BEASTARS 第二期を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
食殺犯を追うレゴシの鼻は、遂にその尻尾を嗅ぎつける。
悲惨な事件が決定打となり、顕になる血塗られた爪と牙。
学園が草肉共学廃止に揺れる中、怪物は思い返す。
吐き気がするほど甘やかに、喉と腹に押し込んだ血と肉を。
蜂蜜漬けの、僕らの青春を。
そんな感じの、遂に食殺犯判明ッ! なBEASTARS第19話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
物語冒頭の真の姿が判るまで、1クールと半分。なかなか凄い構成…と言いたいところだが、食殺犯の真意はまだまだ判然としない。
思い出は歪み、自己は正当化され、彼の真実は彼自身から、一番遠い場所にある。
レゴシの闘いは今後、今回食殺犯が見せていた『肉食と草食の真実』を否定し、自分の信じるものを守る戦いになっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
世間的にも正しくて、自分的にも命がけになれる信念。しかしそれは、食殺犯の全てを壊す凶器にもなる。
だから二人の戦いは、否応なく命がけだ。
林檎に牙も突き刺さらない狼と、友の肉体を泣きながら喰んだ怪物。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
正反対の仇敵に見えて、どちらもお互いになり得た可能性を持ち、しかしそうはならなかった。
レゴシはハルちゃんを喰わなかったし、食殺犯はテムを食ってしまった。
その境界線は、僕は思いの外薄いのだと感じている。
強靭な肉食獣の身体に、渦巻く欲望を抑え込み、社会活動を維持する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
本当の自分を見てもらえない苦しさを、共有してもらえる大事な異物。
一線を越え、理解への欲望を暴力的に叩きつけた結果、食殺犯の友情は血みどろに汚れてしまった。
彼もまた、レゴシと同じく己に悩む若き獣だった。
では、二匹を分けるものは何なのか。獣と人を隔てる壁は何処にあるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
そういうモノをこの作品はずっと追いかけてきたし、今後それを書く筆はより冴えていく。
解り合いたい、触れ合いたいと望みつつ、一歩間違えれば取り返しのつかない血みどろに、沈むしか無い難しさ。
食殺犯が落ちた沼は、あらゆる獣(そして人間)に共通の落とし穴で、だから僕は彼が排除するべき怪物というより、レゴシ達と同じ子供に見える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
罪に塗れ、もう無邪気な時代じ戻ることは出来ないとしても、だからこそ全てを歪めてでも綺麗な思い出を守る。そのために、認知も歪めれば人も殺す。
林檎も噛めない狼と、笑顔で何もかも噛み砕く怪物との距離は、危険なほどに近づいている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
それは別に、レゴシと食殺犯だけの間合いではない。餌食と捕食者が至近距離で触れ合うことには、いつでもリスクが付きまとう。
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わざわざ赤いフィルターで染めなければ、血の色にはならないはずの平穏な部活。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
キビの手がブッ千切れるまでの、呑気なやり取りが”よくあること”なのだと教えてきて、だからこそ衝撃的でもある。
触れ合いが即、血みどろに染まってしまう危うさを、この社会はいつでも抱えている。
それは獣面の”彼ら”だけではなく、人面の”僕ら”にも共通だよな、といつも思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
誰かと触れ合う行為はいつでも、意図しない(あるいは欲望を込めた)暴力に転化してしまう危うさがあって、喰われる側も喰う側も、その宿命に怯えつつおずおずと…あるいはその事実に蓋をしながら生きている。
タオの動揺は社会を支える幻想を、自分の怪力で壊してしまった怯えから生まれている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
よくある、しかしあって欲しくはないし、あってはいけない事件に遭遇して、怯える仲間に手を差し伸べる、ビル・ザ・マッチョタイガーが好きだ。
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暴力を切り売りするヤクザで、屍肉を食らう最強の肉食獣。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
強いはずのシシ組が、餌食のはずのルイを必要とした社会構造が、三匹の肉食を世界の隅っこに追いやる。
強さの刻印は時に、望まぬ血生臭さを人生に持ち込む。サバンナならぬ都市の中で、喰われるものは法と平等で武装し、強いものを追い込む。
タオが頭を抱える、部室…あるいは学校という社会からの逸脱。彼らが獣”人”である以上、ただ喰い喰われる存在として、自己を充足する道は難しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
触れ合い、解り合い、伝え合う。
そんな”人間的”なやり取りを夢見、しかし持ち前の獣性で阻まれる。
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キビがタオから引きちぎってしまったものが、縫合され許容され回復するかは、まだ分からない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
しかし少なくとも、リズとテムのように不可逆の…『喰うか喰われるか』な関係には落ちきっていない。
タオが後戻りできる(かもしれない)道を、怪物めいたヒグマは突き進んでしまった。
殺戮も辞さない獣の顔を晒したリズが、ピナくんの登場で元の顔を取り戻すのが、恐ろしくも面白い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
彼は二人目を殺すことに、ある種の躊躇がある。
社会的制裁への恐怖、過ちが表に出ることへの恐れ。
その震えは、階段下の闇で震える獣達と、やっぱ同じだ。
人喰いの怪物に堕ちながら、それでも許容される、人懐っこいクマさんの顔を貼り付けていられるリズの振る舞いは、狂気とも狡猾とも取れるだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
しかしそこに、過ってなお”人”でありたい獣の苦悩が、強く滲んでいると僕は思う。
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ピナくんは今まで見せていた、軽薄で無責任な顔…アイドルめいて団扇を振られる光に微笑みだけ返して、自分たちを取り巻く闇にしっかり向き合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
肉食達が牙をむき出しにする、恐ろしい領域にあえて巻き込まれに来たのは、”正義”を突きつけるためだ。に、似合わねぇ…でもかっけぇ…。
性と愛に踊るだけに見えたドンファンにも、越えてはいけない一線は確かにあって、レゴシが恐怖に飲まれるような怪物に、それを突きつけたかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
ピナくんが見せた闇の中の輝き、軽薄さの奥にある鋭さに射抜かれ、リズは再び獣の形相になる。
それが…それだけが、彼の素顔か。獣人の真実か。
それを、物語は問うていくことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
おそらくタオとキビの事件が最後のキッカケとなって、チューリントン学園は草肉別学へと舵を切る。
喰う側の俺に、何もいう資格はねぇ。
世界のシビアさに打ちのめされながらも、ビルは陽気でタフな自分を作り直す。
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『俺は演劇部きっての陽キャ!』と、小さな社会の中で自分が果たすべき、求められるポジションをビルなり考えて、キツい状況の中演じようとしてる所が、僕は健気で好きだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
威張り散らしてマッチョぶる彼も、個室で見せるナイーブな表情も、色んな”ビル”がそこにはいる。
それを全部ひっくるめで飲み込める場所として、エルスも演劇部が好きだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
身近に異物を感じつつ、通じ合う共通点、共感できる差異点を実感できる場所を、諦めたくなかった。
ここでエルスが激情を顕にするのも、それにビルが手を差し伸べるのも、僕はとても好きなシーンだ。
触れあえば、傷つけ合うしか無い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
そんな草食と肉食の、生々しい宿命をキビとタオが、リズとレゴシ達が見せた後だからこそ、このちょっとクサい青春は、ほっと心を温めてくれる。
たとえこの楽園を出て、剥き出しの真実に傷つけられていくとしても。
今ここにある僕らの喜びは、僕らの手で守りたい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
そんな学生たちの真っ直ぐな意志が、凄くキラキラと輝いて見えて、なんだか眩しくありがたい。
マッチョの弱音を、ウィンプの強がりが支え、お互いが混ざりあって流れを作る運びが、前向きで好きなんだな…すごく”学園”っぽい。
そしてそんな共生から、己が願望を貪ってはじき出された羆が浅ましく、蜂蜜を貪る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
本当の自分を薬で抑え込み、”可愛いクマさん”の仮面で笑顔を作る。全てを壊すほどに強い存在だからこそ、何も壊さないために嵌められた、法と監修の枷。
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そしてそんな共生から、己が願望を貪ってはじき出された羆が浅ましく、蜂蜜を貪る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
本当の自分を薬で抑え込み、”可愛いクマさん”の仮面で笑顔を作る。全てを壊すほどに強い存在だからこそ、何も壊さないために嵌められた、法と監修の枷。
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その意味を分かっていながら…分かっていればこそ、虚偽と抑圧を越えた繋がりを持ちたかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
本気で抱きしめれば潰れてしまう相手と、本気で抱き合い味わいたかった。
テムの別け隔てのない優しさは、リズの心に蜂蜜のように甘く滑り込み、枷を壊していく。
レゴシとハルちゃんが本能の暴走によって出会い、餌食と捕食者の立場からお互いの顔を見つめるようになっていったのに対し、リズとテムはまず理解から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
喰うか喰われるかという本音を超越した部分で、繋がれるかもしれない希望。解ってくれるかもしれないという、甘い毒。
それに溺れて抑制剤を投げ捨てた結果、羆の本性はリズの願いを越えて荒れ狂い、血の色の月の下で傷を増やす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
喰うものと喰われるものがなんとか、隣り合って生きていくためのルールは、ただの題目ではない。破れば血が流れ、甘っちょろい夢を壊していく。
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怪物と友を罵る言葉よりも、全てを受け入れる甘い抱擁を。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
鬼の形相で餌食を貪る怪物ではなく、真実の友情にたどり着いた自分を。
リズは夢見ればこそ、それが決定的に破綻してした瞬間、泣いていたのではないか。
喉を滑っていく夢の残骸が、己を殺す毒ではなく甘い蜂蜜だと。
思わなければもう、生きていけないほどに苦しむから、眠れぬ夜を重ねているのではないか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
そして同時に、怪物はあくまで怪物であると、血みどろの猛獣の顔は告げている。
なりたくなくても、人でい続けたいと願っても、その証を求めて伸ばした手は、知らず誰かを傷つけてしまう。
そんな暴力的な繋がり方だけが、草食と肉食、人と人に許された唯一のコミュニケーションなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
レゴシやルイが思い悩み、惹かれる明暗の只中に、リズもやはりいる。
しかし彼は、主役たちが思い悩む曖昧な場所を、既に踏み潰し噛み砕いてしまった。屍肉は、友達にはもう戻らないのだ。
アニメで見てみると、”(不)可逆性”というのが一つの軸なのかなー、と思ったりもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
レゴシは暗黒街に身を沈める覚悟でジャックの元を去り、ゴウヒンさんに丸刈りにされて学校に戻った。
ルイは弱肉強食こそが世の習いと強がりつつ、イブキとの相互理解に体重を預けても居る。
リズが果たしてしまったことは、そんなふうにあやふやに悩み、行きつ戻りつできる余裕と甘さがない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
悩みを聞いてくれる大人も、(今回のピナくんのように)秘密を共有してくれる友もいないまま、孤独に戻り得ない道を進んでいく。
生まれたときから、取り返しがつかないレベルで捕食者である。
そんな存在の苦しさは主役と敵役だけでなく、友達を傷つけてしまって震えるタオや、エルスにケツを叩かれてマッチョな自分を取り戻したビルからも、色濃く臭っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
みな人との繋がり、抗えない本質との狭間で、牙の置き場所を探している。
それを悲しいほど間違えたのが、リズなのだろう。
自分で壊してしまった友情の残骸を、泣きながら血まみれで貪り、食らう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
それが甘い夢なのだと、思わなければ咎人たる自分を許せないから、惨劇を甘い色に塗り替える。
肉が旨くて、殺しが好きなら、とっくに二人目三人目、バクバク食っているだろう。
©板垣巴留(秋田書店)/BEASTARS制作委員会 pic.twitter.com/CJadDVaPoi
その瞳が涙に濡れていたからと言って、哀れに死んだテムが浮かばれるわけでもない。殺人と捕食が肯定されるわけでもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
誰かを傷つけない、殺されない”人”でありたいのに、どうやっても殺し殺される”獣”でもある獣人達に、必要な軛はなにか。
荒野の宿命を遠ざけ、人の住まう場所を維持する鍵は。
食殺犯の正体と、彼が見ている世界、反芻する夢(あるいは悪夢)が描かれたことで、そんな作品の背骨がより強く、より太く見えてくる回でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
リズの怪物性、暴力性、歪みきった認知を、その哀れさと過ちと並べて置いて、どちらも彼の真実なのだと描いたのは、フェアな筆だったと思います。
親友の遺骸を、真の友情の証と思い込んで涙と一緒に、喉に流し込む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
食殺犯が選んだ生き方は、レゴシが求める未来とあまりにも真逆で、両立はできない。
待ち受けるのはお互いを否定し合う死闘か、苦悩を終わらせる闘争か。
レゴシが強くなることの意味は、よりシビアに問われていきます。
そこに暗闇を己の居場所と定めた…割に、ゆらゆらと揺れてるルイが、どう関わってくるのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年2月18日
暗黒の空にまばゆく、禍々しく輝く星たちの物語は、熱を増していきます。次回も楽しみ。
…やっぱ、リズは三人目の主役だよなー。”間違えた主役”としての敵役。不倶戴天の、歪んだ鏡像。