ブギーポップは笑わない を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
好きだった人が変わってしまったと、涙ぐむ少女。縁もなかったのに、それに本気で憤る少女。
あまりにも普通の、あまりにも高い熱量の青春。その光を間近で浴びて、イマジネーターは微笑む。恋情と友誼と非日常は、触れ合いつつそれぞれの領域で踊る孤独なダンス。
そんな感じのVSイマジネーター、そろそろ終盤戦。正樹のクアラルンプールKARATEが良い作画で炸裂したり、仁兄さん必殺の能力がスプーキーEに決まったり、ブギーにしては派手めな見せ場がどっさりやってくるエピソード。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
と同時に、じわりとした心の距離感は相変わらず丁寧に描かれる。
今回は男の子のお話で、仁兄さんと正樹、二人の恋が凄い勢いで暴走していくエピソードだ。正樹は直接的な暴力、仁兄さんはスプーキーEとの対決(と、結果的な自殺幇助)と、両者バイオレンスな方向に行くのが面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
しかしその背後にはそれぞれ、少女に捧げた純情がある。
ブギーポップの装束を奪い去って、織機綺との絆を身勝手に維持しようとした結果、正樹は琴絵=スプーキーEを殺しかかる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
イマジネーターに与えられた人類救済の夢。それと同じくらい重たい琴絵ちゃんへの想いを胸に、仁兄さんはスプーキーEから”棘”を取り去り、結果として彼を死に至らしめる。
真っ直ぐ素直にハッピーエンドには向かえなくて、結局ねじ曲がるしか無いけども、青臭いほどに青い純情が男の子を突き動かし、画面に暴力が満ちる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
人を殴ったり、心を捻じ曲げることでしか感情を発露できない青年たちの、不器用な告白で今回のエピソードは満ちている。その決着は、まだ少し先だ。
ブギーポップ、あるいは心を操る異能力。非日常に接触したことで、彼らの慕情はヘンテコな方向にねじ曲がり、事態は暴力の色彩を帯びた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
では非日常の闇に憧れつつ、そこに絶対接触できない宿命を持った少女は、彼らとどう接触するのか。
今回のエピソードは末真和子の物語でもある。
袖摺りあっただけの琴絵ちゃんのために、震える拳を隠して仁兄さんを糾弾に行く。普通人はそんな、侠気あふれる行動は取らないということを、当然末真博士は知らない。正確に言えば知っているが、気にはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
常識は、彼女の走り出した心をせき止める障壁にはならないのだ。
そんな彼女の義憤と共感を、異能を隠しつつ受け止める仁兄さん。今回(も)闇と光の間を行ったり来たりする。日常と非日常の間を彷徨う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
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非常に明暗の濃い部屋の中で、仁兄さんは影の側に立つ。そこは非日常で、人類を救済する巨大な使命に突き動かされていて、個人的な思いは封印される場所だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
同時に末真が正対する日常の光とも、仁兄さんは上手く付き合う。普通の世界を演じる器用さを、上手くかぶっていく。
”四月に降る雪”の絵に飛鳥井仁の優しさと不安定さ(非日常の闇の中では、あまり表に出ない部分。救済者の人間性)を見抜かれて、仁兄さんは立ち上がりかける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
自分がどんな思いで闇の中に立ち、光を見据えているかをぶちまけそうになる。その防衛行動は、末真の震える手を見て落ち着く。
無敵のヒーローに見える彼女も、大人に文句をいうのが怖い。非日常の闇、不明な心の陰りを前にして、わからないことは沢山ある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
それを噛み殺して強がって、嘘をついて正しいふりをする。
『なんだ、自分を追い込む死神じゃなくて、ただの高校生じゃないか』と、仁兄さんは余裕を取り戻す。
仁兄さんは影の中から出て、自分の全てを防衛のためにぶちまけはしない。末真博士はそういう役割を背負えず、当たり前の高校生にそういう強さはない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
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可愛そうな女の子を玩弄した不誠実者から、世界を翻弄するイマジネーターへ。仁兄さんの中の弱い人間は、同じ弱い人間を見ることで閉じこもってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
でもそれは、本当に”強い”のか。白々しい仮面をかぶり直し、”鞄”という学生のアイテムを手渡して、常人として日常に帰還するのを促すのが?
末真の言葉と行動が真実をえぐっているのは、後の仁兄さんの描写を見ていればわかる。彼は徹底的に優しく寂しい青年で、震えを止められない末真と同じ人間だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
親を殺され、好きな人を踏みにじられ、復讐のために憤る。失われていく恋情に寂しさを覚え、想いに答えられない自分を悲しむ。
そういう当たり前の心は、イマジネーターに遭遇し、世界変化の夢想に塗りつぶされても消えはしない。安能くんの恋情が、洗脳と忘却に幾度晒されても、どこかに残っていたのと同じだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
でも飛鳥井仁はそんな自分を認めず、末真の背負う白々しい光を、するりとくぐり抜けてしまう。
震える自分を自覚しつつも、誰かのため、正義のため、非日常を強く求める自分のために、真っ直ぐ行動する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
飾らず、恐れつつも恐怖に飲み込まれず、末真和子は光の側に立つ。その強さは、異能とは関係のない岸にある強さだ。それがないから、異能に頼ってしまうのかもしれない。
末真和子は大人に言いくるめられて敗北感と自分への怒りを覚え、勝ったはずの仁兄さんは、無明の闇の中立ちすくむ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
世界を救済するデカい夢も、非日常を開く特別なチカラも、彼を救わない。
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死人でありイマジネーター・オリジナルである水乃星透子は、仁兄さんが物憂げに見つめる闇を気にはしない。彼女は迷いを抜けて結論に到達してしまい、それ故”世界の敵”としてブギーポップに処分された。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
仁兄さんが、そこまでたどり着いてしまうのか。曖昧な明暗から自分の道を見据えていくのか。
それもまた、少し先の物語だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
もうひとりの純情少年である正樹は、織機綺との接点が切れ、不気味な泡の装束に彼女のぬくもりを求める。無軌道な暴力、誰かの衣装、濃い口の殺意。
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今回のアクションは作画がキレるだけでなく、キャラクターが宿っている所が良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
後に姉が一発で仕留めるところを、相手をホールドして乱打しなければ打ち倒せない、正樹の非才。スプーキーEの挑発に乗って女を殴り、銃を突きつけるしか無い時、瞳にかかる暗い殺意。
綺に押し付けられたブギーポップの装束は、正樹を非日常に誘う。人を殴って、撃ち殺して当たり前の薄暗い世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
カミールとして最初から『そちら側』にいた織機綺に引き寄せられるように、正樹はブギーポップ的(に見えて、全然彼らしくない)非日常に接近していく。
危ういところで正義の味方がやってきて、彼は借り物の衣装を脱ぎ捨てる。クアラルンプールKARATEも相当なもんだったが、姉はほんと資質が違うな…。これを殺した早乙女くん、強かったんだなぁ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
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末真和子の人間的震えに向き合えなかった仁兄さんの行方と同じように、ブギーの衣装を脱ぎ捨てた正樹がどこにたどり着けるかは少し先の話だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
ただ、正樹は仁兄さんより少し先に行っている。正義の味方の力も借りて、仮面を付けない自分と向き合う姿勢が出来てきている。
異能力と非日常から切り離され、だからこそ最も強く正しい存在として書かれる末真和子。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
正樹は散々暴走し、非日常の闇を走り抜けたことで、VSイマジネーターへの道を歩き始めている。後はそれが、何にたどり着けるかである。
一方水乃星透子と出会ってしまった仁兄さんは、人間だった時代の過去を受け止めきれず、線を引いて背中を向ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
すがりつく手の温もりを、痛いほど愛おしく感じつつも、そこに決別していく。
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柱を中心に、バキッと割られたレイアウト。仁兄さんは境界を超えず、しかし絹川琴絵を捕まえ続ける。彼女の中にあるイマジネーター、スプーキーEを追い出すために。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
一切体軸がぶれない、非人間的な姿勢。琴絵ちゃんが自分を取り戻し、グズグズに崩れていくのとは対称的だ。
でも琴絵ちゃんの中で荒れ狂って、スプーキーEを追い出す助けにもなった震えを、仁兄さんも抱いている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
それは今始まったことではなく、あまりにも寂しい冬の夜に雪でも降らないかなと、星のない空を見上げていたあの時から、心に埋もれていた震えだ。
そういうモノを忘れられないナーヴァスな人間だからこそ、仁兄さんは世界を救済しようと思いつめた。VSイマジネーターではなく、イマジネーターであろうと自分を追い込んだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
だから、境界線は超えられない。琴絵ちゃんが回復しつつある当たり前に日常には、踏み込めない。
感情を無茶苦茶にされる琴絵ちゃん(阿澄佳奈、流石の好演である)に対し、仁兄さんはその表情をほとんど切り取られない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
まるでヒーローみたいに、好きな女の子を助けに来ているはずなのに、一瞬映る顔は真っ白で変化がない。だが、陰りもまた無い。
世界に対抗しうるイマジネーターとして、能力を振るう時。末真和子を前に闇と光、非日常と日常、超越性と人間性の間で揺れ動く時、仁兄さんの顔には影がかかる。救済者のペルソナをかぶる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
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琴絵ちゃんを前にした仁兄さんは、しかし陰りを背負わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
演じない自分が外に漏れ出さないよう、末真が表に出した震えを臆病に押し殺して、それでも届かない思いを訥々と呟く。
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超人・イマジネーターとしてスプーキーEと対峙し、雌雄を決する時。兄さんの脳裏には一瞬、人間だった時の記憶が蘇る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
四月ではなく、寒い冬のさなかに振った雪。とても寂しい場所で、おずおずと震えながら、それでも手を伸ばしてくれた人への思いを、仁兄さんはまだ忘れてはいない。
でも、そこに帰還することは出来ない。琴絵ちゃんと一緒に光の側に帰って、末真和子のように弱くて強い生き様を歩き直すことはもう/まだ出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
未完成な人の宿命が、同仕様もなく人を追い詰め、殺していく世界の残酷さ。それを救いうる力を妄想してしまった時、彼の道は歪んだ。
それを叩き直すためには、例えば霧間凪のような正義の味方の乱入だったり、決定的な決着がつくバトルが必要だったりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
その前哨として、イマジネーターVSイマジネーターがある。”薔薇”の能力、アニメになるとマジ映えるな…現代異能伝奇バトルみたいだ…。
仁兄さんは世界救済の端緒として、スプーキーEから”棘”を取り去る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
組織の合成人間として沢山の悲惨を叩きつけられ、世界を怒ることでしか生きられなかったスプーキーEは、散々女を蔑してきた能力を自分に使い、己を殺す。
彼が実は飛鳥井人にも似た、世界は生きるに値すると信じ裏切られ、異能の使い方を間違えきってしまった存在であるのは、番外編である『オルガンのバランス』(『戦車のような彼女たち』収録)に記述されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
弱く優しい自分と、あまりに残酷な世界。その狭間で押しつぶされたモノ同志の決戦。
スプーキーEの死は、仁兄さんの救済が間違えきっていることを示す。攻撃衝動を取り除いた結果、絶望の淵でぎりぎり踏みとどまっていた怪人は己を終わらせた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
心のバランスは不可思議で、弄れば何が起きるか予測はしきれない。その死が意外であることを、強く伸びる影が教えてくれる。
そんな穴だらけの計画で、人の宿命を塗り替えようとする仁兄さんの計画。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
自分に追いすがる恋情と過去を、自分の鏡写しのような歪なイマジネーターを、不完全に生まれ落ちた一人の少女を、そして何より弱く脆い人間としての自分を、サクリファイス・オブ・ヴィクターに捧げていく。
そんなイマジネーターの震えを、丁寧に追うエピソードでした。深い闇と無関係に見える末真との対峙が、実は一番色濃く彼に突き刺さっている構造がやっぱり面白い。つーか末真が圧倒的につええ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
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寂しさと救済願望の行き着く先、どん詰まりの闇の中で、仁兄さんはやはり、少女の側には寄らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
境界線を前に立ちすくみ、自分はこれでいいのだと、誰かから受け取ったイマジネーションにしがみつきながら、震えを顕にすることは出来ない。
暴走の果てにブギーポップの装束を脱ぎ捨て、自分を見つけかけている正樹の言葉は、そんな闇を裂いてカミールに届く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
その祈りを、織機綺はどう受け止めるのか。弱々しく震える想いと優しさは、どこに行き着くのか。次回、VSイマジネーター決着。楽しみですね。
しかしアニメになって構図が鮮明になってみると、仁兄さんはほんとバカだなぁと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
持ち前の優しさと愛おしさに素直になれたなら、イマジネーターになんてならなくてよかった。でもその率直さは凄く難しい美質で、例えば末真和子とかしか常時到達は出来ない、ありふれた異能なのだ。
トンチキでカッコいい異能力を扱いつつ、結局そういうありふれてつまんねー心の力に帰還して話が落ち着く所が、やっぱり上遠野作品の好きなところである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年2月21日
『人間として優しく正しく美しいやつが、最終的に強い』というルールは、絶対にブレんよねかどちん作品。問いたいのはいつもそこなんだと思う。