風が強く吹いている を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
孤天から降り注ぐ雨が、再び雪へと変わる。
遊行寺を抜けて戸塚、権太坂。
凡人が走る。天才が駆ける。
己を見失い、誰かの声に励まされ、歯を食いしばりながら見つけた答え。
ただ走るだけで、敵にも己にも追いつける才覚。
共に、同じ道を走る。風が強く吹いている。
そんな感じの八区九区、風が強く吹いている最終話一個前である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
泥の中をかき分けて進むようなキングの力走と、進む一歩一歩が超越を生み出すカケルの疾走。
前回ユキが下りの力を借りて見据えた”白い領域”にアンサーを返しつつ、様々な人の魂が滲む終盤戦である。
ここまで仲間を導き、十区を待つハイジ。唯一カケルの領域に身を置く藤岡。未だ複雑な感情に支配される榊。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
様々な人々の思いを宿して、歩みは止まらない。荒い息遣いと超人的な克己、才覚の発露、確かな歩調。様々なものが入り混じりつつ、襷が繋がっていく。
王様気取りの狷介な基質の奥に、隠していた弱さ。キングは複雑で凡庸な自己を、自分が主役となる九区に吐き出していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
余計なもの全てを捨て去り、ただただ速さの領域(ゾーン)へ。真っ白に駆け抜けるカケルとの対比…であると同時に、それは坂口洋平という一人の青年の、苦闘の末でもあって。
正直原作で一番好きなシーンを、こんなに分厚く書いてくれるとは思っていなかったので、脳みそをぐちゃぐちゃにかき乱されながら見た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
天才を開花させ、孤独に…孤独すら超越して走るカケルの歩みは美しい。だがそれと同じくらい、キングの当たり前の苦しさ、決死の21.4キロにも意味がある。
そう堂々胸を張るような、Aパート丸ごとの大盤振る舞いであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
前回↓みたいなことを書いたけども、やはり俺たちのアニメ版”風が強く吹いている”、信頼に答えてくれる。ありがとう…
その独白は同時に、ハイジに唯一として選ばれなかったキングの寂しさを浮き彫りにもするhttps://t.co/3JBFfxAR0E
キングは苦痛と喜びに振り回されながら、表情を様々に変えつつ走る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
思いは過去の後悔から今走る箱根路の意味、その先まで千々に乱れる。
カケルが特別な色彩の特別な世界から動かないのに対し、キングの凡庸な世界は大きく揺れ動く。
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頑なに張り詰めた重荷を、ハイジの”クイズ”で下ろし、静かに自分らしく駆け抜けていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
この土壇場で余計な荷物を背負ってしまうくらいには未熟で、それを深呼吸一つで下ろせるくらいには成長した、キングの一年。
矮小で攻撃的で寂しがりやな、裸の王様の走り。
夢のような大学生活を曖昧に思い浮かべ、何もしなかったから何も起きなかった三年間。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
それを思い返す時、富士と箱根は朧に霞み、輪郭はあやふやだ。そういう時代を抜けて、キングは今ここにいる。
何かに飛び込み、何かして、何か掴んだ一年間。
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キングはハイジと出会った時に、乙女のように頬を赤らめる。新しい場所、新しい出会い、特別な物語。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
でも王様の器量は小さくて、差し出された手をちょこんとしか触れない。怯えた踏み込みじゃ何も掴めず、二人の距離は進展しない。
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いかにも爽やかな好青年と、三白眼の角刈り小僧。不釣り合いな二人の関係は動き出さず、ハイジが唯一絶対と見初める男との出会いは、四年目まで持ち越される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
二人は運命の二人ではなかった。優しく差し出された手やお茶は、あくまで当たり前の優しさ
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だから掴まない。飲み込まない。何もしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
だから動かない。特別で唯一な”あなた”になってくれない。
キングの孤独は、彼がどうしても超えられない自分自身によって生み出した、当然の帰結だ。
その身勝手な思い込みと片思いが、僕には凄く切実に見えて。
みんながみんな、伝説を産めるわけじゃない。物語の中心に居座って、チームを箱根に引っ張る特別なエンジンにもなれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
何かが動き始めるのを待ち構えて、動き出したら出したで文句を言って、周囲の空気を悪くして、愚痴を言いつつ必死に走って。
キングの物語は、あくまで側道、当たり前の話だ。
でもだからこそ、八区顔面歪めながら走り走り走り続ける凡人の独白は、ここに来ても身勝手なエゴから離脱できず、それでもちゃんと走り抜ける弧闘は、胸に迫る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
キングの愚かさは俺の愚かさで、無様は俺の無様。そう思える。
そんな彼がようやくたどり着いた未来が、俺にもありえる。そう思える。
繋がりつつも孤独な”走り”と出会ったことで、キングは棘だらけの鎧を脱ぎ捨て、構えず味方の手を取れた。タスキを受け取って、タスキを手渡す”駅伝”を、自分の居場所だと思えるようになった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
走ることは楽しく、そして苦しい。
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奥歯を食いしばるキングの歩みは、見知らぬ様々な人にしっかり届く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
がんばれ、頑張れという声援は、憐れみでも共感でもない。変えの効かない十人の一人として、自分の足で走ったキングへの当たり前の賛辞だ。
キングはもう、誰かの夢になるところまで、自分を担いで登ってきたのだ。
その走りを、ハイジが抱擁してくれなくても、だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
ハイジはカケルと出会った時、迷わず駆け出した。絶対に捕まえなきゃいけないと自電車で追いかけ、『走るの、好きか?』と運命の言葉を投げた。
そういう絶対的な衝動が、キングとハイジの間には生まれない。昔も、今も。
その寂しさを吸い込んで、キングは微笑む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
同じ道を歩いても孤独、それでも同じ道を歩いている。
別の場所で他ならぬハイジが口にする言葉を、多分ゴール直前のキングも噛み締めている。その寂しさは、多分哀しいものではない。
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この最後の見せ場でキングが唐突に投げかけてくる、ハイジへの一方通行超巨大感情。ハイジの声を直接聞く特権は、やっぱりカケルにある。未練を容赦なく寸断する処刑刀のような、二つの携帯電話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
キングは選ばなかったから、当たり前に選ばれない。
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それでも、キングは苦痛に喘ぎつつ、微笑んで走り抜ける。十人で、一人で、走っていくのは悪くなかった。ずっと見ていたいと思える夢に、ハイジと一緒に出会えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
それはお前の夢。俺の夢。俺達の夢。
キングはようやく”俺たち”と胸を張って言える誰かと、静かに繋がることが出来たのだ。
面もウマくねぇ、性格も悪い。問題起こして引っ掻き回し、顔のキレイな主役の引き立て役。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
そう使い捨てられてもおかしくない、角刈りの鼻デカ野郎に、こんなに強く熱く哀しい感情が秘められていた。
だから、ちゃんと書かなきゃいけない。
だから、ちゃんと描いた。
ここまで2クール、群像劇として原作を再構築し、その最初の障壁としてキングのあがきを配置し直した筆は、彼の物語が一つのゴールにたどり着く時も、誠実に進んでくれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
その事が、僕はとにかく嬉しい。
ちゃんとやる。人間の当たり前の苦悩と尊さを、ちゃんと描く。それはとても難しいのだ。
キングの一方通行超巨大感情に並走する形で、榊からカケルへの巨大感情が渦を巻くのも面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
ゴールに至ってもなお、過去のわだかまりを捨てきれない榊。その硬い表情が、穏やかなカケルの応答で溶けていく。
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区間五位の力走を見せた榊に、チームメイトが駆け寄る。その成績は、今の歩み。駆け寄ってくるのは今の”俺たち”だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
榊も過去の囚人ではないからこそ、ここにたどり着けた。キングやカケルと同じように、独自の歩みの果て、後悔の呪いを解いていた。
だからすれ違いつつ、カケルは微笑み、榊は笑う。
派手さはないものの、『何かと煽ってくる嫌な奴』という仕事を頑張った榊に報いる、静かな憑物落としであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
頑なな榊に、静かな”言葉”で対峙して思いを伝えられたカケルは、夏合宿で望む自分に追いつきつつある。あるいは、追い抜いたか。
主役の特権として、内部に渦を巻く感情をたっぷり吐露し、重荷を既に置いてきたカケルの九区が始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
凡人が到達できない、天才だけの白い領域。美しい場所。そこに至る前のキングの表情は、滑稽に必死に歪む。
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背筋を伸ばし、美しく揺らがず駆け抜けていく。ゾーンに突入したカケルと、キングのドタバタした(しかしちゃんとアスリートになった)走りを対比する演出も良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
でもシンプルに、彼らしいブッサイクな顔で、凄く良いと思った。この表情ができるようになったのが、キングの箱根なのだ。
カケルの超常的な内面を映すように、あるいは六区でユキが見た景色を再生するように、静かに雪が降り出す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
ゾーン。極度に集中したアスリートが到達する、特殊な知覚の世界。世界は鮮明かつ微細に知覚され、情報は的確に無意識に処理されていく
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冬の灰色とは明確に異なる、カケルの主観。天才だけが知覚可能な、色が鮮やかすぎる世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
ユキは高速で箱根を駆け下りつつ、”ここ”を見た。自分には美しすぎる、ついていけない寂しい世界だと。その怯えは、カケルにはない。ないからこそ、見える景色かもしれない。https://t.co/dZ5LWCzxK7
自分の身体状態、周囲の声援、様々な情報、眼の前の敵。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
キングがあんだけ汗まみれで格闘した走りを、ハイジは涼やかに受け流し、流水のように走り抜ける。
とらわれず、滑らかに、歩みを止めず。
そこに至れたのは、キングを含む仲間と、それ以外の全てにしっかり向き合ったから。
過去を切開し、自分を見つめ、必死に走ってきたから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
カケルは思い出に浸らない。眼の前を飛びすぎていく景色を抱えて、前に、前に進んでいく。
その視界が、ふと烟る。特別な才能がもたらす無明の闇が、ふっと広がる。
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ユキが危うんだ暗黒の中で、しかしカケルは仲間の影を見、同じ闇を共有できる特別な存在を見つける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
自分の王国をしっかり掴み取り、同時に誰もが認めるキングでもある男。藤岡の存在が、カケルを孤独にはしない。藤岡もまた、重責の中カケルがいることが、ある種の救いなのだろう。
二人の男は遠く隔てられつつ、同じように水を受け取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
受け取った給水をしっかり飲み干し、重さを確かめてから給水者に返す藤岡の振る舞いは、まさに王者だ。自分が背負うものに、責務をしっかり返している。
そら、仲間も思わずバンザイする。
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対してカケルは、伴奏者を置いてけぼりに、一人火照った体に水をかける。ボトルを投げ捨て、身軽になる。真っ直ぐ、ただ先を見つめる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
初めての箱根、初めての挑戦。弱小校の突出したエース。孤独な才能。
背負うものは、もうなにもない。
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”水”の扱いで人格を見せるのは、二区(今走っている九区の”裏”だ!)のムサに通じるものがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
ただ、皆に水は届く。過去のキングに、ハイジがお茶を差し出したように。思いやりと歩み寄りは…”俺たち”への契機はいたるところにあるのだ。https://t.co/j8coLN3qW8
そして同時に、才能はそれを引きちぎる。だからこそ憧れ、追いかけるのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
カケルが見据えるのはもう、道のりでも敵でもない。未来にあるべき自分、瞳に宿る”今”を一瞬一瞬、振りちぎって疾走する。
時々勤拂拭。”立禅”ならぬ”走禅”の境地か
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走りながら、カケルは孤独を追い抜き、敵を追い抜き、自分を追い抜いた。そんな彼を風が強く後押しして、辿り着く場所はどこか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
その力走を受け取って、駆け抜けるものは誰か。
ここまでの歩みの集大成となる最終話、ハイジの十区は次回である。やべぇな…今まで以上に期待と興奮しかねぇ…。
一話早く言っておきますけども、このアニメを見てて良かったです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
原作で一番ビリっと来たキングの独白も、誠実に形にしてくれたし。それを貪欲に活かして、カケルの超俗の境地も鮮烈に描かれたし。
このスタッフ、このアニメでしか見れない物語を、ここまで2クールたっぷりと受け取りました。
だから毎回見終わるたびに言ってた『ありがとう』を今回も言って、次回の最終回を待ちます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月20日
物語を牽引するエンジン、超人的な駅伝バカ、脆いただの人間。
複雑な顔を持ったハイジ最後の走りを、どう描ききるか。エンドマークをどう置くか。
非常に楽しみです。本当にいいアニメだ…。