裏世界ピクニックを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
猫のニンジャを撃退した空魚に、再び茜理から持ち込まれた依頼。
サンヌキカノにまつわる異変に巻き込まれた幼馴染を救うべく、唸る裏世界空手! 絡まる女達の感情!
長い黒髪に彼女が見つけるのは、過去の残影か、未来の想い出か…。
そんな感じの怪異ハンター空魚事件簿、依頼人はカラテカ編第二幕である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
序盤の異界くぐりからかなり様相が変わってきたが、これはこれで独特の味があって面白い。
事件を解決するほどに空魚が常人からかけ離れていって、望まぬ絆値がカラテカとの間に貯まるのが、なんか奇妙な愉快さある。
すわ百合の間に挟まる女かと警戒していた茜理であるが、ガッツリつがいがいて一安心。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
同病相哀れむというか、不在の月にヨロヨロよろめいてる女を付いたり離れたりしながら見守る仲間と、妙なシンパシー作ってたのもナイーブで良かった。
メインが四人になって、感情のクロッシングが激しくなった。
実話怪談の筋立てから展開になり、さてどうなるとハラハラしてたら、審神者ブースト入った空手で怪異をボッコボコにする超腕力解決に持っていったのも、不思議な独自性があった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
前々から銃バカスカ撃ってたし、『やっぱ暴力で全てを決着するのが一番だな!』てルールなんだと思う。”サタスペ”じゃん
物語は空魚の心に突き刺さった、錆びた棘の描写から始まる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
一緒に異界を歩いているのは私なのに、空魚はあの女を見ている。…見ている、のか?
空魚には自信がない。自分が鳥をつなぎとめる、特別な宿り木に為れているのか、いないのか。
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そんな内省は当然表に出ることもなく、鳥子は無防備に空魚の髪を撫で、褒める。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
その行為がどんな波紋を生み出すのか、どれだけこころに波風を建てるのか。
急にメロウで落ち着いた描写が増えてきて正直戸惑うが、それはさておいて怪事件は起こる。小桜さんも羊羹もぐもぐニコニコだ!
本当に欲しいものは手のひらを滑り落ち、遠ざけていたいものが近づいてくる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
ままならないのが世の常とはいえ、女からの好かれ方もまた、空魚の望み通りとは行かない。
正確には、鳥子が何を考えて己に近づき、何を見ているか、原理的に解り得ないものにずっと目を向けている。
多分大事なのは『自分がどうしたいか』で、恋も怪異もその自発的能動でしか首根っこを捕まえられないが、しかし空魚は生来待ち、見て、定める”陰”の女である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
奇妙な生まれも手伝って、自分自身を見つめることに慣れていない。結果、惚れた女の形も上手く定まらない。まぁ、鳥子は分かりにくいけど。
どっちにしてもグイグイと、押し込まれるように現場に流れ着いて、”サンヌキカノ”の物語と重なる怪異を引き受けることになる。魚は、水に流されるものである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
不可解ながら解決している原典と、違う推移を既に辿っている事件。
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捨ててしまった歯は呪いと理不尽の拡大を生み、夏妃は困り果てて頭を撫でられる。そっかー、そっちかー…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
[歯を捨てますか Y/N]という選択肢に、Yと応えてしまった結果不気味な未踏領域に踏み込んでしまった感じは、なかなかゾワゾワする質感があり良かった。もしかすっと、過去一しっかり怖かった
狗を埋め神棚を汚し、すっかり呪いの現場となっていく裏庭。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
このフェティッシュ達は、果たしてそこに”あった”のか、それとも掘り返して観測した瞬間に存在したのか。
認識重点な裏世界のルールを考えると、後者かなー、って感じはする。
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既にあるものが認識を規定するのではなく、認識が世界を形作るイデアルな法則。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
夏妃は茜理を異界に連れ去っていく異物として冴月を認識し、その延長線上に鳥子を誤認した。
茜理が頼る異界ハンターは、冴えない印象の鳥子の方で、そこから漂う負け犬オーラに夏妃は安心する。
ああ、同類だ、と。
思い込みと情感が絡み合った不思議な鎖が、夏妃を取り巻く世界を規定している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
真実を確かめることもなく、勝手に思い込んだことがその世界のルールとなり、人のあり方を形作っていく。
酷くありふれた、思い込みと思い入れの複合体。
友情とも愛情とも独占欲とも依存とも付かない、ラベルのない感情
夏妃はそういう世界に生きている。それは裏世界ではないが、そのルールに親しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
人間が認識の動物である以上、裏世界を支配する観測と認識の連動は、怪異とともに…あるいは怪事件が起こっていない日常の中でも、こちら側に染み出してくる。
やっぱ”ソラリスの陽のもとに”だよなぁ…。
実体化するのはキレイな思いや不思議な友情だけでなく、血まみれに奥歯を引っこ抜く怪婆もそうである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
原典そのままでは解決しようがない”サンヌキカノ”に対し、空魚が取ったのは観測と変容。
殴って倒せるルールに、物語を書き換えていく。
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”視る”自分を軸に、世界の駆動律を書き換える。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
この時空魚は受動的な存在から能動的な存在へ、読者から作者へと足場を写している。
サンヌキカノをボッコボコにしたのはカラテカの暴力ではなく、『それで勝てる』と怪異を睨み、茜理を見つめた空魚の魔術であろう。
相変わらずウジウジと冴えないオーラを纏いつつも、空魚は異界のルールに適応し、異界の外側でも認識優先のルールを、”眼”を媒介に実体化出来るようになっている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
それは人の範疇をはみ出していく危険な歩みだが、そんな自分を空魚は認識していない。やはり、自己像を捉えるのが苦手なのだ。
超暴力(アルトラ)のキナ臭い名残をイチャイチャで押し流して、無事解決した怪事件。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
あっちでもこっちでも女が女の髪触ってて、噎せ返るようなムスクに気が狂いそうだ…。
視ること。触れること。変わること。
不思議に連動し、また隔たっているもの。
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それらを重ね合わせながら、空魚の髪は伸びていく。彼女は冴月的な…あるいは鳥子的な存在へと変容/同化していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
触れる指が、見つめる瞳が、捉えているのは果たして私なのか、私ではない誰かなのか。
空魚の自己は、常に鳥子の視線を通してしか結像しない。面倒くせぇ…。
空魚が髪を伸ばそうと思えるのは、鳥子が触り『可愛い』と褒めてくれるからだし、好きな女とだんだん同質化していく喜びがあるからだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
しかしそんな自己の駆動律を、恋に落ちている自分を、空魚はボンヤリとしか把握していない。
”視る”存在の死角は、常に手元にある。
だから遠い場所を見つめて、鳥子が自分に反射しているのは月の光でしか無いと、虜になっているのは過去の思い出だと、むっつり悩みもする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
『似ている』と言われるほどに、深まる疑念。生まれる波紋。
鳥は、何処を見て飛んでいるのか。
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それは寄る辺なき魚には、けして視えない難問だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
『ここではない何処からの帰還報告書』として、実話怪談を求める空魚の心性も興味深かった。
ここではない何処かに取り憑かれるのは、”ここ”に違和感があるからだ。
今という時間、此処という場所、私という存在。
そこに、乖離した違和が拭えない。
迷い迷って流れ着いた、フィクションが現実化する場所。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
裏世界に沈み込もうとした彼女を見つけ、掴み、定位した特別な女。
その手に触れ、目に見つめられて、だからこそ惑う。
あなたは、一体何を見ているの?
その問は己に反射し、あやふやな自分を照らし続ける。マージ面倒くさい!
そんな感じの、怪異探偵の奇妙な事件簿でした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
『依頼人と解決者』という、探偵小説的なフレームが茜理の登場で生まれたことで、結構作品のテイストが変わったなー、という印象。
新たなつがいのイチャコラ含めて、前より安定したんじゃねぇかな感は強い。俺この味、キライじゃないよ…。
起源も解決も不鮮明な怪事件を、淨眼パワーで強制的に定位し、空手暴力で殴り倒す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
そんな力技の決着も、怪異譚と百合がくっついたこの話に相応しいヘンテコな気もするし。
今後何を軸に話を回していくかは解んないけど、空魚と鳥子の面倒くささがまん中にあるのは変わんないだろうしね。
触れ合いつつも確信が持てず、離れるほどに触れたくなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月2日
怪異は殴り倒せば終わるが、恋はそうも行かない。
さて、怪異ハンターの新たな事件は、どんな表情を見せるのか。次回も楽しみです。
怪異に親しむほどに、感情の迷宮に飲み込まれていくの、良いシンクロだなー、と思う。