MARS REDを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
人間は昼を歩き、吸血鬼は夜を往く。
しかし太陽の明かりの下に、魑魅魍魎がいないとは限らない。
銃声抜きで跋扈する戦争という怪物、不死の兵団を求める妄執。
紫煙の向こうに烟るのは、鬼灯に照らされた夫婦の情。
日本最強の吸血鬼が演出する、夢枕の逢瀬。
そんな感じの、大正吸血鬼特務浪漫第三幕である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
吸血鬼相手の大立ち回り抜きの、ある意味息抜きのようなエピソードであるが、昼を歩く人間の業、夜を往く吸血鬼の情が面白く対比され、作品世界の奥行きがグンと拡がる話数となった。
人のほうが、鬼よりも鬼。
そんな時代の入り口、大正十二年。
世を包む軍縮ムード、陸海軍の対立と後方の政治主導主義、命の重さを知るがゆえに闇に沈む業。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
前田さんと中島中将が身を置く場所の薄暗さに、あくまでノンキな死人達の朗らかさが、鮮烈に対照されていく。
吸血鬼の超高速移動で演出される、優しき夫婦の逢瀬。
ピアノどころかチェンバロは弾くわ、ノータイムで貞心尼引用してくるわ、教養レベルがブッチギリな山上夫妻の詩情もあいまり、鬼たちの方が人よりも優しく、世を過ごしていた。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
その死にきらない生温さが、果たして”零”が身を置く刃境で通用するのか。
秀太郎の去来が、少し心配になるエピソードでもあったか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
彼が超越能力に反してボンクラであることはおそらく、作品にとっての救いなんだろうけども、しかし”零”はバッチバチに特務だからな…人間でいることが、鬼にとっての幸か、不幸か。
それは、この優しい夜を超えた先に見えるのだろう。
さてお話は人間と吸血鬼の世界を、分断し横断しながら進んでいく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
今回は”零”が置かれている社会的情勢がよく見える回で、これがまーロクでもない。
時は大恐慌前、成金景気に大正デモクラシーと、比較的明るめな頃合いである。
(画像は"MARS RED"第3話より引用) pic.twitter.com/I85XriFaJQ
日露の記憶も20年の遠くに霞み、ワシントン体制下で軍はその存在意義を問われかけ、陸海は政治的イニシアティブを取り合う覚悟なき腹芸に興じている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
あからさまに味方サイドの後援者が背負っちゃいけない濃さの”闇”を刻んだ中島中将は、この浮薄な情勢に我慢がならない。
無敵の吸血鬼による軍団を整え、戦地で死ぬ若人を減らす。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
立派な志であるが、そのために禁忌に手を染めるのは如何なものか。
そんな常識的なツッコミも含め、伝奇的超常集団は軍隊組織の中では、思いの外肩身が狭い。
まーお偉いさんがツッコムように、吸血鬼弱いもんな…。
人間サイズの戦車と恐れられつつ、近代戦を駆動しうる社会体制に包囲されれば、あまりにも脆い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
ヴァンパイアの歪さは、規格化を以て旨とする近代的軍隊にとっては、手に余る異物なのだろう。
だが不死不滅の大望を掴まんと欲すれば、それくらいの無茶はしなきゃいけない。
耳元を銃弾が通り過ぎるリアリティは、この後帝国の根底を揺るがし国土を燃やすことになる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
吸血鬼を用いてでも無敵の軍団を欲した中島中将の危惧は、ある種の予言めいた卓見とも言える。
だが、世情は彼に味方しない。人は過去を忘れ、未来を見通さない。
前田さんは戦地で救われた恩を返すべく、そして心に焼き付いた岬の仇を取るべく、中将の刃として己を研ぎ澄ます。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
その切れ味は脆さと隣り合わせで、夜と昼の橋渡しをする彼は眠ることが出来ない。
その無茶は、容易に彼を蝕む。
それでも、鍋島武士に撤退はない。特務とは死ぬことと見つけたり。
あらすじをパッと聞いて思い浮かぶところを、上手くズラしてるのがこの作品の面白みだと思うけど。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
『無敵の吸血特務機関!』と厨二力吹き上がりそうな設定で、常識的で俗物な政治屋軍人にボッコにされて、理解ある後援者からも常識的な範疇に納めろと釘を差される。
雁字搦めの状況でも計画のトップは不死の兵団を諦めず、なんかヤベー感じの闇を背負って大暴走。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
全体的に生っぽい。
この状況でも、現場の憲兵達は結構優秀で、前田さんの指揮も捜査も的確なあたり、更に生っぽくて良い。
『もし大正時代に、吸血鬼特務が設立されていたら』というシュミレーション。
その手触りが描写の端々にあるのが、面白いなぁと思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
これが影のない独特のヴィジュアルセンスと、舞台劇的な画面づくりと独特の化学反応をして、作品独自の味わいがしっかり立ち上がっているのが、大変いいと思う。
リアリティの中のファンタジーが持つ、硬い手触りつうか…。
それは天満屋の語る”弱きもの”としての吸血鬼にも伸びる視線だ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
近代国家を成立させる重要なファクターである、国家構成員のアドレス特定。
戸籍制度こそが、白木の杭よりもクリティカルに吸血鬼を死地に追い込む。不変の怪物は、近代国家からは浮かび上がるしかない異物なのだ。
権力装置に組み込まれた異端として、同じ吸血鬼を狩るか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
はたまた、血を吸う獣として駆り立てられるか。
華やかなりし大正ロマンは、吸血鬼には中々生きづらい世界のようだ。
しかしそんな事情を横に置いて、新参夜者たちは結構呑気に生きている。
A級たる秀太郎くんの超高速ムーブに、ポンコツ吸血鬼である山上さんがまーったくついて行けてない描写が、血族としての”格”を語って面白い演出だった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
吸血種としての卓越が圧倒的な”速さ”として描かれるの、V:tMっぽくてすごく好き(TRPGモノ特有の感想)
彼らは超越種としての力を舞台装置に使って、灯篭流しの逢瀬を演出する。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
寝てない前田さん気遣ったり、山上さんのあからさま良い人力が溢れる展開であるが、奥さんとの対話でこれが限界突破。す、好きになっちゃう…。
(画像は"MARS RED"第3話より引用) pic.twitter.com/yo3SSw6t8G
前田さんが俗物軍人に背を向け、覚悟を込めて背負った三途の川は、死人と女房の恋語りを彩る夢舞台ともなる。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
いきなり死人が戻ってきて、細々としたことを涙ながらに託してくるのを、どんと受け止める奥さんもまた、爽快で頼もしい。
ここで生活臭と教養の同居する、山上さんの”生前”見えるの良いね…
鬼灯の文字は唐由来で、”鬼(グィ)”は獄卒ではなく亡霊のことだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
飲めば病魔を追い出す赤い実が、去ったあの人連れてこいと、願いをかけて鬼灯の市。
戦死届を胸に秘めて、女は御霊を送り出さんと灯籠を抱いて思い出の場所に足を運んだ。
同じ想いで、死人もまた。
そんな約定もせぬ逢瀬を彩ろうと、自分が死んでるとも、日本最強の吸血鬼であるとも自覚のない秀太郎が演出を買って出るのが、なんとも呑気で優しかった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
中島中将サイドの、紫煙に満ちた生臭さと対比することで、夜しか歩けない者たちの人間味はより、際立っていたと思う。
『一年後、また』
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
そんな未練を残す亡霊が何処にいると、思わず微笑んでしまう山上さんの去り際。
奇妙な運命に引っ張られ鬼に変じてしまった者たちは、しかし奇妙に生き生きと夜を歩いていく。
江戸の情緒を残す浅草に、爽やかな夜風が優しく吹くエピソードであった。
が。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
”零”の仕事はそれで終わらない。夜の獣は血を啜り、紅殻格子の苦界に身を隠している。
駆り立てる。それが定めと己に任じ、超人的な働きを己に強いる前田さんの心臓は、早くも限界である。マジ休んでッ!!
(画像は"MARS RED"第3話より引用) pic.twitter.com/dZN3ou54NX
前田さんの的確な指示に応じ、ソッコー封鎖線貼る第16特務は優秀だなぁ、などと思いつつ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
死人である意味をまだ噛み締めていない二人がボンヤリしている間に、江戸時代からのベテランは帝都を闊歩するS級を認識・報告したり、事件の気配を掴んだり、大変優秀である。
まー声が鈴村の仮面美青年ってだけで100点なんだが、スワさんの寡黙な仕事人っぷりも上手く匂わされ、さらなる加点が今後期待できそうである。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
秀太郎と山上さんの夜者新参っぷりを今回強調して、次回ベテラン吸血鬼にフォーカス移すの、巧い構成よね。不死者故の年代の奥行きが出そう。
中島中将鉄の信念(あるいは狂気)にクローズアップしたことで、秀太郎が呑気で人のいい若者だけで終わってはいけない理由も彫り込めたし。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
つーか、自分の逡巡で人が死んでなお、吸血種である自分に実感が持てないんだな…ある意味、平凡という異端を背負う主人公か。
吸血鬼としては凡庸でも、人間力と教養はブッチギリな山上さんとか、露骨にマッドなタケウチとか、”零”の面々も彫りが深くなってきたところで、苦界に舞い散るは夜の華。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年4月21日
次回、吉原地獄変。
今回一話休符を挟んだことで、作品世界により深く入り込める、いいテンポだと思います。楽しみだ。