ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
イングランドを侵すデーンの大波に乗り、アシェラッド戦士団はロンドンを囲う。
それを遮る、万夫不当の巨躯、”のっぽ”のトルケル。
旧きサーガから飛び出したような生粋の戦士に、牙を突き立てれば、父の仇を雪げる。
餓狼(トルフィン)、二刀の牙が鳴った。
というわけで一人世紀末、ヴァルハラから降りてきたエインヘッリャが大暴れな、ロンドン攻囲戦(撤退)のお話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
歯をむき出しに肉を喰らい、人を殺して女をさらう。生臭いヴァイキング動物ばかり見てきたので、神話時代の価値観で生きてるトルケルは、妙に爽やかであった。
お話はトルケルの無茶苦茶な力量とキャラクターをゾバーンと叩きつけ、主人公が野良犬のように地べたを這う展開。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
イングランド人が矢を射かけ石を投げる中、巨大な丸太を対艦ミサイルのようにぶん投げるトルケルの武者振りは、圧巻の異質さだ。完全に”平家物語”の住人だな…時代少しズレるけど。
それはメンタリティも同じで、時代の潮目は見えるのに、勝ち戦は面白くねぇと常勝デーン軍に背を向け、言葉も通じないイングランド陣営に身を寄せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
金、栄光、領地。根本的な部分で変化しつつあるシステムに迎合せず、旧い戦士の血を滾らせる。トールズとは別の意味で”真の戦士”である。
それは絶滅危惧種の生き方でしかなく、トルケルが堂々立ち続けるのは、ただただ”強い”という一点にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
同時につまらない人間のカルマに流されず、しがらみを超越する生き方は妙に人を惹き付けもする。
知性と武力という意味ではアシェラッドに似てるけど、鬱屈と退屈のなさは正反対だなぁ…。
アシェラッドがトルフィンをけしかけたのは、そんな退屈を潰す意味合いもあったろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
小兵と巨人、スペクタクルな見世物をリアルな戦場でも求めるほど、憂んだ視線を元実に投げる。
ビョルンの戦狂いを聞いて、調子よくノセてる所が『あー、ヴァイキング嫌いなんだな…』って感じた。
アシェラッドは戦の誇りを兵器で汚し、他人の尊厳を踏みにじって勝ちを拾う。トールズ戦でも、前回のトルフィンとの決闘でもそうである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
それは賢い、新しい生き方だ。親を殺されたトルフィンは、それに反発して”戦士の誇り”にしがみつくことで、なんとか魂を生き延びさせている。
のだが、今回対峙する”敵”たるトルケルにこそ、”戦士の誇り”は体現されている。
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死地に笑い、好ましき益荒男を堂々受け止めること。殺し合いに法を見出し、迷わず進むこと。
そんな爽やかな生き方は、自動的にハラワタと血の匂いを連れてくる。どっちにしても人は死ぬのだ。
肩を外され、”戦士の誇り”に満ちた戦いを楽しむことも出来ず、トルフィンは怪物を毒づく。泳ぎ去るトルフィンに、トルケルが(これまでの登場人物で唯一)戦士としての声をかけたのとは正反対だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
トルフィン少年は、つくづく戦いが嫌いなのだ。
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トルケルにせき止められた時代の波は、ロンドンを迂回してウェセックスへ流れていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
暴力と略奪に悩むことのない”ヴァイキング”に混じりつつ、トルフィンは怪物を呪う。だがその波に乗るなら、彼もまた”ヴァイキング”だ。
その矛盾、”息子”のカルマを、アシェラッドは楽しそうに嘲笑う。
決闘の法に基づいて、父の名誉をすすぐ。そのためには、大嫌いな怪物になって、怪物を殺しまくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
矛盾したループに便利に乗せられて、アシェラッド戦士団の一員として戦い続ける修羅道。トルケルが体現する旧き”戦士の誇り”も、怪物の狂気にしか見えないまま、決闘という餌を追い続ける野良犬。
トルフィンの困窮が、スペクタクルの中にじわりと滲んで、なんとも悲しい話であった。ここまで行き着いてしまったし、ここまで来てしまった以上、地獄で溺れきるしか進む道もない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
溺れる犬を笑いながら、アシェラッドは何を求めるのか。
彼もまた、抜け出せないループの中にいる…ように思う。
鬱屈して重たい話だけに、トルケルの突き抜けた戦人ぶりは爽快だ。しかし彼も””ヴァイキング”であり、貨幣より血に酔う奴隷であることには変わりがない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
あそこまで突き抜けてしまうと、運命に従属している感じがどっかにぶっ飛んでって、『まぁ、これはこれで』感があるけども。
貨幣経済の発展、キリスト教的価値観の一般化と、個人の悪戦苦闘の裏に大きな時代の流れが透けて見えるのは、結構面白かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
クヌートはキリストを学んで弱くなり、トール神の息子たるトルケルはただただ強い。
さて、”強さ/弱さ”は生きることにどう響くのやら。
アシェラッドとトルフィン、トルケル(に投影される戦士トールズ)が血みどろの綱引きをする裏で、スヴェン王とクヌート、彼を守りたい”父”の闘争が、静かに動いてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
ロンドン包囲軍に戦士団が取り込まれることで、クヌートと主役が出会う流れか?
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スヴェン王がクヌートをどんどん窮地に追いやっていて、『この話で”獅子は千尋の谷に…”はねーわな。殺したいんだろうな…』と、薄暗い顔になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
運命が苛烈な方向に流れているのを知りつつ、臣下の立場故に抗えない。愛ゆえにクヌートを切れない。
ラグナルおじさんも辛いねぇ…。
自分を支える”戦士の誇り”を実体化した、トルケルを怪物としか見れないトルフィン。”ヴァイキング”を呪いつつ、その殺戮と欲望に一体化し、運命に身を任せるしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年9月3日
人は皆奴隷。全てが開放される瞬間を夢見つつ、流されていく。
冬が来る。ブリトンのヴァイキングを、何が待つか。来週も楽しみ。