MARS REDを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
時は大正、舞台は近代国家への道をひた走る帝都、東京。
月島の地下迷宮の奥に、狂い女が一人囚われていた。
憲兵の監視が光る中で、ワイルドの”サロメ”を演じ続ける彼女はヴァンパイア…その犠牲。
皇国を闇から汚さんとする血吸の鬼が、何を企むか。”零機関”の物語が始まる。
…っていう概略で良いのか、さっぱり分かんないけど面白い!
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
朗読劇から飛び出した大正ゴシックロマン特務アクション、その第一話である。
座組から想像していたよりも遥かに地味で、雰囲気があり、作品とキャラが好きになれるスタートであった。面白いよこのアニメ…。
もっとイケメンヴァンパイア憲兵がちゃんちゃんバラバラ、初っ端からドンパチするかと思ってた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
だが、話の主役はヴァンパイアが所属する特務機関のトップ、前田大佐であり、彼は陽射しを歩けるただの人間である。指揮官なんで、多分前線にも立たない。
しかし、大事なスタートは彼が背負う。
彼は月島迷宮の舌に閉じ込められた岬と出会い、噛み合わない会話の中、彼女を探る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
大佐は非常に優秀な憲兵であるから、ヴァンパイア事件を担当する国家機関がどう駆動するべきか、そのパーツたる自分がどうすべきか踏まえて、内心を語らない。
その寡黙な分かりにくさが、独自のストイシズムを宿す。
彼は岬に惹かれているし、知りたいとも思っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
”サロメ”を繰り返すだけの狂える凶獣、駆除すべき対話不能な敵なのか、はたまた人間として向き合い内側に取り込むべきなのか。
私情としては後者なのだろうが、彼は冷徹に状況を鑑み、岬は零機関員に不適と判断する。
となれば待っているのは、月島迷宮を水没させての”処分”だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
彼がそうであろうと自分に課し続けている、近代国家の治安を守る機構としては、その冷徹な判断こそが重要である。
国家と国民に益為すものならば守り、外を生むなら殺す。暴力装置は、自ら倫理判断を行わない。
しかし前田大佐は、表向き完璧な憲兵を演じつつも時折、私人としてのほころびを見せる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
岬が噛み合わない台詞ではなく、可憐な少女としての言葉をノイズのように乗せた時。
彼女によく似た新聞記者に邂逅した時。
最後の逢瀬の瞬間。
彼は機械たり得ない揺らぎを、ふと舞台に乗っける。
彼はサロメに愛され首を来られる洗礼者ヨハネに擬されるけども、結末は舞台とは真逆である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
サロメたる岬は狂愛に押し流されることなく、東京駅で日にさらされ消える道を選ぶ。
あるいは、選ばされる。
サロメが死ぬ結末は、ワイルドの原作と同じだ。しかし、ヨカナーンは現世に残った。
悪しざまにサロメの悪徳を罵ったヨカナーンと違い、前田大佐は岬を判断しない。判断しないよう、自分を押さえつけている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
言葉にならなかった言葉、思いにならなかった思いが軋みながら、誰が岬を吸血鬼にしたのか、何故彼女は死んだのか、さっぱり分からないまま最初の物語は終わっていく。
いわば零機関創設秘話とも言うべきスタートだが、謎は多く筆致は非常に抑圧的だ。わからないことが大変多い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
しかしこんだけデケー傷刻まれちまった男が”上”に立つ機関の話なら、まぁ見てみたい。
そう思わされるスタートだった。いや、ぜってぇ主役でしょ前田さん…。
吸血鬼は”聖痕(スティグマ)”を刻まれ、日に焼かれて大地にそれを刻んで消えていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
しかしただの人間であるはずの前田大佐にこそ、岬の燦然たる死という聖痕が強く刻まれて、彼はずっとそれを引きずりながら、憲兵機械として自分を抑圧していくのだろう。
お国のため、正義のため、正しさのため。
夜にしか生きれない死人を率いて、表に出ない闇を歩いていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
しかしその奥には、一人の女をわかろうと藻掻いて、運命に邪魔されて果たされなかった当たり前の男がいる。硬めにまとめた分厚い殻から、それがミリミリと漏れている。
極めてハードボイルドである。好きだなぁ…。
画面づくりは非常に特徴的で、ザラついたテクスチャと影のない色彩、横長にズバッと固定する画面づくりが目を引く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
落ち着いた画面構成が舞台的であり、それが大正ゴシックの空気をより引き立てているのも、なかなかおもしろい。
(画像は"MARS RED"第1話より引用) pic.twitter.com/SXSWFhYv8c
影絵芝居のようなピーキーなシルエットの帝都を、前田さんはウロウロと彷徨い、憲兵大佐として果たすべき任務と私情の間で揺れる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
その寄る辺ない感じが、彼固有のものなのか、この作品で描かれるヴァンパイアに共通するものか。
未だ見えないが、その立ち姿はとても良い。寂しくて、気高くて、寡黙だ
そんな彼の運命が流れ着く場所、東京駅前。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
遠く離れていたはずの距離は、吸血鬼特有の速度で一気に縮まり、サロメはヨカナーンの首を欲する。
しかし岬は微笑みながら間合いを外し、殺し合いを回避して陽光に燃えてしまう。
(画像は"MARS RED"第1話より引用) pic.twitter.com/yIkMFVEkJe
『コレ前田さん、一生他の女で恋出来ねーだろ…』という、見事な刻みっぷりである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
ストイックな権力のパーツであること、軍機を乱さぬ立派な軍人であることは、彼が知りたいこと、掴みたいものを何も与えてはくれなかった。
残るは聖痕と謎だけだ。
(画像は"MARS RED"第1話より引用) pic.twitter.com/Z40NJO3L1r
だから彼は、零機関司令を拝命した時に軍服を着崩してんのかなー、と思ったりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
彼は岬を排除するべきヴァンパイアとも、守るべき人とも決められないまま、現世に取り残されてしまった。
そこから伸びている道は、日を浴びる場所に出ず皇国の治安を守る、ヴァンパイアめいた任務のみ。
彼は一滴の血も吸われないまま聖痕を刻まれ、夜に生きる存在になってしまったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
なら、生真面目な軍人の鎧を着込んでもしょうがない。
彼のサロメはそれでは守れなかったのだし、自分の心も女が言いたかったことも、けして解らなかったのだ。
…やっぱ前田さん主役じゃやない!?
洗礼者たるヨカナーンは、後に印を刻まれるべき者たちの先触れだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
よりにもよって、罪深き吸血鬼どもの手綱を握る人間にこのモチーフを寄せるのは、中々面白い転倒だなぁ、と思ったりもするが。
福音を求めるのは、常に迷える罪人達。今後ヴァンパイアの苦悩をどう書くか、大変楽しみだ。
前田さんにとって、そして僕にとってのファースト・ヴァンパイアとなった岬の描き方も、大変良かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
自分の舞台にだけ耽溺する、美しき狂女。哀れな犠牲であり、人食いの怪物となりうるもの。
聖痕に心を壊された獣かと思いきや、人は殺さず、涙を流す。高垣彩陽がうめーのなんの。
出だしの一話で退場する立場だが、彼女が見せた妖しい蠱惑、謎と傷は忘れられるものではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
今後物語は色んなものを追いかけていくのだろうけど、その根っこには常に、死せる優しきサロメの影が伸びるだろう。
前田さん、氷の司令官みてーな顔し続けんだろうけど、その奥には”あの女”が居続けるのだ
今後お話の力点が何処に移っていくか解らんけども、作品を自分の中で引っ掛けるアンカーとして、凄く力強いスタートでした。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
雰囲気も語り口も、描き方も良かった。
大正帝都という舞台と、ヴァンパイア憲兵という素材、物静かで舞台的な筆致が凄くマッチしていると思う。
静かに滑らかに漕ぎ出したこの物語が、この質感を保ったまま三ヶ月走りきれるか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
そういう所に注目しつつも、前田さんとこの話好きになっちまったので、次回も楽しみです。
取り残されたヨカナーンは、何を寿ぐか。
届かなかった口付けの痛みが、硬い鎧の奥で腐敗していく様を、じっくり見守りたいね
あとOP曲”生命のアリア”とそのバリエーションが大変印象的で、いいタイミングで使われていたのは良かったです。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
舞台的な作品なので、音楽がどれだけ喋るか、芝居するかって大事だと思うんだけど、そこはスゲーいい感じだった。
劇伴がこういう形で表現を支えてくれると、力強くていい。
追記 やっぱ第一話で、ちゃんと『自分これこれこういうアニメっす! よろしく!!』と、元気な挨拶してくれるアニメが好きよ、僕は。それは筋立てのわかり易さとか、どれくらい作品を見せるかって塩梅とはあんま関係がない。分かりにくさもまた、一つのメッセージなのだ。
MARS RED追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
なんつーかな…『鬼を以て鬼を狩る非情の憲兵! 夜闇に繰り広げられる死闘!』みたいな座組で、岬は脱走しても人殺さねーし、前田さんはムッツリした表情の奥にむっちゃデカい感情抱え込んでるしで、いい意味で想定を外されたのが、作品が挨拶する話数として好みだった。
そこにはちょっとオリジナルな味があって、通り一遍の『大正ヴァンパイア』では終わらせない…『キャラ個人のドラマと思いを、すくい上げていくつもりだよ』ていうメッセージがあったと感じたのね。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
そういう手触りを初手から手渡されると、なるほどそういう話かと、目鼻立ちがハッキリする。
でもそういう味わいを、明瞭に語るわけじゃない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
前田さんは無口で、岬は狂ってる。自分の思いを素直には言葉にできない。でもだからこそ、伝わるものがある。
この抑圧と表現のバランスも、中々独自で面白いのね。僕は”読める”アニメが好きだから、この塩梅が波長に合う。
この語り口はかなり繊細な調整が必要で、今後も維持できるかはわかんないけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
画面の真ん中に座るキャラが変わり、物語が移ろっていく中でも今回のトーンを維持できたら、これは凄く面白いアニメになってくれると期待してます。
さーて、どうなるかな。楽しみだ。
追記 残りの登場人物、全員このクラスのデカさで書いてくれるなら凄いことになるな……。
MARS RED追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月6日
もしかすっと、前田さんの『顔も知らない許嫁』が岬当人であったのかな…。
とすると、そこら辺の事情も知らないまま前田さんはフィアンセに惹かれ、通じぬ言葉の中に何かを求め、果たせぬまま目の前で灰に崩れたのか。
…やっぱ、主役級の運命と感情のデカさじゃねーのこの人!?