憂国のモリアーティを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
腐敗した貴族階級への、抑えがたい嫌悪感。
アルバートの衝動を受け取り、”ウィリアム”はモリアーティ家乗っ取りの犯罪計画を差し出す。
血と炎。
赤に彩られた記憶が、罪の起源を物語る。
殺戮の果てに、清浄なる世界を掴む幼い夢。
その果てに待つ、兄弟の運命とは…。
そんな感じの、憂国のモリアーティ/ZERO後編である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
前回ラストで予言されていた赫い結末へと、モリアーティ兄弟がどう至ったか。
空白を埋める筆致は相変わらず残酷かつ美麗で、幼く身勝手だ。
お前らは、存在に耐え難く醜いから死ね。
アルバートの狂気が、金色の闇に反射し世界を燃やす。
階級転覆と社会改変を謳いつつも、親殺しのついでに屋敷にいた労働階級も余裕で巻き込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
”モリアーティ”最初の犯罪が既に孕んでいる破綻が、聖なる罪人に罪の精算を迫るのはずっと先のことであろうが…死ななきゃ収まらない所に初手で突っ込んでいったのは、見る側の覚悟が固まる感じ。
今後華麗なる犯罪で英国を揺るがすだろう”モリアーティ”がどんだけ活躍しても、罪の重さを勝手に断じ、己の嫌悪感を特権的正義と疑わない傲慢は常時ついてまわる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
そこに作中どんだけカウンターを当てて描写していくか、結構気になるオリジン開陳だった。
いや、露骨にヤベーだろコイツら…。
なので、作中でもヤバいものとして描く視点をどっかに盛り込んでくれると助かるなー、などと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
主人公たちの内心か、敵対するライバルか、はたまた三人称のナレーションか。
置所はどこでも良いけど、彼らの罪科と意識されない醜さを、通底する視点が担保されるとありがたい、
それは先の話として、アルバートは階級差別を当然しする執事をたしなめ、敷居をまたいで邸宅に入れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
後の長兄が背負う貴族社会の豪奢と、後の次兄・末弟がかつていたそっけない労働者社会。
本来混ざらないものが、この瞬間混合される。
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それは美しい未来の理想であり、当世の危険思想でもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
問答無用の暴力と、それを隠蔽する知略を使い倒し、犯罪によって美しい世界を到来させる。
美しい犯罪コンサルタントの夢にアルバートは同調し、悪魔が家に入る許可を出す。
兄弟たちが扉越しに受け取る、貴族社会の醜悪。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
この時代の”当たり前”で描かれる部屋に、アルバートはずっと居場所がなかったし、迷い込んだ下層民もそれは同じだ。
光と闇が錯綜する絵画的色彩の中を、罪で結ばれた兄弟たちは進む。
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彼らの居場所はこの、妙に劇的で妙に清潔な空間にしかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
時代の当然を疑わない者たちに身を潜めてもそれは偽装でしかなく、羊と魚が同じ場所に住めないように、貴族とテロリストは相容れない存在だ。
羊の皮をかぶった鮫として、社会を蚕食するための下準備。”モリアーティ”という足場の簒奪。
犠牲者たちは、自分たちが怪物に隣り合っていることを知らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
彼らが死ななければいけない罪科、耐え難いほどの醜悪も当たり前に積み重なり、殺戮に至る動機を説明していく。
兄弟愛、あるいは近親憎悪。
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労働階級の紅茶は、床に飲ませる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
フォークは凶器としてしか使えない。
真・ウィリアムの歪んだ醜さは、”食事”を蔑ろにする仕草として現れる。
人の命をつなぐ最も基本的な行為だからこそ、まっとうに食べることが出来ない彼の歪みと醜悪は、上手く強調される。
己の身を裂く痛み。兄弟の痛みを、自分のものと引き受ける博愛。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
ルイスを巡るやりとりは、堕天使の如きウィリアムにかすかに残った人間性を強調し、これから犯す大罪にかすかな赦免を与える。
彼も赤い血を流しているのだから、大量虐殺くらい良いだろう。
『いや、よかねーよ』と覚めるべきなのか、麗しき兄弟愛に震えるべきなのか。正直、作品をどう受け止めるべきか戸惑ってる部分はある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
演出が的確なので、”モリアーティ”の美麗なる悪徳を思わず擁護してしまうような気持ちに、画面見てるとなるけども。
やっぱ死ぬほどの理由にはならんよな、醜悪は。
人は醜い。それは人生の大前提であり、醜悪を咎とするのなら私も彼もみな死ぬだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
しかし超越的に人の醜さから開放されたウィリアムは、アルバートの嫌悪感を方向づけ、殺戮へと導いていく。
階級差別は悪魔を生み、人を惑わす。
なら、階級差別を生み出す構造を犯罪で壊せば、世界は綺麗になる。
この等式が狂人の夢想なのか、彼方なる理想なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
己を包む醜悪に耐えきれず、血の繋がりではなく魂の共鳴で、共に生きるべき”兄弟”を選んだアルバートの歩みを追う中で、いつか答えは出るだろう。
ウィリアム一人では夢でしかなかったものに、地位と権力を与え、現実に変える手助けを彼は果たす。
二つの場面で描かれる、二つの『弟の不始末』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
実弟が存在に耐えかねるほど醜いので、自分の手で殺して始末をつけました。
そういう結末が待っていると知ると、なかなかにグロテスクな場面である。家族を見捨てて、理想を共有できる他人と入れ替える結末は確定してっからね…。
その原動力になるのは、アルバート生得の嫌悪感だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
自分が放り出された場所は、汚れて耐え難い。当たり前とされていることに、とても耐えられない。
そんな潔癖は彼の世界を黒く塗りつぶし、コンサルタントはその嫌悪を、正しく見抜く。
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臭くて耐えられない貧民を、追い出す妙案。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
”ウィリアム”がそれを思いつく時、やはり『適切ではない食事』がクローズアップされる。
生きることに必ず付きまとうグロテスクを、過度に強調したアングルの中垂れ流される、当たり前の差別意識。
それが、アルバートには耐え難い毒だ。
後に宿命の兄弟となる他人が、結構冷徹にアルバートの歪み、存在の耐え難い嫌悪を見据えている所が、なかなか面白かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
ルイス相手(だけ)には”顧客”以上の感情を見せるが、後に兄弟となるアルバートに向けるのは、あくまで冷たい観察眼だ。
そこに血を通わせる決定機と、親殺しはなり得たのか。
それはこの原点を超えた兄弟の”今”を、見てみないと判断がつかない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
犯罪による階級革命という夢を語り、アルバートの人生を歪めたウィリアムは、自分の内面を語らない。人を殺させてなお、謎めいた少年だ。
彼という謎を追うことが、作品全体を貫通するミステリなのかな、と思う。
嫌悪の暗い影、貴族社会に馴染めない違和感に囚われ続けたアルバートは、金色の堕天使と出会うことで道を見つける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
それは血塗られた道。
毒としか感じられなかった血を親殺し・弟殺しに流し尽くし、緑の瞳を朱く染める闇に身を投げる。
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光と闇が交わって、狂気の赤い月が昇る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
この犯罪の絵具によって、アルバートの緑色の瞳は真紅に染まり、彼は真実”モリアーティ”になっていく。
それはウィリアムの囁きに浮かされた、熱病めいた悪夢。
自分では手を汚さない犯罪コンサルタントが、初めて手掛ける完全犯罪。
これだけの悲惨を呼び起こし人生を歪めておいて、ウィリアムがずっと光の中にいるのが面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
彼は行為をコンサルトするだけで、犯意は影の中にいる当事者が引き出さなければいけない。
決断…”勇気”というキレイな言葉で飾られる嫌悪と殺意は、あくまでアルバートの中から這い出してくる。
結局末期までフォーク(食事の道具)を上手く使えなかった『本当のウィリアム』は、血を分けた兄に腹を刺され、即死すら許されず悪辣の道具として燃えて死ぬ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
そこまでの罪悪を、はたして”貴族”が犯したか。
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断罪に必要な内省を置き去りに、ウィリアムに導かれて形を為した”勇気”が、命を抉る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
その瞬間赤い悪夢は過ぎ去り、残酷は現実の色彩でもって定着する。
夢想から醒めて、極悪人としての人生が動き出す。しかし緑の瞳に宿った赤い残影は、もう消えない。
彼らは”兄弟”だ。
生まれ落ちた貴族階級、血を分けた家族、そこで一般的な価値観。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
なにもかもが黒く醜い泥にしか思えなかったアルバートが、ようやく同じ世界、同じ色合いで生きられる”家族”を手に入れるまでの、再誕の物語。
彼らを繋ぐ絆は、理想と嘘と犯罪。鮮血の贖いが、三頭の魔犬を野に放つ。
家を焼き、そこで寝起きしていた労働者階級(悪魔に虐げられる被害者であるはずの人々!)をたっぷり殺して、彼らの欺瞞は為る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
凝った仕掛けの皆殺しから逃れるシェルターが、殺すべきではない人を殺している事実を遠ざけてくれる。
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悪徳によって、憂国を覆す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
”モリアーティ”の犯罪はその最初からして、巨大すぎる矛盾にもう食われている。
義憤でも理性的判断でもなく、漆黒の嫌悪感から生まれたアルバートの鏖殺はあくまで肌感覚的で、ひどく幼い。
その視界に、顔を焼く”弟”は入っても、たくさん焼けたはずのモブは入らない。
その傲慢こそが、彼らの最も悪魔的なところだな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
顔面焼いて覚悟を示せば、人食いの獣であるおぞましさから逃れられるわけでもなかろうに、悲劇を示して運命の犠牲者ぶる。
その狂った喜劇性に、作品が自覚的なのか、否か。
そこら辺を問いながらの視聴になるかなー、と思ったり。
しかし聖なる犯罪、麗しき堕落というモチーフや、悪魔的に美しい少年たちの閉じた失楽は、ジュネやバタイユ、サドの薫りがかすかに残って、文学的には好みの味付けである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
反英国の話なんで、仏蘭西っぽいオーラ漂うのはむしろ正道かなー、と思ったりもするけど。
かくして犯罪卿は現実を焼き潰し、欺瞞で世界を覆う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
悲劇の果てに生き延びてしまった”モリアーティ”の子供たちは、麗しき父母の思いを継いで、健気に生きておりまする。
欺瞞を乗せて、田園を汽車が行く。
ブリタニアに栄えあれ。
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という感じの、悪徳で結ばれた三兄弟出生秘話であった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
残酷無残でなかなか良かったし、国士気取りのクソ犯罪者が耽美に耽る姿がなかなかにおぞましく、好みの味付けであった。
いや、どう考えても生きてちゃいけない部類の動物でしょコイツラ…だから良いんだけど。
このゼロ話の主役であるアルバートが、”モリアーティ”を駆動させた根源。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
それが義でも仁でもなく、ただただ醜さに耐えられない潔癖であると描き続けていたのは、素直で良かった。
醜いお前らは、軒並み死ね。
そんな肌感覚の凶暴で、血を分けた家族を焼いて悔いない。罪を測って恥じない。
優男のかんばせのおくに凄まじく身勝手で傲慢なものを輝かせた堂々たる悪党で、なかなか清々しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
彼らがゴミの中のゴミであり、同時に善を求めてもがく人間であることを鋭く見据えながら、”絆”や”勇気”の美名に陶酔しきらず、そのドス黒さを切り取っていって欲しいところだが…さてどうなるか。
間違いきった輩を、間違っているがそれしか選べなかった業の塊と書いてくれると、僕は嬉しいのだけれども。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年10月26日
作品が描き世に問い支持された価値観は、残酷な犯罪活劇を見る中で判ってくるでしょう。
それと向き合いながら、お話を見れたら良いな、と思います。次回も楽しみです。