BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
血の檻、曇った硝子、愛情の鎖。西海岸の抜けるような青空が、少年たちを縛り付けるものを照らす。バナナ・フィッシュの真実にたどり着いても、もつれた糸は更に絡まるばかり。
出口の見えない世界の中で、陰謀が長い手を伸ばす。善なるものを踏みにじる、悪魔たちの舌が踊る。
そんなわけで、西海岸胎動編である。冒頭、露骨に古いムードでウェストコーストした後は、いつものようにじっとり…というわけではなく、どこか軽く、早く、勢いのある演出で状況が転がっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
新キャラ・月龍との感情の交錯など交えつつも、あまり意味深で重たいカットを挟まず、スピーディーだ。
その速度に乗って様々なものが描かれるわけだが、いくつかエピソードを貫通する軸がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
一つは”血”だ。これまで描かれた、暴力によって吹き出る赤ではなく、継承される呪いと祝福の液体。マイ・ロスト・シティの物語を引き継ぐように、形を変えて描かれる家族の形態。
冒頭、マックスの家で描かれるのは幸福な家庭だ。少しのすれ違いはあっても、愛情に満ち溢れた幸福な家。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
黄色い野球グローブには、父からの愛情が詰まっている。アッシュが一番最初に性的暴行を受けたのが”野球のコーチ”だったことを思い返すと、重い皮肉だ
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アッシュはマックスの家族の食事を手に取り、口に運ぶ。親を選べなかった子供として、マイケルと意気投合し、マックスに釘を刺す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
アッシュは子供に優しい。こうあってほしかった少年時代を投影しているのか、汚れて尚無垢なるものを信じているのか。だから、それを踏みにじる大人を強く憎む。
マックスもまたアッシュの忠言を受け取り、マイケルの良き父、アッシュの良い親父であろうとする。
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蓮っ葉な態度を咎め、英二への冷たい態度を注意し、巨大な陰謀を前に手を引けと忠告する。体を張って、意地っ張りなガキの心を受け止めて、それに報いようとする。
良き家族でいられないかったからこそ、良き家族を作り直し、維持しようと努力する人々の結束。『自分が自分であるために』ゴルツィネとの対峙を決意するアッシュを前に、マックスは杯を干す。そこにはアルコールだけでなく、決意と連帯が継がれている。
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水杯で関係性を構築するように、アッシュとマックスはぶつかり合い、分かり合っていく。ケープコッドでは作れなかった、LAでは維持できなかった、”血”が繋ぐ家族の結束。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
”バナナ・フィッシュ”を追う二人は、他人だからこそ繋がっていく。一蓮托生、地獄に道連れ。
そんなタフな繋がりから、英二ははじき出される。正確に言うと、一番守りたいものだからこそ、いの一番でアッシュが弾き出そうとする。
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警戒心なく背中を預ける、唯一の相手。見返りを求めない愛を与えてくれた、青い天使。だからこそ、遠ざけてでも守りたい
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アッシュと英二の無防備な距離に、月龍は嫉妬する。自分が接近した時は、手弱女の仕草に隠した殺意…同族の匂いを警戒され、体重を預けてくれなかったのに。
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山猫の鼻は、虚偽に敏感だ。英二に嘘がないこと、月龍が嘘まみれなことを感じ取っている。
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アッシュは月龍が差し出したジャスミンティーを飲まないし、食事を一緒にするシーンもない。”口に入れるもの”は連帯の象徴、信頼感のフェティッシュとして、今回も鋭敏に機能する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
毒が入ってるかもしれない盃を、ぐいと飲み干す覚悟と距離感。それを共有できるものと、出来ないもの。水と血。
ショーターもまた、異国で同胞を繋ぐ”血”の重たさに絡め取られる。幼い信頼を踏みつけにされる前、”姉さんには、飯も食わせてもらった”少年が遅すぎる警告を発する。ポットから注がれたお茶は、喉を潤すことなく無駄に終わる。
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ショーターは中国系アメリカン人の結束に守られ、そこに誇りを感じてきた。父母が死んだ後、姉という”血縁”に庇護され生き延びてきた。
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しかし今度は、その”血”が彼を裏切る。仲間をスパイし、薄汚れた仕事を果たせと迫ってくる。民族の誇り、起源への信頼が踏みつけにされた少年は、無防備に泣く。
常に飄々と、サングラスで表情を隠していたショーター。怒りと当惑、悲しみと失望の混じった涙をながす時、彼は初めて”目”を見せる。
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瞳から流れる透明な血を頬に受けて、月龍は何かを感じたか。冷たい利害関係以上の何かを、同胞に見れたのか。
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ショーターの熱い涙を、自分が流しているように感じられるなら、そこにはアッシュと英二のような共感、アッシュとマックスのような信頼がある。
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しかし月を背負う少年は、太陽を掴む男と正反対の位置にいる。自分ではない、”血”の繋がらない誰かへの共鳴
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長く伸びた2つの影が、お違う寄り添うような。表面的には冷たく遠ざける言葉で鎧いつつ、その奥には真実真心があるような。
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そんな関係を、アッシュは作ることが出来る。それが暴力によって破壊され、銃弾によって砕かれるとしても、太陽はアッシュの側にある
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鎖としての”血”、信頼としての”食事”と同じように、硝子のモチーフがそこかしこにある。うすぼやけ、不確かで不定な未来。いつ壊れてしまうか分からない、不穏な予感は常に、ぼやけた硝子の向う側にある。あるいは、手の届かないものへの期待か。
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優しい家庭、誰かの信頼。子供たちは皆、ショーケースの向こうにある夢を追い求める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
手の届かないものだからこそ求めるとしたら、月龍は英二やマックスのような、アッシュの隣人にはならない、ということだ。
親に認められない七人目。”血”に呪われた子。よく似た二人は、しかし硝子越し背中合わせだ
アッシュは銃とセックスに呪われつつ、より良く生きようと藻掻いてきた。生来の蠱惑が自分と他人をめちゃくちゃにするとしても、諦めず抗い、より強く闘う決意を固めていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
濃厚な呪いの中で、あくまで自分を保つために抵抗を続けている。
月龍は”血”が要求する立ち位置を素直に受け入れ、暗殺者の悪徳を内面化する。諦め、閉ざし、遠ざける。冷たい月の王子は、他人に青空を見ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
その希望のなさが、月龍とアッシュの間に距離をつくる。英二が一瞬で詰めれる距離が、月龍(やゴルツィネ)にとっては永遠に遠い。
二人の対立と対峙は、内圧を上げつつ激突には至らない。それに巻き込まれるように、ショーターが”血”の呪いを受けて涙を流したが、それはあくまで周辺被害だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
タフに見えたショーターも、自分のアイデンティティの根っこ…”血”を汚されると年頃に見える。本当に可哀想だ。
”バナナ・フィッシュ”の真相が判明し、その闇の深さも見えた。国家すら巻き込む陰謀を前に、皆が愛する人を遠ざけようとする。あるいは、己を保つために連帯する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
そんな人間的なうねりとは裏腹に、悪は長い手を伸ばす。幸福な家庭に手を伸ばし、”血”を汚す。その力は、プライドがないからこそ強い。
国家レベルの恥知らず達の、醜聞を閉じ込めたPC。写っているエンジェルストランペットはダチュラ系列の毒草であり、麻薬の原料ともなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
花言葉は”敬愛、夢のなか、あなたを酔わせる、遠くから私を思って”である。
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劇烈なる戦いの前に、マックスはアッシュを、アッシュは英二を、それぞれ渦中から遠ざけ守ろうとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
エンジェルストランペットの眠りは、しかし譲れない己を鈍麻させる。アッシュとマックスは、共闘を決意した。
では英二は?
そして向こうの岸に立つ、ショーターと月龍は?
運命は様々なものを巻き込み、うねる。近づき、遠ざけられ、惹かれ、拒絶しながら、硝子越しに夢を見て、あるいは手の届く距離で思いをぶつけ合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
それが銃弾による直接接触に変わるのは、とても簡単な化学反応だ。一滴血のしずくが落ちれば、不可逆に変化してしまう直前の緊張と、予感。
それを追うロス・アンゼルスの日々だったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
冷たさを背負った月龍の視線も良かったが、彼を通じて”血”に巻き込まれていくショーターの激発と悲哀が、強く印象に残った。
幼子も擬人も、みな悪から無縁ではいられない。悪は誘惑し、強制し、踏みにじる。マックスの家族に迫る暴力は、その先駆だ。
暗く重たい呪いの中で、それでもあがく。より自分らしく、より善くあろうと願うアッシュ達の奮闘は、現実を見ない虚しいあがきか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
それとも、ダチュラの誘惑に負けた”バナナ・フィッシュ”の犠牲者たちこそ、硝子越しの夢を諦めてしまった敗残者なのか。
問いかけと戦いは続く。犠牲者を増やしながら。
届かないものを見つめる月龍の視線が、何を生み出すのか。それに抗おうとナイフを突き立てたショーターの、熱い涙は虚しく冷えるのか。役立たずな自分を突きつけられた、英二の決断は。激発する暴力の行方は。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月18日
じわりと内圧を上げた描写が、次週到るところで炸裂しそうです。楽しみですね。