡部くんを運命が捕まえて、まゆりとの第二ラウンドが始まる。ここからが本当の地獄だッ…
岡部くんはまゆりの本心を聞いて、『お前は何も考えなくていい!』と言葉にする。ダルがいたら二発目の石破天驚拳貰っていた台詞だが、いいセリフだとも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
”鳳凰院凶真”になってまで守りたかった、可愛くて脆い女の子。それが自分から巣立っていく自由を、岡部くんはどこかで拒絶している。
岡部くんの言葉は、まゆりに『無力でい続けろ、ヒロインであり続けろ』と強要するものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
お前は運命に弄ばれる犠牲で、それを助けるのがシュタゲだから。お前は何もしなくていい、主役の俺が助けてやる。
作品メディアの特殊性にまで目を配った、エゴまみれのいいセリフだ。
しかしまゆりはそれを拒絶する。何も知らないまま、ただの無力なトロフィーであり続けることに涙を流す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
自分だって何かを決断し、誰かを前に進められる。岡部くんが自分にそうしてくれたように、無力なあがきでも未来を切り開き、幸せを掴み取れる。
そう信じているから、まゆりは泣くのだ。
その涙が鏡になって、岡部くんは自分を、自分の中にどっかりと根を下ろしている牧瀬紅莉栖をようやく見つける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
哀しいすれ違いにも見えるシーンだが、まゆりの指摘は岡部くんの闇に光を灯している。それは、まゆりの言葉が真実だからだ。
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自己防衛のため、あるいは誰かの優しさのために、岡部くんは単独では、そういう真実に目を向けられない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
他人に指摘されて初めて、自分の現状、真実がみえてくる。今週ダルや真帆が叩きつけたのも、そういう関係性だった。
どれだけ自分が歪んで身勝手かは、他者を鏡にしないと分からないのだ。
それこそが、人が自閉し自足してはいけない理由、他人と繋がる必然性、”ラボ”が存在する意味なのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
るか子がまゆりの純情を見据え、反射したように。ダルが鈴羽の気持ちを引き受け、手渡してあげたように。傷つきやすい人々は、心をやり取りする中で、感情の観測精度を上げていく。
そしてそれこそが、岡部くんの傷ついた心を癒やし、物語が悲劇から脱却するために必要なプロセスでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
真実はただ正しいから尊いのではなく、それ以外に物事をより善くする手段がないからこそ、意味があるのだ。
それは痛いし、辛いし哀しい。それでも、切り開き見せ共有する価値がある。
そういう場所にたどり着く準備が、ようやく岡部くんの中で整ってきたこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
周囲の人々も、優しさから強さへと武器を変えつつあること。
それがキャラクターの心の中にあり、物語をより良い終わりに導く真実へと繋がっていることを、丁寧に積み上げるエピソードでした。
序盤オカリンの弱りっぷりを上手く見せたことが、今回の岡部くんに繋がっていると思った。傷つき間違いつつ、だんだん真実に近づけるタフさを、ゼロの物語は丁寧に積み上げてきた。それは岡部くんが頑張ったからだし、周りの人が優しかったから生まれたものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
一年の停滞は、けして無駄ではなかった
親友も、仲間も、守るべき人も、みな決断を果たした。あえて心に踏み入り、自分の哀しみと叫びを岡部くんに預けた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
これに岡部くんがどう答え、どう踏み出していくかがシュタゲゼロ終盤、大事な課題になると思います。そして今回の見事な魅せ方は、そこに希望があるとしっかり教えてくれている。
ボロボロの現状、痛ましい過去。それを丁寧にスケッチしつつ、未来への希望を高揚させるいいエピソードでした。こういう描写に嘘がないと、感情のドラマに素直にシンクロできる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月1日
熱量と優しさ、身勝手さが入り交じる仕上がりで凄く良かったです。次回も楽しみ。