やがて君になる を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
特別がわからない少女。特別が欲しくない少女。
二人の運命は緑の中で交錯し、黄金の闇の中を駆けていく。
加速する欲望に置いていかれ、それでもその狡い後引きの手を取ってしまう。裏腹な心が、唇の爆弾を秘めたまま胎動する。
恋はまだ、始まりもしない。
そんな感じの、スーパーアヴァンギャルド青春百合学園アニメ、第二話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
徹底して『百合』なるものが振り回す固定観念、冷感症的な演出、定形のシチュエーション、凍りついた感情のうねりをねじ伏せ、自分たちが描くべき複雑怪奇な怪物を、グロテスクですらある美しさで描きに行く。
ある種の殺意すら感じさせる鮮明な演出が、好きなのに好きじゃない、好きになるのはおかしいのに好きになってしまう、ネロネロと複雑な高校生の心理に、自己愛と他者希求の複雑な…そしてとてもシンプルな迷宮に、素手で戦いを挑みに来た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
こういう『ぶっ殺す』ってオーラが出てるアニメ、俺好き。
息ぴったりのコンビネーションを見せた後で、下に降りるカメラ。それは不揃いな丈、白と黒のソックスを写す。髪を許すほど距離が近いのに、重なり合わない心と体。不協和音は、今回の映像随所に顔を見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
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重ならないなら重ならない、運命じゃないなら運命じゃないで、それを素直に飲み込めればいいのに、燈子は佐伯先輩の便利な都合の良さを、狡い笑顔で許容していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
佐伯先輩もまた、そのズレを認識しつつ、都合が良くて心地良い特等席で、燈子の髪を編む。
関係ができあがっているからこその、二年生組の緊張感。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
これは今まさに関係ができあがっていく燈子と侑の、複雑怪奇なグロテスクを照らす鏡にもなっている。
淡くホワイト・アウトした、清廉な色彩。二人の運命が密度を上げると、それはガラリと表情を変える。
お話としては素直にガール・ミーツ・ガールであり、踏切越しのキス、ぎこちないすれ違い、喫茶店での語らいと、定番どころをきっちり抑えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
しかしその内実は生物的な裏腹さと矛盾でみっしり埋まっており、感情はシンプルには描けない。
女と女が顔を合わせ、運命がうねりだす。祝福されるべき特別な瞬間なのに、色彩は油絵めいた重たさを宿し、光は影と複雑に入り混じっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
腐敗臭すら軽く漂う、生物の臓物のような景色。鏡面や踏切の赤が、不吉な予感を煽る。
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露骨に、女の子たちのライトで綺麗な、炭酸水みたいな口当たりの恋愛が描かれる空気ではないし、面倒くささヘヴィ級の二人にとって誠実な筆である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
長く伸びる境界線の先で、お互いの顔を見るカップルと、お互いを見ない主役たち
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決定的な境界線、真っ赤に光る警告灯を飛び越えて、二人は口づけする。何かが決定的に動くはずのキスは、静止した時間の中。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
淡く、超越的で、世界のすべてを動かしてしまえそうな運命の瞬間は、すぐさま内乱の予兆めいた、重たい空模様へ
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そのずれ、断絶、切断面こそが二人の偽りない現状であり、物語が展開するキャンバスなのだ。そこに、このアニメは一切嘘を付くつもりはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
百合は重く、醜く、生臭く、優しい嘘をついてはくれない。ポップで明るい学園の昼間も、腐敗したオレンジの夕暮れも、全て真実の色彩なのだ。
恋を実感できない侑の心は、燈子の口づけでは(まだ)始動しない(としか、当人には認識できていない)し、その冷淡さが燈子の特別を加速させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
特別を手に入れられない自分に、とても似ているはずの先輩。
特別を押し付けても、特別を反射してこない後輩。
二人のパステルカラーな口づけを後押ししているのは、身勝手なイメージを押し付け続けるエゴイズムであり、世界はそれを反射してグロテスクで重たい。綺麗なんかじゃありえない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
斜めに傾いだ電柱、薄汚れた緑の壁面。モダンホラーの事件直前パートみたいな不安感である。
実際繊細な内面に分け入り、そこに住んでいる怪物の表情をスケッチするという意味では、ジュブナイルはサイコホラーとも言えるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
しかし綺麗なものを見たい観客の視線を先取りして、時にジュブナイルは…特に少女と少女の物語は、淡いパステル『だけ』に彩られる。
口づけ以降もずっと続く不穏な揺れ…そこに踏み込まない時の清潔さは、そういう単色の青春を真っ向から否定していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
大声で『形だけの百合粉砕ッ!』と、シュプレヒコールをがなりたてるわけではない。そんなことをするよりも、このアニメの血液たる色彩、レイアウト、沈黙の使い方の巧さは有効だ。
身勝手で、ズルくて、邪悪ですらある一方通行の感情の押し付け合い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
そこに漂ってしまう清潔な空気、柔らかな質感もまた、このアニメは否定しんない。衝撃の口づけを経て流れる日常は、いつものようにパステルの色合いで、暖かく柔らかい。
それも、世界と少女の真実の一つだからだ。
だが、そこにはやはり分断がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
淡い色彩の、危うさなどなにもない空にそびえる電柱は、抜け目なく燈子と侑の間を切り裂いている。内乱の予兆を引き継いで、太い柱がそびえる廊下で、背中合わせ少女が別れた、その後。
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侑は暗いく空いた断層の前で立ち止まり、踏切に歩みを止められ、戸惑い立ち尽くす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
特別を求めて手に入れられず、恋に似た行為をしても心は動かない。その事実に、ある種の安心感を覚えつつ、自分が決定的に変わっていってしまう予感。
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それが侑を、決定的に”一線”のまえで釘付けにしてしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
自分が知らない綺羅星を、自分と同じだと思い込んだ人が持っていなかったという認識。そこに裏切りを感じるのは、侑が既に星を掴んでいるからこそだ。
だが、侑はそれに気づかない。それは日常を重ね、体温を感じる中で解凍されていく。
その質感を確かめるように、侑は触れ合った手を絡め、燈子を引き寄せる。(第1話、電話越しの失恋の時燈子が使った攻め手の意趣返しである)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
トキメキの体温、特別な反応を確認した瞬間、侑は絡めた指を離す。
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相手を特別に思う、胸の高鳴り。心が通い合う、運命の瞬間。それに輝く顔を見た瞬間に、侑の世界はノイズに染まっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
『ドキドキ頬を赤らめりゃ、青春が解決するわけじゃない。地獄はこっからだ』と言わんばかりの、白い失望。
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ノーマルなアブノーマル恋愛劇の文法なら、赤面には赤面で順接するところだ。しかし、侑は白くなる。世界の全てに裏切られたようにショックを受け、恋をしないからこそ恋に落ちた同類に、窒息しながら手を伸ばす。救いを求めるように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
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そう、今回侑は手を伸ばす。求めているものはあるが、それが真実どんな形をしているかわからないから、それは失敗すること前提の希求だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
その答え…正確には的確な問いかけを追い求めていくことが、青春を歩くということだり、特別な相手と恋を積み重ねる、ということなのかもしれない。
だから、百合とモダンホラーの逆接(に見える)演出は、とんでもなく正着なのだ。青春の中には、怪物が住んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
シンプルで分かりやすい正解で切り分けられない、複雑怪奇な価値観と感情。でもそれを動かす心臓は、青臭い季節をくぐり抜けていくあらゆる人に共通の、シンプルな気持ちでもある。
そういう分かりにくくて、でも納得できる人間臭さの中に、侑も燈子も佐伯先輩もいて、世界も自分も他人も思い通りにならない、何が本当なのか解らない息苦しさの中、必死に息をしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
皆、青い海の底で震えながら、誰かを求めて手を伸ばしている。それを、燈子は取り、伸ばし、侑もそうした。
その絡み合いがどう転がっていくかは、人間の行い全てがそうであるように、個別で複雑で、シンプルな原則に基づいている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
だから、そういうありふれた青春を追うアニメは、こういう不安定で、グロテスクで、シームレスに安定と不安の間を行き来する演出が、とてもいいんだと思う。
侑はモノクロのノイズの中で燈子に失望しつつ、その手を離すことができない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
望んだままの相手じゃないはずなのに、自然心が惹かれる引力。巨大な観葉植物が、燈子の顔を覆い隠す。恋は常に、顔のない謎だ。
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二人の間にある抽象絵画は、会話を経て乗り越えられ、未来を決める演説のための話し合い…その皮層の下にある感情のうねりは、前へと進んでいってしまう。侑もその導因の正体を、一切知らないままに。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
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境界線は乗り越えられ、女の子二人は関係を変えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
前向きで、ありきたりな変化のハズなのに、燈子の一方的な好意を侑が許容する瞬間、光は陰るのだ。恋が前に進んだはずなのに、影は濃くなる。
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この転倒したライティングに、このアニメが捉える関係の、感情の、時間と変化の複雑さが、ギュッと圧縮されているように思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
眼の前で展開される物語は、必ずしも見た目通り進むとは限らず、複雑なひねりを加えて歪んでいく。
このアニメは、見ているあんたらを裏切る。
そういう挑戦と挑発が、みっしりと画面の中に満ちてる第二話であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
全てが面倒くさく、裏腹で、だからこそ本当に満ちている。
求められる定形とは違うだろうけども、だからこそ微細な青春の揺らぎを、余すことなく捉えられる。捕らえに行く。
そういう意欲が、ファンタジックなめまいと一緒に襲う
映像になってみると、画面のトーンの切り替え、沈黙の使い方が独特かつ巧妙で、視聴体験にある種の”酔い”を感じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
愛と思えるものは身勝手な思い込みで、冷たさと思えるものは心の底から湧き出る熱量で。見た目と実際の味わいが転倒し、しかも口に入れたものが必ずしも唯一絶対の真実ではない。
そのズレに酩酊しつつも、とても心地が良い。それは多分、少女たちの心は元来そういうもので、シンプルでわかりやすくできてはいないからだ。(少女、と限定せず人間、と言ってもいいかもしれないけど)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
そういうあやふやで不自然で不安定で、とても綺麗なものを、どう表現すれば描けるか。
そんな難しさに、腰を据えて切り込んでいく気概に満ちた第二話だった。とても良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
ガンガンわけの分からなさで振り回し、納得できない気持ちに首をひねらせて欲しい。なんでこんな事が起きてるのか、分からないなりに引き寄せられ、掘り下げて自分のものにする体験を、どんどん叩きつけて欲しい。
それは特別に近い異類だった燈子に失望しつつ、特別を求めて手を伸ばしてしまう侑の姿、彼女を引き寄せる恋と青春の引力と、よく似た色合いだと思うから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月14日
作品のテーマとストーリーに、映像が選び取った表現が噛み合うことは、とても幸せだ。次回が楽しみである。