歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
人は死んでも噺は続く。傷は増えても塞がっていく。
悲喜こもごもの人情芝居、どうにか元に戻すには、茶番の一つも必要となる。
道化仕草の奥にある、確かな人情、ドタバタな癒やし。
『毎度ばかばかしいお話で』と笑える日々の、輝きを取り戻すエピソード。
そんな感じの、モリアーティ・ショックを癒やす『いつもの長屋』エピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
流されるまま日常が回復するのではなく、ハドソン夫人の身銭を切った茶番で、意思を込めてリハビリテーションしていくのがイイ話。
ホームズ&ワトソンも正式結成して、全てが元通り! …とは、当然ならない。
そんな苦味と痛みを誤魔化しつつ、残酷なイーストの日々はまだ続いていく。今回はそこに帰還し、新しく始めるための祝祭である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
毎日がお祭りなら、暗いシリアスこそが特別な非日常であり、そこには一旦蓋をして”日常”に戻る必要がある。キッチュでケイアスな物語の基調を、どう取り戻すか、という噺
現代の仇討ち、殺人鬼の顛末。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
TVや携帯電話、オーロラビジョンと言ったメディアが、空疎に無責任に垂れ流すニュース速報に取り囲まれつつ、シャーロックはフェンス越しに現実を睨む。
その渦中にあればこそ、安易な解釈を拒む真実。それに向き合うのが、探偵稼業か。
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シャーロックはモリアーティの願いを汲んで、真実を踏み潰した。探偵の本文が正義を助けることでも、真実を暴くことでもないとしたら、その立ち位置はどこにあるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
人口に膾炙した”名探偵”とはちと違う、粗雑で繊細な…半端で骨太なスタンス。薄汚れた街を歩く騎士としてのシャーロック・ホームズ
ジャックとモリアーティをめぐる一連の事件は、変人探偵のそういう表情を僕らに見せた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
それは『狂ったオカマとバカどもの大騒ぎ』という表層だけが、作品と世界の全てではないことを再確認させる。
こういう重たい世界で、重たい話なのだと教え直してくれたのは、僕は楽しくありがたい。
しかしフェンス越しの狂騒、欲と銭に加速する世間から切り離されて、探偵長屋は存在できない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
バカバカしい事件に飛び込み、共に狂って駆け抜ける。その下世話さ(”落語”という表現ジャンルが得意とする領域)に帰還してこそ、描けるものもあろう。
今回はデカ猫と巨漢の導きで、振り出しに戻るお話だ
人生すごろくのスタートは、フェンスを挟んだシリアスな断絶。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
男と女と男と、ここにはいない少年。複雑な四角形は背中越し、お互いの顔を見ない距離感で成立している。
女は犯罪者と被害者との繋がりを語り、男に背を向ける。
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男二人が取り残された場所で、お優しいワトソンくんはぶっ壊れた探偵の”人間的”な部分を受け止めようとする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
しかしそれはあくまでノーマルな、ウェストで是とされる価値観に則った救済であって、変人探偵個別の壊れ方に踏み込んだものではない。
その無責任な健全さが、ワトソンくんの強みなのだが。
ジャックの喉笛を掻っ切った血しぶきで、どうにも歯車が狂っちまってるのは作中の人物も同じで。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
極彩色のコールでもって、それをなんとかアジャストしようとするのが、今回の依頼人、長屋のゴッドマザー・ハドソン夫人である。
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どんより暗い探偵共を、クレイジーが溢れかえるイーストの日常に戻す。探偵仕事の本文を取り戻させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
そのため、猫と飼い主は共犯となり、解決するべき事件を仕込む。上から覗き込む視線が、実はいなくなっていないキャットの慈しみ(あるいは面白がり)だと言うのは面白い伏線。
ハドソン夫人は過剰なクィア&クレイジーを、探偵ポケベルと一緒に押し付け、強引に作品のBPMを上げていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
アップテンポで明るく楽しく、洒落にならない世界を洒落にしていく。下がり調子に飲み込まれちゃ、クソみたいな街に食われるぞ!
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それが嘘っぱちの強がり、クラッカーのようなカラ元気であることは、夫人が一番良く知っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
それでも、ありふれた凶悪に飲み込まれていくのではなく、当たり前の狂騒を取り戻していくほうが、多分良いから。
メディア越しに使い倒すのではなく、共にあったものとして思い出に変えていくために。
夫人はバカ猫と共犯で、”事件”を作って探偵に仕事をさせていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
ぶっ壊れた世界のど真ん中で、ジャックの凶器に使われた京極くんの傷は、なかなか癒えない。『それでも、お前を見捨ててないよ』と伸ばされる猫の手が、泣けるほどに優しい。
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猫探しの狂騒は最初から仕込まれた茶番であり、仕事に、日常に邁進する中で探偵たちは調子を取り戻していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
一緒にいた事実、妹への情。モリアーティに通じるものが確かにあった人たちは、騒がしさの中で何かを見落とし、何かを治していく。
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『娘を殺された恨みは判る』と、凄みを利かせるギャンブル探偵。彼の過去とクローズアップは、年明けた後掘られるところなのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
カリスマを失ったイレギュラーズに、代理として座った少年の奮闘。何かが欠けた世界の中で、それでもバカ笑いブン回して生き延びる、泥まみれのタフネス。
探偵が、イーストという舞台が『いつものばかばかしいお話』を取り戻していく過程は、モリアーティーとこの作品が好きだった僕らが、衝撃に居場所を与えていく過程でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
エピソードを通じたセラピー、自分たちが投げた爆弾をマッチポンプで治療する行為。
創作者の責任として、大事だと思う。
ジャックとモリアーティが、ナイフで抉った世界は真実だ。でもそのシリアスな重たさだけが、世界の全部でもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
そういう結論に帰還できるように、最初からカラクリが明かされた倒述ミステリは明るく進行していく。それに付き合うことで、僕の気持ちも収まっていく。
茶番をすがめで見ていたホームズも、”落語”を飲み込まれて前のめりになる。なりすぎて現実が見えなくなった時、後ろから抱きすくめるのが常識人の仕事だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
この交差点の抱擁、かなり大事な描写だと思う。
謎にハマりすぎれば待つのは死。名探偵を助けるのは助手の仕事
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そういう未来は、もっとシャレにならない状況で多分、もう一度襲ってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
”ライ麦畑のキャッチャー”ならぬ、”歌舞伎町の守護者”として、ワトソンくんの身勝手な純情が、世界と切り離された探偵をすくい上げる物語。
多分それが、”歌舞伎町シャーロック”のライヘンバッハになるのだろう。
喧しい俗世から隔絶された、探偵と助手の世界。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
長い赤信号から青信号にシグナルが変わっても、二人は二人だけの世界で対話を交換し、お互いを見つめる。
探偵と助手、男と男にしか成立しない濃厚な空間。そこに隣り合う特権を、ワトソンくんはもう持っている。
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事件はドタバタと転がり、そのついでにペット泥棒も確保される。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
木天蓼まみれ猫まみれ、苺で誘って罠で釣る。
なんともバカバカしい展開であるが、その愚かさと勢いが笑いと安心を、肺腑の奥から絞り出してくれる。
やっぱ、こういうのが良いわ。
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そう感じられたから、このクール終わりまでこのお話に付き合ってきた。それを切り崩す重たさが、ジャックの顛末にはあった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
それが両方嘘ではなく、でも『毎度ばかばかしいお話』としての日常に戻ってくる必要が、作品にも、そこで生きるキャラクターにも、それを見る僕らにもある。
そう考えたからこそ、一年の終わり、1クールの終わりにこの狂騒が用意されているのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
それは誠実だと思う。自分たちが書いて、君たちが好きになったものが嘘ではないんだよと、静かに語りかける仕草だと思う。
そこに話を持っていって次に繋ぐのは、非常に大事だ。
ホームズもこの狂騒を、いつものパターンで締めくくりたいようだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
『いや隣で見てたし。ネタ知ってるし』という声を無視して、どピンクうんこの高座に座る。
探偵共のちゃちゃ入れに、顔を歪ませ噺の始末。飲まれた夢は帰らじの、道は明日に続くのか。
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ドンチャンで始まった茶番は、どうにもしまらずドンチャンで終わる。その道程が重すぎるシリアスを、軽薄なカオスへと落ち着かせていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
セラピー、あるいはリハビリテーションとしての日常と物語。そういうモノの力を、バカ笑いと安心感と一緒に味わうエピソードとなった。
夫人はおそらく最初から予定してたとおり、身銭を切っての乱痴気で茶番を締めくくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
飲んで食っての大騒ぎ、涙流して思いの始末。
”マキちゃん”とツルンでいたクイーンたちが、ちゃんと泣けている所が良い。彼女たちも、思いの修めどころを探していたのだ。
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悲喜こもごもの狂騒を、猫は賢く見つめやる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
キャットが上手く逃げてくれたおかげで、茶番はなんとか事件となり、ついでで動物盗人もお縄に出来た。
夫人が用意した祝祭は、喪失の哀しみを浮かれ騒ぎに溶かし治していく
祝祭は続く。沢山の犠牲をそのアギトに巻き込み、残酷さに傷つけられながら。
その終わりに女が去り、男たちが向き合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
ワトソンくんが巻き込まれ、あくまで別の事件の外辺でしかなかった事件は解決した。”ここ”にいる理由もないだろうと問う探偵に、助手のアイデンティティが顔を出す。
『君には僕が必要だろう?』と差し出された手を…
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変人探偵は取らない。それが歌舞伎町のシャーロックらしさであると、僕はうなずく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
『君には僕が必要だろう?』という押しつけは、つまり『僕には君が必要なんだ』という告白であり、『君が必要とすることで、僕は存在できる』という、探偵助手のアイデンティティ吐露でもあろう。
ここに偏屈と気恥ずかしさを乗り越えて、探偵がしっかり手を伸ばせる物語は、まだ先であろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
そんな”人間らしさ”だけがシャーロックを構成する”本当”ではけしてないけども。
ナイーブでヒューマニックな自己像とちゃんと握手できるようになるのは、大事だと思う。主題に座る時が楽しみだ。
『マトモに』狂騒に帰還していく助手を横目で見ながら、ホームズはアイリーンと別れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
NYに去っていく愛おしい女を、引き止めることは出来ない。
境界線を乗り越える、洒落にならないシリアスさ。それを受け止める足腰が、まだ弱い。
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こっちのヒューマニティに変人探偵が、どういう答えを出すか。それもまた、未来の課題だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
狂騒に帰還しても、シリアスな問題は残る。それは血みどろの残虐だけでなく、凄く当たり前で、だからこそ難しい人生事件も含むのだ。
そこに、如何に切り込むか。
ホームズ帰還の挨拶、その先が楽しみである。
人生の悲喜をまぜこぜにした、どんちゃん騒ぎの明るい光。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
そこから弾き出された囚人が、何を思って夜を見るか。それを見据える凶眼が、何を企むか。
戻れども癒やされないものを最後にスケッチして、”歌舞伎町シャーロック”、一期の幕である。
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というわけで、一期ラストエピソードは歌舞伎町への帰還となった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
前回投げつけた爆弾があまりに強烈だったし、精妙でもあったのでどうするものかと考えていたが、あえての茶番を探偵に与える夫人の優しさ、どれだけシリアスに冷えても感じる狂騒の面白さが、上手く落とし所を与えてくれた。
赤黒く切断されても、物語は続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
日常に真実を忘れたのか、それとも思い出に変わっていくのか。その答えは、まだ続く物語の先にしか無い。
それでも、シリアスな問いかけに答えを返すためには、自分たちが愛して生み出したバーレスクをやりきる必要がある。
だから一話使って、振り出しに戻る。
モリアーティ・ショックへの治療としても、2クール目に続く一つの”あがり”としても、非常に巧妙な『毎度ばかばかしいお話』であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
こういう話をこのタイミングで挿入できるところに、コメディである強さ、難しさを製作者サイドがどう睨みつけているか、よく判る気がする。賢くないと笑いはやれん。
さて少しの苦味を残しつつ、いつもの座組、いつもの温度に戻った歌舞伎町。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2019年12月28日
どうとでも転がっていける”振り出し”で新年を迎えるわけだが、一天地六、探偵骰子はどう転がっていくか。
人情と残酷を混沌に刻みつけながら、浮き彫りになる人生絵巻。
その筆がどこにたどり着くか、僕はとても楽しみです。