憂国のモリアーティを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
ウィリアムの新たな故地、ダラム。
静かな大学都市の土にも、階級差別とそれに伴う恨みは染み込んでいた。
下層民の血を啜って、艶やかに咲く温室の花。垂れ下がる復讐の果実。
それをもぎ取る赤い繊手が、生み出す完全犯罪とは…。
そんな感じの英国残酷絵巻、起源より帰り来ての第四話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
話の方向性としては第1話と同じく、”モリアーティ”の華やかなで残酷な日常をスケッチする感じ。
新たなホームたるダラムでも、赤い瞳の天使は腐敗を睨みつけ、犯罪を誰かに手渡し、貴族の命を奪う。
そのトーンは痛快無比…とは行かず、貴族の腐敗と同じくらい、人を殺す後ろめたさと重たさ、血の色の残虐を切り取っているように見えた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
原作もチラッと見ましたが、かなり話の構成も物語のトーンも変わっている印象ですね。主役たるモリアーティ兄弟を、かなり突き放して描いてる感じ。
その変化がアニメとしてどんな表現、どんな結末に結びついていくのか、今後が楽しみでありますが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
穏やかな大学街で行われる、華麗なる復讐劇。
美しいヴィクトリア朝の美術は健在で、その美しさが踊り狂う残虐をより際立たせてる感じでもあった。
美しい景色に、おぞましき悪徳。この配置は好き。
物語は全ての起点を、最初に顕にして始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
我が子の生命を救わんと、階級を超えて慈悲を求める声。それを冷たく握りつぶし、睨みつける”紳士”の視線。父の無力と、母の悲嘆。
この時代にはありふれた悲劇だが、犠牲には一生の呪いとなる
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たとえ同じ屋敷に暮らしていても、持つものと持たざるものの断絶は絶対で、命の値段は同じではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
生殺与奪の権利を一方的に握り、不平等な雇用で首輪をつけられた庭師は、妻の訴えをその体で遮ってしまう。
子一人の生存を諦め、夫婦二人の命を繋ぐ。そのためには、旦那様には逆らえねぇ…。
たとえ野垂れ死ぬとしても、妻と同じ気持ちで義を訴える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
そういう選択肢も一応あったことが、この悲劇をより濃く彩る。父は我が子の死を、選ぶ形になってしまったのだ。
そのことが母の心を壊し、家から光を奪った。
そして命の選択を強要した側は、一切気に留めない。
この不平等な構図は、”モリアーティ”が介在することで綺麗に反転し、子爵に突き刺さることになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
暖かく光あふれる温室から、冷たい死の国へ。
グレープフルーツに溶けた復讐の刃が貴族を突き刺すのは、彼が果たした無慈悲な選択、その報いである。
国が、法がそれを為さぬのなら、我が成す。
貴族階級に一極化した、権力資本の構造。イギリスの社会構造自体が、悪を悪と認めることを拒んでいる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
ならば完全犯罪というワクチンで、腐敗した病根を蝕み、国を健康に。
ウィリアム教授には、医療従事者みたいな雰囲気もあるね。病根と見定める基準は、個人の判断だけども。
過去を焼き払って辿り着いた、麗しきダラム。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
”モリアーティ”が持ってただろう地縁と血縁を、根こそぎ焼き払って奪い取った兄弟に、心安らぐ”家”はお互いの側にしかない。
古参貴族の看板貼りつつ、内面は新しき移住者のそれ。
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ここら辺も、貴族の内側から貴族を喰う、獅子身中の虫らしいなぁ、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
ウィリアムは穏やかな街に満ちる憎悪を目ざとく見つけ、情報を拾い上げていく。
”貴族”に母が向ける、猛烈な恨みの視線。ふんぞり返って君臨する連中が、気にもとめないもの。
それに、復讐の刃を与える。
ダラムの邸宅は非常に凝った美術で描かれ、”モリアーティ”もまた財と特権を理由なく甘受する、階級の申し子であることを教えてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
かつて兄弟が、今回夫妻がお互いを繋げた、犯罪の絆。
それが固定された階級差を埋める、連帯のかすがいになるのか、否か。
作品の筆致は、殺しを『仕方がないもの』とは書かないし、人と人が繋がるために穏当で適切なものとしても描かない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
そういう異質な手段を選ばざるを得ない。歪みと正当性。
それがもたらす危うさと、本質的な異常性。
華麗な復讐劇の隙間から、そういうモノを見据える視線が滲む…気がする。
対等の貴種として、子爵は兄弟を前に無防備に差別を誇る。赤いワインは下層民の血、啜る仕草はズルズルと下劣だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
こういう描写で、皮膚感覚的に『殺されても仕方がない』低劣さを演出してくるのは、抜け目がなくて良い。
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まるで我が子のように、生い茂った異国の花々を誇る子爵。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
イギリスには、二種類の動物が住んでいる。片方は喰い、奪う。もう片方は踏みつけられ、殺される。
当然視された階級勾配を、目の前の”貴族”も当然共有していると思っているが、その実話しかけているのは貴族喰いの魔犬どもである。
花の命にこれだけの財を費やせる男が、よりにもよってそれを維持する庭師の子供を、当然のごとく見殺しにする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
美しい温室は、パクス・ブリタニカの矛盾を一箇所に詰め込んだ地獄だ。
そこにふさわしい花を咲かすべく、ウィリアムは静かに知恵を研ぐ。
死ぬほど無邪気な子爵との対比が、怖くて良い。
温室の明かりと、下層民を包む冷たいモノトーン。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
死と絶望に塗り固められた家で、唯一煮えたぎる憎悪の火。
子供を奪われた夫婦が、今どういう状況にいるのか、配置された静物が見事に語る配置だ。
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贅を尽くした貴族の社交とは、全く違う下層民のパブ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
そこに、ウィリアムは足を運ぶ。静かに語りかけ、熾火のように夫の中にも燃えている憎悪に、薪をくべる。
黒と赤の交錯する、貴族の知らない領域。それが、血の色に染まる。
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夫の内面を反射するマグカップも、妻と同じ思いを実は夫も抱えると教える炎も、非常に静かでいい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
モノのように黙りこくってはいるが、踏みつけにされている者たちには、炎のような怒りが溜まっている。
それはモノトーンの諦観を突き破り、ある意味人間らしい色彩を奴隷に取り戻させる。
憤怒、殺意、激情。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
人間ならば当然湧き上がるものを、どうして抑えなければいけないのか。
赤い瞳の悪魔はそう囁き、沸騰する想いに道を付けていく。
やはりここでも、ウィリアムは汗も血も流さず、静かで礼儀正しい相談役に留まっている。全体的に、このトーンでいくんかな?
完全犯罪を手渡すことで、正義を果たさせる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
血に濡れた断罪で、社会を切り崩す。
それは相談に来た”誰か”の熱であって、ウィリアム自身は常に知的で、冷静で、穏やかなままだと感じる。
その”遠さ”が、彼を底の読めない強者と思わせもするが…さて、彼は己の所業に何を願い、何を感じているのか。
これが判るのは、犯罪的日常をスケッチするターンが終わってからかなー、と思ったりもするが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
主役に漂う奇妙な熱の無さと、惨劇を客観で見据える視線はなかなかに面白く、悪漢成敗の心地よさに酔わせきらない居心地の悪さを、作品に与えている。
そこが、僕は結構好きだ。
蜘蛛の巣のように広がる図書館から、死に至る知恵を引っ張り出して。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
ウィリアムは復讐劇の舞台を、すべて整える。モノトーンの絶望を超えて、光に満ちた報讐のステージへ。
夫婦は手を取って、あの時踏み込めなかった貴族の領域へ踏み入る
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夫婦の手に込められた赤い殺意を、血の色のグレープフルーツに凝集させる演出は、非常に良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
ここでも子爵は、『食べ方が汚い、間違ってる』存在として書かれる。前回の”ウィリアム”と同じく、腐敗貴族は食事のマナーがなってない。
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なら、口に入るもので死ね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
赤い殺意に彩られたナイフは発作の呼び水でしかなく、真の殺意は血の色をしたジュースに宿る。
温室という命を育む光の場所で、かつて奪われた命の仇を取る。
踏み込めなかった輝きの中で、誰も顧みない正義を、事故を装って果たす。
それはグレープフルーツ・ジュースのように、爽やかでいて苦味があり、奇妙に後を引く味わいだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
殺される側に生理的嫌悪を、殺す側に陰湿な重たさを。
それぞれ演出する復讐劇は、完全犯罪の華麗さ、因果応報の必然を宿しつつ、後味が悪い
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死のモノトーンに脱色された世界で、鮮烈に光る赤。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
ウィリアムの瞳の色だけが、残酷なる復讐劇で色を持つ。
血の収穫を静かに終えて、温室はなおも美しい。
その取り繕った完璧さが、逆に殺人行為の生々しさ、理屈で切り分けられない根源的邪悪を際立たせる感じも受ける。
かくして、完全犯罪はなった。夫婦をロンドンに送り出す厚意は、共犯者を厄介払いする知恵とも取れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
犯罪が繋げた絆が、旅立つ先。晴れ渡った青い空とはならず、黒煙が不吉に立ち上っている。
それが良かったのか、悪かったのか。
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未来に待つのは、薄暗い曇天なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
かつて自分たちを繋いだ罪の刻印を思い出しつつ、”モリアーティ”たちは視線を交わす。
子爵殺しが誰に恥じることもない正義と規定するなら、ここで黒い煙は書かないと思うんだよなぁ。
主題となるものを疑わせる、屈折の文法が元気なアニメよね。
という感じで、ダーラムの事件も幕を閉じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
前回明らかになった”モリアーティ”の起源。貴族の醜悪、許されざる高慢、静かなる復讐と残酷な赤。
それを下層民と共有しつつ、復讐の天使として国が果たさぬ正義を為す彼らが、美しく描かれました。
ホント、美術に隙がないが凄く良い。
美しさは悪を赦免しない。殺しは殺しで、罪は罪だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
美麗なる温室で展開する殺人は、そんな視線をどこかに宿して、美青年たちの残酷を切り取ってくる。
それは彼らが主役として積み上げる、正義の犯罪を揺るがす視座だと思う。
自分たちが描くものを完全肯定しない筆致は、何を生み出すのか?
四話まで見て、そこが作品最大のミステリかな、と思い始めている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
このトーンで聖なる犯罪者を描くことで、どういうお話が生まれるか。
それを考え、楽しむ材料として、バーナムの殺人は非常に良かった。美麗と邪悪が隣接する、おぞましい感覚がクセになる。
このお話のタイトルは”憂国”であって、”義憤”でも”知略”でもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2020年11月3日
国という巨大な装置に、”モリアーティ”がどう繋がっているか。
彼らの華麗なる日常を血まみれに描いたわけだが、そろそろそこら辺も見たい。
さて、どうなるか。次回以降も楽しみですね。