ケムリクサ 第7話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
長い旅路の果て、見えた青い世界。
壁を超えた先に広がるナナジマは、命の水に満ちた桃花源。
しかしその果てに待つのは、世界樹を齧るニーズヘッグの群れだった。
赤き大樹から生まれる不条理に、りんは怒り突破を望む。
ならば、我々は進む。一人も欠けることなく。
そんな感じの蒼き第二章開幕ッ! ケムリクサ第7話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
”水を得る”という最初の目的を達成し、不安に怯えず生きられる場所を手に入れたかに思えた一行。
しかし残酷な世界は、旅路よりも濃厚な”赤”を用意し平和を脅かす。
進むか、退くか。
為すべきことか、やりたいことか。
問われたりんは”やりたいこと”を言葉に変えて、家族はそれに応える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
新たな闘いは、ただ生存のための退却戦ではない。希望を、未来を掴み取るための前進を、これから物語は突き進んでいく。
それが青と赤の対比からしっかり見えてくる、見事な二度目のスタートだった。
このお話、物語の重層性や謎の面白さ、テーマの強靭さがクローズアップされがちな印象だが、凄くシンプルに”絵”がいい作品だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
簡単に大事なものを奪う、残酷な世界を赤で。
そこを歩き通してたどり着いた希望を、抜けるような青で。
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色彩設定とレイアウトによる印象のコントロールは、展開が新しくなった今回、非常に鮮烈に刺さる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
ナナジマというゴール(は、スタートでもあるのだが)が強く”終わった”印象を与えるのは、ここにたどり着くまでの旅路を徹底して、黒と赤の重苦し色で塗り続けたからこそだと思う。
それは第1話でりなちゃんの一人を殺し、過去に姉妹を奪ってきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
欠乏に怯えず、暴力に震えなくても良い世界を望んでいるのに、それを許してくれない残酷な世界。それが終わりうるという希望を、青い世界と朗らかなやり取りは強めてくれる。
ぴょこぴょこ歩くりなちゃん可愛い!(神輿 ON MY肩)
空中に張り出し、道となって未来を繋いでくれるもう一人のミドリちゃんを、『私のミドリちゃん』と比較してプンスカするりつ姉もまた可愛いけども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
いつ命を奪われるか分からない世界の”圧”が、赤霧がないことで緩んでいる感じが、仕草の中から溢れている。じわりと染み込む、良い演出だと思う。
過去、新しいシマへの到達は必ず犠牲を伴い、そのたび泣き虫りんちゃんは心を固く閉ざして、戦士に己を変えてきた。マジ許せねぇな…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
存在とともに認識も分散してしまっただろう、幼子のようなりなちゃん達は、そんな過去を覚えていない。哀しい変化に思いを馳せれるのは、りつ姉だけだ。
記憶を喪失し、そもそも姉妹の家族史に取り込まれてもいないわかばは、しかしそんな歴史をしっかり聞く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
旅に同行する異物として、好奇心と共感でもって共同体に入り込んだ一員として、強がりの奥にある悲しさを感覚し、共鳴する。
好きを置き去りにしているりんちゃんを、哀れに思う。
それは同情よりももっと切な、自分の心にヒビが入るような重たい辛さをもっている。そういう感情を抱ける相手を”身内”というのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
りつ姉はりんちゃんが抱えて、それを見守る自分も背負う重荷を、一緒に背負ってくれる共犯者として、わかばを見初めているのだろう。
アイちゃんが指し示す水への道を、塞ぐ青い壁。それを攻撃することで、無害なシロムシは攻撃的なクロムシへと変わり、闘争は激化する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
ただ壊すしかなかった壁を、わかばは知恵を用いて開く。過去から受け継いだものが、未来へと道を繋ぐ。
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殴りつけられた青い壁には、”警”の一文字が踊っている。ひらがなしか読めない一行は、その意味を解読することは出来ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
大樹を中心にシステムが生きているナナジマは、一つの生態系として外部と内部を判別し、攻撃に対し抵抗を返す免疫系がまだ生きてる、ということか。
内側≒わたし達を守ろうという抵抗作用は、必死に戦って姉妹を守ろうとするりんちゃんと、存外同じ系譜だったりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
お互い何かを守りたいのに、壊し合うしかない。
今まで赤い世界で繰り返されていた修羅界を、わかばの知恵(それを増幅した亡霊からの伝授)は書き換えていく。
樹-壁-虫という連動したシステムは、一行の攻撃をスイッチに、敵対存在を排除するモードへと移行した。それまでは、シロムシとして枯れた枝として無害だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
この一連の作用を見るに、赤霧とアカムシは『警戒スイッチが入りっぱなしになった、ある種の免疫異常』として世界に蔓延している感じもある
壁を超えて”中”に入ると、ナナジマは一行をもう攻撃しない。境界線を正式な手順で超えることが、敵対/友好のサインとして正常に機能しているわけだ。エンドサイトーシスとエキソサイトーシスだな…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
そこには命をつなぐ水、霧を防ぐ壁、待ち望んでいた安心がある…ように見える。
世界樹のうろに、溢れる水。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
思えばここに至るまでの道も、青く清浄な(あるいは正常な)霧≒気体化した水に満ちていた。
世界を危険に満たし、虫を怪物に変えてしまう赤霧も、また気体化した水と言える。それは暴威と死に満ちている。
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本来青くあるべき水に満ちた世界が、赤く染まってしまった原因。”人間”が滅び去る理由となった、致命的なバグ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
そんなことに思いを馳せつつも、北斗のモヒカンもびっくりな勢いで『ヒャッハー! 水だ~!!』するりなちゃんず、ゴッキュンゴッキュンお水飲むミドリちゃんに、俺もニッコリ笑顔である
『マジこの平和な暮らしが、一生続いてほしいからよ…』と思わせるのに十分な、満ち足りた幸福。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
話の折返しでこういう”完成”を見せるってことは、それが最悪のぶん殴り喰らうって作劇のセオリーを分かりつつも、俺もりつ姉の涙を拭い、もう泣かせたくねぇって気持ちになっちまうからよ…。
ここで涙が溢れたのは、それまでずっと我慢してた証拠だと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
倒れていった姉のため、今を生きる妹のため、自分を侵す世界の苦しさを表に出しちゃいけない。
りつ姉も、りんちゃんとはまた別の形で仮面をかぶり耐えてきた。その無理を、この青い楽園は下ろせる場所なわけだ。
安心が満たされたら、何をしたら良いかわからない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
それは少し寂しくて、とても喜ばしい空白だと思う。それだけ必死に、大事なものを守ってきた証拠でもある。
自分の”好き”が判ってる連中は、楽園で存分燥ぐ。
りなちゃん、完全にわかばに懐いちまってるッ…!
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しかしわかばの”耳”は、壁の向こう側の破綻を聞きつけ、興味を持って進んでいく。りんちゃんは戦い守るものとして、それに同行する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
せっかくりんちゃんが、異物への警戒を解いて己の素直な感謝を形にできそうなところを…許さんぞ糞虫ッ!!
紅い地獄の前に、鳥居置いてあるのは結界論として正しいな
これより神域、あるいは地獄。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
丹朱に塗られたオブジェの意味をわからぬまま、開けた壁の向こうには破滅が広がっていた。平穏の足元をかじり、未来を閉ざす赤黒い悪夢。
砂のように希望が掌をすり抜け、戦士は激怒する。
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否…描かれない表情の中で、多分りんちゃんは泣いていたのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
ようやく欲しい物が…自分の”好き”が手に入ったと思ったのに、残酷な世界はまたそれを奪い去る。
そんな理不尽を跳ね除けられない人の定めが、悔しくて哀しくて、それが瞳から溢れていたのだ。
戦士であろうと必死に戦っている彼女の、そんな脆さを視聴者にもわかばにも見せない(が、感じさせる)演出は、優しく強いと思う。マジ許せねぇ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
怒りが常態なのは、それ無しで戦い続けられないから。
食いしばった唇は、涙をこらえているから。
りんちゃんの生き様は、悪虫を踏む明王のそれだ。
わかばの”耳”がなければ、楽園を揺らす異変に気づけないまま、平和が崩壊してた可能性もあると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
奇異を好み、知らないに飛び込んでいく厄介者は、共同体を崩壊させる危機を事前に察知する、センサーとしての仕事も果たすわけだ。
そしてわかば一人が紅い地獄に踏み込んでも、死ぬだけだ。
厳しすぎる世界で生き抜くため、武器を握って仲間を守る。戦士階級が隣で守ってくれるから、生きて帰って情報も伝えられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
そしてわかばは、りんちゃんを青い盾で守る戦士にも育った。共同体での役割も、共有され変化していく可塑性に満ちている。
アクションシーンが思弁的よね、ケムリクサ。
ノンキに楽園で笑う姉妹に、辛い現実を伝えるりんちゃん。マジ許せねぇからよ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
危険に満ちた安全圏…過去への退避を進言する戦士に、わかばは問う。
『やるべきことじゃなくて、やりたいことを言ってください』
テメェ…銀河美少年かッ!!
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頼れる姉が死んでしまって、泣き虫は戦士の仮面を被った。命をつなぎ、現在を続ける。それがりんちゃんの最優先になった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
でも心の底では、顔のない不安に、残酷な世界に怯える以上の大望を抱いていた。
誰も奪われず、悲しまなくても良い世界。それは、あまりに大きすぎる願い。
しかしわかばは、そうではないと告げていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
白紙だった自分は、ミドリちゃんを”家”に広がる共同体に取り込まれ、色んな事ができるようになった。”好き”が増え、果たせる役割も増えた。
そうやって、わたし達は変わっていける。だから、当たり前の幸福を諦めなくても良い。
それはずっと我慢してたりんちゃんが、本当に言って欲しかった言葉で。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
毒に赤く染まる頬は、ただ慕情に熱を増しているだけではなく、自分が知らなかった、掴めなかった望みを言葉にし、差し出してくれる異物への敬意が色濃い。
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”違う”ということは、”同じ”ということと対等に価値がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
異質な存在がいるから、自分が思いもつかなかったこと…あるいは自分が気づいていないけど、自分の中にあるものを見つけ直すことが出来る。
好奇心というのは、発見と再発見、自分と他人両方に向く力を宿している。
わかばがりんちゃんの中から”本当の願い”を掘り起こしたのは、彼が問いかけ知っていく存在…”人間”だからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
永遠の現在に生存するだけでなく、過去と未来を想起し時間を認識できる存在だからだ。
ただ生きるのではなく、より善く生きることを望み続ける動物だからだ。
そしてそのヒューマニティは、ここまで七話見てきたように赤い姉妹にも山ほどあって、しかしそれを発露できない厳しい状況に置かれてきた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
より善く生きることを諦めさせられてきた女達は、イチジマで静かに死んでいくことよりも、未知の世界に踏み出すことを最初に決めた。
そうさせたのも、男性で非植物性で”家族”ではない、わかばという異物を内部に取り込んだ結果だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
異物は時に牙を剥き、大事なものを奪っていく。
同時に、共同体がより善くあるために必要な変化と共鳴を、生み出す起因ともなる。
断絶の時代だからこそ、この物語が見据えているものは大事だ。
かくして、姉妹は新たな戦いに挑む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
青いシマで手に入れた希望を、永遠にするための攻略戦。ただ生きるための退却戦ではなく、未来をその手に掴むための総力戦。
闘争の変質は、つまり彼女らに宿るヒューマニティの変化でもある。
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時間認識がなければ、希望も絶望もない。動物は永遠の今を生き、余計なことは考えない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
そんな静止した幸福に、人間は立ち止まれない宿命を持つ。一度不安からの開放を、壁の向こうの平穏を知ってしまえば、それが揺るがされることに耐えられない。
だから、明日に向かって進んでいく。
上手く行かないかもしれない。過去姉妹が奪われたように、残酷な死が全てを引き裂くかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
しかし、破滅だけが変化ではない。
出来るようになったこと、新しい”好き”…旅はわかばと姉妹たちに、確かに色んな可能性を広げてきた。
ならば、それがもう一度訪れないと諦める必要はない。
水は満タン、ミドリちゃんも新緑を生やし、意気は軒昂。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
失わないためではなく、掴み取るための赤き世界樹攻略戦が、今始まる…ッ!
その後ろで見守ってるシロムシは、何を伝えたいのか。厳しい戦いの中で、逆転の切り札となるのか。
さーケムリクサ後半戦、のんびりしてる場合じゃねぇぞっ!
っていう第7話であった。とっても楽しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
第1話で見せた物語像が燃料を使い果たし、話が弛緩しそうなタイミングで、一旦最初の目標を達成させてしまう。
手に入れた青い平和がしかし、常に脅かされるものだと再確認させ、旅路で紡がれた絆でその”先”を見せる。
赤い世界を超えて、青い未来へ。
それがおそらく、ケムリクサ後半戦を導く大きなイメージだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
新章が漕ぎ出すにあたり、こういうガイドラインをしっかり張り巡らせて、お話を受け入れる姿勢を視聴者にしっかり作る構成の巧みさ。素晴らしい折返しだと思う。
絵の強さ、情感をくすぐるかけあいも、非常に良い。
マジで姉妹が平和に暮らせる世界を、脅かす赤い理不尽を許せねぇからよ…ぜってぇ皆幸せになって欲しいからよ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
奇っ怪な触手であるミドリちゃん含めて、頼れる家族がすっかり好きになってる自分に気付かされる話でもありました。
やっぱ人間定義の根幹は”行い”と、それを導く”想い”なんだよなぁ…
『ナナジマの平和を永遠にすれば、このお話が終わるか』っていうと、もう一枚ある感じもします。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
それは多分、赤い霧が生まれた場所を掘りさげる神話領域。そこにたどり着くためには、狂ってしまった世界を己の腕で突破していく必要が、やはりあるのでしょう。
新たな闘争と、その先へ。次回も楽しみ。
追記 ”楽しい”と”面白い”が直で繋がってるお話はつええ。
ケムリクサ追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
なんにも出来ねぇわかばがケムリクサに習熟し、戦士になっていく物語をバトルと一緒に追いかけさせることで、『出来ることも増えた、未来は変わるッ!』という言葉、それでりんちゃんに届いた希望の分厚さを視聴者に理解らせるの、凄く太い話運びだと思う。
異能バトルで出来ることが増えていくRPG的な楽しさを提供しつつも、それをただの娯楽で終わらせず、変化と成長の可能性の具現として、話のデカい部分に直ズケしてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
わかばの成長が面白いほどに、りんちゃんに手渡したものの質感がリアルになる。
ともすれば暴力を娯楽化するヤバさがつきまとう”創作の中の闘争”を、正面から活かしつつも物語的、倫理的な意味合いをかぶせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月1日
こういう娯楽と物語、スペクタクルとスペキュラティブの同居をパワフルに、サラッとやってのけるのは強いなとつくづく思う。