BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
壁には詰め物、窓はなし。ようこそ、楽園へ。
死を偽装され、力を奪われたアッシュ。彼をめぐり、様々なモノたちの欲望が渦を巻く。身勝手に使い潰そうとするもの、愛ゆえに執着するもの。
英二も籠の中の鳥を止め、硝子の鍵で外に出る。無明の未来が待ち構えても、前へ、前へ。
そんな感じの、エデンの園の物語である。凶悪な強姦魔を精神的に去勢して、”アダム”と名付けるところに、なかなか最悪のセンスが溢れていて素晴らしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
原罪にまみれていても、脳みそを弄くれば(あるいはショーターのように脳みそだけになってしまえば)、楽園追放以前の無原罪に逆戻り。
狂った状況の狂ったユーモアがサブタイトルと呼応し、なかなかに最悪の気分である。非常にこの作品らしい。良い感じだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
悪人も善人も一枚岩でなく、様々に呼応しながら己の欲望を叫ぶ。地獄の底で死にかけた時、アッシュに気合を入れてくれたのは優しいマックス親父ではなく…
自分を陵辱し、生きる術を教えこんだゴルツィネの方である。キャンディーバーの猥歌で男を惑わし、売女を装うことで武器を手に入れる。人を殺す。そういう技術を教え込んでくれたのも、禿頭のクソ親父である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
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『息子も同然』というマックスの言葉は、けして嘘じゃない。しかし善なるものの手が伸びない薄暗い楽園が、確かにそこに存在している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
手をこまねいているうちに裏口から、あっという間にゴルツィネは”息子”の安否を確認し、憎悪を滾らせることで生存への道を開く。
”保護者”だった野球コーチに強姦され、殺害し、実の父に守ってもらえなかったアッシュ。親代わりの兄を悪魔の薬に殺され、その仇も取れないアッシュ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
呪われたアダムとして、アッシュの人生は”父”的な存在との対立に呪われている。男らしく銃を握り、親友を陵辱されて吠えたける、罪深きカイン。
”パパ・ディノ”と運命的に対峙するマチズモだけでなく、”女”の武器を装い、媚態を脱出口とする(せざるを得ない)女々しさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
アッシュはいきり立った銃弾を撒き散らす男の中の男であると同時に、咥え込み尻を振る雌犬でもある。そういう強さと弱さの同居、穢れをためらわない潔癖が、彼の強さだ。
同時に、やりたくもないのに人殺しに明け暮れ(でなきゃ、オーサーの死をあんなに夢見ないだろう)、男を誘ってしゃぶり尽くす哀しさも、アッシュにはつきまとう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
セックスもヴァイオレンスも縁遠い平和な異国で生まれたなら、当たり前の高校生のように生きられたのだろうか?
そういう疑問も湧いて出るが、アッシュの故郷は”アメリカ”最悪の溝の底であり、銃と性を握り込んで流されるまま、生き延びるしか道はなかった(し、今もない。キャンディーバー踊りの狂った道化芝居が、僕は悲しくて悲しくてしょうがなかった。強くて惨めで、凄くアメリカ文学的だった)。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
悪徳の支配する楽園で、親父に頭を押さえつけられ、銃口を口に咥えさせられながら、だからこそ青空を夢見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
その視線の先に英二はいるのだが、彼は無明の闇を彷徨うことになる。血を流し、銃を握り、しかし撃てない。撃たない。
そのスタンスを、月龍は分厚く憎悪する。傷つくつもりもない卑怯者と。
武器を持つことで、英二と月龍はようやく対等になる。(硝子のナイフが傷つけるのは、結局英二その人だけなのだけど。本当に、暴力を扱う素質がない子である。それがこそが、英二の幸運なのかもしれないが)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
銃を突きつけ、ようやくお互い本音が滲み出てくる。
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女の装いを強要され、暴力とセックスを押し付けられる。月龍は虐待児のシンパシーでアッシュに焦がれ、持ち前の頭脳(これもアッシュと共通だ)で自分が選ばれなかったことにも気づいている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
アッシュは自分と同じ肉食獣ではなく、青空を自由に飛ぶ鳥をこそ、夢のあとさきとして選び取ったのだ。
既に力でのし上がる道を選び、他人の返り血で身を汚した月龍は、アッシュが溝の中で夢見る青い空たり得ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
同じ立場だからこそ焦がれ、届かず、狂う。オーサーが高いところから堕ちたのと同じ心理に、敵対を吠える月龍は焼かれている。
オーサーがアッシュを視界に入れていたのに対し、月龍は英二に恨みを向ける。その場所は、俺こそが立っていたはずなのに、と。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
ここらへんはゴルツィネという”父”を共有せず、出来の悪い弟としてコンプレックスを肥大化させずに住んだからこその歪みな気もする。
英二はなんの根拠もなく、アッシュの生存を信じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
それはアッシュがいなければ存在意義を失ってしまう、弱くて脆い鳥の防衛本能でもあろう。真実の愛、無償の信頼でもあろう。
純朴な天使などどこにもなく、無論純粋な悪魔などもおらず、街にはただ沢山、人間がいるのだ。
その直感が正しいことを、神の視点に立つ僕ら視聴者、あるいは明晰な頭脳と社会的な立場を持つ”父”達は知っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
だが無力な英二は信頼だけを抱えて、闇の中に進んでいくことになる。
撃てない英二、媚態だけで殺すアッシュ。二人はバラバラで、だからこそ
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街頭が寂しく照らす街の、冷たい境界線。同じ肉食獣を見つめているはずの男たちは、その境目を越えて分かり合うことも出来ずに、ただ闇へと独歩していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
因縁に迷わず、真実を見ようとするシンの靭やかな清潔さが、今は救いだ。英二ほど無力でも、アッシュほど悲惨でも、月龍ほど自棄でもない。
シンは同胞であるショーターや月龍、人種は違えど魂を通じたケインやアッシュ、弱さゆえに放っておけない英二を、全て正しく見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
闇に孤独に沈もうとする月龍のことも、血を流した英二も放っておけない。
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英二が食い物にされそうになったときには、暴力を正しく行使して守りもする。ショーターの真実を聞いても、誤解したり激高したりはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
そのバランスの良さ、境界線を超えてなお理想を守る靭やかさが、今は有難い。そういうものが一瞬で破綻してしまうのが、このアニメでもあるのだが。
月龍がアッシュを求め答えられない関係性と、シンと月龍の関係は少し似ている気もする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
皆自分の似姿を勝手に投影して、他人が自分に投げかけている夢に気づけない。幸福な呼応が成立しているのはアッシュと英二の間だけで、それもまた暴力と無残の間で、常にもみくちゃにされている。
弱々しく膝を折りたたみ屈服することを望みつつ、その爪牙を叩き折られそうになると怒り狂う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
ゴルツィネの一見矛盾した執着も、アッシュに自分の悪徳を継ぐ”息子”として、欲望を注ぎ込む”妻(あるいは娼婦)”としての幻影を、複雑に投影した結果だろう。
このアニメはそういう、濃厚に屈折した感情ほど”強”い。善し悪しは別として、長く長く影を伸ばして因縁を巻き込み、ズルズルと引きずる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
利害関係や”科学の発展”ばかり考えてる国立精神衛生センター組は、そういう意味じゃ脆いよな…カルマ値が足らねーよ実際。
”息子”たるアッシュ不在のままに、ゴルツィネとマックスが交錯する空港のシーンも、なかなか業が深かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
普通なら”いい親父”であるマックスが助けになる場面なのに、アッシュの反逆の背中を押し、そのための技術を与えるのは”悪い親父”ゴルツィネなところが、何度も言うが因業極まる。
マフィア譲りの媚態と殺人技で、アッシュは孤独な反抗を開始する。そこにはマックスとゴルツィネがいて、英二はいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
男たちの戦場と、女々しく待つばかりのヒロインの褥。ガラスの靴をぶっ壊して飛び立ったシンデレラだが、やっぱり無力さこそが英二の属性だなぁ、と思う。
でも英二が、他人の赤い返り値で染まってしまった時こそ、アッシュの希望が、スキッパーと一緒に見上げた青い空が消えてしまう瞬間なのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
その純潔な無力さを、月龍は卑怯だと罵り、憎悪する。手を血で染めるしか生き延びる手段がない、追い込まれた子供の一人として、英二を糾弾する。
何もかもが間違っていて、どこかに正しさがある。複雑怪奇な思いと力が絡まりあって、それを山猫の爪が切り裂いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月20日
楽園からの脱出行は、どんな結末を迎えるのか。その先に、アッシュの救いはあるのか。物語はまだまだ、カルマを飲み込んで続く。次回も楽しみですね。