どろろ を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
父、母、弟。
血縁の全てに呪われ、その身体を損して百鬼丸は母国を去った。
心を閉ざす兄を前に、どろろはひょうげ、偽りの希望と争いを差し出す。嘘も方便と回る舌を、白面不動が見逃さぬ。親はなくとも子は育つ。つぶやいた心の奥で、消えない慕情が涙に霞む。
そんな感じの2クール目開幕! OP・ED新調の乱世地獄旅である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
OPの『運命のバトルの果てに、兄妹は何を見るのか……』的土六オーラ、作品にあってんのかあってないのかかなり悩ましいな…ハードコアが過ぎるけど、根本的には正統派少年漫画ではある。あるんだが…。
さておき、家族全てに否定され、母国を追い出された百鬼丸。どろろちゃんはそんな兄貴の心と体を献身的にケアするが、心を閉ざした兄貴はなかなか自分と世界に優しく出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
顔を無くした仏師の業と温もりに触れることで、二人の距離は少し変わる。
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冒頭の薄暗い闇から、鬼神との邂逅を経て明るい道へ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
あるいは赤紫の地獄を秘めた滝壺から、温もりに満ちた癒やしの湯へ。
今回のお話は、そういう位相の変化を伴ったお話である。
それは明王と菩薩が、別の仏に見えつつただその現れを変え、同じ仏の慈悲を背負った存在であることに、少し似ている。
おかかは時代のニーズに乗り切れず、無念のうちに果てた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
菩薩の穏やかな救いよりも、明王のあらたかな霊験を求める乱世の世相。
しかし法は、そこに差異はないと教える。悪鬼を折伏する荒々しさも、悟りへ導く知恵も、業を包み込む優しさも、それは現れ方の差異であり、根源は同じ場所からでていると
そういう智慧が失われ、法が法として機能しないからこその乱世である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
第一話冒頭、上人は醍醐に切り捨てられたことを喜ぶ。乱世の懊悩が信心を焼き、仏を失うよりも死ぬが救い。そういう時代である。
表(おもて、あるいは面)だけが上滑りし、真実大事なものを取りこぼす時代。
国という器は、なんのために存在しているのか。醍醐一家はこれに悩み、百鬼丸を鬼神と呪った。代償は、弟の目、母の喉。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
父だけが体を損なわないのは、全てを奪われた百鬼丸に親しい状況に身を置き、その苦しみを己のものと背負わない頑なさの現れか。
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彼らの喪失、求める面目と国体については今後語られるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
とまれ、百鬼丸は求めて手を伸ばした家族からはじき出され、面汚しと罵られる。このときの”面”は物理的な顔では、当然ない。
体外的なペルソナ、社会的な体面。FaithでありFaceであるような『顔』を、百鬼丸は持てないわけだ。
そういう意味では、社会の期待に答えようと仏心を無くし、功名に踊ったおかか(と、その業の結集たる白面不動)と、百鬼丸は似通っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
『この国にとっての鬼神』と弟に呪われた男にとって、家族ではなく殺すべき化物こそが、自分の鏡となりうる。
盲た瞳は、母の顔を見知らぬ。だからこそ惑わぬ。
白面不動が求めていたのは、形のない栄光だ。だから百万人を殺し顔を奪っても、けして満たされない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
仏の有り様を刻み込む仏師として、本来求めていたものは何か。人として本来追い求めていたぬくもりは何か。
おかかはどろろに触れることで、死人から人に戻って、不動に斬られて死に直す。
おかかが刻み作り上げたはずの不動が、仏師の遺骸を支配する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
あべこべの関係は像容にも及んでおり、煩悩悪鬼を切り開くはずの倶利伽羅剣は生身の人間を切り裂き、迷える衆生を縛り上げてでも救う羂索は、哀れな子供を生贄に変える。
尊いはずの法具が、人殺しの道具に堕する。乱世である。
親に見捨てられた百鬼丸を、どろろは『親なんていなくても生きてられらぁ!』と勇気づける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
しかしそのどろろが一番、父を、母を求めている。当たり前である。彼女はただの小さな子供なのだ。この乱世に生きる人、全てが実はそうであるように。
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母を偽り、命を繋ぐ食事に薬を混ぜる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
幻の安楽に身を寄せたどろろは、顔を探るおかかの手を…どうしたかったのだろうか?
跳ね除けたかったのか。
抱きしめたかったのか。
望まず孤児として世界に投げ出され、母を求めつつ満たされない少女の指は、複雑な表情を宿す。
怪物の中に人間を見、偽りの中に真実を見つける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
どろろは時分を抱きとめてくれたおかかの温もりが、死人であっても宿す真心が確かだと肌で感じたからこそ、斬るのではなく抱きしめる解決を求めたのだろう。
それは明王の裁きではなく、菩薩の慈悲、如来の智慧の現れか。
しかし悪鬼は確かに世界にあって、世の中は乱れている。抱きしめるだけでは死んでしまう世界にあって、百鬼丸は刃を取り、戦い勝利する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
そういう意味でも、ちょっと3Dアクションゲームめいた今回のVS不動、鏡合わせのミラーマッチであったな。
作り物の顔を樹海に与えられた男と、顔なしの不動。
表情固定の能面であっても、”顔”があることは百鬼丸の社会性を担保し、人間として人間と対応する能力を保証する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
顔のない白面不動(を生み出したおかか)は、得意とする菩薩ではなく明王を求める武の世界に、合わせる顔がなくなってしまった結果、無念に支配されて悪行を為す。
その無念を受け止め、あるいは切り捨てる道行きは、人がどんな顔をして乱世を生きていけばいいか探る旅でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
結局おかかは、不動に顔を与えられなかった。死に盲た視界の中で、指でどろろの顔を探る。本来作りたかった、菩薩の顔。
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母の温もりを、一瞬の幻でも蘇らせてくれた怪物に、どろろは笑顔で報いる。涙を噛み殺し、散りゆく命に一瞬の救いを与えるべく、少女は笑う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
それは世の苦しみ全てを噛み殺し、憤怒相を維持している明王の顔に、どこか似ている気がする。鬼も少女も本当は、哭きたいのかもしれない。
泣きたい時に笑って、優しくしたいのに突き放して、嘘だとしててすがる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
何もかもが裏腹な世間の中で、それでも何かが通じ合うのなら。
どろろはそういうモノを信じておかかに顔を委ね、百鬼丸の世話をする。そして、百鬼丸もそれに答える。あ…兄貴がデレた!!(大事件)
言葉を使い慣れていない百鬼丸がぶっきらぼうに、しかし確かにどろろへの気遣いを言葉にした時、恥ずかしながら落涙してしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
寿海に手を伸ばした時、ミオを抱きしめた時。鬼子が確かに抱いていた人の優しさが、ようやく言葉になってきた。顔を手に入れてきた。
それは優しさの産声なのだ。
今回そうであったように、乱世はその輝きを幾らでも試すだろう。親兄弟が石を投げて罵り、手に入れたものは奪われるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
それでも。
それでもと言えるだけの絆を積み上げながら、運命の兄妹は道をゆく。時に晴れ、時に曇るだろう。血の雨も降るだろう。
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それでも、二人は行く。生きているから生きようとする命を、精一杯真っ当しようと進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
そんな主役の歩みに、上手く寄り添えなかった亡者が今回死んだ。
指で見取った最後の顔は、仏か鬼か。菩薩か明王か。
見た人により、答えは分かれるだろう。それがとてもいいと思う。
どでかく血縁が揺れた醍醐国の物語に比べれば、コンパクトなエピソード。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
しかし三輪身を巧みに取り込み、乱世の複雑さ、”面/顔”の意味、慈悲と刃の交錯点を深く彫り込んだ、とても印象に残るエピソードでした。
こういう小回りのきいたエピソードがよく刺さる形してるの、ほんといいと思う。
ほいでもってどろろChangの背中の地図が、後半を揺らす伏線として浮かび上がってくる、と。醍醐の血縁と合わせて、終盤を支える柱になるか、否か。なかなか楽しみなところです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年4月8日
2クール目も乱世の諸相、人間の有り様、様々な知恵が混じり合い、強いうねりを生むどろろ。来週も楽しみですね。