約束のネバーランド 第9話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
蝶は羽を手折られ、夢は彼方に霞む。迫る”出荷”を前に、冷徹な現実主義者の歯車が狂う。活動的な理想主義者の歩みが止まる。
待ち受ける幸福なる死の腕に、抱かれぬために。叛逆の牙を研いできた子どもたちの微睡みが、断崖を前に終わる。
そして、”時”が来る。
そんな感じの地獄絵図after地獄、どこまでいっても逃げ場なしである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
空元気でも決死に絞り出し、なんとか兄弟を生き延びさせようとあがく子どもたちと、幽き希望をすりつぶす凶悪な現実。
クライマックスを前にタメムードに入ったお話が、ジリジリと緊張感を焼き付かせてくる。重たく、苦しい空気。
元々ピーキーな画面構成がサスペンスを加速させているアニメなのだが、今回は見せかけの希望が見せかけでしかないと暗に教える筆が強い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
ノーマンの出荷を前に、どこかで息継ぎしたい視聴者の顔面をギュッと押さえつけて、水の中に押し込むような息苦しさが、最後まで続いた。
それがノーマンの希望と絶望に上手くシンクロして、最後の”絵”で綺麗に落ちる。青い希望ではなく、深く暗い絶望へ。叛逆ではなく従順、生ではなく死の方向へ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
そこに押し込まれる引力が強いほどに、最後に反発する力も強くなる。だから、手加減無しで目一杯。
『やりすぎだって!』って感じだが、手加減するならこんな悪趣味な舞台と地獄のようなプロットは用意しない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
だからこの重たさ、この暗さ、この出口のなさで良いのだと思う。重たく暗いからこそ、そこをぶち破る子どもたちのタフネスも強調されるわけだしね。
さて、エマは足をおられ、移動の自由を奪われる。子どもたちベースで進んでいた(と思っていた)時間のコントロールと同じく、ママが本気で乗り出してきたことで、子どもたちは(子供らしく)自由と力を略奪される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
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ベッドサイドの固定カメラは、エマに接近する子供たちとの距離を、定点で観測していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
近づくもの、離れるもの。すれ違うもの、手をつなぐもの。未だ、瑞々しい心は死んでいない。ノーマンの”時”が強制的に迫った結果、レイは冷たい仮面を引っ剥がし、本音で語るようにもなっている。
無力な子供である事実を暴力と知略で思い知らされたエマは、赤子のようにノーマンの手にすがる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
ここの指の芝居が抜群に良く、言葉ではなく仕草とカメラワークで見せるこのアニメらしさが、最上級にほとばしっていた。
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無明の闇に伸ばされた子供の手を、優しく両手で受け止めてから掴む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
そうして与えられる体温はあくまで気休めで、周囲を取り巻く残酷と現実を前に、少年は引き剥がされることしか出来ない。
でもだからこそ、離れる時は愛を込めて、乱雑にではなく余裕と優しさを演じて。
恋した少女の震えを前に、せめてもの強がりで自分を支えるノーマンの”意地”が、よく宿った指である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
…こういう仕草が出来る少年が、最高級食材として出荷される世界のクソっぷりを再確認させられ、マジで眼の前クラクラもしたが。ほんっとにクソいな鬼社会…。
頑是ない赤子のように、寝床に横たわることしか出来ないエマ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
彼の前では平静を装っていた感情が、蛇口の前で震え、無力に空回りし、溢れる。コップを使う余裕が無いほどに、追い込まれた恐怖。
ノーマンもまた、無力な子供でしかない
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溢れる水、投げ出されたコップはそのまま、ノーマンの激情と絶望を顕す。可能なら、自暴自棄に感情を暴走させたい。使えるツールも使わず、野の獣のように吠えて暴れまわりたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
だがそれは、きょうだいの生存に繋がる道ではないから。少年は涙を拭き、奥歯を噛み締めてもう一度コップを握る。
溢れた感情を人間だけが使えるツールに押し込み、喉の奥に流し込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
コップはつまり、最後まで頭を使って生き延びる決意であり、『いつものノーマン』を生存のために取り戻すスイッチでもある。
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必要なら仲間の命すら量り売りする、クールな現実主義者。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
そのはずだったレイが激情に踊り、ノーマンはあくまでクールな自分を震えの中で取り戻す対比が、哀しくも眩しい。
エマと語り合う『出荷されないための反抗策』は確証が薄く、子供の思いつきでしかない。あやふやで、曖昧で脆い。
でもだからこそ、時間も暴力も計略も自由には出来ない無力な子供だと、己を思い知らされた今、すがれるのはそういう強がりだけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
シスターが飲み込まれたような、重く暗い現実のあぎと。そこに噛み砕かれないために、子供たちが己を守る紙の鎧は、儚いからこそ尊い。もう、精一杯の強がりしかない。
そしてノーマンも、コップと水(理性と感情)を前に演じた自己再獲得の闘争を、扉の前でもう一度演じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
手は震え、ドアノブは上手く掴めない。それでも余裕の笑顔を作って、まだ戦えると拳を固めるために。少年は笑顔の仮面を被る。
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指の芝居、あるいは蛇口を前の逡巡のように、たっぷりと時間を取って内面を見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
溢れ出す感情、その首根っこを抑え込む強がりを、あえて言葉にしない贅沢を、たっぷり堪能させてもらった。この作中時間の使い方、描き方が、やっぱり子のアニメ最大の特徴だと思う。焦りがなく、的確だ。
扉の向こうには茜色の部屋があり、不屈を演じる兄妹がいる。どれだけの絶望が押し寄せても、けして手を離さないと思える真実の仲間。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
口をついて出るのが、非現実的な感情優先の愚策だとしても。そこに宿った情動が、瞳を潤ませる。
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無明の不確かさに希望を託し、どんどん感情的になっていくレイと、少し諦観を漂わせて現実を冷静に見るノーマンの対比。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
少しおどけて狂気すら漂う強がりから、真実暖かな兄弟愛を潤ませるエマと、それに感化され溢れるノーマンの心。涙をためておくコップは、ここにはないのだ。
圧倒的なパワーに押し込まれた二人は、それでも藁にすがるように希望を抱きしめ、約束の手を伸ばす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
白けた真実を冷静に見据えるノーマンは、その約束に少し遅れて、でも確かに重ねる。それが気休めでも、約束があるのならば戦える
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ここの一瞬のディレイは、茜色の夕焼けの中で交わした約束があくまで無力で、世界にはもっと大きな絶望が広がっている結末に、上手く繋がっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
ノーマンの優秀な頭脳派、そんな世界の実態をうっすら感覚している。このガキっぽい慰め合いじゃ、命をもぎ取ることなど出来やしないのだと。
そんなことは、足を折られたエマも、己を見失っていくレイも知っている。だけど真実絶望に身を投げたら、二度と立ち上がれないから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
自分たちの胸の中で赤く脈打つ生存への希求を、絶望に投げ捨てることは出来ないから。
だから、嘘と知りつつ約束を握りしめる。
この健気さが、ハラハラする脱出シーケンスと、その果てにある断絶を際立たせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
青く、青く、広く。まるで希望そのもののように美しい空の下には、バックリと巨大な子宮が口を開けている。
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どこまでいっても”母”の肚の中、逃げ出すことなど不可能なまま、子守唄に抱かれて屠殺されなさい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
そういう”ママ”(が子供であることを諦めて、その走狗となった世界)の残酷な牙が、一発で納得できる良い”絵”だった。
ありがとう、最悪の気分だ…。
”崖”を目にしたノーマンは、世界の果てから帰還して母なる絶望に身を投げる。その疲れ果てた表情、死刑囚のような足取り。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
垂直と水平が緊張を孕んで交わるレイアウトの中、ノーマンは”ママ”に接近し、その影に塗りつぶされる。
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ノーマンが一度、二度、蛇口の前、扉の前で振り払ったはずの絶望の陰り。それは”ママ”から伸びて、彼を喰う。(あるいは戻す)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
エマやレイが身を置く希望の光から、ズルリと抜け出して一足先、死の影に身を投げてしまう。その黒はつまり、壁の向こうに見た断崖の色だ。
光が一瞬見え隠れするからこそ、影の深さと容赦の無さは際立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
ノーマンを救う企ては軒並み失敗し、彼は”出荷”される。
人間の尊厳と勇気は地に落ち、英明な少年は家畜に落ちる。”母”の言うままに生き、眠り、死ぬ無力な子供に。
バッドエンド、デッドエンド。行き詰まりである。
このどん底地獄を鮮明に演出したということは、そこから這い上がるカタルシスが準備されている、ということだろう。それが劇作の常道である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
だが、お約束やダンドリ感とはこの絶望…希望がかすかに見えその温もりを尊いと思わせたからこその断崖、無縁である。マジですげぇ絶望感。
ここから、どんな物語が展開していくのか。非常に楽しみでもあるし、ノーマン少年が死地に向かう物語を見たくない気持ちもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
いやマージーさー、一人間として当然の震えに押し込まれつつ、それでも一筋の希望と愛のために笑顔と平静の仮面を被ったあの子がさー、死ぬわけ? マージーでー。
『こんだけ優秀極まるのは、体重預けきったところでガクンとブッ飛ばすためだろうなぁ…』などと、賢しい予防線を張っても来た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年3月21日
しかしまぁ、キツい。キツいんだが、見ないわけにも行かない。先を知りたいが、先を知りたくない。サスペンスを見るには最高の精神状態である。次回も楽しみ。