歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
人を殺して檻に入っても、人生という悲喜劇は続く。
窓越しに見る人の情、遠いと知りつつすがりつく温もり。壁に隔てられ手が届かぬからこそ、欠けたものを埋めるべく切望が疼く。
それで繋がった二人が、今は遠い。娑婆と牢獄、それぞれの思い出と事件。
という感じの、歌舞伎町人情芝居の第2クール開幕である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
”生きている小平次”を下敷きにした事件はあくまで背景に遠のき、シャーロックとモリアーティがどう出会い、お互い何を求め何を与えてきたか、ある種の答え合わせをするエピソードとなった。
残酷で、凄く巧い構成だなぁ、と思う。
味覚音痴の変人探偵、陰りを秘めた美少年。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
彼らがお互いに欠落を抱え、似た者同士だからこそ惹かれ合った事実を告げられても、殺人の事実はあまりに重い。
監獄と娑婆に隔てられ、二人はもうガラス越しにしか出会えない。
手を伸ばしても触れ合えない距離、遠い思い出になってしまった過去。
そういうモノを、決定的に世界を変えてしまうショッキングな事件の”後”に知ることで、なんとも言えない無力感とやるせなさが、しっとりと香る第2クールのスタートとなった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
慣れ親しんだトンチキな事件、あるいは監獄の生々しい暴力は、現実でありながら遠い。
フォーカスを当てられているのはあくまで過去であり、アレクの死体と同じように巻き戻せないもの、遠くに離れて手が届かないものである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
”それ”があったからこそ、二人は出会い繋がり…そして別れていく。隔たりが二人を切り離した後に知る、お互いの思いは身を斬るように切ない。
このやるせなさ、なんとも言えなさを第2クールの初めに置いたということは、後半戦に置いてとても大事なものであり、喪失を埋めていく…あるいはそのかけがえなさを知りつつ、また失っていく物語がこの後に展開していく、ということなのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
変人探偵と殺人鬼を巡る悲劇の先にある、新たなミステリ
その内側で熱を高める人情芝居の足場が、なんで出来ているか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
今回はそれを確認するエピソードだったと思う。ホームズとモリアーティに強くフォーカスしつつ、細かく横幅の広い視線がエピソードに宿っていたのも、このアニメらしい抜け目のなさだ。
物語は”今”のスケッチから始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
犯罪者と一般人を分ける、透明な障壁。変わらぬ愛と憤りは、壁を超えていかない。モリアーティは孤独に、獣達の巣を生き延びなければいけない。
そこに無言で投げかけられる、噺家迷言集と四葉の葉。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/QhP5gPQswj
シャーロックは何も言わない。何も言わずとも通じるものがあると信じればこそ、むっつり壁に背中を押し付けつつ、自分が一番信じるものに、相手が一番愛するものを挟み込んで送った。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
そのありがたさを、モリアーティもまた、軽口の中で感じ取っている。
後にわかる二人の運命の交錯を思うと、ここで情のこもった無言のメッセージをシャーロックが送れていること、モリアーティが受け取れていることは、涙が溢れるほどに切ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
人を知ろうと噺に飛び込み。『”何か”が足りない』と切り捨てられた痛み。それでも諦めきれず高座にかけた”生きている小平次”
公園での出会いから始まった、二人の交流。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
ロボットのような無表情から時間は流れ、少年は殺人者に、噺家は名探偵になった。
互いの岸辺に離れつつ、それでも届く四葉の思い。そういうモノを、相変わらずぶっ壊れたままのシャーロックはしかしもう、届けることが出来る。
それはモリアーティと出会ったからこそ、二人がお互いの傷をお互いに投射しながら生きていた時間あっての変化である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
復讐の赤い刃で、全てが終わってしまったように見えても。出会ったことは無駄ではなく、積み上げた日常は嘘ではなかった。
その証明として、無言のメッセージがあるのだ。
しかしその思いは、今は隔てられ届かない。それほど、人の命を奪うことは重い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
決定的な変化をもたらしつつ、絶対的な終止符ではない。終わることなく続く人生の悲喜劇…”落語”が切り取ろうとしたもの、だからこそシャーロックが惹かれたものは、彼を主役に続いていく。
その延長線にスルリと割り込む、兄という名前の他人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
カメラで写真を取り、盗聴器を仕込む狙いはなにか。
後に”偶然”と否定する、名探偵と犯罪王子の出会いには、一体何が隠されているか。
こちらは未来に続く、大きな謎である。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/dlyCjKjOGm
モリアーティのいない日常に、再び”ピンク”をまとって帰還したワトソンくんも、シャーロックのぶっきらぼうな仮面の奥、渦を巻く切なさを感じ取る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
どれだけ尽くしても、アイリーンの代理にも、モリアーティの代わりにもなれない。危うい切なさを自覚しないまま抱え込んで、探偵助手の日々は続く
今回モリアーティとホームズの太い関係性、濃厚な過去が描かれたからこそ、”今”を間近に共有するワトソンくんの切なさは目立つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
彼はあくまで途中から入り込んだ男であり、ホームズを”落語探偵”にしたのはモリアーティだ。
そして、彼はもういない。でも、ホームズの眼は彼を追い続ける。
殺人の罪咎、牢獄の壁。シャーロックとモリアーティを隔てるものとはまた別の距離が、シャーロックとワトソンくんにも横たわっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
この断絶をどう追いかけ、どう追いつくか。それもまた、未来に描かれる物語になるのだろう。
強くうねってきたな…”感情”がよ。
さてホームズは小幡小平次瓜二つ、安積沼の情殺に前のめり、事件に首を突っ込む。人間らしい世界との、唯一の接点たる落語。それに似た事件。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
しかしそれは語られない背景であり、幽霊役者の幽霊が現代にどう蘇ったかは、輪郭だけある事件の亡霊に過ぎない。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/ShInUc8jmf
事件を解決し、落語で語る。そういう形で”人間”に近づこうとする生き方は、これまた遠くのモリアーティが与えてくれたものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
彼が監獄に去ってもなお、その生き方を貫いているからこそ、ホームズは事件に前のめりになる。今回書かれるのはその”今”ではなく、それを生み出す”過去”だ。
”過去”を伏せ札に、トンチキで残酷な”今”を活写してきた今までの語り口とは、正しくさかしま…でありつつ、細やかにメッセージが出されてきた部分の答え合わせでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
白い学生服の、知らない青年。名門・シャーロック家の落ちこぼれの肖像。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/ASD9c91Qq0
どうにも退屈で、人間らしい実感のない灰色の世界を抜け出し、見つめた歌舞伎町のカオス。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
格子戸の向こうに見えた、高座の悲喜こもごも。
裸に剥かれて見上げた、髭だらけのマダム。
普通の人生じゃ、あまり評価はされないポートレート達。しかしそれは、”今”のホームズを構築する大事な思い出だ。
人間がどうにも理解らねぇから、人間を知ろうとした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
足りないものを埋めようとして、切れる頭で形だけ真似して、どうにも噺に熱はこもらねぇまま。
それでも影絵芝居に、幾度も言葉を繰り返す。”下手くそ”だなんて、自分が一番知っている。それでも…。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/So56oXBKQq
そんなあまりに不器用な、人間を知ろうとするホームズの情熱に、忍び寄るもう一つの影と微笑み。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
自分も何かが壊れているからこそ、無様な”生きていた小平次”に何が込められているか、痛いほど分かった。
同じ欠落と、それを埋めようとするあがきに共鳴できた。
変人と少年は、出会うべくして出会った
回想のホームズが、今よりも硬い雰囲気で、あんま皮肉も性格の悪さも表に出さないのが、非常にクる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
それはモリアーティと出会い、”落語探偵”という生き方で世界と、人間と繋がろうと頑張った五年があって生まれた変化なのだ。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/XLjqrovaCd
缶コーヒーとナポリタン。お互いの寒さと飢えを埋めるものを手渡し合いながら、お互いの生き様を埋めていく。その助けをしていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
ホームズの名探偵ぶりが、”東”の豊かな生活で埋まらない面白さを、ジェームズに与えてくれた。
モリアーティの提案した生き方が、ホームズの鉄面皮を溶かした。
そういうかけがえのない繋がりが、確かに二人にはあったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
しかし、今はそれは遠い。
幽霊が当たり役の、下手くそな役者の幽霊。
背景にぼんやり霞む”生きていた小平次”のように、どうにか己を満たそうと不器用に、決死に生きてきた日々は、血と壁で切り離されてしまった。
しかしそれは、確かにあった。あったからこそ生きていけるし、生きていかなければいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
五年前の高座で、ホームズが握っていたお手本。暴力と抑圧の真っ只中で、モリアーティは送られた”それ”に、必死に手を伸ばす。
それを癒やす、”今”の男。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/43paMbeIjk
母の自死。壊れた家庭。恵まれた知性が世界の空疎さを強調し、どうにも退屈でやりきれねぇ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
ホームズが”東”を飛び出したのと同じ痛みを抱え、だからこそ四葉の”奇”に夢を見た少年を、優しく撫でる腕。
それは、かつて妹の形をしていた。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/HXqEZx4a1V
それもまた、決定的に失われてしまった過去であり、その思い出があればこそジェームズは生きて、人を殺した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
愛すればこそ傷つき、あるいは傷つける。蘇って胸を刺す痛みは、亡霊のようにゆらゆらと揺らめきながら、欲望の巷で渦を巻き続ける。
それは、塀の中でも外でも同じことだ。
病床から見上げる、窓越しの世界。妹が求めたものを追いかけて、ジェームズはモリアーティとなり、”西”に来た。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
そこで見つけたものは、のちの変人探偵にとってと同じくらい、痛みに満ちた世界で生き延びる縁だった。
そしてそのかけがえなさも、今は遠い窓の向こうだ
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/o48iD5KCGv
殺し、殺され、傷つけられ。その傷を埋めようとして誰かにすがり、傷がうずいて誰かを斬りつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
相矛盾しているようで、どうにも割り切れない人生の不可思議。それに押し流されてたどり着いた監獄で、ようやく繋いだ縁もまた、壊れていく。
…はたしてこの破綻、見た目通りの純情悲劇か?
モリアーティが監獄に切り離されたことで、彼を主役とするもう一つのミステリが動き出した感じもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
母の死、妹の死、己の殺人。
それを遠くに響かせながら、生々しい暴力と抑圧が強く傷をつける、堀の中の生存競争。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/QLDPdc7kgO
孤立無援の地獄の中で、ジェームズはどう戦い、どう推理していくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
彼が夢を託し、己を反射していたホームズは、この監獄の中にはいない。視線の意味、暴力の意図は彼自身が読み解かなければいけない。
これが二期を支える、一つの軸なのだろう。ドラマを生かした、面白いツイストだ。
いままでは謎めいた偽名の少年として、安全圏で事件を消費できたモリアーティだが、監獄というあまりに孤独で凶悪な環境では、当事者になるしか無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
ジャックを殺したこと、”西”と切れた場所に流れ着いたことで、彼は過去も素顔も顕な”主役”になりつつある。
演目は獄中生存競争、過去の真相。
一方ホームズもまた、失われた過去の痛みを抱え込みつつ、トンチキな”西”の日常を活きる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
モリアーティが与えてくれた希望。探偵と落語で世界と、人間と繋がっていく方法を、ワトソンくんを隣において続けていくことになる。
©歌舞伎町シャーロック製作委員会 pic.twitter.com/srj4rmI2i6
その裏に、ぬらりと蠢く兄の怜悧。父たるモラン区長の謀略と謎。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
その尻尾をたどることは、モリアーティの過去と現在に、必ず繋がっている。監獄の中で展開する孤独な物語は、確かに繋がっていた過去に反射しつつ、遠く離れた娑婆にも響くのだろう。
いつか”西”で展開される、(省略されるほどにお馴染みになった)『毎度バカバカしいお話』を続けていく中で、壁の中の孤闘が塀を乗り越えて、名探偵に届く瞬間が来るだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
しかしそれは、今ではない。
解決しきっていない事件、精算されきっていない過去、快復されきっていない混乱。
名探偵が正すべき謎を追いきった先に、残酷で滑稽な人生を生ききった先に、モリアーティとホームズの再開と、再び繋がって動き出す未来はあるのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
何しろ、お互いかけがえのないものとして、過去に出会い、繋がっていたのだから。
離れたように見えて、やはり窓の向こうには歩み出せる。
そういう結末を掴み取るべく、二期の物語は転がっていくよと、静かにメッセージを送ってくるようなお話でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
未来を描くためには、過去をしっかり彫り込まないといけない。融和を描くためには、分断の重さを刻む必要がある。
人生を彩る切ない矛盾に、しっかり目を向けたエピソードでした。
やっぱ僕はホームズの、不器用ながら世界や人間と繋がろうとする意志を滑稽な仕草の中に感じていて、それが何処から来るか知りたいと、ずっと思っていました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
それが今回明瞭に描かれて嬉しかったし、その戦いは孤独な空回りではなく、モリアーティもまた同じ思いで隣にあり続けたと分かり、良かった
だからこそ、窓の向こうに分断されてしまった現状はひどく切なく、やるせない思いがこみ上げてきます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
そういう哀情を煽りつつも、ただ絶望するだけではない温もりを過去に、そして未来に伸ばしていく視線があることが、この作品の良さ、強さだなと思わされました。
ワトソンくんはホームズとモリアーティを繋いだ『欠落の共鳴』を持ち得ない、かなり充足した人格の持ち主です。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
その”マトモさ”は彼の強みであるのだけど、愛する名探偵と断絶を生む異質さでもある。
混ざりきれない断絶を、今後彼がどう受け止め、向き合っていくのか。そこも気になる噺でした。
こうして過去を描き、キャラクターが滑稽の奥に秘めていた哀しさの源泉を見せた後で、話をどう転がしていくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月11日
娑婆の陰謀、監獄の謀略。現在進行系の事件の輪郭もまた、上手く切り取られたと思います。
この予兆、どう活かすか。来週も楽しみですね。