BEASTARSを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
月夜に目覚めた狼は、鹿と兎の夢を見る。
輝くスポットライトの奥で、苦痛を噛み殺している孤高のスーパースター。
ビッチと罵られつつ、野花のように懸命に生き延びている少女。
肉食の定めと、悩み多き青春を持て余しつつ、舞台”アドラー”の幕が上がる…。
そんな感じの、BEASTARS第三話。悩めるレゴシの青春にどっしり腰を落として、様々な明暗や矛盾を細やかに彫り上げていくエピソードとなった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
肉食/草食、表舞台/舞台裏、男/女、仮面/素顔、嘘/本当。
一見対比に思えるものが、実は同居していたり裏腹だったり、世界はシンプルには出来ていない。
そういうものに否応なく向き合うことになる思春期が、細やかなライティングで幾重にも折り重なって、複雑な色彩を見せていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
作中でレゴシが果たす”照明係”というポジションと、人生の明暗が複雑にきらめく学園生活の呼応が、虚実の境界をあやふやに、生き生きと照らしていく。
レゴシは影の中からスポットライトを上げる立場だが、強力な肉食獣であり、芯が無いようで強靭な意思を秘めてもいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
光の中に堂々立っているようで、その実脆さを抱えているルイ先輩は、脚の負傷もあって仮面をかぶりきれない。溢れた本性を、微かに甘えるようにレゴシに預けてくる。
光に立つもの。影に潜むもの。それぞれに、単純に割り切れない苦しさと喜びがあり、それぞれの明暗は運命に導かれて出会い、ぶつかり、混ざり合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
当事者であるレゴシはどこか遠くからそんな流れを観察しつつも、血を騒がせる実感を持って青春を突き進んでいく。そんな複雑な流れを追うエピソードだ
先週衝撃の誘惑をぶっこんできたハルちゃんだが、ソッコーで逃げたキビを通し、”肉食獣”と恐れる男の身勝手な視線が語られる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
ビッチ、売女、穴兄弟。肌を合わせつつも、ハルちゃんの内心には一切触れないレッテルが、少女のセクシュアリティに貼り付けられていく。
そんな荒っぽい分類を、ハルちゃん自身も己の心身にはっつけてしまっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
男が自分を求めるのは、いつでもセックス相手として。そんな自暴自棄と低い自己評価が、もぞもぞとレゴシの体を這い回る。
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今回も作中の光と闇は印象的で、象徴的な使われ方を続ける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
ハルちゃんが薄暗い場所から差し出してきたリビドーに、レゴシは心底ビビる。”大人の階段”を登ってしまいそうな急展開を避けるように、光の側に身を投げて、裸のハルちゃんにシーツをかぶせる。
それは臆病な童貞の自己保身であり、同時にハルちゃんという”肉”への新鮮な評価でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
もっと、自分を大切にしたほうが良い。
幾度も語られすぎて空疎にすらなってる、慰めの言葉。レゴシはもちろん、そんな定形をサラリと言えるジゴロではない。だがシーツは狙わずとも、そういうメッセージになる
レゴシが逃げていった光を、ハルちゃんはガラス越しに眩しげに見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
勝手な思い込みで、セックスという形にコミュニケーションを限定してしまった自分を、少し反省したりもする。
少なくとも、レゴシはハルちゃんの裸身を見たあとでも、ビッチの値札を貼る青年ではないのだ。
間違いなく”いいヤツ”であるキビですら、とっ捕まってしまう固定的な見方。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
レゴシは性欲との出会いを、陰りの中で反芻しつつ、ガラス越しの花をジッと見つめて、ハルちゃんの出会いを思い出す。兎と狼、お互いが硝子の向こうの光の中だ。
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それは”ビッチ”なんていう分かりやすいレッテルで切り落とせるほど、シンプルなものではなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
光の中、一緒に花を運んだ時間。闇の中、肉の感触が誘った瞬間。両方がなにか特別で、でもそれがどんな名前なのか、解らないまま体温だけが上がっていく。
そんな己の明暗も、レゴシは怯えつつ見据える
オレンジ色の色彩の中で、レゴシは複雑さを増していく自分の世界と、そこに食い込んだ人々を思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
観客席を暗闇にしてしまうほど、強烈な注目のライト。そこで堂々と己を建てる、赤鹿の立派な角。
そこにも、複雑な影があるのだろうか?
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陰気なレゴシは影の奥から、良く世界と他人と自分のことを考える。悩める青年のナイーブな心は、ハイイロオオカミの強烈な体と、上手くマッチしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
いかにも肉食獣として、堂々マッチョに振る舞うことを恐れる姿勢は、突き出された”性”を簡単に貪れない誠実(あるいは臆病)と通じている。
訳あり連中だけが集められた、全員スカウトの演劇部。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
ステージ上の”嘘”を際立たせるために、”現実”の複雑さを取り込んだ不可思議な部活。
そこに肉食草食入り混じっていることが、十人十色の青春を少しは救うのだろうか?
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あまりにも強い光は、それに照らされる相手を顔のないシルエットにしてしまう。あるいは、顔がないからこそ誰かの理想を体現できるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
エリートとしての重責を、草食の脆い体で受け取れるルイは、どんな”訳”を抱えているのか。そして、レゴシは?
それはまだ、この段階では秘密だ。
暗がりの中、身を縮めてじっと自分を見ている狼を、赤鹿もまたじっと見つめる。選良と陰気の間に、奇妙な引力が生まれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
今回は特に、ルイ先輩の”眼”が良かった。力強く、感情豊かに、あるいはプライドと嘘を込めて輝く瞳が強い。
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写真部はスーパースターのドアップを求め、暗闇の中痛みに沈む姿を知らない。その弱さを見られないために、ルイ先輩がどれだけ苦労し、苦しんでいるかも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
そんな身勝手なレッテル張りと消費に耐えるのも、ビースター候補の宿命か。影にいるはずの”ビッチ”と、本性を見られない悲しさが呼応する。
戦うための体に生まれなかった不幸を、ルイ先輩は呪いつつも泣き言は言わない。苦鳴を押し殺してもなお、力強く唸る肉食の爪が恨めしく、羨ましくも映る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
『なぜお前は、その恵まれた資質を覆い隠す』
自己卑下と裏腹の羨望を、アドラーの仮面が見つめる。
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強いものが強く、弱いものは弱いまま。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
ルイ先輩が苦しめられ、身を染めては引きちぎっている自然の影を、レゴシは嫌う。
弱いものが強く在れることこそが希望なのだから、あなたはその仮面をかぶって、強くあり続けてください。
その純朴な祈りが、鹿には重荷だ。
お互いの祈りと焦燥、敬意と嫌悪が複雑に交錯する、夕日の私室。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
肉食獣のように鋭い瞳で、レゴシの牙を試そうとして、そこに反射する己に怯える。弱いものでしかない自分の苛立ちをか、それを誰かにぶつける醜さにか。
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ここで自分とレゴシの現状をちゃんと見て、眉毛八の字にシュンとなってしまうのが、ルイ先輩の良いところだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
バリバリ傲慢のスーパーエリート然と振る舞いつつ、弱いものであるがゆえに、弱いものを見捨てられない。強さにあぐらをかくことを、自分に許していない。
レゴシもそんな、自分と通じるナイーブさを嗅ぎ取っているからこそ、ルイ先輩をずっと見ているのかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
肉食の暴虐を、なんとか影に押し込めようとあがく獣と、肉食の力強さに憧れる青年。
お互いの憧れが複雑に反射し、無い物ねだりが寂しく匂う。
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ここでレゴシとルイは、影と日向を行ったり来たり、かなり複雑なステップを踏んでいる。
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自分を駄目だと卑下し、理想を他人に見る視線。それをたどっていくと、自分に理想を見ている他人の視線に行き着く。
複雑な感情の乱反射に満ちた、奇っ怪な人生劇場。思春期のチケットは、もう発券済みだ。
作り出された野生を開放するべく、捏造されたいびつな檻。清潔に管理された”本音”を、同族で共有できる生ぬるい場所。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
偽物の月光に照らされながら、レゴシは月の兎を思う。ろ、ロマンティック…。
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フワフワ兎に誘惑されたり、憧れの先輩に壁ドンされたり。ドキドキイベント満載の青春が少し落ち着いて、レゴシはようやく鏡を見れる。
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月鏡に反射した、"性"との出会い。男であり、男でしか無い己の自覚。それがただ衝動的なだけでなく、牙の奥に名状しがたい甘さを呼び覚ますものだと。
レゴシはどっしり考えて、揺れる尻尾を肯定する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
どーも原作の描写を見るだに、作中の尻尾はファロスの象徴として描かれている気配がある。レゴシは裸身にビビりつつ、勃起する”男性自身”、己の中の獣性を、微笑んで肯定する気になったのかも知れない。
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思いの外開けていて、未知に満ちて明るい世界を、微かなリビドーとともにレゴシは肯定する。
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ルイは本番を前に、自分だけを写す鏡と、偽りの笑顔で満ちたカンパニーを見据える。
狭さと広さの対比。自己と世界への対話に満ちた裏方と、孤独なスーパースター。それぞれの瞳に映るもの。
ひっそりと、カンパニーの写真にテムが笑顔で写っているのがなんとも哀しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
死んでしまった仲間のことを、ルイ先輩は相当悼んでいる。
そういう柔らかい感情を表に出したら、草食の自分はいつでも食われる。
そう考えて、孤独な仮面で弱さを多い、必死に立ち続けもする。
俺が頼ることが出来るのは、俺だけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
一皮むけば、弱肉強食のジャングル。社会の摂理(それはこの世界の場合比喩ではなく、物理的に"弱い肉を強きが食う"わけだが)をしっかり刻んだ御曹司は、自分に言い聞かせるように強い言葉を重ねていく。
その奥にある寂しさを、レゴシはじっと見る。
素顔を晒しているようで、本音は一つも言わない。そもそも、他人を蔑むその言葉が、果たして心の真実なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
ルイ先輩は複雑な迷宮に身を浸したまま、一世一代の大芝居に飛び込んでいく。
鮮明な赤を、一人だけまとう特権と孤独が眩しい。
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光の中の孤独、陰りからの優しさ。
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肉食獣の仮面で顔を覆い、死すらも祝福に変える強者を演じるルイを、レゴシはじっと見る。
舞台に上がった今、ルイの視線は客席にしか無い。
俺を見ろ。俺に尽くせ。
選ばれたものの傲慢が、灼けるように眩しい。
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そして、世界は反転していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
仮面に閉ざささた視界がぐるりと回って、草食獣の限界が顔を出す。それも、幕が下りるまでは斃れない、餌食の矜持か。
ぶっ倒れたルイ先輩は、二日目の舞台は、一体どうなるのか。相変わらずイイところで引くなぁ…。
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というわけで、ルイ先輩とレゴシの視線が、複雑怪奇に乱反射する明暗のエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
学園での立ち位置、生まれ持っての身体と性格。何もかも正反対に見える二人が、シンプルには切り分けられない複雑さをお互いに抱え、お互いに見据え、お互い引かれていく奇妙なダンス。
それを縁取るように、複雑に入れ替わる光と影。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
栄光に見えるものは重責で、陰りに思えるものは思考の残滓。レッテルを貼り付けられる苦しさと、それを満たして手に入る充足。
思春期の自己と世界が持っている複雑さが、キャラクターの青春と美麗に呼応する、良いエピソードでした。
レゴシを主役に、モノローグ多く描かれた複雑さが、一見無敵のリア充に見えるルイ先輩にもちゃんとあるのだと見せる話数…とも言えるかな。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
ホント無茶苦茶複雑で、そのくせ芯はシンプルで、非常に魅力的な人なんですよルイ先輩…エロいなぁ…。
同時に学園という理想の檻、綺麗事じゃ済まない社会の"現実"を遠ざけた清潔感が、静かに漂う話でもあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
この檻でも肉食/草食は矛盾を噛み締めて衝突し、あるいは和解しているけども、もっと生々しい碌でもなさが、檻の外には満ちている。
それが描かれるのは、まだ先のことだ。
今はまだ、複雑な明暗をギュッと閉じ込めた学園という場所、思春期という時代をレゴシたちがどう感じ、どう生きているかを、どっしり描くタイミングだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
その馥郁が、虚実が入り交じるからこそ面白い"演劇"をキャンバスに描かれていくのは、やはり優れたセンスだ。何が嘘かなんて、簡単には分からない
それでも、出会ったこと、思ったことをじっくり噛み締めながら、青年たちは決断し、行動する。とんでもなく間違え、あるいはとても尊いことを成し遂げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月24日
その一つ一つを、宝石のように。磨き上げて描く筆致が、どれだけ鮮明か。よく示す話数となりました。
来週も楽しみですね。