ID:INVADEDを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
終わりきった惨劇の蓋を開くだけに終わった、ハカホリの追跡劇。その辺境で、唇を奪われた本堂町。
額から通る風が、彼女を”名探偵”に覚醒させていく。
犯人と被害者、愛情と殺意、”かわいい”と”憎い”。
裏腹に張り付いた、感情と嘘。
その奥にあるものを、我らは暴く。
というわけで、ハカホリ三部作第二章(多分)なID:INVADEDである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
いきなりキスから始まるし、蔵より外務の仕事にフォーカスされるし、探偵役は酒井戸から本堂町くんに交代するし、事件解決ははえーし、非常に変化球が多い回である。
極めて奇っ怪な世界観、突飛なキャラクター、陰惨なテーマと描写。
作品が投げかけてくる野心的な変化球も、いい感じに受ける姿勢が整ったところで、アウトコースから一気に入れてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
気持ちのいい変奏で、非常に楽しかった。蔵での事件解決が若干パターン化してきた風情もあったしね…『風通しが良くなった』わけだ。
さてお話は、前回衝撃のヒキ、ファーストキスから始まる二人の殺意のディスティニーから開始である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
同じくアナアキに、ドリルホール・イン・マイ・ブレインされた被害者であり、縁もゆかりもない通りすがり。
キスされるいわれもない、奇妙な隣人。
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その衝動は数田にとっても意外なもので、しっかり芝居で表現される。後々、名探偵・本堂町小春が回想することになるけど、こういう違和感…フェアな推理のためのフックをしっかり描画しているのは大事だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
まぁこの段階だと、トンチキながら人間味を出すピンク色の横道…って感じなんだけど。
本堂町くん可愛い神輿で街を練り歩きたい気分は、この作品の陰惨でシビアな空気に、あっという間に押し流されていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
頭に穴を開けて”風”を通し、頭脳明晰な連続殺人犯になったアナアキは、風の温度を気にする。涼しくないとヤバいらしい。
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その危惧通り、被害者である数田は殺意なき連続殺人犯・ハカホリになっている。正確に言えば、その半分か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
数田のハイライトの消えた眼は、頭蓋穿孔と脳髄破壊がトレパネーションではなく、ロボトミーとして機能した可能性を示す。
フツーの繋がりが乱れ、本来繋がらないはずの場所がショートする。
その結果生まれる衝動が、鋭い推理にもなり、透明な殺意にもなる。その境界線は、酒井戸=逆瓢を見れば判るように存外曖昧だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
”キスしたい衝動と、殺したいという衝動”
サブタイが示すソレが矛盾なく同居するように、殺人犯と名探偵の境も薄い。
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ならば、アナアキの被害者として”風”を頭に吹き込まれた本堂町くんも、かなり危うい立場に立っているのではないか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
”覚醒”と言っても言い、井戸の外側の知性のスパーク。ソレが容易に、崖から転げ落ちて他人を巻き込む世界に彼女がいることを、僕らはとうに知っている。
そこからはみ出さないのであれば、しがみつくための”何か”がいる。先週酒井戸の死にゲーっぷりを通じて描かれたものとは、違うけど同じもの。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
それを23歳の本堂町くんが持ち得ているか、作品に焼き付けうるかは、今後の活躍のなかで見えるだろう。
期待してたとおり、第二の主人公になってきて嬉しい。
本堂町くんの直感は、数田のネジレた脳内を的確にエミュレートする。異常で唐突な出来事の裏にある、確かな必然。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
酒井戸が潜る連続殺人犯の無意識…殺しの世界は毎回異常で、しかしそこだけに通用するルールと謎がある。それを暴くことで、事件は収束し、秩序は(一応)回復される。
本堂町くんは蓋の開いた自分の脳髄と、そこから入って出ていく情報の波に潜ることで、状況を推理する能力を手に入れた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
赤で止まり、再び動き出す。そのときには、事件の尻尾を捕まえている。スマート&スムーズ、見事なデビュー戦だ。
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殺人者として監獄に縛られ、ミズハノメ唯一のパイロットとして”蔵”を離れられない、酒井戸=逆瓢がカバーしきれない裏側。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
実際の殺人が行われ、捜査員が殉職すらする”リアル”というステージを担当するのが、おそらく名探偵・本堂町だ。
殺さなくても探偵やれる彼女は、特権的な立場なのか?
過剰過ぎる情報を抑え込むように、よく傷口を塞ぐ仕草にはどんな意味があるのか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
ハカホリという謎を暴き立て、その裏側にあるものを引っ剥がす、快刀乱麻の推理劇。それは解決であると同時に問いかけで、どんどん気になる部分が増える。
非常にトルクのある見せ方で、凄く良い。
本堂町くんが捕まえた、ハカホリの尻尾。それに深く潜るべく、酒井戸は青い空を落ちる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
落下する無重力、一歩間違えば即死。やっぱりタフなサバイバビリティを発揮して、酒井戸は現場にしがみつく。先週から続く、オリジンの描写だ。
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しかしそこからの展開は、今までと違うルートをたどる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
亜音速の謎解明に、俺も若鹿くんと一緒に頭を抱える。
本堂町くんがビシバシ冴えてたあたりから感じたが、『あ、今回ヘンテコだな…』と確信したのは、このタイミング。
”お約束”がお客に馴染んだら、即裏切る。正しいかき回し方だ。
風に吹かれ、無重力にフワフワする世界で唯一定位できる、赤い壁。丁寧に血を塗りたくって作った隠蔽壕の奥に、隠れている被害者の集合体。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
それは男と女の混じった、加害者の集合体でもある。頭に開いた穴から、強すぎる風が吹き続けている。
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実況中継される”死”を捧げものとする、狂った純情。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
カエルちゃんという表立った謎≒犠牲と、その奥に隠された被害者の集合≒犯人の正体は血の壁で隔てられていて、同時に限りなく近い。
それが”近い”のだと気づき、暴いていくのが名探偵の仕事な。気づいてしまえば、結構アッサリ。
同時にミズハノメによって抽出・抽象化された無意識世界は、残酷で複雑な現実世界とも裏腹である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
そこで手に入れた情報はヒントともなり、また致死の罠ともなり、現場では沢山人が死ぬ。
リアリティから隔てられた”蔵”が安全圏なのか、見ることしか出来ない煉獄なのか。
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そこも今後掘る所…なのかなぁ?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
百貫さんの握り拳、極力冷静でいようとする努力はとても尊くて、同時に苦しいだろうな、と思う。
現実の眼で追っていては詰めきれない凶悪犯を、ブラックボックスに通し、怪物をパイロットにして掘り進む。ミズハノメはある意味、警察権の敗北宣言でもある。
安全な井戸端会議の行き着く先では、捜査官が生身で地固めをして、命を張って事件に挑んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
百貫さんは、可能ならば”そこ”に行きたいし、”そこ”で勝ちたいんだと思う。バーチャルな空想ではなく、実感のある生身の善が、生身の悪をとっちめられる現場。
でも、”井戸端”でしか見えないものがある。
それを知るからこそ、元同僚、現殺人犯を指揮して情報を集め、噛み締めた奥歯、握りしめた拳に想いを隠し続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
現場主義な司令官のジレンマも、今後奥行きが広がりそうで面白い。すげー抽象的な話やってるようで、キャラに血が通ってドラマが回るのは、とてもいい感じだ。
炎に包まれる現場の悲劇と、井戸の中の架空の決闘と、新米探偵の推理勝負。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
今回は3つのレイヤーがシャッフルされた、結構複雑な構成をしている。今まで独占的に”謎”を解体してきた酒井戸は、連続殺人犯製造機、ジョン・ウォーカーに怒りを燃やす。
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カエルちゃんの謎を解明し、名探偵という機能を果たす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
酒井戸というキャラクターが背負った衝動は非常に自動的で無分別だが、ジョン・ウォーカーへの憤怒もまた、自動的なものなのだろうか?
”彼氏”をバラバラに切り壊した連続殺人鬼メーカーが、感染拡大していく無残な事件の、中心にいるのか?
ここらへんも、今後掘るべき疑問であろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
ジョン・ウォーカーに接触されたアナアキが、ドタマに穴開けた数田がハカホリとなり、それが模倣犯を生む。
正体の見えない悪意は、複数のコピーと山程の死体を生み続ける。
顔の見えない疫病のようで、いい感じに気持ちが悪い。はようスカッとしたい…。
まぁそういう安直な答えを、簡単には与えてくれないアニメだってのは皆さんご承知のとおりだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
複雑に抽象化され、同時に臓物の臭い吹き上がる殺戮に塗れた、混沌とした作品パズル。これを自分の手で拾い集め、色々並べて見透かして、納得できるようハメていくのはとても楽しい。楽しいがしんどい。
そして、しんどいが楽しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
この感覚もまた、このエピソード(を舳先にして、作品全体)に漂う裏腹な感覚、矛盾に見えるものを解体・再構築していく視点の一つ…なのかな?
色んなものがみっしりと詰まっていて、食べ出があるお話は好きだ。見てて疲れるけども…そして楽しいけども。
現実を駆動する/駆動させるもう一人の名探偵、本堂町小春は見事、運命の現場へと行き着く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
何気ない対話に見せかけた、しかしあまりにも違和感と緊張感の多い、サスペンスのアングル。
血と傷への興味、対象への隔意と距離感、そこを詰める决意。
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本道町くんとハカホリ(女)の対峙は、スペクタクルな空想世界とはまた違った、どっしり重たい情報量と感情に満ちている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
この腰を落としたカメラ運びが、画面に情報を埋め込んで読ませるミステリの仕事をしっかり果たし、井戸の外に広がる世界の質感を伝えもする。
『可愛い』が素直な褒め言葉にならず、悪意とすら接着する複雑怪奇なコミュニケーション。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
それを『女の子の世界』と言ってしまえばあまりにアレだが、ここに漂う緊張感は女と女のバチバチと言うより、犯人と探偵の間合いだろう。
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恋バナを偽装して展開される、相手の嘘への踏み込み。隠された凶器と狂気への視線は、頭に滑り込む”風”の祝福か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
男の形をした顔のない殺意と、女の形をした死の甘受者。二人で一人の連続殺人鬼、ハカホリ。
キスと殺意が、矛盾なく繋がる異様は、実行犯とその受容者が分裂する構造で支えられている。
どれだけ奇っ怪に見えても、真実は一つだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
サイコ・サスペンス・ミステリの主題になるような、残酷で面白い狂気に分け入るためには、常識はずれの直感も必要になる。
それを与えられたから、本堂町くんは今回、酒井戸の代理人として、現実で大暴れする。だがそれは、借り物の危険な刃かもしれない。
堂々先輩捜査官の踏み込みをせき止め、真実に追いつく。犯人を追い詰める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
逆瓢と酒井戸が現実と幻想に分割されているのに対し、本堂町くんは推理と逮捕が一体になっている。
この矛盾のなさが、キスと殺しの繋がった犯人と対峙することで顕になる。
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これは鮮明な構図だけども、『善の探偵と悪の犯人』あるいは『現実と妄想』というスパッとした構造で、子の話支えられていないのはご承知のとおりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
壁の裏、刃を構えて待ち構える凶悪犯のように、いつでも死角にはヤバいものが控えている。矛盾し対立しているように見えるものは、存外近いのだ。
名探偵・本堂町小春がこのデビュー戦を越えて、裏と表がネジレて繋がった世界をどう走っていくか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
あるいは、この緒戦をどう終わらせるか。
そういうところに興味が行く、良いヒキでした。フツーじゃない話なんで、本堂町くんの未来は不安。
既に終わっちゃってる鳴瓢の、対照になるキャラだとは思う
これから開陳されていくだろう刑事・鳴瓢最後の事件を、殺人犯の被害者であり、名探偵として覚醒した本堂町くんがトレースしていくのか、はたまたそこから外れた答えを出せるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
少なくとも現状、名探偵と犯人は癒着している。キスと殺意のように。さーて、どうなるかな。
一方事件を解決し、仇敵との決戦も水入りで終わった名探偵は、被害者=容疑者=犯人と言葉をかわす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
先週既に死んでる被害者、終わりきってる事件にそれでもしがみつき、死者の言葉を受け取り、真実を引きずり出したように。
酒井戸は”聞く”探偵だ。
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イドの奥に封じられたものを暴き立て、誰かを救い、誰かを殺す。名探偵として知り得た秘密を使って、ハナビシを自死に追い込んだのは記憶に新しいところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
インドの合体神ハリハラのように、複雑に混ざりあった”犠牲者”の、静かな抗議。
『守れなくてごめん』は、彼氏本人から聞きたかった。
それが現実の、二人一組のハカホリとどう繋がるかも、次回顕になるだろう。そこに、名探偵・酒井戸はいない。ハカホリの事件は、本堂町くんの事件だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
…少なくとも、今のところは。
奇想と鮮血で思い込みをぶち壊して、とんでもない角度に旋回するのが得意なアニメなので、色んな意味で安心できんね
というわけで、凄く曲がるカーブみたいな話でした。意外な角度にズレたと思ったら、本命にズドンとぶち込まれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
この魔球をどう活かして、ハカホリ三部作を魅せきるか非常に楽しみです。
このタイミングでこういうタマ投げてくる、シリーズ構成の目の良さも実感出来て、うれしかったな。
ただの犠牲者ヒロインじゃないと期待してた本堂町くんが、頭に開いた風穴をロケットノズルに名探偵領域まで駆け上がったのも、非常に良かったです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月29日
過去に縛られた鳴瓢と、現実を駆ける本堂町。二人の名探偵は今後、どんな事件に飛び込み、イドの奥の真実を暴くか。楽しみhttps://t.co/naGSVhl0yk
追記 新伝奇の系譜の、一つの端っことしての舞城王太郎。そのディスコグラフィー最新作としてのID。
ID:INVADEDは毎回、凶悪殺人犯の無意識にサイコダイブして個別の”世界”を探る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
それは異常なルールが支配する閉ざされた場所であり、毎回違った状況のソリッド・シチュエーション・スリラーを次々やってる、ということにもなる。
極めてトンチキな、物理現象すら超越した密室の連続。
ここら辺、”世界は密室でできている”の再演という感じもあり、IDは舞城の自作批評的・再評価アンソロジーな側面もやっぱあんのかなー、と思ったりもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年1月30日
こーいう視線で見るコアなマニア以外にもしっかり届いてる肌感覚があるので、偉いなぁと思う。
キャラデザと絵作りが良いんだな。ルックが強い。