星合の街を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
忙しい母に変わり、家事全般をこなす眞己。転校した街で幼馴染・柊真に再開した彼は、ソフトテニス部に誘われる。
夏までに、最低一勝。部存続のため、一月一万円で部に入る眞己は、余りに重たい傷を抱えていた。
それぞれの軋みを飲み込む、夏が始まる。
というわけで、”ノエイン”赤根和樹監督の青春ど真ん中群像劇である。角の取れたデザインを最大限活かし、透明度の高い青春をスルスルと進めていく…と思わせておいて、最後の最後に文字通り殴りつけてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
そこまでの描写全てが反転する、生々しい痛み。一筋縄ではいかないぞ、と作品が挨拶する。
素晴らしく強く、重たいヒキにぐっと引き込まれたが、前半の爽やかさが嘘なわけではないし、そこにもまた葛藤があり、間違いがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
そんな凸凹や痛みを、ソフトテニスをやることでどう変えていくのか。虐待の痛みが、のどかでありふれた青春を一気に相転移させていく。
お話は主人公、眞己が引っ越ししてくるところから始まる。エレベーターを待っていられず、一気に駆け上がる青年の熱量、まとう風の気持ちよさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
出だしから情報の圧縮率が高く、なおかつ食べやすい。そしてこの飲み込みやすさが、全て最後にひっくり返る。
それはそこまでの蓄積が嘘になる、ということではなく、見落としていた情報、引っかかっていた違和感が別の顔を見せてくる、という意味だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
家事ができて偉い。元気に真っすぐ走って好ましい。
学園の面汚し共の、無気力な試合と対比されることで生まれる、眞己への好感。
それは最後にあの描写があることで、父に殴り倒され金を奪われる惨めさから、どうにか家族と自分を守ろうとする必死の行動なのだと、強制的に腑に落ちる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
自分がしっかりしなければ、怪物に家が食われてしまう。だから、しっかりしなければいけない。
彼の快活は、そういうサバイバルの道具でもある。
今まで見ていたものが、ぐっとひっくり返る衝撃と快楽。これを成立させるために、前半はやや弛緩して、しかし巧妙に心地よい物語が展開する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
ぼんくら部員のクソぼんくら力の描写とか、ぼんくら過ぎてビビるよマジ。
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クソバカどものやる気の無さがちゃんと刺さればこそ、柊真くんの過剰な力みと間違えっぷりにも納得がいく。それが眞己を巻き込んで、部活が始まっていく展開にトルクが生まれる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
部が続くの、続かないの。そういうレイヤーでのんきに守られているぼんくらと、眞己のシリアスさの断絶も目立つ。
夏までに、結果を出さなきゃ廃部。よくある青春部活モノのプロトコルに乗っかって、状況は進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
死の宣告を果たした生徒会長・絹代ちゃんがふくよか美人で素晴らしい。声も真綾だし、ガンガン出しなさいよ今後も!!
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細やかに描画は積まれていく。ヌケたママ(こういう名塚佳織はやっぱり最高)の商売道具を、優しく手渡す手付き。明るい笑顔が剥げたあとの、ゴミ袋と暗転。それでも追い抜いた同級生に、ちゃんと向き合って謝罪する礼節。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
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そういう人格、団地の閉塞が見えればこそ、最後の一撃がとてもつらい。凄く平凡な、でも清潔で風通しの良い青春を送れるという予断が生まれたところで、眞己とお話を好きになったところで、思い切り殴りつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
素晴らしく上手い裏切りで、同時にその前提もけして嘘ではなくて…唸らされる。
柊真もまた、問題を抱えていることはジワジワ描画される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
巨大で空っぽな食卓。怯える母。眞己の(表面上の)充実と対応させることで、もう一人の主人公が抱える、もう一つの問題もあぶり出しにされていく。
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柊真の問題は視界が狭すぎること、強引に過ぎることだ。無気力に苛立つ体温を、どう部員に伝えたら良いかはわからない。安易に銭金を持ち出して、凄く繊細な眞己の問題に、土足で踏み込んでしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
そういう真っ直ぐ過ぎる人格が、どう変化しどう生きるのか。そこも今後の見どころとなろう。
どちらにしても、天文年鑑が好きな変わり者の少年と、クズどものトップとして鼻息荒い少年はもう一度出会い直す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
壁に貼り付けられた勝敗格差が、柊真の焦りを上手く補足している感じ。
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ソフトテニス部の救世主になるだろう眞己の運動能力を、可愛い猫キャッチでヴィヴィッドに見せる流れとか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
変人っぽく『お構いなく』と挨拶したのも、自分を守る処世術の一環かと、後で思わされたり。
スルッと気持ちよく、素直に入ってくる部分と、ザラリと逆さに刺さる部分の共存が心地よい真ん中。
かくして(表面上は)ありふれた青春が着実に進んでいき、物語はマジックアワーにたどり着く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
夜と昼、青と赤が同居する美しい時間。画面は特別な濃淡で彩られ、特別な瞬間を切り取ってくる。
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柊真の焦りは、(僕らと同じく)眞己の事情を何も知らないまま、部活という贅沢を押し付ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
広い部屋、たくさんの道具、恵まれた金。どれだけ望んでも手に入らない、額縁の中の月を押し付ける傲慢に、眞己は強く苛立つ。その苛立ちを、ボンボンの柊真は見ることが出来ない。
回想の爽やかな緑は、眞己が囚われた薄暗さと対比をなす。そういうピカピカの、お坊ちゃんの贅沢が遠い場所に幼馴染がいるのに、目を向けられない欠落。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
そういうモノを埋めていくのが、青春という時代だろうか。
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眞己はナイーブな場所に土足で踏み込まれた苛立ちで、無茶な条件を差し出す。金の重たさをイヤってほど知っているから、条件として銭を要求した。自分には届かないものだから、出せないだろうと求めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
爽やかな青春譚に似合わない苦さは、後々仕込まれた爆薬として炸裂することになる。
柊真は(視聴者、というか僕)と同じく、そういう屈折を見逃して恵まれた場所からラケットを差し出し、部活に眞己を引っ張り込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
その無神経な強引さが、ずっと傷ついてきた少年の世界を変える助けになってほしいなと、今は思う。そうでもしなきゃ、あの檻は壊せんだろ…。
回想シーンですでに腫れている頬と、未来に向けて飛んでいくかもめ。二人の満ち足りた物語は、無事にスタートしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
美しい河川敷。すれ違いと偽悪と強引と颯爽が入り交じる、どこにでもある中学二年のサーガ。
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『なんだかおかしな事になっちゃったけど、まぁ悪くないかな』とでも言うように、ゆっくりと振られるラケット。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
脇目もふらず、ただ真っ直ぐに暴走していく青春。
それが鮮烈に、美しく描かれていればこそ。眞己と柊真の物語が、こちらの期待を静かに煽る出だしだからこそ。
それがみっしりとぶち壊しにされる父の来訪…襲撃は辛い。新しい制服、新しいラケット、しっかりとした生活。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
眞己が掴んだもの全てを閉ざす指。土足で踏みにじり、蹴り倒す脚。
か、勘弁してやってくれ!! その子はいい子なんだマジで!!
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『柊真の無遠慮なんぞ子供のお遊び、本当のクズはこういうもんだ!!』と言わんばかりに、小さく新しい幸福を殴り倒す暴力の生々しさ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
殴打シーンは堂々正面から描かれ、ショックはデカい。この急転換は、今までの穏やかな、でも悪くない物語の出だし全部を殴りつけてくるからだ。
第一話が丁寧に積んだ、作品への期待と信頼。キャラクターへの愛着と希望。そういうモノを的確に殴りつけれるよう、細やかに配慮し計算してここに辿り着いたことが、受けるショックから逆算できる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
”これ”を知ったあとだと、細かい描写の一個一個が刺さるんよホント…。よく出来とるわマジで。
父という異物が、世界を軋ませるほどの重力を持っていることを傾いだ画面が教えてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
ここ迄真っ直ぐ、歪みなく描かれてきた画面構成は、この歪みを鮮明に見せるためだったわけよね…エグいわ。そして上手いわ。
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『父が振るう暴力だけが、眞己と世界の真実だ』と描かれたら、この巧さを僕は褒めれなかったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
でも前半の真っ直ぐで風通しのいい空気は、その愚かしさも含め青春を慈しんでいて、そこを走っていく子供たちをちゃんと見ていた。”ここ”だけが全てではないと、構成自体が語っていた。
眞己が小さな部屋に抱え込んでいるものは、余りに重たい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
余裕と活力を持って前半を走り抜けた姿とは、余りに違う体育座り。
暴行を”しつけ”、窃盗を”借りてく”と言い換える、家族の奸智。
赤べこしかその現場を見ていない孤独。
全てが重く、キツい。
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前半の穏やかな青春絵巻で走りきれるだけの実力を、この第一話はしっかり示していた。それでもなお、最後にこれを持ってくるということは『やる』ということだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
すぐには治らない頬の傷が癒やされるところを、ソフトテニスを通じて描ききる、ということだ。
そうじゃなきゃ、扱っちゃいけない。
かなり鮮烈な挑戦状と覚悟を見せるヒキで、物語は次回に続く。この爆弾が作品を台無しにするか、成層圏までぶっ飛ばすブースターになるかは、難しい賭けだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
しかし勝てそうな巧さと知恵は、しっかり見せた。青春群像が抱えるそれぞれの陰りを、静かに切り取る手際の良さがすでに起動している。
眞己の真実を知らないまま、物語を始動させた柊真の無遠慮。母にすら言えない傷を抱えたまま、飄々を演じる眞己の健気。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
そういうものが混じり合って、白球にどう打つかるか。学園の恥晒したちが、どう変わっていくのか。
そういう期待感は、しっかり高まっている。
同時に作品が最後に触ったものは、とてもシリアスでナイーブで、”本気”でなきゃ扱っちゃいけないものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
創作の危険物取扱資格は、誠実によってしか発行されない。それをこのお話が持っているかどうかは、今後の描画で証明されていくだろう。
それを見届けたくなる腕力も、しっかり第一話に宿っていた
眞己がどういう子か、スッと入ってくる作りだったからこそ、マジであの殴打と窃盗が許せねぇよ俺は…ソフトテニスの青春力で、世の中の理不尽全部ぶっ飛ばしてくれよマジで!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月11日
そういうフラストレーションすらも、爆発力に変えていけるか。青春はこれからだ。次回も楽しみ。