憂国のモリアーティを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
”大英帝国の醜聞”をめぐる綱引きは、複雑怪奇な取引を経て収束していく。
犯罪卿が、ホームズ家が、大英帝国がそれぞれ抱える秘密と意思。
星の瞬きのように微かに、しかし確かに宿った愛。
事件は終わり、そして新たに…。
そんな感じの、アイリーン・アドラー三部作最終編である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
ここまで悪辣に描かれてきた犯罪卿の行動が、一体何のために駆動してきたか。
”大英帝国の醜聞”を呼び水に、作品全体の構造をひっくり返す…というか、収まり悪いところを本来の場所に戻すエピソードとなった。
タイトルに刻まれた”憂国”の意味合いも見え、悪たるを以て善をなす彼らの行動にも筋道がついた…と、イマイチ納得しきれない感じもあり、今後の感想でそれを書きながらまとめていく感じになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
それは多分、作品が本来受容・評価されてるのとは少しズレた見方になるかな、と思いもする。
しかしこの収まりきらない感じは見始めた頃から僕に宿っていた違和感でもあり、この作品と、アニメという形で出会った僕にとって偽りのない実感でもあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
そこら辺を上手く、言葉にできたら良いなと思いつつ、ここから書き始める。ご不興ならば悪しからずと、前もって記しておく。
”大英帝国の醜聞”をめぐる駆け引きは、政府(というかマイクロフト)と”モリアーティ”、アイリーンとホームズそれぞれの目的が絡み合いつつ落着する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
それがイギリス政府による社会実験…血によって変化を望む犯罪卿の計画の、失敗に終わった前身であった事実。
『ロベスピエールは英国のエージェントであり、ホームズ家の始祖であった!』という寝言のぶち上げ方は、アイリーン・アドラーをジェームズ・ボンドに転身させる大胆不敵と合わせて、中々に嫌いではない。ちょっと”ドラキュラ起源”を思い起こさせるわね…。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
アイリーンを庇護することでマイクロフトとの取引材料を掴み、ホームズ家の事件でもあった”大英帝国の醜聞”…他国を血で耕して自国浄化のヒントをもらおうとする横暴と、同じ志をモリアーティが持っている、と示す試みは、沈黙を引き出し成功に終わる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
これで”モリアーティ”は、政府公認の犯罪組織だ
悪を以て悪を裁き、罪を以て罪を詰む。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
その傲慢と専横は、己の命を持って償う。
『そう言った以上、ぜってぇ殺せよ。イケメン無罪で生存ルートとか匂わせたらマジでキレっぞ…』とか、ほんのり思ったりもするが。
いやマジ、ぶっ殺してくださいよちゃんと…。
モリアーティ一家の行いは、罪を図り罰を与える”公”の領域が、貴族の腐敗によって機能していない現状に対するある種の副反応である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
正しく捌くからこそ人理を越えた特権を与えられているはずの統治機構が、その特権に自家中毒して階級を固定化してしまっている。裁かれるべきが裁かれていない。
マイクロフトの沈黙は、その現状をある意味肯定している。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
現状の(そしてフランス革命に介入し、失敗した過去の)大英帝国はあるべき統治体制にアプローチする能力のない、失敗した”公”であると膝を曲げている。
ならば、毒を薬と用いる劇的療法…犯罪演劇による世論の惹起が必要…なのか?
そもだに打倒するべき貴族腐敗がかなり戯画化され、一方的に描かれてきたこのお話で、機能不全な”公”とそれを是正しうる”私”のバランス(あるいはアンバランス)を問うべきでは、ないのかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
『そういう話じゃねーからコレ』というお声も、どっかから聞こえる感じだ。
しかしまぁ、自分はそこに興味を持って見始めたわけだから、少なくとも自分と作品が描くものがどういう角度で向き合ってるか、その距離はどのくらいなのかを図る必要はあろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
機能しない”公”を代行する”真・公”としての、私的犯罪。それは正すべきだけを正さず、周辺被害がかならずある。
それはモリアーティ邸炎上の時にボーボー燃えた下層階級民であったり、犯罪による復讐代行を是とすることで傷つく(英国社会全体の、あるいはモリアーティ個人の)倫理であったりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
個人、私心として命や正義を図り、蕩尽する特権が果たして犯罪の天才に、あるのかないのか。
それはとにかく置いておいて、為すべきを為し遂げ来たるべきを引き寄せるという行動主義が、ウィリアムの結論なのだとは思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
その矛盾を分かればこそ、彼も己の死を以て第二の社会実験を終わらせる心づもりであろう。兄弟たちが、その終末に心底同意してるかどうかは怪しいな、とは思うけど。
ただ解ってりゃあ何でも許されるわけではなく、死んで償えばなにやって良いわけでもない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
『そういうどうにもならねぇものが、クソ貴族によって実際踏みつけにされてんだから、クソ投げつけてクソになるしかねーだろ!』という、かなりヤケクソなプロジェクトでもあるな、犯罪劇場倫敦…。
いかな大義を持っても肯定できない正義の暴走を、個人として計量し裁く立場にいるのが、多分この作品のホームズなのだと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
彼はあくまで”私”の領域を踏み越えず、デカすぎる大望も人倫を踏みつける特権も掴まず、一個人として社会と犯罪に向き合う。
そのコンパクトさは、僕には好ましい。
今回もアイリーンへの愛のため、社会変革を望む同志としての共感を込めて、ホームズは物語を走り切る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
最後に犯罪卿の秘密を焼いたのは、奴らが約束を守ったと、様々な欺瞞工作に踊らされず理解した…ボンドとなったアイリーンが伝えたからだ。
”公”の論理からすれば許されざる人殺しであり、”私”の立場からすれば愛する人の命を繋いでくれた恩人。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
ホームズはこの両天秤で、”私”の義を優先して犯罪卿の名前を焼き消す。告発する権利を、自ら手放していく。
まぁ原典からして、そういう自在さがある人物である。
これに対し、計画的に死を与える”公(あるいは真・公)”を背負う者たちには、滅私の公平さがいかさま足らないと感じる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
どうも家族主義的というか、懐に入った連中に甘いというか…その”特別な絆”感が作風的にも、ジャンル的にも大事なんだとは思うが、それで棚に上げてる命が重すぎる。
今回話のスケールが国家レベルに拡大し、”モリアーティ”の駆動律が暴露されるわけだが、英国政府はマイクロフト一人(+女王)に一本化され、国家の複雑さはスパッと切り落とされる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
原作からしてそういうキャラであるし、ドラマの手応えとしては顔の見える個人に立場を集約したほうが、取り回しが良い
しかし英雄個人に社会の命運を背負わせるドラマを描くにしても、顔のない連中がいればこそ彼らが扱う”公”の正義、あるべき社会の形は成立しうると、僕は思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
モリアーティという家、ホームズという家に複雑怪奇(だからこそ、是正し得ない腐敗が生まれている)な社会全体を一極化しすぎる姿勢。
無名の多数によってしか成立し得ず、だからこそ公平さを求める”公”に、過剰な”私”が食い込んでしまっている違和感が、今回手を取った犯罪者と国家に長く伸びていることが、この当然の結末を飲み込みきれない、大きな理由なのかもしれない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
どーにも、一貫性に欠けてる感じを受けるんだよな、個人的に
無論神をも恐れぬ大犯罪計画に飛び込むのに、魂で繋がった”家族”が欲しくなる人情というのは判るし、それがあればこそ”モリアーティ”は我欲に塗れた悪ではなく、人間味が漂うピカレスクとして機能しているのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
そんな人間の垢を残しつつ、社会の公器として悪に徹することが出来るか。
そこは今後の犯罪と、その滅びを見守らないとどうにも言えないところだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
完全な偏見だが、ウィリアムは全部やりきって死ぬ気満々、アルバートは犯罪と世直しに個人的な愉悦を残し、ルイスは兄弟の情に揺れてる感じがする。
ここら辺のギクシャクが、いつか爆発してくれっと良いんだが。
マイクロフトも人間型の国家機械というには弟に情と信頼を残しすぎ、『これじゃー大英帝国もガタガタなるわ』という感じが、軽く漂う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
人間の心がないから悪行三昧のクソ貴族と、”公”を背負いつつ情に溢れた主役サイド…という対比なんだろうな、とは思う。そういう湿り気はたしかに大事だ。
ただま、作中正すべきものと描かれる貴族の不敗は、生きるべき存在と食われるべき存在を階級によって分割してしまう、悪しき公平性のなさ…貴種家族を特権化する不正義から生じていると、僕は受け取っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
モリアーティの犯罪にも、マイクロフトの国家にも。
どっか自分たちが正すべき不正義と似通った構造が、共通してしまっている感じがあるのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
ここを蹴っ飛ばし、大義のためにすべての情を蹴り捨てて為すべきを為してくれるなら、死んだ連中も浮かばれる…わけがねぇので、やっぱ最後は死んで欲しいけど。
シャーロックはデカい”公”なんぞ背負わず徹頭徹尾私情で動き、その先に公的改正を夢見ている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
その首尾一貫が、やっぱり彼を好ましく思わせるんだと思う。人殺しもしないし。
正しい位置で、正しい身の丈で、正しい方法を掴める表の主役と、その全てに間違いきった裏の主役。
アイリーンの生存を通じて奇妙な縁を紡いだ、諮問探偵と犯罪卿の絆を今後、どんだけ深く描けるかが、作品の決着に大きく影響しそうでもある。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
…ウィリアムの”私”は家族ではなく、宿敵なはずのホームズに向くかなー、ちゅう読み≒期待もある。ソッチのほうがエモいだろッ!!
とまれ当事者合い喰むと危ぶまれていた”大英帝国の醜聞”は、国家は社会浄化を代行してくれる犯罪集団への黙認を、モリアーティは演劇殺人へのお墨付きを、ホームズは愛した女の生存を手に入れて、なんとか収まるべきへ収まった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
己を捌くべき”公”が、その実同じ計画犯罪を既に為していた。
”醜聞”を読んだ時、ウィリアムは己の意思と計画にある種の裏書きを手に入れたような気分に、なったのかも知れない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
既に国家が自分と同じ犯罪をやっとる(そして失敗してる)んだから、マイクロフトは交渉に乗っかる。自分たちは白色テロル集団として、国家の黙認を掴める。
そういう確信があったから、あの蜘蛛の巣めいた図書館の中心にマイクロフトを呼び寄せたのかな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
あそこ、国家を睥睨するパノプティコンでもあったわけね。
やっぱ彼奴ら、私的立場から公権国家(に住まう人民)を操作する、全体主義傾向が強く匂うよな…やべーわ。
ホームズ家とモリアーティ家の密約的結婚は成就され、犯罪卿は最初に制定された位置に収まった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
国家の黙認により、流すべき膿を適切に排除していく白色テロル集団、”モリアーティ”。
その内部に漂う傲慢と家族主義に、いかなる報いを与えるのか(あるいは、与えないのか)
あくまで私的立場と心情からはみ出さず、正しく事件と向き合うホームズは、そんな蜘蛛巣城にどう食らいついていくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
そんなことが気にかかる、アイリーン・アドラーの終わり、モリアーティの新たな始まりでした。
まぁここに収めないと、主役の悪辣が過ぎる感じはある。
ただモリアーティの振舞いが、正義を独断する心地よさ、機知を尽くして『殺していいやつ』を殺す悦楽に毒されていないと、ひっくり返すには今までの書き方が濃くて。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
手段は目的を侵すものなので、選び取った悪が正義としての目的、決着を揺るがす…となりそうな気配もある。
その誘惑をはねのける足場を、ウィリアムがどっから引っ張り出してくるのか、とか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
既に”悪たる正義”としてある種の公的支持を受けてしまってる犯罪卿を、どう両階級共通の敵として泥に塗れさせるのか、とか。
色々気になるところはあるんだよなー。伝奇力とキャラの魅力で押し切っちゃう運びもあるが
そこら辺も気になりつつ、次回はホワイトチャペルの惨劇…ジャック・ザ・リッパー登場である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月20日
ヴィクトリアン伝奇味がどんどん強くなってきて、大変俺好みのぼんくら力だッ! ガンッガンやれ! MI6謹製のトンチキ装備も出せッ!!
何故この物語が”憂国”なのか解った後、描かれる物語が楽しみです。