BANANA FISHを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
鏡よ鏡よ、青い空よ。お前に映るのは麗しい希望か、修羅の顔か。
銃を持つものも、持たないものも、決戦を前に己を吐露し、運命は熱量を上げる。
『武器よさらば』と呟いたところで、赤い血にまみれた宿命は剥がれ落ちない。牙を持つサンドリヨンが、求める魔法はどんな顔か。
そんな感じの最終決戦直前、激しく感情と宿命がうねるエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
月龍とブランカの過去、英二とアッシュの現在、人種を超えた仲間たちの衝突。様々な出来事が激流のように状況を動かし、魔王ゴルツィネは狐の銃弾に倒れる。とにかく、熱量と速度が凄まじい。
色んな事が起きている話だが、やはり最も太い柱はアッシュと英二、魂の交流だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
山猫は銃弾を食らってもピンピンしていて、お姫様は生死の境を彷徨う。殺すことに才能を振り分けた男と、愛することに天稟を持つ男。その残酷な断絶が、二人の運命を分けていく。
とにかくアッシュの切ない純愛力、倒れてなお彼を思う英二の思いがぶっちぎりで、ここまでのエピソードをしっかり使って温度を上げてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
世界全てを憎んでも仕方がないほどの、地獄めいた過去。
月龍を捉え、ブランカを壊しかけた愛の不在を、アッシュと英二は乗り越えて、別れていく。
愛すればこそ離れようと願い、愛すればこそ手放した。本来交わることのない、”異国”の少年と、アメリカの少年。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
その分断は最初から決まっていたことなのかもしれないが、あまりにも哀しい。その哀しさが、愛する人を奪われた過去を共有するブランカにも判るからこそ、彼はカボチャの馬車を買って出る
アッシュをシンデレラ(Ashは”灰”、Cinderellaは”灰被り”)に擬して、王子様と見ないブランカの慧眼。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
極限の戦闘はアッシュの天才を、殺戮の王子様であることを求めるし、アッシュも腹の傷を隠し、仲間が求める無敵の山猫を演じようとする。
しかしその本質は、愛を求めるみすぼらしい乙女に似ている
世界が希望に満ちていると、憎悪で塗りつぶし自分ごと焼き払ってしまわなくていい場所だと、信じられる魔法。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
現在進行系のそれがアッシュにとっては英二であり、ブランカは妻を、月龍は母を奪われた時、世界を呪うだけの魔女になった。
王子様に出会えなかった乙女は、魔女になるしかない。
そんな呪いに心を引き裂かれつつ、もう一人の自分を地獄に突き落とさないために道を定めるブランカと、同じ地獄に引きずり込もうとする月龍。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
『誰かがアナタを愛している』とは言えても、『私がアナタを愛している』という優しい嘘をつけないところに、ブランカの誠実な残酷さがある。
英二がいるアッシュも、すでに絶望を知るブランカも、月龍を唯一の相手とは受け止めない。誰も月龍を愛さない…わけではないのだが、母を鬼に食われた彼は、ただただ自分に注がれる無償の愛を、餓鬼のように求める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
英二がアッシュに、アッシュが英二に、お互い注ぎあったものを。
月龍はアッシュになりそこねた少年であり、英二を手に入れそこねたアッシュでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
なぜ、アッシュは希望を手放さないのか。なぜ、月龍には英二がいないのか。この問いかけは、魔法の鏡に聞いてもわからない。作品が終わっても、多分わからないだろう。
愛されるための資質は、どこにあるのだろう?
ブランカは作中最も完成した”大人”として、そのヒントを出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
愛することを知れば、必ず愛される、と。まず与えよという聖人めいた言葉は、しかし愛の全てを奪われ、真っ白な荒野に投げ出された絶望を乗り越えてなお、彼の喉から絞り出されている。
そういう場所に、少年たちはたどり着けるのか。
たどり着けなかったダメ大人の群れで、このアニメのクレジットはいっぱいである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
暴力と憎悪を、愛情の代わりに”息子”に注いだゴルツィネ。狐の奸智で雇い主を噛むフォックス。溢れかえるような欲望で、世界を染め上げようとする男達。絶望に膝を屈し、犯されるがままの子供。
月龍はその崖に身を投げて、英二を殺そうとした。それが果たせなかったのはアッシュと英二にとって…だけでなく、月龍にとっても僥倖であった気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
ブランカが正しく指摘するように、英二が死んでいたら、この物語は一気に崖を転がる。その時絶望の淵に沈んでいくのは、アッシュだけではない。
月龍がアッシュに自己を投影し、その目線がブランカにも投げかけられているのは、これまでの描写を見ても、今回の描かれ方を見てもよく判る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
なぜあの男は、愛し愛されるのか。同じように犯され、同じように銃を握って、自分と同じようにはならないのか。
なぜ、僕をこの暗闇の中に放っておくのか。
その亡者の手は、例えばオーサーが憎悪まみれで伸ばしてきた手、ゴルツィネがアッシュをベッドに押し付けてきた手だろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
今まさに、”血”を超えた連合を作ろうとしている少年たちにヒビを入れる、ラオも同じ手を持っているかもしれない。
山猫の野生の目は、そういう感情を逆なでするようだ。
アッシュ自身も当然清廉潔白というわけではない。だからこそ、英二が背負う青い空に憧れ、二人は出会ったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
鏡に映る自分は、修羅の顔に歪んでいる。歪んだ反射のモチーフは、様々な局面で顔を出す。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/MXKRQfZN1O
窓ガラス、瞳、グラス。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
月龍の眼前で行われた暴虐を、少年は憎んだ。しかし英二とアッシュに殺意と嫉妬を燃やす今の姿は、彼が殺したいほど憎悪し(実際殺した)た悪鬼たちと、同じ”血”の色に染まっている。
因果は繰り返し、憎悪は幾重にも折り重なる。そこからの飛躍は、あまりに難しい。
永遠に繰り返す憎悪の再教育から、抜け出すために必要なのは何か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
かしいだ十字架を床に投影しながら、アッシュは自分の命を差し出そうとする。
ブランカは『武器よさらば』のペーパーバックに、カルマを乗り越える期待を込める。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/HbjaItQiuV
それがひどく無力な祈りだということは、皆が知ってる。これまでも書かれてきたし、そういう希望の岸に足場を作る英二の脆さ、遠さは、今回幾重にも積み重なる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
しかしそこで諦めて、歪んだ自己像を己のものと認めれば。憎悪で世界を塗りつぶし、『そんなもんだ』と諦めてしまえば。
待っているのは修羅の道、殺して殺されて、犯して犯されるだけの世界だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
アッシュもブランカも月龍も、そこから逃れたいと願う。でも、願いは敵わない。母は犯され、妻は殺され、英二は死にかけ、皆遠い場所へと去っていく。
それでも、『武器よさらば』と祈るのだ。
ブランカに向けた銃弾は彼を貫かず、(幸運にも)壁越しの仲間たちも傷つけない。アッシュは”銃”の暴力性を制御し、傷つけるべき相手を選びたいという最初期からの願いを、このクライマックスでも貫く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
それと同じ銃弾が、ゴルツィネを暴力的に無力化しつつ、直接命は奪わないのは、なかなか興味深い
父と子、妻と夫。ブランカが少ない荷物に選んだ『武器よさらば』も、戦場の無慈悲に背中を向け、愛に生きようとして果たせない男の話だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
主人公は妻との愛を選んでスイスへ逃げるが、そこで妻は難産の末死に至る。雨の中旅立った男が、希望に流れ着いたか、絶望に沈んだのか。
”パパ”ヘミングウェイは語らない。『それは、お前たちが考えるべき問だ』というかのように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
ブランカはスペツナズで身につけた殺人技術で金を稼ぎ、カリブで銃を捨てていた。因縁に引き寄せられて再び銃を取り、その使いみちを自分で選んで、フェアリー・ゴッドマザー役を買って出る。
絶望に体をもぎ取られても、そうやって青空をめざし生き続けることも出来る。その中間点で揺れながら、赤と青に塗り分けられた世界を、ずっと泳ぎ続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
そんなカルマを描き続けてきたこのアニメも、そろそろ終幕である。名残惜しく、味わい深くもある。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/vtyKc0lzVE
流れる血と清廉、自分のような薄汚れた存在が踏み込んではいけない”異国”を前に、アッシュは思い悩む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
それでも、どうしても会いたいと願うから。美しくも重たい涙に魂を震わせ、英二は立ち上がって壁を超えていく。銃を握らない戦いこそ、やっぱりえーちゃんにはふさわしい。
弱々しい体を奮い立たせて、アッシュに言うべき言葉を、伝えるべき思いを、自分という希望を見せた英二の成長は、非常に感慨深かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
あんだけヒロイン気質だった少年が、去りゆく愛に己を直面させ、その本懐を全うさせるべく、誰かを必死に止める
それは、銃を握るのと同じくらい激しい、愛の戦いだ
お互いを強く求める少年たちの指先は、残酷にも触れ合わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
ブランカが妻を、月龍が母を求めた時、運命と悪意がそれを阻んだように。
全てが終わった後、二人は今回届かなかった手を握りあい、平和な”異国”を親友のように肩を並べ、歩けるのだろうか。
アッシュが選んだ日本語は、”サヨナラ”だった
希望と絶望、愛と憎悪、過去と現在を巡る複雑な渦の中で、アッシュの仲間たちもまた、激しく魂を見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
シンが涙ながらに見上げた空は、やっぱり蒼い。
ガラス窓越し、届かない場所。自分にはない才気、戦いたくもない相手と、けじめのために殺し合う未来
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/gpqN14LboB
そんな弟の表情を見ても、あるいは見たからこそ、ラオはアッシュを認められない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
彼の一言がなければ、”血”を同じくする同胞を殺された華僑たちは、ボスの決断を飲めなかったと思う。己を絶望の中に投げ捨て、愛を手放すことで愛を守る。
ラオもまた、傷だらけの子供なのだろう。その果てに、何が待つ
あるいはアッシュの慟哭を、静かに受け止めるブラッド。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
今までサングラスの奥に感情を隠していたタフガイが、アッシュへの共感、信頼、愛を言葉にする時、初めて瞳の奥が見える。
宝石のようなその輝きは、アッシュの中にある希望を反射しているように思えた
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/D2JuYU0zIm
存外可愛いクリクリお目々していて、笑うところじゃないのについ笑っちゃったけども、様々な激情が乱反射する今回、こういう綺麗な鏡が見れたのは、確かに救いであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
血みどろの殺し合い、愛別離苦の苦界。そこにいても、”血”を超えた友情はそこにある。英二だけがアッシュを愛してるわけじゃない
そういうブラッドの存在感が、梅本唯のセンスにしっかり乗っかって、今回の演出はとても良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
勝負回をしっかり仕上げ、印象的なレイアウト、効果的なフェティシズムを操る梅本さんは、確実にこのアニメで名前を上げたと思う。
希望を捨てない少年たちが、絶望の中に希望を見る時。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
既に諦めてしまった大人たちは、緑の部屋の中で明暗を分ける。
ゴルツィネのイメージカラーである”緑”が、禍々しさを孕んで印象的だ。同じ緑でも、ブランカと月龍の離別とは明らかに違う色彩。
©吉田秋生・小学館/Project BANANA FISH pic.twitter.com/omH9KC0n73
月龍が伸ばした手を、ブランカは誠実に阻んだ。しかしその拒絶が、月流に最後の最後でもう一つの道を示したのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
愛すればこそ、愛は還る。憎悪の果てには、憎悪だけが待つ。受け身の因果応報ともまた違った、意志が結果を引き寄せる可能性、そこへのかすかな希望。
ブランカが飼い主に背中を向けたのは、そういう瑞々しいものがまだ自分の中にあって、月龍にも反射している…まだ愛に帰れると思った/希望したからではないか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
英二とアッシュのお互い惹かれ合い、だからこそ手放す愛とはまた別の、誠実で不器用な”大人”の視線が宿っているのではないか。
そんな考えが、最後のフォックス大佐の銃弾から漏れ出てくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
同じ裏切りにしても、ブランカと彼のそれは、やっぱり全く違う。
同じ銃弾でも、アッシュがブランカに放ち、傷つけられなかった9ミリパラベラム(語源は”汝平和を欲さば、戦への備えをせよ”)と、ゴルツィネを貫いたそれは違う。
違うはずだし、違って欲しいという祈りが、沢山の血と銃弾を描いてきたこのアニメは、みっしりと詰まっていたと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
人は絶望を乗り越え、暴力を制御できる。過去の憎悪を再燃させるだけでなく、蒼い希望へと踏み出す強さと優しさを、ちゃんと持ちうる。
そう信じて、アッシュとブランカは決戦に挑む
その結末が、どこへたどり着くのか。泣いても笑っても後一回、特別編成でお送りします、って感じだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2018年12月20日
アニメの尺に収めるために、改変し、削除した。言いたいことは人それぞれ、色々あろう。
その上で、僕はこの藻の語りが好きだし、凄いと思う。次回最終回、非常に楽しみです。