歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
アイリーン・アドラーが死んだ。
ワトソンはその不在に帰還しようと願い、シャーロックは拒絶する。
終わらない事件の長い影に苛まれ、探偵助手は亡霊を見る。深まる疑念が暴走を生み、断絶と孤立は深まっていく。
亡霊は事件を語らず、ただ…
そんな感じの、ジリジリ薄暗いワトソン君の迷走回である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
ずーっと空は曇っていて画面は暗く、ゴミと枯れ葉が画面を埋め尽くす。猥雑な歌舞伎町を見慣れた眼には意外とも写るが、むしろこの薄暗さこそがイーストの”本来”かもしれない。
クソみたいな街だってことは、僕らも知ってたわけだしね。
最初に謝罪。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
アイリーンはまぁガッツリ死んどるわな!
モルグにブチ込まれた遺体を前に、言葉もなく立ち尽くすシャーロックの背中を見ていると、邪念で斜めに見てたことを謝りたくなる。
コメディの舞台でも、人は死ぬ。結構シリアスに。
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その重たさに、ワトソン君が弾き出され、迷探偵として亡霊見たりするのが、今回のお話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
アイリーンの亡霊は、果たして実在するのか。ストレスが生み出した幻影ではないのか。
予告で匂わされていた膝カックンは到来せず、ただただ重たい死の匂い、罪悪感と無力感がワトソンくんを包んでいく。
桃缶で、料理を作る。名探偵の助手をする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
いつの間にか、ワトソンくんの強いアイデンティティになっていた”女房役”は、女が死んでも帰ってこない。
そこが居場所としがみつくワトソンくんは事務所を追い出され、連れなく袖にされる。
以来、画面はずっと暗い。
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彷徨ってたどり着いた、廃ビルのお化け屋敷。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
そこで見た亡霊は、一体何を伝えたいのか。客観的な証拠になりえない幻覚だとして、ワトソンくんの心のどんな部分を反射しているのか。
そこら辺は明言されない。ただワトソンくんは迷い、ゆらゆらと不定形に揺れ続ける。
それは賢いシャーロックとモリアーティーが、共謀して何かを企んでいる結果…であり過程だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
名探偵と犯罪王の悪巧み(正義の為に必要な工程)に、ボンクラ助手は入れない。ただ言われるまま、あるいは何も言われないままに、事件解決に必要なパーツとして踊ることになる。
その疎外感こそが、亡霊の正体なのかなぁ、とも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
後に『ワトソン役』という言葉を定型句に変えた、原典の見事なキャラ造形。一般人視点を作中に持ち込み、変人天才だけでは進行しない物語に、潤滑油を垂らす。
大事な仕事だ。しかし主役ではなく、事件の全体像も、企みの詳細も知り得ない。
そんな脇役の悲哀が、薄暗いイーストに長く影を伸ばす。植物は枯れ果て、壁は薄汚れ、街にはゴミが満ちる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
それは『名探偵の助手』として、騒々しくも楽しい日々を過ごしてきたワトスンくんの夢がさめて、一人取り残された結果ともいえる。
ここが東の”現実”なのだ。
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冷たい迷宮を彷徨いつつ、ワトソンくんはどんどん迷っていく。疑念を深め、名探偵たちが踏み込めない領域…犯人の側に近づいていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
そこに追い込むことが、奴らの計画か。何も知らされないまま、薄暗い闇が深まっていく。
ここら辺のサイコ・スリラー的筆致は、なかなかシャープでいい。
アイリーンの亡霊に怯える黒い闇は、それ自体が夢であり、客観的な現実は昼間でしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
ワトソンくんが見ているものはやはり、罪悪感の残響であり、目隠しをされたまま孤独に排斥され続ける心の反射なのだろう…か?
『なんか一発あるかも…』と構えを解けないな…
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これは作品への疑念であり、同時に信頼でもあって。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
ホームズパスティーシュとして、キッチュでクィアな”東”を用意して散々にかき混ぜ、独特の風合いで笑いあり涙ありの浮世を描いてきたこのお話。
『そこになら、亡霊もいるかも知れない…』という余談と期待が、なかなか崩れてくれない。
作品全体をどういう風合いでまとめ、アイリーン・アドラーという特別な女を、変人探偵にどう受け止めさせるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
クール終わりを飾るこの連作は、今まで描いてきた賑やかでファニーな空気と相反する、シリアスで”マトモ”な空気に満ちている。
それもまた、”東”の顔の一つだ。当然嘘じゃない。
多相なのは探偵も同じで、メシに桃缶混ぜる奇人も、アイリーンが隣にいればマトモに飯を食う。フツーに欲情もする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
しかし、それは奪われてしまった。喪失を前に、死の重たさを上手く処理できないワトソンくんは狂乱の”東”、そこに相応しいホームズを求めて空回りする。
それは何処か、この物語の冷たさ、生々しさを受け止めきれない視聴者(つまり僕)に重なっていく気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
『え、ネタじゃないの?』
ボーッと頭を左右に振って、ヨロヨロと彷徨っているうちに、名探偵はシリアスな表情で死者の思いを引き受け、探偵に出来る最高の復讐…真相究明へと踏み出していく。
今回はそういうギャップを、一話まるまる重たく、不安定に追うお話だ。このケツの座りの悪さ、全体的な冷たさが、クレバーでなかなか良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
散々引っ張ったワトソンくんの依頼も、結構あっさりとホームズに受け止められてしまう。否、それはワトソンくんの視界…を借りた、僕の目線からの判断か。
区長の娘の遺骸に付いていた、謎の発振器。迫りくる長い手、顔の見えないジャック。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
この証言が、ホームズが追うパズル最後のピースとなったのではないか。直感だが、そんな気はする。
自覚のないまま、迷妄も素朴も事件解決に不可欠な要素として配置され、利用される。
「ワトソン役』らしい…
といえばらしい仕掛けで、さて、次回どう真相究明となるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
唐突に訪ねてきたマイクロフトは、ポケットの中に何を握り込んだのか。聡明に過ぎる弟と兄の間で、何が交換されたのか。
不安に揺らぐ世界の中で、色々ネタは仕込まれている。
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桃缶を与える役割を再び拒絶され、ワトソンくんは事務所から放り出される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
ブツブツと推理落語のネタを練る名探偵の、相槌役にすらなれない。その断絶と孤独は、どんどんワトソンくんを追い込んでいく。
狙い通り、というところ?
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薄暗い世界の中で、ワトソンくんはモリアーティーに迷推理をぶっ放し、一時のサヨナラを告げられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
絶望的に薄暗い、離別の風景。そこにワトソンくんを追い込むことが、突破口を開く…ということを、当の本人は知らないまま、どんどん距離は開いていく。
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後にホームズが告げるように、この孤独と迷走は『大活躍』なわけだけども、ワトソンくんの主観ではただただ薄暗い闇であり、孤独でしか無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
彼の視線を借りて作品に入る僕にとっても、それは冷たく居心地が悪い。理由を見つけ、安定したくなる。
ロジックだけでなくパトスでも誘導する、巧い出題編だ
その不安に忍び寄る、京極くんの血走った眼。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
”うりぼう倶楽部”から”老人ホーム おしどり苑”まで。吹き上がった未来計画は、金と名声を求めて思い切り暴走する。
やっぱお前バカだな…どうやってマキちゃんと”うり坊”作るんだ…。
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掴むべきは養子縁組と行政支援である事実にさっぱり気づけ無いバカが、切り裂きジャックだとはなかなか思えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
思いたくない、ってのが真相なのかもしれない。浅ましく愚かだけども、京極くんは良いやつだからね…。
まぁ良いやつでも人殺しになる街だけどね、歌舞伎町イースト。
そういう冷たさを、ワトソンくんの亡霊路を追いながら飲ませていくのが、今回のエピソードかな、とも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
同時にこの冷たさだけが、街の、作品の全てではないだろう。マキちゃんとの未来に血迷った結果の、気の迷い。
そういう形で落として、ジャックの話はまた別で解決してくれねぇかなぁ…。
切り裂きジャックは誰なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
誰がアイリーン・アドラーを殺したのか。
多分、推理の材料は既に撒かれている。フェアに、明瞭に。
しかしなかなか拾いきれなくて、『これだ!』というビジョンが掴みきれない。ミステリ読む素養がない!
『なんかすいません』って感じだ。
ならまぁ、亡霊を幻視するくらいにお人好しで、死人が胸に刺さるくらい弱いワトソンくんと同じ視線で、名探偵の秩序回復を待とうと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
霊媒師はいない。死人の声を聞くためには、オカルトではなく冷徹な分析眼が、迷妄ではなく怜悧な陰謀が必要になる。
名探偵の、あるいは犯罪王の必須項目だ。
それを備えないワトソンくんの迷路に、一話使うのはなかなか贅沢で、同時に必須だなぁ、とも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
アイリーン・アドラーの死を認めつつ、受け入れられないからこそ亡霊は現れた。それは客観的には妄想で、主観的には真実だ。
亡霊が見えてしまう、”名探偵”という客観の装置になりきれない、僕らの視線
それと同じものを、変人探偵も備えてなお、推理の装置として自分を機能させていることを、アイリーン・アドラーはしっかり教えてくれた。そして死んでしまった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
そこに罪悪感と哀しさがあることを、ワトソンくんの肩に乗って暗い街をさまよう中、僕は納得した。
あんま、死んでほしくなかったなぁ…。
京極くんがペラった継承を語る裏で、ホームズはむっつりと黙り込み、真実を追い込む罠を張った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
それがアイリーン・アドラーの無念を受け止め、死者の声を聞く唯一の手段だからだ。
題目並べて外見だけ整えても、名探偵になんてなれるわけがない。信念だけが、薄汚れた街に灯火を持ってくる。
それがどう、1クール目のクライマックスを飾るのか。ワトソンくんの揺れる気持ちは、どう落ち着きどころを見つけるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月16日
次回も楽しみです。
しかしなぁ…これだけ重くやってなお『生きてましたー!』をやりかねないので、受け身の練習だけはしておこう。杞憂…なんだろうけども。