BEASTARS 第二期を見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
裏市の保護司、シシ組の頭。
それぞれに立場を変えながら闇に潜んでいた二つ星が、遂に出会う。
レゴシと邂逅したルイは日常への帰還を拒み、部室へ戻ったレゴシはリズの言葉に激怒する。
喰い、喰われる。
獣人の絆がそれだけのものならば、俺達はどれだけ楽に生きれるのか
そんな感じの獣人青春絵巻、それぞれの歯車が噛み合いだす第9話である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
ここまで顔を合わせることなく、それぞれの運命と向き合ってきたレゴシとルイが、遂に対面する。
裏市に入り浸る牙なき肉食と、同族食い上等を気取る元生き餌。
それぞれの立場は学園と大きく変わり、しかし確かに何かが通じる。
ルイはレゴシの懇願を跳ね除けシシ組に残るが、楔は打ち込まれた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
レゴシが戻った日常もまた、リズの食殺、キビの傷が深く響いて、けして無邪気ではない。
喰う側であることと喰われる側であること複雑に混ぜ合わせながら、獣達の運命は衝突の瞬間を静かに待っている。
そんな変化の兆しが、静かに牙を研ぐエピソードとなった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
レゴシとルイ、ルイとシシ組、キビとタオ、レゴシとピナ、そしてリズとテム。
男たちの、そして肉食と草食の縁はけして一様ではなく、しかしお互い何かが繋がり、万華鏡のように美しい混沌がきらめいている。
一様ではありえない世界の形、その芳醇たる味わいが色んな場所で滲む、大変面白いエピソードだった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
利害関係が家族に変わることもあれば、黄金の友情を血みどろに染めてしまうこともある。
本当に、人と人、獣と獣の繋がりは多種多彩で、残酷で面白く、美しいものだなと思う。
ルイは裏稼業の処理、レゴシは血に酔った”患者”の回収。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
学園からはみ出した彼らの”仕事”を写しながら、物語は始まる。
レゴシの鼻腔に確かに残る、ルイの残り香を追いながらも、狼は牙ではなく拳で己の責務を果たす。
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裏市メインで進む今回、アクションの描写が大変良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
対手の持つ暴力をしっかり想定し、それを制するイメージを織り交ぜながら一瞬で制圧する技量は、牙を捨てた狼だからこそ到達可能な”武”といえるだろう。
しかし、それではリズに届かない。その事を、獣の本能が既に教えている。
ゴウヒンさんの助手として、草食との共存を望む人として強くなったレゴシを見るほどに、この綺麗な立ち回りでは勝ちきれないのだろうなと、しっかり想像させられる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
ここら辺、第19話ラストに描かれた、リズ血みどろの青春が効いている。
あの涙、あの重さ。尋常な拳では制せない。
では、何が必要なのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
焦るレゴシに、ゴウヒンさんは導きを与えていく。
仲間を作れ。孤独になるな。
それはリズがいつか求め、自分の手で赤く塗りつぶしてしまった道だ。いくら蜂蜜と妄想を流し込んでも、消えはしない重たい苦悩。
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ゴウヒンさんは心療内科医として、常にそれに向き合っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
裁きよりも癒やしと快復を手渡し、傷つき混乱する殺人者に寄り添って、日常へ返す。
レゴシはそれを、社会秩序に反するヤバい行動だと指弾する。
だからどうした。それが、矛盾まみれの俺達には必要なんだ。
偶然パンダとして生まれ、肉食の強さと草食の無原罪を手に入れたゴウヒンさんは、自分のあり方を当然だと思わない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
世の殆どの肉食が苦しむ、魂の奥底から湧き上がる渇望。人として人の間に交わり、手を繋いでいたはずの相手を食いつぶしてしまう、獣としての自画像。
そこから立ち上がるための手助けを、自身も傷つきつつ彼は探り続けている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
そこには『世の中そういうもん』というニヒリズムも、自信を特別だと確信するメサイアコンプレックスもない。
ただ、為すべきを為す。
当たり前で一番大変なことを、黙々とやり続ける。
そういう大人が、レゴシの隣にいる。
寛容と勇気は大人の特権ではなく、キビは引きちぎられた腕を、引きちぎった当人が触れることを許す。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
僕も傷つき、君も傷ついた。
だから、ここからまた始めよう。
そう思える心が、取り返しのない過ちと、自分を闇に追い詰めていたタオを光に引き戻す。
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腕は繋がり、指は動く。友を許し、共に進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
キビとタオが身を置く美しい光が、肉食と草食の可能性なのか、あくまで彼ら個人の特別な事例なのか。
答えは出ない。
だが、自分が生んだ傷に手を触れることを許したキビの強さと優しさが、暴発した己の攻撃性に傷つく少年を癒やしたのは間違いない
テムを食殺してしまったリズには、この許しは絶対に訪れない。肉塊は再び触れ合うことを許さず、死に際にテムが何を思ったのか、もう聞くことは出来ないのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
後戻りできるものと、できないもの。
許され進み直すものと、檻に入った囚人。
同じ肉食と草食なのに、その差は何処にあるのだろうか?
この問いかけにも、答えは出ない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
出ないからこそ、物語は様々な関係性と可能性を追いかけ、群像を描いていく。
その身悶えするような筆致こそが、一つの答えなのかもしれない。
判らないからこそ、探し描き問いかけ続けるのだろう。そういう姿勢があるから、僕この話好き。
同級生が闇から光へ、ツギハギの手を繋いで進んでいく隣では、ルイとレゴシが暴力の深い闇の中、邂逅を果たしていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
ここまで出会いを持ち越して、別れてからの人生をしっかり積んだからこそ、再開は重たく熱い。そら尻尾も振るわい。
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ルイは元親友(とシンプルにいうには、複雑な関係だけども)に襲いかかる”身内”の暴力を、止めようとはしない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
眉すらしかめず、冷酷な枝角の王として仮面を崩さない。常に強くあらなければならない獅子の気位を、シシに混ざるうち己に課している。
闇に染まった、諦めた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
散々宣言してきたわけだが、ルイ先輩はあくまで気高く希望を求め、暴力と断絶以外の解決策を何処かで求めている。
喰うものと喰われるものが、牙以外で解りあえる未来を探している。
それに一番近いのが、目の前の変な狼なのだろう。
だからこそ、裏市の肉倉庫で再開などするとプンスカ怒る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
お前だけは、光の当たる場所で闘ってくれていると信じていたのに。
そう、ヤクザのボスにのし上がって(あるいは落ちぶれて)なお、ルイ先輩は信じることを止めれない。
そういう匂いがあるから、レゴシの尻尾も踊るのだ。
尻尾ブンブンは人間でいうと、ヤクザに鬼詰めされてるのに勃起してるようなもんかな、と思ったりもするが。ヤベー変態じゃん、レゴシ…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
共食い上等と、暴力稼業に必要な”強さ”をフォークで演じるルイに、彼は拳ではなく抱擁を差し出す。
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ここでルイが”匂い”を通じて、レゴシへの疑念を薄めていくのが非常に肉感的で良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
それは肉食の…ルイの薫りを記憶庫にとどめているレゴシの習性のはずなのだが、赤鹿の鼻は懐かしいものを自動的に嗅ぎ分けてしまう。
正しいこと。優しいこと。強いこと。
暴力と虚勢にどす黒く塗り固められた裏市に、そこに宿る剥き出しのエゴに全てを諦めたようなふりをしながら、そういう輝きを求め嗅ぎ分けるセンサーを未だ、殺してはいない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
それは彼が、まだ何かと誰かを信じる、瑞々しい心を失っていない証明だ。面映い言い方をあえてすれば、”愛”である。
運命に翻弄されて奇妙に捻れた、お互いの近況。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
それを交換しながら、同じ女性を愛した二人の青年は語り合う。
殴り合うよりも難しいもの。
当たり前のはずなのに、あまりに簡単に壊れてしまうもの。
それでも、諦められないもの。
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それを、レゴシも求めている。それを、ルイも探している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
日常への帰還を望むレゴシの言葉は、ルイに光を見せない。(キビの許しが、タオが沈みかけた闇から光へと強く、彼を導くものとして描かれたのとは真逆である)
彼はあくまで、シシ組と裏市に身を置く。
だがそれは、孤独と絶望からではない。
表社会に張り付いた偽善を引っ剥がして、ようやく捕まえた居場所。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
利用し利用される関係から、気付けば本当に心が繋がり合っていた家族。
愛あればこそ、ルイは闇に身を置き続ける。
『売る側に草食がいることで、貧者の絶望は和らぐ』
その言葉も、全て嘘ではないのだろう。
この闇の中の微かな灯火こそが、俺に許された最後の輝き。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
だが表舞台に立ち続けるお前は、こんな諦めた男なんて追っかけてないで、光の中を力強く進め。
決別の言葉にしては、あまりにエールと希望が混じりすぎている。
オグマ父様でもそうだけど、ルイ先輩他人が好きすぎ。そこが好き。
そんなルイの姿に、レゴシもまた変わらない輝きを嗅ぎつける。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
悪徳と諦観に身を染めても、けして汚れない光。気高き理想と、理不尽に立ち向かう強さ。
触れ合った肌が、人質に取るつもりなど無い真意をルイに教える。解ってしまう。
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あなたを信じていて、あなたが必要で、あなたを待っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
闇に身を投げたレゴシが残した言葉は、あまりに飾りなく真実で、ルイの心に確かな楔を打ち込む。
闇に染まった、諦めた。
言い聞かせるように呟く言葉を、誰が一番信じきれていないのか。何を諦めきれていないのか。
狼の残り香が、再びルイの鼻腔にまとわりつく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
離れようとしても消えてくれない想いが、殴られても諦めることなく食いつく。
シシ組との立ち回りも、レゴシが鍛えた”武”を上手く描いて大変良かった。
ヤクザ相手にも動じない強さは、しかし凶獣相手には足らない。
無邪気に無心に、傷つけられた草食を心配する部の仲間。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
そのサークルから、リズは決定的に隔たれられている。世界の薄暗い側を、もう知ってる子供と、知らない子供を隔てる壁。
食殺の真実が顕になりけて、ピノくんの一言がスッと心を醒ます。
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もしレゴシが真実を衆目に晒せば、肉食最強の牙を以て皆殺しにする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
ピノくんはそういう、”優しい熊さん”の冷たい決意を感じ取って、芝居がかった仕草で水を入れたのだと思う。
己を制御しきれない獣なのは、リズもレゴシも何処かで同じである。だが、何かが決定的に違う。
組み合った腕から、圧倒的な力の差、心理的な断絶を思い知らされながら、レゴシは部室の薄暗い場所で草食と語り合う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
たった3人、命の乗っかった秘密を共有する子供たちは、しかし二人と一人に分断されてしまっている。
その輝きを、リズは遠く見る。
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その瞳に宿るのは、羨望か憎悪か。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
吐き気がするほど強く求めた、草食との友情。奇妙な運命に流されて、相性悪い二人がたしかに掴んでいるものは、もうリズには帰ってこない。
自分だけが決定的に間違えて、もう取り返しはつかなくて、だから憎い、妬ましい。
何故俺は、あの光の中にいないのか。
それはリズが、獣である自分を抑えきれず友達を食っちまったからだよ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
そういう身も蓋もない正しさだけでは、拗れた糸は解けない。
闇に身を置くものは光に焦がれ、上手く触れ合えずその身を焼く。諦めようとしても、鼻の奥に残った匂いが教えてくれる。
学校愛用のボディーソープが、証明する清廉。
決別の言葉に変わらず滲む、気高い理想。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
あるいは蜂蜜で押し流してなお蘇る、鮮血と肉塊の食感。
そういうものが、青春に包囲された子供たちを、傷つけ許し合う肉食と草食の万華鏡に、生々しいムスクを付けている。
愛ゆえに闇に残り、殺してなお光を求める。
そんな複雑な色合いが踊る、許しと対立のエピソードでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
それぞれの理想を求め、進んできたレゴシとルイの道行きは、遂に触れ合いまた別れた。
しかし運命は光と闇の獣を、必ず再び出会わせる。
その時、何が生まれるのか。何が変わるのか。
温度を上げる物語の行方が、大変楽しみですね。
追記 エロティシズムと距離感。治療者と患者、罪人と支援者を繋ぐ中間媒介(メディア)としての治療具。
しかし今回、嗅覚と触覚を軸に男と男の関係がディープに描かれて、非常にエロティックな仕上がりで良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
僕はエロいのは大事だと思ってて、情欲の質感が表現に宿っていると、描かれるものが”生きてる”って感じするからだ。
性器を介したコミュニケーションだけが、エロスの表出ではない…と思う
ゴウヒンさんが患者に直接触れることなく、自分の中の怪物を抑えるCDと薬を手渡し、社会復帰を後押しする”接触”が同じ回にあるのは、そういう視点でも良いな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
剥き出しの個人と至近距離で触れ合う感触も、それを的確に抑え、患者として再生を後押しする関係も。
どちらも”触れ合い”であることに変わりはなく、どちらにも優しさと、正しくはなりきれない人生の触感が宿っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年3月4日
ゴウヒンさんは多分、匂いで患者を識別しない。そういう間合いが宿ってなくても、彼の行いは正しく気高く、人が”生きてる”最高の証だ。
人生にも触れ合いにも色々ある。それが良い。