歌舞伎町シャーロックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
かくして犯罪王は、ライヘンバッハに落ちた。
取り残された者たちはあるいは己を責め、あるいは壊れ、あるいは生き続ける。
帰還したアイリーンの献身も、名探偵を繋ぎ止めないのなら。
奈落に落ちるより早く、走れ! 探偵助手!!
そんな感じの宴の始末、恐らく長いエピローグの序章だろう第22話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
ジャック・ショックの後の第12話と同じく、劇的なピークから日常へと帰還するリハビリに時間を取る作りで、このお話らしさがよく出ていたと思う。
その最後が、血みどろのヒキなところも含めて。
僕はモリアーティのことが好きだったから、彼が滝壺に飲まれたのは衝撃的だった。シャーロックのように壊れ、ワトソンのように離れるほどではなくとも。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
割れたティーポットを、己が埋め得ない寂しさ。口を開けた虚無の深さ。全てを無に帰する衝動の、甘い誘惑。
犯罪王の消滅は、様々なものを残す。
それは『毎度バカバカしいお話』の裏で…あるいはジャックやモリアーティが暴いたように”表”で蠢いている、否定しようのない世界の現実だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
それだけが世界の全てだと、消えていった者たちのように頷いてもしょうがない。それだけの重たさが、むき出しで笑えねぇ世界にはたっぷりある。
そのうえで、なお面白く生き残るためにはどうしたら良いのか。何が無為で、何が有効で、何が無駄のように思えるけども凄く大事なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
大きな山を越え、様々な人が虚しく去っていっても、世界は続く。物語は続く。
そこに復帰するために何が必要なのか。残り三話、継続してそれを語るのだろう。
とまぁ長丁場になりそうなので、ホームズもワトソンもぶっ壊れで開始である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
『名探偵助手、ワトソン氏の回想する事件簿』という、原典の形式。これを(ちょっと時代遅れな)5ch匿名物語に変奏するところから、物語は始まる。
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探偵長屋はパン工場に、探偵たちは謎のパンに。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
セルフパロディめいた自分語りは、ワトソンくんが自分を慰め、重すぎる現実をフィクションに変えて飲み込む…あるいは麻痺させるための工程だ。
結局アイリーンが現実のドアを蹴り飛ばして、ワトソンくんはフィクションの語り部から、探偵助手へ戻るが。
創作というクッションをかけて、匿名の誰かに己の体験を語り続けることが、ある種のリハビリになってたのか、ただの現実逃避であったのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
個人的には、なかなか判断しきれない部分でもある。可能ならば、”語る”という行為が彼の辛さを、少しでも和らげたのならば善いのだけれども。
一方ホームズは、掌から滑り落ちたモリアーティが生きているという幻想に溺れ、マッパで白米モリモリ食っていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
もともと衣食住全領域が壊れ気味の人だったが、変人食よりさらにヤバい、白米パクパクが涙を誘う。
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探偵のいない探偵長屋で、小林は一人タフに、モリアーティの名前を否定する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
モリアーティの爆弾が、無残に壊した楽しい我が家。そこに”残る”仕事が彼なのは、なかなか味があっていいと思う。世間の辛さヤバさを受け止めてなお、泥に足を突っ込んで進む。そんなタフさを、誰かが背負う必要がある。
それが小林にとってはモリアーティの否定なわけだが、ワトソンくんは二人の間に入り込んだ自分の否定、ホームズにとっては世界全部の否定になっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
ぶっ壊れちまった色んなものを、どう繋げどう治すか。
少なくとも、ちったぁ機能する形に、ツギハギやっつけ仕事でも治していくか。
そこに挑むのが、ホームズ唯一の”女”たるアイリーン・アドラーである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
写真の中にしか残っていない、きれいな想い出。そこに居場所がない女は、シャーロックを現実に引き戻すべく、謎と推理を差し出す。
それを切っ掛けに、壊れたホームズの再生が…
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始まりきらない所に、アイリーンの哀しさがある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
『私じゃダメなのね』と、最終的に確認するとしても。
アイリーンはぶっ壊れたホームズを前に、何もしないわけにはいかない。
手を差し伸べ、穴の空いたティーポットに水を注ぎ、少しでも愛すべき世界を認識し直すよう、無駄な努力に手を焼く。
それはアレクがジェームズを抱きしめていた時、感じていた哀しさと何処か似てる気がする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
特別な誰か以外には満たし得ないと知り、それが自分ではないと分かりつつも、手を伸ばしたくなる衝動。
モリアーティが焦がされ、道を踏み外し、奈落に落ちる直前に理解したのも、そのすれ違いか。
ポットを満たす特別な誰かに、皆がなりたいと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
でもその双方向の充実が果たされることは、あまりない。たしかに特別なはずなのに、それが世界も己も満たしてくれない冷たさは、水を注ぐ相手と、注がれる自分両方への哀しさに繋がっていく。
それは、人が生まれ生きていく中で、必然的な業だ。
モリアーティはその冷たさに呑み込まれ、滝つぼに落ちた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
彼がホームズの”何か”を満たしていたからこそ、その喪失は名探偵を壊した。
そんな輪廻を、アイリーンは『なにくそ!』と吠えて、献身的に蹴り飛ばそうとする。その勇姿が、痛ましくも眩しい。
一方ワトソンくんは、これまで僕らに見せてきた『気のいい常識人』という仮面を匿名相手に引っ剥がして、彼自身の業を語っていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
病原菌のように、家族や学校や職場を壊してしまう。悪気はないのに、世界が軋む中心になる。
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生まれついてのサークラ気質、気楽な善意が空回り。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
そんな過去を背負っていたからこそ、自分の『マトモさ』がホームズに通じ、彼の欠けて壊れた部分を補える”探偵助手”は、彼にとっても救いだった。
彼もまた、混沌の街に呼ばれるべくして呼ばれた、ここでしか生きられない存在だった。
そういう事を匿名に語ることで、彼は”探偵助手”として世界に復帰する土台を、少しでも作っていったのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
最終的に、探偵と助手を繋ぐサポートにしかならない、アイリーンの献身。でもそれがなければ、ホームズは帰還への一歩目を踏み出せていない。
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彼が公園の高座、モリアーティと推理落語に出会った瞬間に戻ってしまうのは、僕にもアイリーンにも哀しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
それだけそこでの出会いが大きくて、失われたものから踏み出せないということが判るし、そこに踏み込めない事実も強く、突きつけられるからだ。
それでも、アイリーンはホームズの傷を拭う。
自分ではダメだと思い知らされつつ、ネカフェの扉を蹴り開け、格好だけでも名探偵にする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
判っちゃいるけど、止められない。無駄と知りつつ、優しくするしか無い。
その触れ合いに、少し色が戻るシャーロックの瞳が、アレクとモリアーティに重なって見える。
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ホームズがパンツだけでも履いて、事件に首を突っ込む気になったのはそこにモリアーティの残り香があるからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
犯罪王としてばらまいた、謎の暗号。推理と落語を通じて、世間と繋がる生き様。
決定的な破綻でぶっ壊れた破片を、少しでも寄せ集めることで、蟲のように生きる。
アイリーンは今回、益の少ないリハビリの只中で、2つのことを思い知らされる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
ホームズが壊れた推理装置以外の道を生きる中で、自分は決定的な役割を果たし得ないこと。それはワトソンの領分であること。
そして、モリアーティが背負う死と喪失にも、自分は勝ち得ないこと。
明晰な彼女は、それを痛いほど知っている。それでも、手を差し伸べ面倒を見ずにはいられない。壊れたティーポットに、水を注がずにはいられない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
その献身と不屈が、僕は凄く大事に思える。決勝点はワトソンがキメるにしても、アイリーンが地道に、必死に整えたものがなければ、名探偵は壊れたままだ
ワトソンくんも、そういうモノを見落とす男ではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
自分が過去から引き継いだ、己の業。それが再び、大事なものを壊してしまった悔恨と無力感。
それに苛まれて逃げ出したとしても、己を再構築して物語の中心へ飛び込む。
そういう『マトモさ』も捨てきれない男だ
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アイリーンに蹴り出されて、足を向けたイースト。様々な思い出が、未だ残響する街で、彼は金子の親分と出会い直す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
『ホームズを、見捨ててやらんでくれ』
そう頭を下げられるのは、彼ががむしゃらに彼らしく、この悪徳の街で思うまま、善良であった結果なのではないか。
人の営みは繋がり、苦しいことも楽しいことも生み出す。出会わなければ、別れていく辛さも、もぎ取られた後の虚無もないだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
でもそういう冷たい風が吹きすさぶ荒野にも、自分が成し遂げたものがひょっこり埋まっていて、ぽんと肩を叩き、何かを預けてくれる。
街頭に宿った、思い出の欠片。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
確かにあの男は笑っていて、その側に僕はいた。あの笑顔は、僕がいることで、彼と触れ合うことで生まれたのだ。
その事実に、彼はようやく思い至る。
何もかも無駄ってわけじゃなかったし、無駄になるかは今この瞬間に全部かかる。
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壊れて初めて分かる、『毎度バカバカしいお話』の尊さ。もう戻らないものに涙を滲ませつつ、探偵助手は顔を引き締める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
ここは歌舞伎町イースト。ぶっ壊れた連中が、それでも生きようと輝くネオンの街。
僕はジョン・ワトソン。名探偵、シャーロック・ホームズの助手だ。
出会い、続け、壊れた自分を、ワトソンくんは様々なものを寄せ集めて再生させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
決定打になったのは金子の親分と、アイリーンの書き込みだけど。
ここまでワトソンくんが歩いてきた道と、匿名に語った物語も、強く彼を支えている…のだろう。
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ワトソンくんが帰還することを決めた、歌舞伎町の闇。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
モリアーティが身を投げた奈落に、ホームズも惹かれ迷走する。
その背中を、婦人印の発振器で追いかける歩みが、間に合うのか間に合わないのか。
壊れる前は、すぐさま気づいてた発振器に、後をつけられるホームズ。なんとも寂しい…。
しかしそれは『名探偵の怜悧を犯罪に転写する』という、モリアーティの願いが未だ叶ってない証拠でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
彼が持ち前の頭脳を反転させて、モリアーティの後を追うように本気で犯罪をしているのなら。
恐らくアイリーンもワトソンくんも、追いすがることは出来ないだろう。
まだ、その段階ではない。
だが、その崖っぷちに足はかかっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
ゴミ溜めの只中、血に濡れる犠牲者。ジャック事件を思い出させる薄暗いどん詰まりで、魔都は妖しく輝く。
名探偵がぶっ壊れている以上、長屋のポンコツと探偵助手が、どうにか解決するしかねぇわなぁ…。
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というところで、お話は次回に続く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
果たしてシャーロックは善悪の彼岸を踏み外し、モリアーティが身を投げた犯罪の王国、絶望の滝壺に沈んでしまったのか。
その最終証明を、復帰なったワトソンくんは”探偵”としてやり遂げなきゃいけない。出来なきゃ、ポットが壊れるだけだ。
男達の強い感情を追いかけてきたこのお話、変人探偵が唯一”女性”と見るアイリーンは最終局面、主役のお膳立てをするだけとなった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
残酷だなぁ、と思いつつもしかし、その献身は非常に丁寧に積み上げられ、ワトソンくんがゴールを決める土台をしっかり、優しく固めてくれた。
そこにちゃんと時間を使うところが、様々な人の繋がりを信じ、それを打ち壊す現実の無惨から目を背けない、この作品らしさだなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
壊れたポットを塞ぐなら、決定的な運命の相手ってのは絶対必要で。
でも、そうなれない存在が無意味ってわけじゃない。
八百八町に散らばった、想いのかけらを寄せ集め。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月14日
壊れてもなお肩寄せて、人情片手にふーらふら。
怖い顔して滝壺見ても、自分の顔が映るだけ。
ならば隣に俺たちが、いつでもいるよとお気楽に。
告げるためには難事件、どうにかオチまで語り切る。
そんな感じの終盤戦、次回も楽しみです!