BNA ビー・エヌ・エーを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
憎しみに満ちた世界を変えてしまうかも知れない””獣人病患者”みちるを、大神は閉じ込めようとして果たせない。
アニマシティを揺るがす爆破事件の、裏に隠された謀略。
町の根幹と繋がったシルヴァスタ社が、囲い込む秘密とは。
籠の中の狸は、それでも空を夢見る。
そんな感じの、狸と狼のバディ本格始動な第三話。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
最古と最新、男と女、探偵と助手。
様々な対立項を盛り込みつつ、オールドスクール・ハードボイルドの一番いいところを作品が摘むと、静かに伝えるエピソードである。
LWAといい、吉成監督は古典ジャンルの精髄を抜き取って、再動させる才があるな…。
今回強調されるのは閉鎖と開放であり、閉じ込められたものが外に出ようとする勢い、オープンエア特有の危険が、元気よくアニメートしていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
閉ざされた場所から飛び出したみちるは、様々な危険に出会う。開かれた場所は常に危険と責任を問い、それに答えるものだけが自由と可能性を掴み取る。
自分がそういう危うい場所に立ってることを、みちるはまだ存分には知らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
世界の危うさを死ぬほど思い知って、だからこそ『獣人だけを守る』と誓いを立てた大神は、古い世界観に閉じこもってもいる。
そんな二人が、いがみ合い分かり合いつつ進む物語である。クラシック!
開放された世界に、暴力と謀略が火柱を上げる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
そんな鶏鳴を遠くに聞きながら、大神は前回みちるが取り返したアイデンティティを嗅ぎ、個人的な過去を遡っていく。
神の如き探知能力には、時間も距離も関係ない。
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人間だったみちるの残り香は、アニマシティとは違った描画で刻まれている。人間の世界には輪郭があり、”普通のアニメ”に近い形で描かれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
獣人を排斥することで成立する、人間社会のノーマリティ。それは暴力的で閉鎖的だ。
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さらわれた友人、望まぬ変貌、閉ざされた部屋と一条の光。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
みちるはPCという窓から、アニマシティという光を見つけた。
自分を押し殺し、閉ざされた場所で頭を低くするよりも、可能性に向かって突き進む。その旅路は、常に偏見と暴力によって挑戦され続けている。
みちるが何故、この街に来たのか。何を刻まれて、今のみちるになったのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
大神の嗅覚=過去視覚を通じて、簡勁かつハイセンスに見せる一連のシーンは、凄く良かった。
これをみちるが語ってしまうと、過度に湿り気が出て重くなる感じがする。
自分の弱い部分を、ツッパって隠す。
弱い女子供、薄汚い獣人だと蔑されても、それに屈せず背筋を伸ばす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
そういうタフな反骨心が、彼女の魅力であるのなら。
過去を盗み聞き…ならぬ盗み嗅ぎすることで、視聴者に見せる工夫はキャラクターにも、作品の雰囲気にも合致していると思う。
ハードボイルドの根っこは、やっぱりやせ我慢だ。
みちるはみちるなりの絶望と希望を抱えて、街にやってきた。夢見た楽土とは違ったけど、自分が自分でいられる場所を求めて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
でも、哀れんで欲しかったわけではない。だから、辛い過去を自分から語りはしない。それはとても大事なプライドだ。
そして大神は、そういう矜持を最初、あまり大事にできない
気持ちのいい朝焼けに、窓を開けて挨拶できる自由。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
部屋を飛び出し”街”にたどり着いたことで、手に入れたみちるの権利を、大神はもう一度監禁し、閉じ込める。
抵抗力を持たない弱者、言う事を聞かせて守るべき子供。
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”守護神”という、タフでマッチョな価値観を己に刻んでいる男は、勝手で分からず屋だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
長い時間を超越者として生き抜いてきた、経験と実績。それが得意の嗅覚を封じて、現実をあるがまま認める素直さを封じている。
世知に長けた狼は、何も知らない狸を閉じ込めることで、守ろうとする。
ここに、プリンセスをお城に閉じ込める王子様を幻視して良いものか、なかなか難しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
二人の間にロマンスは育つのだろうか?最悪の出会いから生まれる、最高の恋ってのも、また古典であり強い物語だ。
みちると大神の間に生まれる、ギクシャクと噛み合うビートの心地よさは、そこへの予感も膨らませる
とまれ、大神は世界が最悪のパニックに落ちる火種として、みちるをクローゼットに監禁する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
その危惧が正しいことを、シルヴァスタでの描写が裏打ちするのだが、その事実を二人はまだ知らない。
二人の間では、隔離保護は過剰なマチズモの発露、子供の可能性を潰す大人の傲慢である。
みちるは狸らしく様々な動物に”化ける”ことで、聞き耳を立て、SOSを市長に届かせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
変容、可能性、可塑性。
”狼”というトーテムを神域まで磨き上げている大神とは、また別種の特殊性。
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固定された動物種ではなく、兎にも鳥にもなれる自在性。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
それは彼女の運命を見出し、被差別の烙印を焼き付けた”病気”の、ポジティブな側面だろう。
それが、大神の用意したクローゼットから彼女を引っ張り出し、市長とのコネクションをつなげる。
『私は、ここにいる』という強い視線を、光の中に暴く
みちるがコミカルで可愛らしいビースティ・ガールでありつつ、時折非常に真っ直ぐで強い視線を見せてくれることが、僕には嬉しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
彼女は己の運命を嘆きつつ、それに流されるだけのヒロインではない。大神という巨大な庇護者により掛かるだけでなく、自分の足と言葉でやり込める。
幼く愚かな彼女に、問題を直接突破する”力”は(まだ)ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
だが自分の中に秘められた無限の可能性をバチバチ言わせて、様々に変容しつつ、己を吠える強さがある。
そしてそれは、確かに何かを変えていく。大神の印象が、今回のエピソード最初と最後で大きく変わっているのは、みちると関わったからだ
『獣人、かくあるべし』という理想を体現する大神が、”最も新しい獣(Brand New Animal)”たるみちると交流することで、己を変えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
あるいは”守護神”に守られ、彼が背負う獣人史と矜持を至近距離で嗅ぐことで、少女が己を確立していく。
そういう相互作用のお話として、この話は太い。
市長がくれた携帯電話(女子高生、人間としての”あたりまえ”、通話のメディア、救済を求めるホットライン)を手に、喜ぶみちるは可愛い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
彼女は成り行きで人狼探偵の助手となり、はるか遠いシルヴァスタへと接近していく。
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”病気”を治し、自分を”人間”に戻してくれる夢の会社。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
しかしそこは、アニマシティが楽土ではなかったのと同じく、魔法使いの城ではない。
当たり前の汚職があり、もっと深い闇が眠り、少女狸を食い物にしようと待ち構えている。
檻の外に出て自分の足で歩けば、そういうものとも必然、行き交う。
『聞きたい』というみちるの思いに反応して、彼女の身体は新しい可能性を発現させる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
しかしそれは、凶暴な悪意に自分を晒す目印にもなってしまう。可能性は常に危うさと隣り合わせだ。
そして、文明の利器からのSOSを大神は聞き逃す
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”爪”という狼最大のフェティッシュを、守護神の誇りにかけて使わない大神は現状、『嗅ぎ分けるもの』だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
知覚に特徴がある探偵なのだが、みちるの思いとか救難信号とか、肝心のところを聞き逃してしまう。
獣神の知覚は、必ずしも万能ではないわけだ。
特長と欠落の見せ方が、さり気なく上手い。
みちるがただの目撃者ではなく、特別な獲物としてシルヴァスタに狙われていることを、大神もみちるも今回は把握できない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
獣人達の認識よりも世界は広くて、死角は多い。
その闇から伸びる手が,可能性をクローゼットに投げ込む前に。
石頭の神様と野放図なその助手は、バディになれるのだろうか?
その一歩目が、今回の話だろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
みちるはやはり、直接的に窮地を脱出する力は持たない。路地裏のクローゼットに追い込まれる。
クロというアナログで獣的なメッセンジャーに導かれ、ヒロイックな登場を果たした神様に救助される。
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自分は(少なくとも自分の一部は)”守られるべき女子供”だし、大神の『獣人を守る』は口だけじゃない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
みちるは己の無力と大神の実力を認識することで、それを逆手に取って、事件に飛び込む自発性を手に入れる。
そしてそれは、『私は獣人』というアイデンティティを、彼女自身に認めさせもする。
それは獣しか守ってくれない神様に、自分を庇護させるための屁理屈かも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
しかし”病気”に侵されたと現状を否認するより、よりポジティブで開放的な自己認識だと思う。
大神に守られる”女=子供=獣”である私からスタートして、みちるはどんな存在にメタモルフォーゼしていくか。
それは”化ける”狸の獣人という、特殊な存在の物語であると同時に。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
何者にもなれ、だからこそ何者でもない青年という、凄く普遍的なキャラクターでもあると思う。
暴力と差別に取り囲まれた、ソリッドなジュブナイル。
物語の足場として、なかなか堅牢だ。
足を踏み入れ、暴力的に追い出されたシルヴァスタというクローゼット。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
みちるは大神の知恵と力を借りることで、そこにもう一度踏み込んでいく。
偽物の暴力が吹き荒れたデータ室に、秘められた真実。それを嗅ぎ分ける”鼻”を塞ぐ大人
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その欺瞞を、大神の神なる嗅覚は鋭く暴く。それに後押しされる形で、刑事(公認された正義と権力、あるべき”街”の善)とみちるも闇から光へ、閉鎖から開放へと踏み出していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
大神の超嗅覚が、公的な証拠として法で認められている描写は、非常に面白い。
シルヴァスタの財力と同じくらい、時空を飛び越え認知を拡大する大神の力は、街の根っこに食い込んでいるのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
それは法で後押しされ、公に認められている。悪を追い詰め、正義を為すための”証拠”として機能する。
輪郭のカッチリした人間の街とは、少し違うルールでアニマシティは動いているのだ。
追い詰められた小悪党は、ケモノの本性を顕にして暴力に頼る。大神は窓ガラスをぶち破り、広く危険な場所でちっぽけなエゴを圧倒する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
画面占有率が、魂の強さを反映して物理的にデカい! 好きな演出だ。
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第1話の鹿と同じく、悪漢は”角”にこだわり、大神はそれを無慈悲に粉砕する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
歪んだマチズモの去勢を僕はそこに見るけども、大神は獣人全体がどう在るべきか定め、そこからはみ出した”子供”に不可逆の傷を刻む、大いなる家長=神だと言える。
厳しく、正しく、聞き分けがない。
しかしそういうハードな顔だけが、大神の全てではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
彼の異能と矜持は、ただ押さえつけ潰すだけではなく、守ることにも機能する。
”化ける”力を意図的に駆使して、束縛を引き剥がして手に入れた自由。
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それは落ちて死ぬ可能性と、いつでも隣り合わせだ。光に誘われ、クローゼットから出るということは、そういうことだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
その重たいリアリティに直接対抗する力は、(まだ)みちるにはない。
神様として男として大人として、先に世界に適応した大神の力に頼ることで、みちるは命を繋ぐ。
無敵の大神が初めて血を流すのが、みちるの救難の代価だというのは象徴的だし、正しくも在る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
タフガイは常に、誰かのために血を流す。自分だけで生きている間は無敵だが、誰かと関わると穴が空いて、弱くも優しくもなる。
卑しき街を行く、誇り高き騎士。
鮮血はその永い系譜に、身を連ねる証明だ。
正しさを一方的に押し付けるだけでなく、身を挺して血を流す存在であること。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
己の過ちを認め、変わっていける可塑性が在ること。
”人”なら死んでる大立ち回りは、大神の新しい側面を教えてくれる。
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血を流す大神の弱さ(あるいはHumanity)を見たみちるが、至近距離でそれを支え、認識を新たにする描写が良い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
みちるも大神も、自分の頑なさや世界の厳しさに晒されつつ、己を開いて変わっていく事ができる存在だ。
それは強くて優しい。ハードボイルドってことだ。
行き交った初めての事件を、なんとか解決した二人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
権力と理想と知恵を兼ね備えた市長とのパイプも出来て、みちるのアニマシティ・ライフも一歩前進である。
その裏では、シルヴァスタの長い手が”街”に伸びている。
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みちる達が至近距離でお互いの魂を嗅ぎ分け、血を交えて理解を深めていくのに対し、シルヴァスタ会長は常に遠く、檻の向こう側の”街”を睨んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
『私は獣人』と、一番身近な他人を認めたみちると、その視線は真逆に噛み合い、運命は静かに火花を散らしている。
それが交錯するのは、少し先か。
というわけで、狸と大神のバディ、初の事件でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
みちるに出来ること、出来ないこと。大神が嗅ぎ分けるもの、聞き落とすもの。
それぞれの矜持や意志、オリジンを巧みに見せつつ、キャラクターが活劇の中でしっかり見える、いい仕上がりでした。楽しさの中に、太いバックボーンがちゃんとあるね。
探偵物語の類型をしっかり抑えることで、作品が見据えているものがより鮮明になった感じもあります。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
優しさと強さ、最古と最新。真逆に見えるものが響き合い、影響し合うことで生まれる、”何処か”への突破口。
そこへたどり着く道は、自由で…だからこそ険しい。外に出れば、危険はどこにでもある。
みちるは大神といがみ合い、助け合いながら、クローゼットの外側にある世界を学び、己を変えていくのでしょう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
そういう”子供の学び”だけでなく、人から獣に転じたみちるだからこその唯一性もまた、しっかり持っている。
”化ける”特性が万能無敵ではなく、知恵と機転を必要としているのも良い感じ
世界を燃え上がらす災厄の種であり、光を探し求める一少女でもあるみちる。彼女と隣り合うことで、大神と”街”がどう変わっていくかも楽しみです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年4月22日
色んな可能性とポテンシャルを作品が秘め、それを活かす筆の強さもあると伝えてくれる第三話でした。
面白かった。次回も楽しみです。