ヤマノススメを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
天使の梯子は、私を助けてくれない。
赤城山と伊香保温泉、群馬の美しい名勝を舞台に、繋がりつつすれ違う少女たちの思い。
打ち寄せる感情の波、知らず身をかわし、あるいは思わぬほど深く足をえぐる。美しい青春の一ページに、織り込まれた行き場のない曇天。そのスケッチ。
というわけで、群馬重力震後編である。どんより曇った空がひなたの心境、魂が元来備えている重力を丁寧に切り取り、喧嘩にすらならない生煮えのすれ違いを丁寧に追った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
一人分のスペースが開けば、そこはすぐさまあなたの場所。倉上ひなたの純情は、常に凶暴な牙を研いでいる。
山と温泉郷、二つの素敵な旅が同時進行する今回、旅自体は相変わらず綺麗で楽しそうである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
見たことのなかった風景、新たな経験への一歩。サードシーズンに限らず、ヤマノススメが作品の背骨として大事にしてきたものは、今回も元気に弾んでいる。
しかしそれを切り取るカメラには、曇り空のフィルターがかかり続ける。ここなちゃんの気遣いで差し込んだ薄明も、同じ場所にあなたがいない事実を確認するきっかけになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
行き場なく溢れ出したひなたのもやもやを、スッキリ打ち払う契機にはなってくれないのだ。
このもやっと重たく、しっとりとした手触りのある感情の描写は、ここまでの物語に支えられている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
あおいは自立…への道を、一歩ずつ進んでいる。相変わらずの根性悪、足腰弱いダメ人間だが、素直な心で新しい世界を受け止め、自分の足で前に進む鍛錬を重ねている。
山以外の友だちができる。山以外から人生を知る。それはつまり、ひなた以外の人間に居場所を作る、ということだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
これまで肯定的に描かれてきたそれは、ひなたが独占してきた日だまりから彼女を追い出す、となりかねない。善行の中に潜む危うさは、常に身近なアンバランス。まして思春期ど真ん中だ。
あおいは良くも悪くも感受性が鈍いので、自分が元気に立ち上がることが、自分の手を引いてくれた親友の手を打ち払うこととイコールになりかねない危うさに気づかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
健全な成長をそう受け取ってしまう、ひなたのナイーブな重力が異常なのかもしれないが。もはや問題は是々非々ではない。
どれだけ楽しそうな日々を過ごしても、天を曇らせる一因は唯一つ、わたしがそこにいないこと。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
あおいを健全な成長に導いてきた、ひなたの陽気なペルソナはもはや枷となり、素直な気持ちを吐露させてくれない。曇り空に閉じ込められた思いは、行き場を見つけられないまま腐り続けていく。
それが腐敗となるか発酵となるか、すれ違いの果てに二人が真実の思いにたどり着くのかは、今後の展開次第ではある。熟成のための原材料処理は、非常に丁寧にやっていただいた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
クローズアップで切り取られる、あおいの瞳、あおいの表情。何かを掴みたくて、でも何をどうつかめばいいかわからない。
そんな当惑を『ひなただけ』切り取ってくる、明瞭な演出がよく刺さるエピソードだった。世界はひなたを置き去りに、今までどおり楽しく回る。それはとてもいいことだし、『明るくさばけた倉上ひなた』はそれを望むはずだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
だが、扉は閉まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
『あなたのいない世界で、あなたと同じ特別を私も見つけたの』と、そっと囁くような言葉は、当たり前の会話の流れで遮られる。そこで不完全燃焼した感情が、ひなたと作品を燻らす。
(c) しろ/アース・スター エンタ―テイメント/『ヤマノススメ サードシーズン』製作委員会 pic.twitter.com/wZzuQUkdIL
大事なのは、そんなひなたの湿った重たさと同時に、他のメンバーの群馬行が楽しいものとして描かれ続けたことだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
ほのかちゃんもここなちゃんも、お互いのパートナーが楽しめるよう色々考えて準備をし、いいタイミングで助け舟を出す。一瞬を輝かせるために、自分なりに思いやりを見せる。
それは人間として当たり前の優しさで、しかし奇跡のようにありがたいもので。そういうモノを積み重ねながら、あおい達は山に登り、日常を歩いてきた。その先に、あおいの独歩とひなたの孤独がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
ひなたの曇天は、そんな今までの当たり前からの隔離でもあるのだ。そこに、どう帰還するか。
あおい個人を適切に取り戻すことは、彼女に繋がったより広く、より開けた世界に繋がり直すことでもある。なにしろ、そういう場所は元来『明るくさばけた倉上ひなた』のテリトリーであったはずなのだから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
あなたを見失えば、わたしもいなくなる。気づけばそれほどまでに、強く深く刻まれている。
『今までのあおい』と繋がった『今までの私』を見失ったひなたは、『新しいあおい』を受け入れて『新しい私』を見つけることになるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
その健全な再生の前には、ジットリと重たい感情の質量、言葉にも形にもならない独特の質感が広がっている。そのリアリティを追わなければ、変化も描けない。
ここ二話で描いた曇り空のコーナーは、そんな曲がり角を作品に曲がらせたのではないか、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
とてもありきたりで、でもあまりにも細密な、思春期の感情。光明の奥にある独占欲と陰り。キャラ記号の奥にある、活きた感情の器官(オーガン)の切開。
そういう感じ。
ほのか君が不器用人間なりに、あおいちゃんと一緒に楽しもうとジタバタしてくれていたのが、とても愛おしかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
女と女の間に挟まる邪魔者扱いされそうなお兄ちゃんも、お土産たくさん買って、足役に甘んじず伊香保を楽しんでいる。そういう独立した動きで、世界は満ちている。
相変わらずここなちゃんは人間が仕上がっていて、一番大人で一番丁寧な饗応を仕込んでいた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
特別なアイテムで特別な瞬間が生まれるなら、手間は惜しまない。ここなちゃんは山ではなく、体験を準備し、パートナーと登っているのだ。出来た少女である。ぐんまちゃん相手にキチるのも可愛らしい。
あおいちゃんも他人と露天風呂体験に飛び込み、新しい世界をまた見つけていた。それはこれまで、クローズアップで肯定的に描かれてきた行為と同じなんだけども、今回それは主軸にならない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
そうやって独立し、ひなた以外の女と片手を繋ぎ歩いていってしまう背中を、カメラは大事に捉える。
天使の梯子は、私を助けてくれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
気づかぬ内に離れてしまった…と、ひなたが身勝手に思い込み、しかしそこに溢れる瑞々しい感情と感性が、その思い込みも人生の一幕、人間のあり方だと納得させる。気づかぬあおいの未熟にも、これまでの人間一年生描写が納得させてくれる。
誰が悪いわけじゃない、ありふれた人生の陥穽。犯人が見つからないからこそ、出口を見失ってモヤモヤ広がる曇り空。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年8月27日
そこを切り裂く光明は、やはり山頂にあるのか。少し伸びた身の丈で、あおいはひなたの心を覗き込めるのか。重力震源何処なり。
飯能青春感情絵巻は、まだまだ続く。来週も楽しみです。