風が強く吹いている を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
雪、箱根路。
不安と焦燥を噛み締めながら、男達はスタートラインに着く。
置き去りにしてきた過去を、定かならぬ未来を。それぞれに走り抜けながら、見えるものがある。見えぬものがある。
孤独な純白の中で、あなたに、明日に繋げるために。
青年よ、今を走れ。
そんな感じの雪の復路開始、風が強く吹いている第21話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
熱病にうなされ神童の熱い走りを受け、六区走者”ユキ”にふさわしい純白の孤独へ。
美麗な箱根路の美術が作品を包むトーンの変化を、見事に伝えてくる。ほんと自然描写いいアニメだよなぁ…
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/paaThbaKY9
サブタイトルに『さよなら、美しきこの世界』とあるように、六区・七区走者はこの力走を最後に、シューズを置く。ハイジに載せられたどり着いた箱根路を最後に、”美しすぎる”長距離に”さよなら”をいう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/jL8CepEoA2
ユキはシューズに血をにじませながら、区間賞への二秒を『絶対に縮まらない』と確認する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
ニコちゃんは思い出の中のボロボロのシューズを、もう一度取って走り直し、愛を込めて別れを告げる。
白く美しい領域に、踏み込めないモノたち。陸上の神に全てを捧げる道に、進めないモノたち。
それは彼らからタスキを受け取り、大学を終えた後もなお競技に挑み続けるトップランナーを、際立たせる構図でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
ユキが『危うく、寂しい』と評した、人知を超えた領域。絶対王者・藤岡もまた、そこに至るまでの重たい道のりに苦しんでいる。
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/qt2RxBdENI
体格と才能に溢れ、ただ走るだけで人を感動させるような天才二人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
好調なスタートを切った榊も、白い領域に飛び込む資格を持っているかもしれない。
ニコチャンが、そのガタイで入場を拒まれた領域。ユキが決意を込めて背中を向けた、神速の世界。
藤岡は『強くなるために走ってきた』という。ニコチャンの回想の中で、ハイジは『自分は弱いんです』と呟く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
かつてのチームメイト、四年前に別れた道。ユキが下りのブースターを借りて、チームメイトであるカケルの世界を垣間見たように。
藤岡も白く重い空の果てに、ハイジを思っているのか。
藤岡はユキのように複雑な感情を滲ませることも、ニコチャンのように歓喜と共に駆け抜けることもしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
修行僧のようなストイックさと、真摯に”強さ”を求める安定感で、自分の四年間、その先にある白い世界を見据える。
そこには王者らしい公平さと、ヒリつく個人的な感傷が同居しているように思う。
強く、ただ強く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
勝つことを当然視される孤独な世界の中で、それでも走り勝ち続けたのは、やはり四年前取りこぼした同志への想いが、彼を受け止められなかった自分への憤りが、焼き付いているからではないか。
藤岡さんがいっとう好きな僕は、そういう感傷を静けさの中に聞き取る。
それが幻聴なのか真実なのかは、運命の九区にたどり着かなければ見えはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
『区間新を出す』
決意でもフロックでもなく、ただ事実のようにいい切った王者を前に、カケルもまた当然、それに追いつくと言い切る。白い白い、選ばれたものだけの世界。
そこに至る道程として、また血の滲む一個人のライフストーリーとして、下りの箱根路が、波風の少ない東海道がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
神童とユキも、区間賞を約束する。それが走るものを未来に繋げる、形のない道標だと信じて。(そういう意味では榊の『全員ぶっ倒す』も、アスリートとしての発言なのだろう)
ユキは下りの特殊性を借りて、カケルがひとり走る領域を幻視する。それは寂しく美しい、魅惑の世界だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
既に司法試験に合格したユキは、その未来を甘やかに噛み締め、現実に帰還する。
俺の走りは、ここが最後。と言い聞かせながら。
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/SUxDhvMdWO
少し荒く太い描線で切り取られた、脹脛の描写がいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
張り出した下腿三頭筋は、すっかりランナーのフィジカルだ。冷静な頭脳を活かし、箱根下りの暴れ馬を乗りこなし、見えた世界を眉間を潜め、ユキは静かに拒絶する。
そこに住まうしか無い、強く走ることしか許されない仲間を思う。
血が赤く滲む激走の中で、この冷えた優しさにたどり着く所がユキだなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
ジョージが強く憧れ、追いつこうと…陸上を続けようと思えるカケルの背中。”先輩”としてユキは、そこに速さと孤独を見る。ほぼ全ての人間が追いつけない、寂しい領域の危うさを見る。
自分は、耐えられない。
だから最後の力走を、後悔なく走りきろうと、白い幻惑の中駆け抜けていく。ゾーンに入り、虚実あやふやな走りの中で、ユキは”家族”という確かな手触りを、見逃さず受け止める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/uyI7s3vbIz
義父さんと妹ちゃんが、ごくごくフツーにいい人そうなのが凄く良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
全てを冷静に受け止め、下りの魔物すら御せる青年が、どうしても冷静には見れないもの。
思い出、母、蝉。
それが視界に入ってきた瞬間の、衝撃と呆然。走りの中、観たものを馴染ませようとする空白。
ユキは純白の世界を駆け抜け、母を許せなかった自分を受け止めた。流れる雪は、男の涙。青年のプライドを守りつつ、感情の爆発を”絵”で見せる手腕が相変わらず冴えている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
泣いてるシーンを直接書かない演出は、先週の神童と共通だなぁ…。https://t.co/WqdzSH2te5
神童への後ろめたさ、走りへの不安、白い領域への不安と恍惚、母との桎梏。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
様々な迷妄を走りの中で振りちぎり、ユキは不敵な笑みでタスキを手渡す。
血の滲んだ足、頂点に踏み込めない己が痛む。でも、やりきった晴れやかさが、表情には滲む。
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/HJAG1U79U4
ニコチャンもまた、晴れやかに走り抜ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
同じようにラストランと定め、デカすぎるガタイを乗りこなしながら、ニコチャンは過去と現在進行形で付き合わない。
それは『もう一度走る』と決めた時に、ある程度終わっていたのだ。
楽な道はないと知って、なお踏み込みたどり着いた。
その歩みそれ自体が、一度打ち捨てられたニコチャンの青春を、もう一度蘇らせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
白い領域に踏み込むことは、絶対にできない。それでも、不似合いな巨体を引きずって、夢に歩み直した。長距離が好きだったから。
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/lQWqhKM3qp
紫煙に後悔をまぶし、走り抜けた一年間。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
ニコチャンの表情は最初から最後まで明るく、笑顔だ。ユキが結論にたどり着く走りだったのに対し、結論を確認する走りというか。
どちらにも、強い意志と意味があるのだろう。無論、そこを超えて走り続けるたちも。
ニコチャンの襷を待つキングは、最後まで煽ってくる榊と対峙する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
『勝たなきゃ意味がない、速くなきゃ価値がない』
カケルが仲間と乗り越えた価値観に、榊はまだ支配されている。フードの奥に頑なに本心を隠し、今までの自分が正しいのだと思いこむ。
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/Xe4ujCXTXK
全ては走りが証明する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
ムサの言葉は正しく、残酷でもある。たとえ歪んで危うかろうが、榊も幼い頃からの夢を抱え、必死に時分を追い込んできた。
あらゆる走者たちが背負う、百億の物語。憎まれ役である榊だって、当然それは持っている。その黒い炎が、彼を走らせる。
”選ばれざるもの”として、最初に壁にぶち当たった凡人が、そんな榊とせめぎ合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
タスキを受け取った時の不敵な表情は、キングがあの時の裸の王様ではなく、己の王国の本物のキングになっていることを示す。
その輝きは、無条件で結果を連れてこない
©三浦しをん・新潮社/寛政大学陸上競技部後援会 pic.twitter.com/SLrJsghw1d
クソ、クソ、クソ、クソ!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
しかめられる眉間と、呟かれる悪態。競技でもある箱根には、必ず数字がつきまとう。才能、体格、現実。どれもこれも残酷だ。
先を行く二人は、微笑みと共にシューズを置けた。自分の全てを出し切って、自分が辿り着く場所へと自分の足で踏み込んだ。
では復路3人目の走者は?
話の焦点は、当然カケルとハイジにある。ずっとそういう話であったし、キングはそこまでの繋ぎと、残酷に見ることも出来るだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
でも僕はそうしたくないし、そうしない。
キングの不格好で、悪態混じりの必死の走りが、彼をどこに連れて行くのか。
今回見えたような白くて綺麗な場所じゃなくても。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月13日
カケルと藤岡が疾走する、選ばれたものの領域に踏み込めなくても。
走ってきたものの歩みは、それぞれの輝きを持つ。納得と答えにたどり着く。
今回、そしてこれまでの物語が描いてきたものを、キングにも届けて欲しい。来週が楽しみだ。