虚構推理を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
かくして、鋼人七瀬は斃れた。秩序の裏側から這いずりだした怪物は、未解決の闇へと沈んでいく。
紗季は警官…秩序の維持者としての日常に戻り、九郎との思い出に決別する。
不死者の歩みに寄り添うのは、一脚一眼の知恵神。
かくして、奇妙に穏やかな日々は続く。
そんな感じの、宴の始末である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
鋼人七瀬の生まれた理由、九郎のつれない態度の裏側、紗季さんの思い出始末。
残された謎を丁寧に潰して、まだまだ続いていく怪物たちの歩みと恋を穏やかに書きつつ、一旦の幕である。
ロマンス重点で甘く余韻を残して終わるのは、なかなかいい感じ。
知恵神と混血のタッグは、見事想像力の怪物を討ち果たす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
肉体労働担当として、それを間近に見るもの。車窓越しにおずおずと覗くしかないもの。もう一つの戦場に、芝居がかった礼をするもの。
最後まで、二人と一人の分断を描く筆は元気だ。
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怪異事件のど真ん中に、混ざり合えない異分子。どうあっても愛おしさに寄り添えない、終わった恋の住人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
未解決事件のイレギュラーな解決に飛び込むことで、そういう自分を思い知らされる。
でもそれは、苦い負けでも醜い未練でもない。ちゃんと線引をして、笑顔でお別れするべき思い出だ。
一人間が過去に決別し、神様と怪物は過去を過去にできない宿命を描くこのお話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
紗季さんが取り残される構図を残酷に、幾度も刻むのは必然であるし、その決着がつく今回は特に大事でもある。
それにしたって、”部外者”として紗季さんを隔離するレイアウトは徹底してたな…必要な冷酷さではある。
鋼人七瀬を駆動させた六花は、寺田さん殺害の計画者でもある。同僚を奪われた紗季さんには憎い仇とも言えるが、最後の挨拶は同じ異能者二人に来て、警察官には来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
鋼人七瀬の物語と寺田刑事殺人事件は、そういう領域で起こったのだ。
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グビリとタフにお水を飲んで、琴子は扉を開け放ち事件現場へ、恋人のもとへと歩みを進める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
紗季さんはガラスの向こうに取り残されて、九郎の近くに寄り添う特権は貰えない。それはとうの昔に、放り出したものだ。
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事件が本当に起こった場所に進むためには、不合理な闇に身を投げ、そこに染まる覚悟がいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
片目と片足を贄に捧げて、そこに入る特権(≒光から浮かび上がる異質さ)を掴んだ琴子は、闇の中の光を抱きしめ、抱きしめられる事も出来る。
血みどろバトルの後に、バナナを食って命を繋ぐ。
そういうタフな異質性を持っていなければ、夜からの侵略には立ち向かえない。車の中の紗季さんは、九郎の宿命には寄り添えないのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
下ネタ混じりのバナナは、生と死の起源にまつわる”バナナ型神話”への言及かな、とも思う。(磐長姫の物語もそれ)
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長い長い虚実の夜を越え、トンネルの向こうの現実に帰る。その瞬間ですら、紗季さんは九郎の隣には座れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
ライバルを膝に乗せて、後部座席から後悔を睨む。琴子が守りたい秩序は、そこに在るのだ。
恋敵への意地悪だけでなく、普通人を踏み込ませない意味でも、紗季は遠ざけられていたのだろう。
琴子が駆動した、真実を凌駕する物語。それはネットの上でしっかり収まり、秩序と現実には波及しない。そういう都合のいい結末を、九郎が掴めるよう枝葉を刈っていたのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
人非人に見えて、アフターケアもそれなりに。
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とはいえ、寺田さんを殺した怪物は表沙汰には当然出来ず、死の真相、事件の真実は深い闇に飲まれていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
駆逐したはずの中世の闇が、簡単に現行の秩序を飲み込める事実。
多くの人が足を載せている、脆い現実という虚構を守る柱には、顔のない屍が埋め込まれている。
そんな構造を飲み込み、納得しないながらも手を合わせて、紗季さんは制帽を被り直し日常に変える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
客神である琴子が去った後、寺田さんの遺志を継いで街を守るのは、彼女の仕事だ。
魅力的な虚構ではなく、面白くもなんともない事実を積み上げて。その当たり前の闘いに、意味は大いにある。
紗季さんは恋の敗北者、異能の部外者として描かれている。同じように、琴子(と六花)はエキセントリックな怪物、日常に馴染みきれない異物として描かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
超常と日常、その両方が信念と意義を持っていて、でも交わらず何かが欠けている。
そういうアンバランスな平衡に話が収まるのは、結構好き
九郎から最後のプレゼントは、今カノのお下がりだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
ワリと最悪な行動だが、紗季さんは怒らない。
終わった恋にケジメを付けて、九郎には寄り添えない自分をちゃんと確かめる。メールアドレスを残しておいて、捨て台詞を押し付ける六花とは大違いである
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隣り合って食事くらいは出来るけど、肌は合わせられない距離。それが九郎との…彼が背負わざるを得なかった怪異と、紗季さんとの間合いだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
そうやって遠くに離れても、出会えたことの意味はある。別れたとしても、思い出は残る。
そういう事を確認して、紗季さんは笑顔で恋にサヨナラする。
想像力の怪物を、自分を人間に戻してくれる神様に育て上げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
怪物でいることを受け入れた九郎が、琴子に寄り添って秩序を守るのに対して、六花は”普通”に戻ろうと現実を揺るがす。
人間と怪異の境界線は、ここでも危うく揺らいでいるのだ。
それでも、夜の中の光は美しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
闇の中から、闇を以て秩序を守る、エキセントリックな知恵神。それと同じように、夜を知る警察官がこの街にいることは、妙に頼もしい。
文句なく敗北者なのだが、そういう勝ち負けを超えた輝きが在るよ紗季さん…。
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一方トンチキおひい様は、どうしようもなく勝っているのに余計な気を揉んで、右往左往の大騒ぎである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
二人が冷たく名字で呼び合うどころか、肌を合わせる関係なのを最後に示唆するのは、結構好き。
そらま、ちびっ子ながら大学生ですからねッ!
…この密着距離が、紗季さんの手に入らんかったものよ
”我が女二たり並べて立奉りし由は、石長比売を使はさば、天つ神の御子の命は、雪零り風吹くとも、恒に石の如くに、常はに堅はに動かず坐さむ。”
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
天孫に選ばれなかった不死人を、名にし負わばこそ君の手を取る。九郎先輩のプロポーズは、結構知的だ。
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おひい様は頬を赤らめつつ、その手に一瞬だけ触れて、対等の距離感で前に進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
パートナーを杖とするのではなく、己の片足を堂々進めて、一緒に雨の中傘もささずに。
普通人代表たる紗季さんが、同僚に傘を差し出されてるのは面白い対比ね。
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この世の理から外れることで、この世の理を守る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
己の在り方を怪異と人間の間に定めた審神者達は、雨降りの一日を”穏やか”と受け取る。
そんなズレ方が、現実という優しい嘘を守っている。
六花の長い手が、いつかまた虚実の境界を破るとしても。
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誇りと余裕を持って、世界に馴染みきれない変人でいよう。その隣には、同じく理からはみ出した混ざりものが、一緒にいるのだから。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
かくしてミステリとロマンスは同期し、怪異と人間の境目は定められ、また混ざる。
”虚構推理 鋼人七瀬”
かくして”終”である。
というわけで、怪異譚とミステリとロマンスの入り交じるジャンル越境物語、無事完結、であります。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
いやー、面白かった!
アニメで動くおひい様は元気で可愛くて、『まず探偵のキャラを立てる』という近代ミステリの強みを、最大限発揮してくれました。
アニメになってみると、負け犬で部外者である紗季さんが相当大事な仕事を担い、丁寧に着地させられてんだな、ということに気づき直せました。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
鋼人七瀬の事件が終わっても、神と怪物の物語はまだまだ続く。しかし紗季さんの”納得”はここで終わって、もう会うことはない。
ある意味、主役は彼女なのよね
過去に納得し、日常に帰還する。紗季さんの”終わり”が見やすくなることで、現実からはみ出すことで秩序を守る琴子の矜持も、より分かりやすくなったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
街の灯の裏で、牙を研ぐ非日常。それに対峙する、異能の住人。
存外、オールドスクールな退魔譚でもあると気づけたのはありがたい。
まぁ言うても、原作読んだの相当前で色々忘れてましたが。だからこそ新鮮に、アニメで描かれるものを食べれた感じもあり。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
磐長姫の物語が、作中ダイレクトに言及されるの完全に忘れてたな…人間の記憶は、つくづく当てにならなん。https://t.co/jl3fxWoTVH
イワナガヒメの説話もまた、『現人神たる天皇が、なぜ人と同じ寿命なのか』というミステリに納得を与える、一つの”魅力的な虚構”といえる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
琴子のでかませ主義はその場しのぎ(だけ)ではなく、物語り納得と安心を求める動物としての人の習性、長い伝統に則ったものなのだ。
嘘と真実を自在に操り、もう一つの事実を捏造する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
探偵であり騙り屋でもある琴子の超越をエキセントリックに描きつつ、はみ出しているからこそ守るべき秩序に絶対馴染めない孤独が匂う描き方も、なかなか良いバランスだと思いました。
琴子のチャーミングな壊れ方は、上手くアニメに出来たと思う。
何しろベラベラ喋る上に、フェアかアンフェアかの境界線すらぶっ飛ばす超絶ミステリなので、映像化は難しかったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
動きのないシーンを長尺の喋りで支え続けた、声優陣の奮戦。時にケレンに満ちたイメージカットで、時に暗喩に満ちたレイアウトで、色々情報量を上げた絵作り。
自分なり工夫を凝らして、難しいネタをエンタメに仕上げようと頑張ってくれたのもありがたかったです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
原作枯渇が行くところまでいって、人を選ぶネタ、旧い傑作、起こしにくい難題がバリバリアニメになってるのは、ヒネた嗜好の持ち主としてはありがたい。
バンバン、ヘンテコなアニメを流せッ!!
色んなジャンルを貪欲に織り交ぜたこの作品、ロマンスの甘やかさをどう書くかって結構大事だったと思います。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
可愛い外見から容赦のない下ネタとぶっ飛んだ思考回路をパナす、善人でも常識人でもない虚構使い。
琴子とその想い人の恋を、独特のムードでチャーミングに書けたのも、とても良かった。
真実が尊ばれた近代の先にある、ビッグデータの雲に揺らぐ現在。その危うさと闘い方を刻むっていう、現代性の在るネタを復活させる意味でも、面白いアニメ化でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年3月29日
鋼人七瀬が鎮められた後も続く、神と怪物のミステリ。それをアニメで見たくもありますが、今はお疲れ様を。
有難う、楽しかったです。