風が強く吹いている を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
カケルの"今"を否定する榊の登場により、アオタケの10人は一丸と…ならなかった。
実力、モチベーション、リアルの事情。様々なものがバラバラの男たちは、和やかなムードの中に爆弾を抱え、輪の中に入れない王様の孤独と鬱憤が、ついに爆発する。
そんな感じの、愛されなかった男のお話。前回カケルを主軸に"選ばれてしまったもの"の不自由を描いたあと、一番持ってないキングを代表に"選ばれなかったもの"の孤独を書く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
なかなかいいバランスの話運びである。人が集まってんだから、そら色々ある。
今回キングは話の主題だが、画面にはなかなか映らない。輪の中に入れないこと、チームが一眼となりかけているところで浮いていること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
それがキングの苛立ちであり、孤立の原因でもある。描かれないこと自体が、キングの現状、キングを置き去りに先に進んでしまっているアオタケの現状と言える。
エピソードの最初と最後を繋ぐ、見上げと見下ろしの構図。楽しい宴席も、硬さを残しつつ回り始めたコミュニケーションも遠い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
王子のように、明瞭なドンケツだからこそ構われるわけでも。
ニコチャンとユキのように、持たないなりに支え合うでもなく。
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/ED6YlSWZMw
キングは薄暗い暗がりの中、就活生の湿っぽいリアルを一人で持て余す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
寂しいのに、それをさらけ出せない防衛本能の強さ。ついつい語気が荒くなって、それが人を遠ざける棘ともなる。
キングのジレンマは彼個人の中で発酵し、集団の中で浮く。宴席の楽しい酒から、彼は遠ざけられ続ける。
三浦しをんのBL脳故か、この作品には明瞭に強いカップリングがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
ハイジとカケル、ニコチャンとユキ、ムサと神童。お互いの地を晒す場面となったら、必ず向き合う特別な相手。
キングはそれがない。自分の体重を預け、本音を出せる相手がいない。
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無論そういう相手との間にも溝があり、言えない言葉がある。共有されない思い、追いつけない才能の差がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
しかし人情はそこに橋をかけて、一人で抱え込む想いがどっかに溢れていく逃げ道を作る。楽しい酒宴のように。
冒頭、酒の入った大饗宴(お互い、酔い方が違うところが良い集団の書き方だ)の賑やかさは、問題を含みつつアオタケが集団として、陸上チームとして機能してきたことを示す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
王子が嘆くように『まるで陸上部』に、ポンコツド素人集団はなりかけている。
しかしキングはそこにいない。一人だけリクルートスーツに身を包み、ニコチャンやユキが強かに泳いでいる現実と仕事の海で、不慣れに溺れかけている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
身につけたIT技術、あるいは司法試験合格の金看板。陸上とは別の場所にある生存の証明も、キングからは遠い。
才がないのは王子も同じなのだが、彼は一年生、現実の海は遠い。漫画の山に溺れつつ、アオタケに熱い想いを持ってる(と、省略された語りの中でほのめかされる)王子は、持て余した時間を集団に馴染むために使う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
なんだかんだ、練習に顔を出し、真っ白になりながらも毎回走る。
そういう無様さを晒す強さも、キングは持っていない。むっつり黙り込み、自分の中の重たさを他人に預けることも出来ず、ただただ自分だけの場所に閉じこもる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
その扉を開けてくれる、特別な誰かもいない。その痛ましさ、寂しさが、不在故に長く長く影を伸ばす。
キングは最後に暴発するが、それはある程度理の内だと、見ていると思う。彼の鬱屈が丁寧に追われている証拠だが、同時にハイジがやや暴走気味にアオタケを引っ張っている現状が、ちゃんと書かれているからだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
甘い言葉で誘い込んで、がっちり囲い込みだんだんキツさを上げていく。自由を奪う。
鬼の計略は集団を気づけば囲い込んで、それに乗り気な連中もいれば、そうでない連中もいる。乗り気でないなりに顔は出すけど、そこからもキングは遠ざけられてしまっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
一緒に走っていれば、無言で通じるものもあるだろう。しかし、場を共有しないのでは伝わるものも伝わらない。
姿勢や動き、仕草で個性を出すのが上手いアニメだが、例えば追加練習を言い渡された時の距離感、表情、姿勢はそのまま、各員のモチベーションを反映している。あるいはペース走の組分けも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
こういう非言語表現の圧縮率が高いのは、人数捌く強みだ。
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時間とやる気をボーボー燃やし、走る行為に楽しさを見出している連中。積極的に新しいシューズを買い、その思いを特定の相手と反復強化しあえる連中。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
第1組の"走り"が、だんだんド素人から変化している様子は、抜け目なく描写されている。
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筋肉がリラックスし、腕が上がり、背筋が自然に伸びる。肺が空いて、空気を大きく取り込む長距離用のフォーム。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
モチベーションは走りの質を上げ、それは正直に身体に反映されている。乗り気じゃない二組の、低い腕の位置と曲がった背筋。
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フィジカルなテーマを追う物語だから、駅伝に対し心がどう変化したか、そのキャンバスとして身体がどう変質しているかを描くのは、とても大事だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
それは言葉ではなく、作画によって画面に焼き付けられ、そういう形でしか説得力を手に入れられない。質を内実に、巧く転換できているアニメだ。
劣等生低モチベの2組に、一番走れるカケルが入っているのも面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
陸上に入りきれない他の連中(不在のキングも含む)に比べ、過剰に陸上に入り込んでいるからこそ、カケルは"駅伝"との間に距離がある。
コイツラに体重を預けて良いのか。チームとして本気で走って良いのか。
キングの孤独とはまた別の形で、カケルも集団に馴染みきれていない。宴席のお誕生日席に隔離されて、いまいち狂乱に飛び込みきれていない姿。晩飯の支度を素直に手伝えない有様。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
そういうものも、今後一緒に走る中で埋まっていくのか。
そんな陰影を切り取りつつ、今はキングである。彼を一人にしてしまっているのは彼自身の資質、態度、言葉遣いであるけども、同時にアオタケ全体、その船頭であるハイジの問題でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
不在を積み重ね、断絶を広げ、明確にNOを突きつけられてしまったチーム。9人じゃ、箱根は走れない。資格がない。
ここに男たちは、どう切り込んでいくのか。その疑問と答えのヒントを、丁寧に出すエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
カケルが抱負として述べていた、『言葉をちゃんと選べるようになりたい』は、カケル一人の問題ではないのだ。皆、自分を的確に預ける言葉を見つけられず、バラバラのまま輪を作っている。
それを繋ぐ言葉は勿論、明瞭に発せられるべきだ。(そこに王子がアドバンテージを、"ガイジン"のムサがディスアドバンテージを持っているのは面白い)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
それと同時に、言葉にならない言葉、走ることでしか伝わらないメッセージもまた、この作品では大事だろう。フィジカルなお話だからだ。
セリフのセンスが良いアニメなのだ、言葉になるものの強さはよく伝わる。作画が良いから、言葉にならないものの鋭さもよく判る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
製作体制が持ってるポテンシャルが、言語と非言語、二つのメッセージを的確に発する素地となっているわけだが、今はうまく噛み合っていない。
孤独なキングは暗闇を乗り越えて、裸の自分を仲間にさらけ出せるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
バラバラのまま走り続けるチームは、王様が裸だと言い出す空気を、それを導く言葉を、ちゃんと選び取れるか。
箱根に向かって黄色信号、さて難局、どう乗り切るか。なかなか面白くなってまいりました。来週も楽しみです。
追記 的確なメッセージはその内容だけでなく、発せられるタイミング、その表現においても、機能を大きく左右される。TPOをわきまえた発言は大事で、それを他人を支配し操作するだけでなく、真正な人生の問題を共有するためにも使えるかっていう部分が、ハイジには問われているわけだ。口の巧さが悪い武器にしかなってない印象を、どう跳ね返せるか。
風が強く吹いている追記。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年10月30日
『選ばれたものしか、駅伝は走っちゃいけないのか』という問いを投げれている時点で、ハイジは言語の選択、投射の能力が高い。
しかしキングに届く言葉は、不在だった彼には当然投げられない。そのすれ違いをどう埋めて、届く言葉を出せるか。リーダーの資質が問われている。