歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
銭のあるなし、毛並みの良さ。人のお値段、壁で隔てて量り売りする、歌舞伎町東西の壁。
我らが変人探偵、そこを乗り越え事件に乱入。ガタイ系弁護士に惚れ込んだ、ハドソン夫人の思いは届くか? 流されやすい童貞野郎の、サクセスの夢は叶うのか?
そんな感じの、格差社会のミステリコメディ第三話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
キッチュに満ちたファーストパンチがある程度落ち着き、どっしりと作品世界を見れるようになってきた。
描かれるもののエグさはあんま変わっていないので、語り口の変化とこっちの慣れだとは思う。作品と膝突き合わせて喋れるようになったってことだ
今回も一話完結のミステリと、回をまたいで描写が深まっていく変人たちの人間模様が並走する造り。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
事件をサラリと流しても、納得が生まれる巧妙な描画も相変わらずで、ここが巧いので骨格部分もスルリと入ってくる。ショートスパンの描画と、ロングスパンの描写が上手く相互作用してる印象。
今回も色々書かれているんだけども、まずサーフェスの方から。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
ガチ熊系弁護士に惚れ込んだハドソン夫人の依頼で、冤罪を晴らすこととなったシャーロック。若きエース・京極冬人が当て馬としてとっつく中で、E.YAZAWAとルー大柴を悪魔合体させたみたいな変人が話を支える。
京極くんはブザマな負け役なんだけども、ちゃんと憎めないチャーミングなキャラに仕上げていて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
ゲートのクソ対応から浮き彫りになる、新宿の経済的・政治的格差。そこから抜け出すべく、成り上がりへの憧れを牽引力にする若さと浅はかさ。
身近なロールモデルに夢を見たのが、彼の間違いだったのか?
当然、そんなことはない。憧れの対象とは素手で握手して、すぐ言動が影響されて、夢がぶち壊しにされたあとでも涙でお別れを言える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
そういう青年が、歌舞伎町で息をしている。嫌いにはなれない。ていうか好き。
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京極くんは主役たるシャーロックの優越性を強調する噛ませ犬であり、同じ”帳面を見る”という行動をとっても、辿り着く場所は真逆だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
コミカルに負ける道化師なんだけども、『ゴミ溜めから這い上がりたい』という祈りは嘘ではないし、嘲笑ってもいけないだろう。
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そんな京極くんのモチベーションを補強し、格差に取り囲まれ蓋をされたクソ以下の世界を見せるのが、今回の仕事の一つでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
プーさんのフォーマルな名刺の出し方と、ハドソン夫人の生臭い賄賂ブッコミ。『出す/入れる』という仕草が、毛並みの違いをよく見せる。
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銭持ってれば魂が綺麗かと言えば、西もゴミ溜めであるには変わりがなく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
ギャンブルセックス殺人事件、東でワンワン蝿にたかられているクソは、お綺麗に飾られてやっぱりそこにある。壁で仕切れば、クソが消えてなくなるわけではない。
色と金と殺し。世に探偵の種は尽きまじ、というわけだ。
京極くんが憧れるウェストは、闇の奥の禍々しい光として描かれる。そこに行ったとしても十全な幸福があるわけないことを、脱出者たるワトスンくんの存在が証明している。
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それでも、行ってみたい。おそらく生粋の東っ子である京極くんの、幼い願いが際立つ
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このお話があんま事件にクローズアップしないのに、結構スルスル飲めるのは”絵”の作りが考えられているからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
周囲が”成り上がり”の存在感に飲まれる最中でも、彼は常にアゲンストの位置を取る。邪悪で愚かな犯罪に、背中を向け続けるのだ。
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探偵モノのお約束として、主役たるシャーロックは真実を言い当てる…はずだ、という了解が(意識的に城無意識的にしろ)視聴者の中にある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
そのジャンルコードを利用する形で、事件の真相を視覚的に先出しして、推理落語が受け入れやすい土壌を作る。そういう演出は、かなり神経入れて描かれている。
不在の死体を暴く、のぞき穴のトリック。これを示唆するカメラも随所で仕込まれ、視聴者の意識を誘導している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
安全圏から、仕込まれた犯罪を嘲笑う邪悪。高みから見物するハイ・クラスを、底辺からの逆撃で引きずり落とすカタルシス。
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そこにシャーロックがたどり着けるのは、助手たるワトスンくんの何気ない一言が切っ掛けだ。
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ウォークインクローゼットに押し出される形で、あれよあれよと探偵と同居することになった彼は、やっぱり依頼を切り出せない。しかし距離は縮まっていくし、探偵はズブズブと助手に依存していく。
これが事件の奥にある、もう一つのミステリなのだと思う。
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シャーロックは寿司に生クリームツケて食べる変人で、唯一その能力を活かせる探偵仕事も、真相開示は”落語”の形でしか果たせない。ぶっ壊れた才能すら、普通には発揮できない東の申し子。
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そんな彼を、ワトスンくんは揉み手でおだてて高座に上がらせ、噺家幻想に浸らせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
ワトスンくんという補助装置がつくことで、シャーロックはなんとか機能できる。そら、行動を縛って依存もする。
感情の表出がマジで下手くそなので、怒鳴り散らして束縛するしか愛情表現できてないの、可愛くて好き。
”健常”とされるバランスの良い発達、それに基づく社会適応をシャーロックは果たせていない。それゆえ変人として、壁の向こうに押し流され、人間扱いされていないわけだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
しかし、それに相応しいのは嘲笑でも憐憫でもなく、ジリジリにじり寄ってしっかり見ることなのかな、と今回思った。
シャーロックにも、判りにくいけど愛がある。ワトスンくんへの過剰な対応は、上手く自分を表現できない子供みたいな頑是なさがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
誰もが持ちうるだろうそういう生きにくさを、変人演じる笑撃として下に見て使い潰すのは、個人的には尻の座りが悪い。
無論物語消費としては、下世話と不器用を嘲笑うカタルシスは大事だ。そこで膿を吐き出して、心のバランスを取るのはコメディの重要な仕事だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
そう出来るように、歌舞伎町イーストは過剰にキッチュでクィアで、変人と異物のキメラとして描かれている。
では西に位置する”まとも”は?
別にそこもゴミ溜めなのは変わりがなく、スーツ着て名刺出して弁護士バッジツケてりゃ、清廉な生き様貫けるわけでもねぇ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
ウェストを舞台にした今回の物語は、そういう作品の視線を浮き彫りにしたように思うのだ。
クソとクズに塗れた浮世で、なにかキレイなものを少し探す。
僕はそういう話が好きで、多分この話は探偵と助手のトンチキな絆をこそ、灰の中のダイヤモンドとして差し出そうとしてると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
社会不適応者シャーロックの面倒を見る時、ワトスンくんの”平凡”が長所として輝く作り…その充足にシャーロックがどんどん甘えてるのが好き。原典どおりだなぁ…。
推理落語って変化球も、”事件”という自分の領分にすら上手く接続できないシャーロックが、それでもなんとか繋がろうとする努力と見ると、少し悲しい。そして綺麗だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
世間がどう受け止めようが、それしか差し出せねぇなら”それ”を出すしかねぇ。
変人は変人なりに、己の不器用と決死に向き合う。
その受け皿になっていたのは、物語開始前はモリアーティーだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
唐突にやってきた”助手”が、幸福な居場所を奪ういらだち。四葉どころか、八葉のクローバーを収集する異常。爽やか高校生は、見た目通りのキャラじゃない。
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和やかな誕生日パーティーのなかで、宿敵たるワトスンくんだけが危うさの兆しに気づいている描写も、静かに盛り込まれていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
モリアーティーの巨大な感情、奇異を愛し平凡に特等席を奪われた苛立ちは、今後どう発火するのか。非常に楽しみだ。
”千本もの糸を張り出したくもの巣の真ん中に動かないで坐っている”と、原典で評されるモリアーティ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
砕かれた蝶は蜘蛛の餌食、というわけだが、クローバーをもう一つのフェティッシュにするのが面白い。
四つ葉のクローバーは幸運の象徴。よく言われる、分かりやすいコードだ。
しかしそれは原基が踏みしだかれ生まれたエラーなのであり、別にクローバーは三葉、四葉だけではない。五葉も八葉もありうるのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
迫害は異質を生み出し、少しはみ出す程度なら異才ともてはやされようが、枠をはみ出せばグロテスクな異物として、壁の向こうに押しやられていく。
世間一般のコードが無視し、あるいは忌避する異形の八葉を、モリアーティーは優しく閉じ込める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
そこに、異質でいることしか出来ないホームズへの愛情、異質性を仮面で覆っている自分への共鳴を見るのは、ちょっと過剰な読みだろうか?
ここら辺、個人的に注目したいポイントである。
切り裂きジャック事件への伏線も、細かく引かれていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
未だ依頼されざる、ワトスンくんの事件。
ゴミ溜めから脱出するためのパスポート。
モラン区長の娘を殺した仇。
高校生が震える、秘密の源泉。
”モラン”なんだから、区長と娘とモリアーティーには、なんか因縁あるんだろうなぁ…。
東と西。健常と異質。欲望と愛。秘密と真実。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
明瞭に色分けされているようで、その実複雑に入り交じる浮き世の色彩が、静かにスケッチされるエピソードでした。
”BEM”といい、ゲーテッド・コミュニティがアニメで描かれるのは、世相の反映だわなぁ…。
西を向いても東を向いても、世間は欲で満ちている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年10月26日
銭で縛ってナイフで刺す、情け無用の泥まみれ。
天国も出口もない人間の世界で、探偵は事件を断ち切りながら、なんとか生きている。
惹かれ合う助手の温もり、睨めつける犯罪王の視線。
ジリジリと、物語がヒリ付き出した。
来週も楽しみ。