BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
海流は島々を切り離し、孤独にする。ヘミングウェイめいた。都会化された孤独の中を歩いてきた人達。その基盤たる暴力が、暴力によって切り崩されていく。
見よ、"Blanca"を名乗る人を。そは鉄の杖を持ちて獣を追う、真実の王。最も悪辣にして孤独な、人という名の漁(いざり)。
そんな感じの、"善悪の魚(BANANA FISH)"を釣り損なうまでの物語、敗北の第18話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
早い。
見て思うのは、まずこれだろう。これまでギリギリのバランスで長い間保たれていた均衡が、本当にあっけなく、とんでもないスピードで瓦解していく。
そのあっけらかんとした崩壊があまりにもあっけなくて、思わずぽかんと口を開けてもしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
破滅とは常にそういうものだとうそぶいても、やっぱり早い、早すぎる。ブランカの登場によって、これまでの物語が白紙にされてしまった衝撃。まさに"Blanca"である(最悪のジョーク)
とはいうものの、必要な速さだった気もする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
それは尺巻いて最終話まで話を転がさなきゃいけないとか、今までためた物語を一気に進めるスピード感が欲しいとか、そういう斜めからメタメタ読みの話ではなく。
これまで堅牢だと思えたもののあっけなさを、より強調する速度だ、ということだ。
今週もアッシュと英二は一生イチャコラしてて、『水と空気さえあれば、死ぬまでここに住めるぜッ!』と言わんばかりの安定感である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
しかしその前に、凄まじいあっけなさと凶悪さで人が死ぬ。これまでも冗談みたいに人は死んでいたが、今回の殺人はなにか…桁が違う。早くて、鋭く、意味を拒絶する。
そういう理不尽さこそが死の本質であり、アッシュが唯一扱えるものだ、という事実を、ここまでの分厚いサーガは隠蔽してきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
アッシュが殺し殺され、カルマの織物を作る中で織り込んできた友情や愛、青い色の希望は、死の虚無主義を…海流の中の島を拒絶できる特権があると思ってきた。
しかし、そうではない。ブランカが子供時代に『まだ早い』と取り上げ、成熟した今置き土産にしたヘミングウェイの小説のように、死は全てから切り離され、なんの意味も持ちえない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
"海流のなかの島"の原作は、ブランカがいうと降り人の孤独についての物語で、全てが死で終わる。
いかにもヘミングウェイ的な(のは、この中の一編が後に"老人と海"という代表作になることを考えても判る)孤独は、死と、死ぬべき人間を常に包んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
そうではない。人は笑顔で、手を繋ぎながら生きるために生まれてきて、銃のない国で死ぬのだ。
そういう反証は無力な戯言として、あえてじっくりと描かれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
アボガドサラダと裸のイチャイチャ、『おかーさんかよ!』と突っ込みたくなる食事の睦言、遠い遠い約束。
いつか、どこか、だれか…今の自分と遠い存在が引き受けるべき、綺麗な夢。
それは確かにそこにある。英二の部屋を描く筆は、恐ろしいほどに真っ青だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
NYのハーレムから抜け出した時、アッシュとスキッパーが見上げた空と同じ色の夢は、まだそこにある。英二の形をして、元気に生きている。
その必死の反証は、じっくり描かれたからこそ、無力な戯言になる。
(とまぁ、このアニメを始めてみたときに直感したカラーリング理論で映像を呼んでるわけだけども、英二の世界に対比されるべき悪の倉庫…邪龍と悪魔と猟師と山猫が雁首揃える倉庫は、キッチリ青で塗られていたりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
あそこが"赤"だったら、この論にも説得力が出るのだが)
(青い理想を汚す赤い血が、英二から流れたのは納得がいく。必然の流れだ。アッシュが行く末に悩む時、その部屋が紫色なのも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
しかしなぜ、死を詰め込んだ海流の中の島…暴力と略奪と死は、今回青いのか。表現のブレか、自分が読み間違えていたか、何らか別の意味があるか)
(考えても答えは出ない。英二が語り倒す夢もまた、死と同じ色をしているという皮肉かとも思ったが、それは流石に穿ち過ぎだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
後々なんらか、英二的な要素、あるいは今回倉庫に詰め込まれていた要素への反証が"赤"で描かれるのなら、納得の行く演出にもなるが…ふーむ。なんとも言えない)
(自信満々ではっつけていた作品解析フィルターも、こうも致命的な読み間違えをしたら捨てたほうが良い…んだが、これまで見てきた読み筋には愛着もプライドもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
取り敢えず、青は英二の色、希望の色という視座を捨てず読んでいきたい。まぁこういう細かいところ、アンタにゃどうでもいいかね?)
これまで英二との生活、アッシュがしがみつく夢は、アッシュが抱える殺しの天才によって守られてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
しかしブランカが持つ圧倒的な暴力と、これまでも予言されていた英二の決定的な脆さが、非常にあっけなく全てを壊していく。
暴力は脆い。これは、今まで書かれていたとおりのルールだ。
アキレスの踵、シグルドの背の一葉。クークランの誓い(ゲッシュ)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
英雄はその無敵ゆえに、敗死するときは非常にあっけなく死ぬ。今まで散々暴威を振り回したそのつけを支払うように、最も鋭い暴力を、最も脆い場所に的確に打ち込まれ、驚く暇もなく死んでいく。
今回アッシュが振るい、振るわれる暴力のあっけなさ(自分を死に追い込み、英二を助けようとする青い暴力も含めて)は、多分これまでの物語の因果/陰画だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
暴力で未来が切り開ける、アッシュ独自の才能が夢を掴む、そんな意味あるストーリーを、僕らは乾いたニヒリズムの中で信じた。
どれだけ犯されても、殺しても、その先に"異国"の夢があるのだと信じたからこそ、この物語を見続けることができた。(のは、登場人物も同じであることを、露骨なフラグ建築として描かれる『日本の話』を通じて、強く感じることが出来る)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
しかしリアリズム文学の旗手であるヘミングウェイが"海流のなかの島々"で描いたように、死と死すべき人間はどうやっても孤独で、そこで手に入る唯一の武器たる暴力は、他者や世界ではなく自分自身に向く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
常に、だ。例外はない。
だから、アッシュが銃を自分に向けたのはとても正しい。悲しいくらい
アッシュは自分が蔑ろにしていた死の真実に、こてんぱんに殴られる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
冷たく、孤独なブランカの肘鉄は、いつか『優しく全てを奪う』と夢見ていた死神とは、全く違う表情をしている。
ショーターの脳みそを切り裂いたような、かつて自分の肛門を犯したような、なんの意味も救いもない、非文学的暴力。
まさにその渦中にアッシュはいて、その本質を見失い夢を見たが故に敗北する。手に入れたいと願ったもの全てが、乾いた砂となって指から逃げていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
その徹底したニヒリズムは、例えばヘミングウェイが身をおいたスペインの塹壕の匂いがする。
誰がために鐘は鳴る。死者か、生者か。
その答えはまだ、完全には出きっていないし、そのことがギリギリ最後の希望であるが、一時的に答えは出た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
鐘はならない。意味はない。暴力はより強力な暴力によって切り崩され、そんなより強い暴力を手に入れた人も、虚しく滅んでいく。
出口はない。青い空もない。
何しろアッシュのニヒリズムは、ブランカとゴルツィネ、二人の"父"が手ずから教えたものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
父と同じ土俵に立っていたら、絶対に父には勝てない。それを知っていたからこそ、アッシュは暴力(性暴力含む)の地平から出ようとした。裸で寝てても犯されない、朝ごはんとシャワーを用意してくれる世界へ
しかしそこへはたどり着けない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
アッシュが実の父に、銃弾で撃ち殺されたジェニファに、魔薬で狂った兄に、運命的に出会ったマックスに、自分を庇護すべき全ての大人に、もう一人の自分としてのスキッパーに、親友であるショーターに、異国から来た英二に、夢見たもの。
無条件に自分を愛し、愛に暴力ではなく愛を返してくれる無限の喜びの国は、どこにもなかったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
それを顔面に叩きつけられ、アッシュは死の床に横たわる。絶望し、それでも銃という暴力を手に取り、それしか手に取れないことに絶望しつつ、それでも生きるしかない。ニヒリズムは無限に反射する。
そういうところに、いかにもヘミングウェイ的な常夏のハバナからやってきた男は、アッシュを叩き込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
その仕草は手早い。それはブランカが強く、"父"だからだが、同時に彼が必然を背負っている狩人だからだ。アッシュは自分が振り回してきた銃弾の、当然の摂理に負けたのだ。
とすれば、ブランカもまた無意味の中に身を投げるしかなく、『英二を殺さないでくれ』という、アッシュ最後の人間性、血を滲ませるスワンソングも、蹴り飛ばして進む形になるが…さてはて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
確かに道理だが、そっちで転がすにはウェットかつメロウに進めてきたし、後味最悪ってレベルじゃねぇな…。
世界は、文学は一つのルールだけで動いてきたわけじゃない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
理不尽と無意味が世界にあふれているからこそ、それを切開し結びつけ、意味を与えていく物語的営為を、人間は手放せなかった。
神話は無想に耽溺するためではなく、あまりに残酷な世界で生き延びるためのリアルな武器として、人に必要だった
愛にも、友情にも、殺しにすらも何らか意味があり、物語は世界を埋め尽くす。夢と希望は、様々に歪み時に犠牲を伴うとしても、一欠片であっても青い空へ飛び立っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
そういう願いがあまりに強いからこそ、人は物語を…"BANANA FISH"のような優れた物語を、ずっと紡いできた。
だからこそこれまでの物語は、長い長い時間を使って意味が折り重なる様子、人と人の出会いが感情を繋ぎ、運命の織物を作る様子を追いかけてきたのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
それが引き裂かれる速度が、ニヒリズムの圧倒を宿していたとしても。
それだけが世界の真実ではないし、真実であってはいけない。
要するにバッドエンドマジ勘弁って話なんだが、さて、ブランカの描かれざるキャラクターは、甘っちょろい物語主義(ヒューマニズム)を許容してくれるか、否か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
ドラマの進行と同時に、物語全体の去来も、いきなりやってきた超絶強キャラ糸目野郎に握られた形だ。ガッデムアスホー!!
口汚い罵倒は横において、もう一つ希望があるとすれば。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
アッシュを犯さず殴らず愛してくれるただ一人の"親父"(生者の、ね。死人だと何人かいるんだが、死人だしなぁ…)であるマックスが、アッシュが秘めた物語を、ニヒリズムとヒューマニズムの同居を、凄まじい"速度"で飲み込んだことか。
あれはブランカのニヒリズム的暴力だけでなく、アッシュが信じたい青い人間性もまた、あっけなさ過ぎる速度で共有され、状況を動かす証明になっていた気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
マックス親父は理解ってくれた。世界全てが否定しても、愛はそこにあると、銃を向けられながら笑ってくれた。
それは例えば…『世界中のカラスは黒い』という問題を否定する、白いカラスのような存在だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
『ニヒリズム以外に、世界を動かす力はない』って言ったって、マックス親父とアッシュの間に溢れた善と愛は、何かを動かす力にしかみえないじゃないか。
それが錯覚であるか否かは、次回の運び方でみえてくるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
世界を白とも黒とも、青い希望と赤い絶望どちらにも塗らないまま、ずーっと苦しい物語を誠実に積み重ねてきた物語は、大きな潮目を迎えつつある。
それをどう描き、どう魅せるか、とても楽しみである。
しかしあれだな、"ブランカ"とマックス・"ロボ"なんだな、アッシュの二人の親父は。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
人間社会を喰らい尽くす狼の名前を、それぞれ与えられているのに。ふたりとも別の意味で獣っぽくないというか、人間であることに拘っているというか。
ブランカの場合は、あってほしい希望で歪んだ見方だけどさ。
それが錯覚なのかどうかは、来週判るだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
死を望みつつ、それを即座に突きつけられると激高する月龍の姿を見ていると、死と生、現実と夢両方を描ききる難行に、本気で挑む作品なんだってのは判る。そこにずっと挑んできたんだ、このアニメは。
だからブランカも…って思っちまうのは弱い考えかね?
どっちにしたって物語はクライマックス、終わりを前にして、本性を隠していられるキャラクターなんていない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年11月10日
"この預言の言葉を朗読する者と、これを聞いて、その中に書かれていることを守る者たちとは、さいわいである。時が近づいているからである”
黙 1-3
審判の日は近いのだ。そんな感じ。