どろろ を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
男は肌で雨を聴く。蘇った感覚を楽しむように、人形の顔で涼やかに。
男は流されるまま人を斬る。血を求める似蛭に吸い付かれ、魂の色は変わり果てた。
雨。止まない雨。轟々と降りしきる篠突く雨の中で、盲い犬達の切り合いが始まる。驟雨の斬撃に、慟哭が交じる。
そんな感じのどっしりしっとり、なんとも重たく救いのない似蛭エピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
斬らせた時代が悪いのか、斬った男が悪いのか。辻斬りに落ちた男はすがりつく家族の情を振り捨て、己を狂わせた鋼を求める。
冷たい雨より、赤く温い鮮血を。無表情の剣鬼が人の顔を取り戻すのは、斬られた後である。
どろろと百鬼丸を取り巻く時代の無常、武家の無残と刀の狂気をどっしり叩きつけてくるイヤーな話であるが、兄妹を二人連れと重ね、人を辞めきってしまったものの救いと、人になりかけの旅路を覆い焼きで見せる詩情が非常に豊かで、残酷を甘く飲まされてしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
常時鳴り続けている雨が冷たく、しかし奇妙に豊かで、それが最後の最後”耳”を取り戻す展開と見事に重なる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
ようやく手に入れた五感の一つが、最初に感じたのは大きすぎる雨音。そして兄を斬り殺された妹の悲嘆。責めるでも詰るでもなく、ただ泣き崩れる声。それが、どう百鬼丸に刺さるか。
冒頭、先々週再獲得した”感覚”を楽しむように、雨を聴く百鬼丸から入る。これがいい。妹の優しい器量、詩情に溢れた感性も、百鬼丸を気にかけることで良く見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
盲ながら百鬼丸は、自分なりに世界を感覚しようとする。開けている。
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これに対し似蛭に取り憑かれた兄は、目を開けつつ妹の方を見ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
主命により決定的に壊されてしまった魂(先週の寿海とも、少し通じる部分がある)は、雨音を聞かない。
肉を裂き骨を断つ斬撃の音、流れる血と苦鳴。それが兄の世界である。感覚器官があることが、世界を感覚することの条件ではない。
似蛭を手放してなお、兄は修羅道に変える。妹が差し出す人間らしい食事、鶴に込められた思い出には手を付けず、傘もささずに豪雨の巷に飛び出していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
それほど決定的に、人斬りの日々は心を壊す。世界を見る目、他人の言葉を聞く耳を壊す。百の鬼よりなお、人は恐ろしい。
灰色の世界で、血の赤(過去描写の映像的ルールを、先週鮮明に焼き付けたのが上手い。早速有効活用である)だけが光る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
兄はこれに魅入られ、人を辞めた。
否。
確かに色の付いたものは、様々にあった。人の証は、確かに見えていた。
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やはり季節を意味する紫陽花は灰色の世界で美しく光り、斬るか斬られるかの土壇場で、兄の脳裏に宿ったのは桃色の折り鶴…妹との思い出であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
罪なき大工を切り捨てたのは、おそらくは家に帰るため。戦場を離れ、人で居続けるためには死ぬ訳にはいかない。しかし手にとった似蛭が、魂を啜る。
血を吸うまでは赤鰯、ぎいこぎいこと首を絶ち、啜れば魔剣、妖刀ニヒル。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
似蛭のサビが落ちるたびに、兄の魂も堕ちていく。斬る快楽、ただの斬人装置になるヨロコビ。この地獄の中で人でいることは、あまりにも苦しい。(第1話の僧正を思い出そう)
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斬って斬って斬るまくる。大工の首と一緒に、兄の善心も落ちていく。その果てに髻が落ちて、武家らしからぬ大童になった兄は主君を斬る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
しっかりした髪型という規範、武家のスタイルを見失うことで、兄は一匹の獣に落ちた。その有様を叩きつけられ、娘も髪を覆う手ぬぐいを外す。
零落してなお武家の規範に従う妹と、修羅に落ちてなお因業に囚われる兄。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
二人にとって『素の髪を見せない』というのは矜持であり、一線であった。それが失われた時、妹はむき出しの感情を露わにし、しかしそれは届かない。兄はもはや、人とは異なる感覚器官を宿した一匹の大蛭である。
そう割り切れれば幸福なのに、人の残滓は残酷に名残る。捨て去ったはずの二羽鶴が、哀しみを込めて羽を休める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
もしかしたら。すがる思いで雨に飛び出した妹の前で、兄は修羅として死に、人の顔に戻る。
慟哭。もはや泣くしか無い、あまりの無常。
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長い雨がやんで、境内に残された思い出の二羽鶴。それが見据えるのは残忍な機縁か、美しい夢か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
鬼にたぶらかされたという言い訳は効かない。兄は似蛭を一度手放し、その上でもう一度握った。
完全に人でなしだったとも言えない。確かに言葉は通じ、思い出はそこにあり、だが宿命をせき止めない。
なんともやるせないお話だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
全自動の殺戮機械として、相手の事情も考えず切り伏せる。その生き様は百鬼丸と兄、共通のはずなのに、二人の道(と、剣士に寄り添う二人の女の道)は決定的に反発してしまう。
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すがる情念に冷たく背中を向けた兄と、無表情に切り伏せるように見せて、どろろの命を守った(斬らせないことで魂も守った)百鬼丸。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
百鬼丸は言葉を持たないので、第1話のようにアヤカシを最優先した結果人を救ったのか、最初からどろろを守るつもりだったかは、雨に隠れてよく見えない。
百鬼丸は異常な生まれと運命を背負った、異常なアヤカシ狩りなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
どろろとの生活に彼なりの温もりを感じ、段々と人になっていく存在なのか。
『その両方である』と、どろろの健気な補助描写を丁寧に積み重ねていくこのアニメは言っている気がする。
百鬼丸は人の世界を知らない。家族の情、領民の都合など耳を傾けず、バッサリ切り伏せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
その無常が強さであることは、例えば万代との戦いを見ても判る。
しかし”耳”を手に入れてしまった百鬼丸は、耳を聾するような轟音のなかで、今後生きていくことになる。
アヤカシだけが斬るべき悪ではなく、人であるだけで魂の在り方を保証されるわけでもない、ノイズに満ちた世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
感覚器が動かないなら、そんな複雑さは最初から無い。しかし、百鬼丸が斬魔機械として機能するほどに、彼は人の機能を再獲得していってしまう。似蛭が魂を啜ったのとは真逆だ。
その中で、腕を持ってきて介添をしてくれるどろろの存在が、どれだけ道を示すのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
魔を切り、魔に落ちた人を切り、人を守る。そういう使い分けを、刃にどう教え込むか。
そこには明瞭な一線がある。戦乱の世には、簡単に飛び越えられてしまう儚い線だ。だが、百鬼丸はそこにしがみつかねばならない。
それが生易しい生き様ではないことを、『聴覚の回復』という慶事と、『悲しき慟哭』という弔事を同時に聞かせるクライマックスが、静かに強く教えてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
百鬼丸が声を奪われていることが、描かれているものを一面で判断させず、無言のうちその意味を色々想像させる作用を生んでいる気がする。
この作品における”音”(”無音”を含む)の意味を、じわりと感じさせるエピソードになった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
声を取り戻した後も、この無言のストイシズムと思弁性、どうにもやるせない情念の強さは大事にして欲しい。
まぁペラペラ喋る役は可愛い可愛いどろろCHAGがやるからね! 今週は特に美少女だったね!
雨の冷たさすら喜べるような、快復の愉悦。しかしそれが世の無常を孕み、複雑な立場に百鬼丸を追い込むことを、今回のエピソードはよく見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
百鬼丸を支えるどろろと、兄を人界に引き寄せられなかった妹。似蛭に魅せられた兄と、どろろを斬らなかった百鬼丸。
雨粒は万華鏡、複雑な因果を写す。
作品が選び取った世界の味わい、キャラクターが背負う宿命とテーマ。雨と灯火が印象的なエピソードが、作品の持つ奥行きとコク、味わいを強く照らし、非常に印象的でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
殺陣も最強に良かったなぁ…武家に生まれた兄の、正統が歪んだ邪剣。百鬼丸の傀儡身体を活かした、邪なる正統。その絡み合い。
しっとりと薄暗い美術、雨音を印象づける音響と、クオリティを正確にぶん回し、作品のコアでぶん殴ってくる感じが最高に良いです。品質が空回りせず喉笛を狙ってくるアニメは、やっぱいいアニメ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年1月28日
どろろと百鬼丸の旅は、まだまだ続く。今回聞いた以上の地獄が、まだまだ待っている。来週も楽しみです