ケムリクサ 第11話を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
緋い記憶の葉をたどり、甦る始原の記憶。
崩壊した世界の残滓、鋼鉄の大インドラ山、生まれる新たなるアムリタ。
勤勉なる神への”好き”が、世界を赤く汚していく。
償いえぬ原罪を赤のケムリクサに託し、始まりの人は消える。
そして、物語が始まる。僕たちは出会い直す。
という感じの、ケムリクサ神話篇である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
この話がポストヒューマン創世神話であるのはなんとなく感じていたので、壮大な過去回想はそこまで意外ではなかった。むしろ色々予見していたものがハマって、ちと嬉しい気持ちだ。
白紙だった記憶が埋まり、人間関係のピースも繋がった感覚がある。
壮大で読みきれない設定も気になるけども、個人的にはやっぱり人と人の隠された繋がり、湧き上がる感情の源泉が見れたことが楽しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
仮想世界に血肉を与えるのは、やっぱり感情のドラマ、変化と克服の繰り返しなわけで、りんちゃんとわかばの出会いと想いが、偶然でなく運命だったと判るのはデカい。
というわけで、白く漂白された世界に番傘一つ、待ち人なかなか来たらず、というところから今回はスタートである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
りんちゃん達が必死に歩いてきた、残酷なるケムリクサ世界。それが赤く染まる前の、創生の時代。
それは崩壊の後の創造、文化財保全事業。
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わかばが今の”わかば”として再生する前の彼を、仮に”神・わかば”と呼称するとして。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
彼がどんな事情とモチベーションを背負い、この白い世界にいるかは説明されない。神様でいることは、彼にとって当たり前の日常なのだ。
神様は霧の下に沈んだ人類社会をサルベージし、ケムリクサを使って保全する。
”Populous”(最近だと”Minecraft”か)めいた超絶の世界再構築が、神・わかばの仕事である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
始まりの人は最後の人類でもあって、この新世界に水から引き上げられてきた。父母との離別の哀しみを抱えた、寂しく健気な子供である。
神様と子供の、平和で穏やかな日々。
それは意図せぬグリッチ…”好き”に反して責務を果たすブラック創生企業所属の神様と、それが”好き”だからこそのりりの暴走、世界を侵す赤い霧の発生によって崩壊していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
そこに、この世界と赤い姉妹、彼らがすくい上げた男の起源がある。
我々は何処から来たのか。その答えがこのエピソードだ。
神・わかばは人・わかばと同じようにケムリクサを愛好し、世界の不思議に芽を輝かせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
神めいた力で日本列島を再構築できるが、万能ではなく失敗も多々ある。しかしやってみること、やってみたいと思うことを自分にも、他人にも肯定して、失敗を責めない。
りりのグリッチした”好き”も。
鋼鉄の天沼矛として、バスケットホイールエクスカベーターを持ってくる所にセンスをビリビリ感じるけども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
神様稼業はわかばに負荷をかけ、それがりりが人だった時代の記憶を呼び覚ます。父と母を奪い、孤独を与えた”仕事”を、りりは憎む。
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神・わかばの上部構造がどんなもので、なぜ彼は神様稼業を休んで”好き”に生きられないかというのは、このエピソードで描写されない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
とにかく、神様であっても仕事は仕事。よく判んなくてもしっかりやんなきゃいけないし、好きな人とずっと一緒にいるわけにはいけないのだ。
りりは創生の技をよく盗み見て、それが意味するところを知らぬまま熟達していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
それは自分を自ら引き上げてくれた神・わかばが”好き”だからこそだ。
彼女は分割されたケムリクサ人間ではなく、複製された人類種なので、五感すべてを持つ。それを活かし、ケムリクサを知っていく。
後に水から引き上げられる人・わかばが、りんちゃんと共に進むことになる経験の旅路。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
それを、幼いりりは一足先に歩くことになる。
…のだが、それは致命的な誤ちで終わることが確定している。そうでなければ、この赤く狂った神無き世界が、そこを歩く巡礼の物語が始動しない。タイム・パラドックスだ
人・わかばとりんちゃん達の歩みにおいて、”好き”はいつでも正しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
人の心を潤すだけでなく、それぞれ異なる”好き”を組み合わせることで、集団の生存率は上がっていた。
善いものだった”好き”はしかし、世界を壊し愛する人を殺した。
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そんな原罪を思い出すのもまた、今回のエピソードである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
始祖から遠く離れエデンの記憶も薄れた僕らに比して、ケムリクサの姉妹は始原から一世代。
ダイレクトに神話時代の罪科が、人としての歩みと感情に繋がっている。コンパクトであるがゆえの直接性は、人数少ない作劇の強みか。
りんちゃんに染み込んだ”毒=薬”は、りりの後悔と愛慕の残照でしかなく、定められたプログラムだったのだろうか?
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
誰かに書き込まれた借り物であったとしても、それを貫く姿には純朴なる美麗が宿るということは、船のシロムシ達の生き様、散り際が既に教えてくれているが。
これはりんちゃん達の存立基準にも関わることで、彼女たちは分割されてなお一個人の尊厳を抱えて進み散ったか、はたまたりりの遺志を拾い集めわかばを再生させるための道具でしかなかったか、という話にもなってくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
この作品全体の語り口は、前者を肯定しているように思うが…最終話見んと判らんな
記憶の中にずっとあった、世界と自分の根源。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
それをオープンにするためには長い旅路と、一番柔らかい部分を預けても構わないと思える、慕情と信頼が必要だった。
その過程で人は死に、水は枯れ、闘いは激化する。思いは育まれ、”知らない”は”知ってる”になっていく。
創生のアシスタントだったヌシ達が、わかば達零落せし神に牙を剥いたように。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
世界は静止したままではありえず、良くも悪くも個別に変化を遂げていく。
始原がどのようなものであったにしても、その先にある形を決めるのは個人の歩みと決断…”好き”にどう向き合うかだ。
その一環として、僕らが見守ってきた旅路の一つ一つがあり、散っていった命がある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
定められた宿命だったとしても、そのレールに乗っかり、あるいは外れ進んできたこと…出会って別れ、悲しくなったり涙をこらえたりしてきたことには、多分意味があるとこの作品、ずっと書いている。
だからわかばに出会い直したことや、その時”毒”を埋め込まれたことに前世の縁が関わっていたとしても、彼らがここまで積み上げてきた(そして最終話、世界を救うだろう)彼らのロマンスには、個別の価値があると思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
幼さと過ちを超えて、人は決断を果たす。その先に生まれたものも、様々に変化する
綴られる創世神話(とその破綻)は、そういう原則を再度、作品に刻んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
りりがケムリクサ技術を軽々に扱った結果、生まれた赤い草。彼女の天才は取り返しのつかない災厄を呼び、神は未来に希望を遺すために死んでいく。
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”好き”なわかばを、”好き”だった父母のように死なせたくない。無力な子供として、世界の残酷さを前に無力ではいたくない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
そんなりりの”好き”が、決定的に世界を終わらせる引き金となる。この取り返しのつかない過ちが焼き付いて、りんちゃんは”好き”を遠ざけてたのかな…?
保護者であり微かな慕情の対象であった神・わかばは、りりにとって対等の相手ではなかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
子供ではいたくないりりにわかばがちゃんと向き合い、ケムリクサ技術者に必要な職業倫理と禁忌を教えていれば、破綻は置きなかったのだろうか?
人情が分かりにくいから、神様は神様なんだけどもね。
男と女、大人と子供、神様とサルベージされた人間とのギャップが、取り返しのつかない破綻を呼ぶ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
しかしわかばはあくまで微笑んだまま、”大人”として世界に希望を遺す。
安全な壁は、子供を閉じ込める檻でもある。それを優しく壊す時間は、もう二人にない。
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りりはこの世界に取り残された唯一の人=神として、何かを成し遂げなければいけない。自分が生み出した赤い霧に、楽園が塗りつぶされ自分も殺されるのを、座して見ているわけには行かない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
もう、子供のままでいてはいけないのだ。
”好き”を今度こそ、巧く使わなければいけないのだ。
りりはわかばから学び取っていたことを高速で結実させて、新たなる希望を生んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
わかばが己の死でもって世界に可能性を残したように、自分自身を六葉に分割することで、檻から出る資格を捏造する。死をくぐり抜け、生を生み出す。
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ここら辺、ハイヌウェレ型神話っぽいなぁ、と思ったりもする。神様たち、ケムリクサ食ってたしね…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
屍から生まれる新たな可能性として、赤い姉妹は世界に生み出された。
水もなく、赤い危険に満ちた世界を旅しながら、それと知らず救済し再開した男と、反発し混ざり合っていく。
かつてはわかばが少女を水から引き上げ、今は少女がわかばを水から引き上げた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
神話は神から人に役者を変えつつ再演され、そこには不可思議な繋がりが確かにある。
転生、再生、あるいはサンプリング。
神なき世界で展開されるロマンスには、確かに起源がある。
子供が親を超え、人が神を乗り越えていくのもまた、物語の類型の一つである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
神・わかばとりりが”好き”を間違えた物語を、二度間違えないために神もりりも死んでいった。
それを受け継いだ新世代の二人が、どんな結末にたどり着くか。再び、原罪は繰り返されるのか。
最終決戦の焦点を、そこに当てる神話回帰であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
姉妹の分割された五感、心の底に焼き付いた”好き”の呪い、わかばの白紙の記憶。
今まで描かれた色んなものに納得がいき、しかしそれが全てではない。
確かに、ここまで歩いてきたヒトの記録には、そこに宿る思いには意味がある。
そんなことを再確認できる、最終話一個前だったと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
この世界を作った神様たちが、どうにも”好き”を間違えちまったと知ることで、餓えと暴力に苦しみ楽園を求める立場で進む道のり、それが生み出すものの意味が、より深く刺さった感じもある。
始まりと終わりが繋がるのは、いつでも壮大な快楽だ。
EDで幾度も繰り返されてきた、赤い系統樹(あるいは歴史書)。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
その白い起源が顕にされ、新たな1ページが追加される。このED入りは控えめに言って”神”だよなぁ…という、感慨にふける暇もなく。
オイぃいわかば!? なにやっとんねんッ!!
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『最後の最後まで、ヒキのつええアニメだ…ただの設定垂れ流しじゃねぇのは最高に助かるぜッ!』って感じだけども、こんなサスペンス求めてないよー!!(嘘、少し求めてた)
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
まー二人の”好き”が原罪を克服する、神話級のLOVE爆弾だって今回判ったから、死んだ程度で終わらんでしょッ!(神話級楽観)
神様たちがすれ違い間違えた結果生まれた、赤く残酷な世界。白いヌシたちが汚され、本来の努めを果たせない歪み。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
姉妹とわかばが幸福に…”好き”だけ追いかけてのんびり暮らせる平和を掴む事は、そんなグリッチを正すことにも繋がる。
個人レベルの幸福が、世界の運命と繋がっちまったな…英雄譚じゃん
古き創生の塔を登りきった先に、待つ闘いとはなにか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
りんちゃんは己に刻まれた、”好き”を拒絶する呪いを乗り越えることが出来るのか。
わかば、死んでる場合じゃねぇぞ!!
そんな感じのケムリクサ・クライマックス。
最終話、非常に楽しみであります。いやー、おもしれぇなぁ…。
追記 物語構造体(Narrative structure)としてのケムリクサ、その堅牢な二本柱。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
今回ケムリクサ世界の創世神話が明かされたわけだが、わかばを派遣して神様業務につかせた上部構造も、りりがサルベージされてきた下部構造も、描写はない。
それがどんな場所であるかは、二人に影響はしても作品それ自体のドラマとは、直結していないからだ。
ドラマが踊るだけ必要な、ミニマルな舞台を精密に切り取り、他の部分へは必要最低限の言及で抑える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
ここら辺の加減が常時精密で的確なのが、ケムリクサの強いドラマツルギーを支えていると思う。
同時にチラリと、世界の外側に目配せすることで興味と奥行きは広がる。
シンプルで強い物語が踊るのに必要なスペースを把握し、そこで生きる人々の息吹を確かに伝える”語り”の技芸と、そこを超えた奥行ある物語空間をチラッと示唆して、色々考えたくなる誘惑を混ぜ込む”作り込み”の技法。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
これが両方ある所が、ケムリクサの強さ(の一つ)かなと思ったりもする。
基本的な足場は、あくまで人間がどう生きるか、どう変わるかってところにあるんだよね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月28日
そういう物語のベーシックをしっかり抑えてやりきってるから、奇妙な話なのにすごい熱がある。
でもそれをありきたりにしない奇矯な発想力、魅力的に広がる世界もあって、上手くバランスを取ってる。強い。
追記 過剰な幼さと、過剰な成熟。りんちゃんはりりとしての記憶と起源を取り戻すことで、時間的バランスを取り戻していく。
ケムリクサ追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月29日
ワカバに対等な存在と認められなかったで焦り、世界を巻き込んで過ってしまった”過剰に子供”なりりの転生として、姉の責務を背負い好きを殺して”過剰に大人”であろうとするりんちゃんがいるのは、かなり面白い。
前世の因縁も込で、りんちゃんは二度と過たないよう己を固く閉ざす。
その生命はりりが子供でいることの代償…ワカバの喪失によって急速に知恵を付け、死も含む覚悟を固め”大人”になることで始まっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月29日
自分が無力で、好きに溺れたから大事な人が消えた。
その罪悪感が、鋭い成長痛となって子供の背丈を伸ばす。
しかし、その成長は痛みを伴うし脆い。
りんちゃんが戦士として、大人として頑なでいることには、りりが果たせなかったロマンスを完遂し、世界を赤く汚した誤ちを是正するという、”前世の仇討ち”的側面を持つ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月29日
しかしそれは彼女の”好き”を殺し、本来正当に流れるべき涙をせき止めてもいる。
次回の最終決戦を超えた先で、彼女はおそらく”好き”を取り戻すし、わかばと抱擁するだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月29日
それはりりが間違ってしまった子供時代と、あるべきだった大人時代を同時に獲得する決着だ。
記憶を引き継ぎつつ失い、運命に導かれて再び出会った恋人たちは、世界と恋を再獲得して物語を終える。
そういう場所に届くようにこの物語は編まれてきたし、そういう大団円に収めるために、最終話一個前このタイミングで、神話を語ったのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年9月29日
彼らの恋は運命が定めた必然であり、定命の存在として必死にあがく中積み上げた、彼らだけの物語でもある。
その両立が、物語としての噛みごたえなのだ。