※訂正
×ラグネル→○ラグナル です。訂正させていただきます。
ヴィンランド・サガを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
窮地からクヌート王子を救出し、成り上がりを試みるアシェラッド。故地、ウェールズからの当然の反発を、弁舌と度胸で乗り越え進む。
貴種たる責務を果たせないクヌートを、トルフィンが鼻で笑う。冷たい嵐を前に、否応なく吹き荒れる暴力と政治が、雛を育てる。
というわけで、ウェールズ大政治絵巻、アシェラッドの起源開陳エピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
伝家の宝刀というやつは、抜かないからこそ意味がある。暴力を政治の道具とわきまえ、冷静に理を交換する頭領。何も知らず、暴力の中で生き死んでいく凡愚たち。その温度差が良く見えるお話だ。
クヌートはその血と立場からして、アシェラッドが泳ぎきった複雑な政治に身を浸す運命にある。しかし狐の巣たる宮廷での経験が、優しきラグネルの背中を壁にして、そこから遠ざけている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
北海帝国の盟主。アシェラッドが向き合った小王国なんぞ比べ物にならない大舞台を、将来踏む英傑の幼年期。
雛を巣立たせるためには、”父”が邪魔。ありのまま、”公”の責務を果たせなくても”私”で良いと、”母”のように認めてくれるラグネルは私人としては理想的な”親”である。
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だが、アシェラッドの野望(それはウェールズの平穏を願う赤心でもある)はそんな退却を許さない。担ぐなら、担ぎ甲斐がある神輿を。
『ならば壁を壊して、政治と暴力の荒波に直接向き合ってもらおうか』と決意を固める瞬間、そうさせるだけの理由を描くのが、今回の外交交渉であろう。
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OPで露骨死ぬオーラだしてるラグネルおじさんだけど、まぁ死ぬなぁこれ…死なない理由がない。
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奪われ、虐げられた母のためにアシェラッドは川を渡り、その遺骸を故郷に返した。母の眠る場所は、”ヴァイキング”の汚れた蛮地よりも遥かに故郷である。
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清廉の匂う若武者が、禿げ上がった奸智を宿すまでの歩み。”ヴァイキング”を装い、野心を隠す日々
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アシェラッドが100人の戦士団を抱えるまでになった激闘を思うと、なかなかに回想が重たい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
母を故郷に返した時、彼は”ウェールズ人”になろうとはしなかった。”ヴァイキング”として、”故郷”に帰った。
その決断をさせたのは、キリスト坊主いうところの”愛”であろうか。
黄金よりも血肉よりも重たく、それがなければ全てが意味をなさないモノ。アシェラッドにとってそれは”母”であったと判ると、”ヴァイキング”への、略奪と破壊への軽蔑にも、納得がいく。
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奪われたものの尊厳を守るために、誰かの尊厳を踏みにじる。そういう生き方しか選べなかったとしても、愛は愛だ。
因果は応報する。”ヨームの戦鬼”としてたっぷり殺したトールズ父さんは、かつての自分のように暴力の只中で悩むアシェラッドに殺された。
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ウェールズのためにイングランドを踏みにじるアシェラッドも、父の仇のために”ヴァイキング”でいるトルフィンも、またいつか報いを受けるだろう。
愛から始まったはずなのに、憎悪にまみれて奪って殺す。あるいは武器を手放して、無力の中に沈み込んでいく。
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そういう生き方しかできない歪みは、人が生まれ落ちたときから抱えた業だ。時代を超え、あらゆる場所に偏在する。
そういうものが作品に滲むから、僕はこのお話好きなのだろう。
戦士には戦士の業があり、王には王の務めがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
ウェールズ語と古ノルド語、お互いの言葉がバーバーすれ違う(”Barbarian”の語源であるな)ディスコミュニケーションの中で、アシェラッドはクヌートに龍声を望む。
王たる責務を、己のように果たせ
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そんな願いはラグネルおじさんの背中と顔面に阻まれ、宮廷の記憶に邪魔される。
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スヴェン王が露骨悪徳まみれなので、その宮廷はまさに蛇の巣なのだろう。血みどろのトラウマが、クヌートから声を奪い、臆病を育てる。
そんな弱いクヌートが、ラグネルは大事でしょうがないのだ。優しいおじさん…。
しかし血は望むと望まざると、貴種の特権と責務を与える。アシェラッドが”ヴァイキング”に混じって故地・ウェールズを守るように、デーン人の王子たるクヌートには発せねばならない言葉がある。
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それは”父”にして”母”たるラグネルの背中に隠れては、表に出ない資質だ。
というわけで、アシェラッドの腹は『(…殺すか)』で座る。
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自分の政治的、心情的理念を完遂するためには、クヌートに王たる資質を発揮してもらわなければ困るのだ。そのためには、ラグネルのデカい背中は邪魔である。
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クヌートが(それこそトルフィンのように)のどかな一私人であれば、ラグネルおじさんに守られ優しく、弱く生きていくことも出来ただろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
しかし彼はデンマーク王子であり、未来のイングランド=デンマーク=ノルウェーを統べる皇帝である。政治の現場で、必要なことが言えません! じゃ困るのだ。
今回の裏テーマは”言葉”かなぁ、とも思う。ウェールズの言葉はアシェラッドにとって、ただの外交ツールではなく民族的、地域的アイデンティティの拠り所だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
ヴァイキングにとっては異人でも、彼にとっては故郷だった。学び、収めた。その結果、アッサーと同胞として、対等に政治をすることも出来る。
しかし何も知らないヴァイキングにとって、首領の喋るウェールズ語は『よく解かんねぇバルバル』でしかなく、それを喋る首領への不信感も募っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
それは理由のないものではない。何しろ、古ノルド語を喋る”ヴァイキング”が、頭領大嫌いなんだから。”ヴァイキング”である自分も嫌いだなコレ…。
敵と通じ合い、不要な暴力行使を避けるためのメディアが、身内の不和を強めていく。
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発するべき場所で発せられなかったクヌートの言葉が、実は結構な深謀遠慮の結果だったと判る。
剣を鞘に収め、言葉を使った今回はロゴスの多彩な顔を追うエピソードと言える。
暴力行使はあくまでデモンストレーション。王子の発言も茶番。そこら辺の実情をしっかり踏まえて、ウェールズ人たちは構えず話す。苔むした丘の上、率直で穏やかな話し合い。
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そこからはじき出された”ヴァイキング”の視線。ビョルン…お前マジ…
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ウェールズ語、アシェラッドの過去を解らないまま、頭領に焦がれ信じるビョルンは、”ヴァイキング”としてのアシェラッドを愛している。
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それがウェールズに操を捧げた演技でしかなくても、強く荒くれたアシェラッドは、”ヴァイキング”的価値観の理想を体現する。仮面でしかなくても、立派な蛮族なのだ
その視線を、アシェラッドは理解しつつ跳ね除ける。副官たるビョルンは、アッサーとの対話に連れて行ってもらえないのだ。
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その態度は、いつか”ヴァイキング”からの反撃を招くだろう。嘘だフリだと誤魔化していても、手を血で染めた因果は身に変える。愛に愛で応えなければ、刃が迫る。
ここら辺の真実と嘘の照応関係は、トルフィンとも通じる部分だろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
親の仇のため、敵として隣りにいる。その言い訳がもう血みどろなことは、ここまででたっぷり描写されてきた。どれだけ憎んでも、トルフィンは立派な”ヴァイキング”なのだ。ビョルンの目に映る、アシェラッドのように。
ウェールズ人同士の秘密、覆いのない本音を交換しあって通じたように見えて、アシェラッドが軍事力、政治力の優越を確認する所が好きだ。
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『殴り合っても勝てるし、王子を傷つけるとデンマーク全体が敵に回るよ?』と、抜かない県の鋭さを確認した上で、友好的に状況を作る。交渉が上手い。
その上で、アシェラッドは率直にウェールズ風土への愛情を視線に乗せ、デーン人への軽蔑を高いところから投げ下ろす。
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先週印象的だった馬上の傲慢と危うさが、今回もひっそり画面で息づいてる。ホント”ヴァイキング”嫌いだな君…。
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クヌートを王位まで引っぱり上げて、その功労を持ってデンマーク中枢に食い込む。政治を動かす立場を手に入れ、ウェールズを守り切る。
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そのためには、下らねぇ切り剥ぎだってやる。奪って殺して、本当に生き様を預けれそうだった男の首だって、自分でもぎ取ってやる。
そんな、過程と心を押し殺した選択がとんでもない破滅に繋がっていそうな気配も、ジリジリと匂い立っている。
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『結論だけ正しければ、何をやっても良い』という安直なプラグマティズムもどきを、このお話は許さない。
間違った手段、間違った認識から生まれる行動は、間違った結末しか生み出さないのだ
故郷ウェールズを守るための、遠大な自己犠牲。それに巻き込まれる民草の地で、既に物語は汚れている。
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このツケをアシェラッドがどう支払うかは、非常に楽しみだ。まー凄いことにはなるんだろうなぁ…そこに至るまでに、業を山と積み重ねること含めて。
さて、アッサーの面子を立てるために茶番は続く。『武器よさらば』と捕縛を演じて、ウェールズを行くヴァイキングの足取りは思う。
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略奪なし、説明なし。頭のいい親方に付いていくにしても、少しは納得させてくれよ。
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そんな倦怠が、ウェールズ人民の好機の視線で加速する。
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『ぶっ飛ばしてやろうか!』という吠え声も、異邦人には蛮人の寝言、通じるはずもない。
ジリジリじりじり、アシェラッド戦士団にストレスが溜まっていく描写が堪らねぇ…ぜってぇ背中から刺されるなコレ。
そんな状況をのんきに進む、クヌートの特別な輿。唯一帯剣を許された場所で、王子は兵士に煽られて言葉を紡ぐ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
臆病ではない。慎重なだけだ!
自分の重さを知っているからこその沈黙、それを破る激情に、歩みが思わず止まる。
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一足先に身を隠す”父”の背中を奪われたトルフィンが、王子を動かす特別な存在になるところとか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
ただの臆病ではなく、自分の立場と状況を把握した上での沈黙だと、ラグネルおじさんも知らなかったりとか。
半分珍獣を見る目でも、その言葉が人の目をひきつけ、未来の王器を予感させたりとか。
トルフィンはさんざん率直に煽って、クヌートを”父”の庇護から引っ張り出す。思いの外英明な資質を、兵団と視聴者に教えてくれる。
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そんな彼に、もう”父”はいない。剣を納めろという教えを横にのけて、復讐の刃を背中に刺す生き方を選んでしまった。
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長い”ヴァイキング”生活で荒んだトルフィンには、優しいおじさんに守ってもらえるクヌートが、心の何処かで羨ましいのかも知れない。
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軽い嫉妬が焦げ付く同年代の煽りで、王子が保護膜から出てくるのは微笑ましくもあるが、待ってるのは爽やかな青春ではなく、血みどろ謀略大暴力だからなぁ…。
そこを泳ぐための武器として、クヌートの秘めた英明さ、言葉の強さは大事になるのだろう。何しろ未来の大英雄なんだから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
北海の覇者が生まれるまでの苛酷な試練としても、このブリテン行は機能するのだろう。雛は雛のままではない。残酷な風が、英雄に翼を与える運命は…まだ遠い。
異国の行軍は重い。さっぱりと奪い、肉を噛んで次の日には殺される。殺戮動物(ヴァイキング)にとって、ウェールズの雪は余りに冷たい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
不満たらたらの兵団と、曇天を睨むアシェラッドの渋い顔。余りに場違いな、クヌートの天真。王子かわいい…。
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『どーせデーン人には、何言ったって分かりゃしねぇよ』と言葉を飾ることなく、アシェラッドは敵地横断の道を選ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
二叉路の先に待つのは、栄光か破滅か。男たちはまた一つ、ルビコンの岸を渡る。ろくでもない色合いの空をにらみ、行軍は続く。
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そんな感じの、ウェールズ外交日記でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
ヴァイキングが散々激発させてきた暴力を”使わない”ことが、より理にかなった結果を引っ張ってくる。
その事に気づいて実行もできるアシェラッドの非・ヴァイキング性が、そのルーツの開示、目的の表明でより鮮明になるお話でした。見応えあったねぇ…。
『外交を器用に泳いで、スーパーサクセスだぜ! 目指せ、デーン宮廷からのウェールズ防衛!』と調子いい感じに書いておいて、足元の蛮人共はへろっへろに疲れ果て、不信感を募らせている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
栄光と破滅がチラチラ点滅するさまが、なかなかに刺激的です。いやー、酷いことになりそうだね!!(歓喜)
そこに並走する形で、クヌートを守り閉じ込める”父”の背中、そこから引っ張り出すトルフィンも書かれました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) October 6, 2019
同年代の二人の交流は微笑ましいけども、のんきに青春できる状況でもなく。約束された”父”の剥奪、英雄の覚醒がどう描かれるかも興味深い。
異国の行軍は続く。次回も楽しみ。