BEASTARSを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
月光に狂う己を殺して、狼男は欠伸を噛む。か弱い兎をその腕に抱き、本能を暴れさせる寸前で立ち戻った日常。
煮え切らないモノローグと悩みで満ちた、思春期の心。様々な人と触れ合いながら、運命が転がる学舎。
その先に、再び白い花が待つ。
秘密の花園、イケない遊び。
というわけで、獣人学園ヒューマンドラマの第二話も、圧倒的なリッチさ、重厚感、美麗な世界構築がどどんと押し寄せる素晴らしい仕上がりであった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
前回はハルちゃんのモノローグ多め、”食われる側”たる草食小動物の視点で進んだけども、今回はレゴシの主観をたっぷり詰めた”喰う側”のお話だ。
と、本編に入る前に。OPが素晴らしかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
まさかの羊毛フェルトによる、人形アニメーション。描かれてみると、巧妙に丁寧に構築された世界をこれ以上写し取る表現もないな、と思わされる、スタイリッシュで暖かな造りだった。
楽曲の鋭さは前回のEDでよく刺さったけども、それをこう活かすとは…。
さてお話は前回から引き続き、月下運命の邂逅で始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
ハルちゃんは『食べられる側の無念』を抱えながら捕食(あるいは抱擁)されかかっていたが、レゴシは『食べる側の当惑』を内側に抱え続ける。
後半でも顔を出す、活動する自分を遠くから眺める視点。
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3Dモデル以外の場所で、かなりフレッシュな表現を使いこなしているのがこのアニメの強みだと思うけども、自分という輪郭の内側、あるいは外側にもうひとりの自分がいて、それを当惑しながら見つめている自分との合わせ鏡が、今回多様されている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
レゴシにとって、”自分”は妙に遠い存在なのだ。
それが融和・融合する瞬間は、抑え込んでいた食欲と同化し、社会的動物であることをやめる瞬間になる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
瞳を赤く輝かせ、牙をむき出しにする”自分”。それは曖昧な怪物であり、自分の”外側”から語りかけてくる他者として描かれている。
ハルちゃんを抱きとめる自分が、輪郭の”内側”にいるのとは対象的だ
レゴシは肉を食う動物としての自分を肯定していないし、それを肯定しない社会になんとか馴染もうとしている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
だから、自分の内側から湧き上がっているはずの食欲、タガの外れた肉食動物としての本音は”外側”にある。
しかし本音を外側に置いても、自分を上手く制御できるのかといえば、出来やしない。
自分の輪郭がひどくあやふやで、どんな欲望と願いを抱え込んでいるのかすら不鮮明な思春期。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
闇の中グニャグニャと形を変える狼男は、自分をうまく定義できず、だから制御も出来ない猫背のレゴシのセルフイメージを、的確に反射している。
ジュブナイルとして、非常に細やかに青年の”内側”を描いている
影の中で曖昧な自分と取っ組み合ってるレゴシに対し、ルイ先輩はとても立派に見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
しかし背筋を伸ばし、光の中を歩く彼もまた非常に複雑な内面を持っていて、レゴシとは別の抱擁で自分を傷つけていく。
落ちそうな仲間を、思わず抱きとめてしまう本能。
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強くてワルな自分を必死に演じつつも、彼の手は傷つけるためではなく、守るために誰かを抱いてしまう。其れは同時に、ルイ先輩自身を傷つけていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
ハルちゃんの腕を傷つけたレゴシの抱擁との差は、肉食/草食の区分にあるのか? それとも、彼ら自身の資質に?
このお話は肉食/草食が同居する世界を仮想し、その区分を非常に強力なものと規定しつつも、絶対的な差異と諦めはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
確かにそこに、太く太く引かれた境界線の上で揺れる”自分”が、何を求め、何を為しうるか。
非常に普遍的な思春期のゆらぎが、特殊な世界と設定を活かして浮き彫りにされていく。
レゴシは鏡の中に、得体のしれない怪物を見る。餌食をその腕に抱き、その芳香を吸い上げた時に湧き出した”自分”を、思わず殴りつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
歪んだ鏡に写っているのは、否定したい本能。しかしそれと向き合わなきゃ、社会に出ていくことは出来ない。
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『もう高校二年生なんだし、コミュニケーションしないとね!』という言葉が、ぼんやりと冴えない顔に突き刺さる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
対話は他者だけでなく、鏡に写った自分ともなされる。しかしそこに照らされるのが、本能に屈した怪物でしかないとしたら、自分のことを好きになれるのだろうか?
そういう、形もなく答えも出ないモヤモヤを抱えたまま、レゴシの冴えない学園生活は続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
肉食獣同士のケンカ(それが”じゃれ合い”だということは、噛み合った当事者が一緒に尻尾巻いて逃げ帰る仕草から見て取れる)に、思わず吠えてしまう苛立ち。
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ブレザーを颯爽と着こなして、ビースターへの階段を着実に上っていく学園の貴公子と、自分を押し殺し影に身を投げる狼男。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
交わるはずもない二人の運命は、草食/肉食、役者/裏方と、様々な境界線を絡み合わせながら、静かにスウィングしていく。俺もルイ先輩に黄色い声を上げてぇよ…。
ルイ先輩は、レゴシ自身が掴んでいないあやふやな輪郭を、結構高く評価している感じがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
力強さを押し殺し、影に身を潜めようとするシャイな性向。強さを演じ、日向に出る生き方をしていればこそ、正反対の陰りは眩しく見えるのかも知れない。
それはレゴシも同じで、コイツでルイ先輩好き過ぎ…。
裏方ながらそれなりに楽しい、青い光の対話。(先週散々尖っていたカイが、新しい居場所で結構充実してるのが青春っぽくて好き)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
その光はすぐさま、内省の影に飲み込まれていく。レゴシは考え込み、背中は”内側”に丸まっていく。
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思うのは傷んだ脚を引きずって、それでもなお光に向かって背筋を伸ばす男の姿だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
この光と影、ルイ先輩の痛みと強がりは凄く鮮烈な演出で、とても良かった。無敵のリア充に見えて、凄く複雑なものを抱え込んでいる青年なんです…。
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影と隣合わせの光の中で、真っ直ぐに伸びる草食獣の背筋。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
青い光の中で、陰りを内に溜め込んで曲がる肉食獣の背中。
アングルを共通にすることで、正反対の二人が、しかし同じ場所、同じ時間を共有し、お互いを鏡に思春期に向き合っている姿が、よく判る。その差異も。
レゴシは薄暗がりの園芸部を訪れ、再び香りを嗅ぐ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
紫色の芳香が花の形を取り、うさぎの形に丸まる表現が非常にフレッシュだ。狼の鋭い嗅覚が、目の前に提示されたような感覚を覚える。
こういう個別の表現が、全領域でキレてるの強いよなぁ…。
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闇の中で法要したときと同じように、状況はレゴシを置き去りに転がっていって、彼は自分を制御できないまま遠くから見ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
自分の中に投影される、美しい兎と花。ハルちゃんは自分よりも鮮明に、レゴシの中に突き刺さっていく。
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こういう特別な表現を活用することで、レゴシにとって彼女がどれだけ大きな存在で、自分一人では辿り着けないもの、見つけられないものを与えてくれるかがよく判るのが、表現として見事だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
美しいもの、特別な存在に出会ってしまった青年の、制御できないトキメキがスッと入ってくるもんな…。
レゴシの動揺を見て取ってか、コミカルな仕草で退場していくキビ。フルアニメーションっぽい、動きの面白さを生かした表現力が素晴らしい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
レゴシの表情の面白さもあるけど、首がヌッと伸びて、手が追いかけて消えてくモーションの気持ちよさが良いのよ…
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二人きりになって初めて、”学園の心臓”である庭園の美しさを、落ち着いてみることができる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
草薙の美術は相変わらず最高に冴えていて、花も建築も非常に綺麗だ。学園それ自体の聖域感は、アニメ化して手に入れた(たくさんの)強み(の一つ)だなぁ…。
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レゴシは膝を曲げ、ハルちゃんは高台の上に乗って、お互いの視線は対等の高さになる。そうなるように世界は調整されているし、それが普通で本当。
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…のはずなのだが、月下の逢瀬はそんな建前をぶち破ってしまった。自分の中の怪物、誰かを傷つけうる掌を、レゴシは反芻する。
レゴシの中に、ハルちゃんはどんどん積み重なっていく。捕食対象のはずなのに、溢れ出すほどに愛おしい誰か。空っぽであやふやな自分の輪郭を満たす、甘やかなかけがえなさ。
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レゴシはまだ、”それ”がどんな名前なのかを知らない。
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それでも、どれだけ特別な存在として花の中のハルちゃんを見つめているか、脳内写真展で見せる演出も良い。結構飛び道具な演出投げてくんだけども、スパッと刺さるところに刺さるのが巧いなぁ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
それに夢中になっている間に、状況は淫靡な闇へ転がる。
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目を閉じて内省する間に、ハルちゃんはブラインドを閉ざし、明るすぎる光を殺す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
小型草食獣…生まれついての”弱者”たる自分が差し出せるものは、陽光の中では評価されない。それこそ、マットレスが空から降ってくるほどに、危うい対価。
闇の中であった捕食本能とは、また違った世界の実像。
自分だけを見ている間に突きつけられたセックスに、レゴシは目を見開く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
白く柔らかい肢体、それを包む包帯を前に、影は再び、狼男を飲み込む。
『明るく楽しい学園シーンだとでも思ったか…こちとらBEASTARSだぞ!』と言わんばかりの、急転直下。
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第1話ラストで”暴力”に出会ったレゴシは、第2話ラストでは”性”に出会う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
大人になるのなら、向き合い方を考えなければいけないむき出しで、赤裸々で、危うい2つの極。影の中、ぼんやりとした輪郭を持て余している間に、レゴシの青春はどんどん加速していってしまう。大変だぁ…。
それに当惑しつつも、直感と理性で自分らしく、瑞々しく人生を選んでいく青年の物語は、まだ始まったばかりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
モノローグを多用し、レゴシの複雑であやふやな思春期を丁寧に追いかけた今回は、余すことなく彼がいる場所を活写してきた。
その鋭さが、同じ舞台を共有するルイ先輩やハルちゃんも照らす
主役の内面、彼を取り巻く社会と環境をしっかり描くことで、作品の土台を骨太に組み上げるエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
ジュブナイルのど真ん中を走りつつ、フレッシュな演出を的確に刺して、鮮烈な瑞々しさがあるのがとても楽しい。
かなーりヘンテコな事やってくっから、油断できねぇぜ…素晴らしい。
悩めるレゴシは、あれよあれよという間に差し出された白い柔肉を貪ってしまうのか。転がりだした青春は、一体どこに行き着くのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月17日
爽やかさの裏側にある、無慈悲な力の論理は若人をどう悩ませ、子供たちはそれにどう向き合うのか。
見所いっぱい、ドラマも表現も力強く鮮烈。来週が非常に楽しみです。