MARS REDを見る。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
横浜の事件を生き延び、”零”は金剛鉄兵の真実を知る。
若人が死なぬ戦場を望み、その未来を踏みつけにする中島の狂気を前に、前田の忠と情が揺れる。
人であることに決死にしがみつく鬼たちに、非情の刃が振り落とされようとした時、大地が揺れた。
そんな感じの”THE DAY”、MARS RED前半戦終了である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
いや色々あったけどさ…山上さんが死んじゃったよッ!!
あんなにズングリムックリで、インテリなのに無能力で、死んでもなお奥さんを思っていたおじさんが、自分をぶっ刺したダチを活かすために日光に燃えてしまった。
萌え萌えヒロイン炎上(物理)で大ショックであるが、つうかこういう言い回しで誤魔化さないと受け身取れないくらいツレーが、ともあれ運命の大震災到来となった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
人多いレンガの東京駅も、浅草の町並みも、デモクラシーとモダンの空気も、全てがここから焼け落ち、捻じくれていく結節点。
ここを越えて物語がどう変わっていくのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
楽しみであると同時に、失われたものの重さ、駆動する狂気に震えもする。
鋼のように揺るがない中島の声に満ちた確信が、時代の風を背負って羽ばたいていくと思うと、時代設定とその描写、ドンピシャだったなぁと思う。
女性解放の気運に乗り、浮ついた世情を楽しめていた時代は終わっていく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
葵ちゃんも、ぷくーっと頬を膨らませたり、ドラキュラごっこしたりはもう出来ないだろう。可愛いのになぁ…。
異端の研究だった金剛鉄兵は、軍国日本の魁と寿がれるかもしれない。
(画像は"MARS RED"第6話より引用) pic.twitter.com/YPOw5bpy6o
しかしその歩みは、人でなしの吸血鬼と蔑まれつつも人であることにしがみついている男達が指摘したように、つくづく外道である。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
若人の命を守るために、人としての可能性を断ち切り、日の下を歩けない怪物に落とす。
中島の所業は、その始まりからして矛盾している。
平和のための戦争、理想のための逸脱。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
父の総身に満ちる優しき狂気に震えたからこそ、岬は未来の伴侶に手紙を出した。
血を吸う狂気に苛まれつつも、赤いインクで思いを託した。
それが、忠義になげうつ命と正気をぎりぎり、淵に留める。
それでも、前田さんは山上さんを刺した。
それが生き様だと、刃で示した。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
それでも、山上さんは前田さんを助け、目の前で燃えた。
愛する女と、かけがえのない友。
二つの…中島への忠義も含めれば三つの聖痕を刻み込まれて、瀕死の男は何を選び取るのか。
同じく鬼に変じるにしても、多分その意味は今回と次回で違う。
判断を捨てた暴力装置の究極として、中島の盃を飲み干すのと、死してなお譲れぬものを貫くために、意思を込めて鬼に落ちていくのでは。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
”零”で唯一人間だった前田さんが、吸血鬼に変わるのであれば確かに、このくらいのドラマが必要であろう。
だが岬も山上さんも、その薪として死に、生き返り再び死んだわけではない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
愛する人がいて、まだまだ生きたいと願って、それでも奇妙な歯車に巻き込まれて、そこにたどり着いてしまった結果として、死んでいくのだ。
前田さんも、この物語も、そういう切実さを込めて進んできて、これからも進むのだ。
それが、やっぱり良いな、と思う。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
震撼する大地から立ち上がるだろう、どす黒い狂気とそれを覆う”志”の包装紙。
一皮剥けば血を吸う獣、人でなし達の軍勢が街を行く日は近い。運命は止めようもなく、烈火の巷へとなだれ込んでいく。
それでも、人であるために。鬼たちの度は続く。
火星の赤が東京駅を染め上げ、やがて来る破壊の予兆を人は知らない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
戒名を刻んだ墓石のようにそそり立つ、金剛鉄兵のねぐらを前に、中島は一人うっそりと立つ。
その歩みはもがいていた夏の蝉を踏み潰し、名簿を黒く染め上げていく。
(画像は"MARS RED"第6話より引用) pic.twitter.com/cXph2aUNqH
第十六特務八十名の精鋭は、中島が殺したのだと、彼ら個別の名前を塗りつぶしていくインクは静かに語っている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
高所でふんぞり返り、すり潰される命のアリアを聞きもしない傲慢を、中島もまた憎んでいたはずなのに、同じく悪鬼と化けている。
理想への陶酔、人理を越えた吸血鬼の力が、その醜悪から彼を遠ざけている。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
”零”の鬼たちは己の弱さ、醜さ、生きづらさをその身で感じているから、常に『鬼になんてなるな』と言い続けている。
もう、望んでも人ではいられない。灯篭流しは、一夜の奇跡でしかない。
だからこそ、人には人でいて欲しい。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
秀太郎と山上さんの血を吐くような叫びは、『吸血鬼が人を騙るなッ!』と一喝されてします。
思考を止めない賢さ、超常の力を芝居の小道具に使うような優しさを、人でなしの鬼こそが持っているのに、それを土足で蹴飛ばす。
力とはその行使者当人ではなく、彼らを武器と使い潰す上位者をこそ、実感なく狂わせていくのかもな、と思ったりする。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
あるいはその重さに耐えかねて、人間の条件を投げ捨てて血吸の悪鬼になって、楽になっていくのかもしれない。
この皮の奥に怪物しかいないなら、魂など投げ捨てた方が楽だ。
中島はその囁きに乗った。近代軍人として、帳簿上消費されていく人命に、多分耐えきれなかったのだろう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
その娘たる岬は、湧き上がる狂気に苛まれつつも手紙を残し、誰の命も奪わず、東京駅で果てた。
その両方の思いを、前田さんは引き継いでいる。
狂気の忠か、重たき情か。
前田さんは、どちらかを選ばなければいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
大正モダンの浮かれた空気の中に、確かに秘められているぼんやりとした不安を反射するように、歯車が踊る司令部。
そこに取り込まれながら、吸血鬼は人を語り、人は外道に落ちていく。
(画像は"MARS RED"第6話より引用) pic.twitter.com/h7GS5x8sQ2
大義の鎧に弱い心を隠す中島の、狂える忠義に身を投げるように、前田さんはかつての同期の鳩尾を貫く。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
一度は捨てて、拾われた命。鋼で繋いで既に、その腕は人のものではない。
ここで前田さんは、”零”に…岬から託されたものに背中を向ける決断を、一度果たす。
意思と縁を投げ捨てるこの決断は、彼の師であり、父にもなり得た中島が既に果たしたものだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
息子として所有物として、彼も同じ道を行こうとする。
しかし天命と人縁がそれを赦してくれないことは、今後の展開が語っている。
お前は、人の地獄を進めと、恋人も友も魂に焼き付けてくる。
思えば岬が吸血鬼となり、前田との縁談が燃え落ちたのも、中島の”息子”となり得ない運命の現れだったのだろうか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
時流は震災を一つの契機として、中島が選び取った…あるいは放棄した道へと突き進んでいく。
数多の人命が戦場に吸い込まれ、老人の血液となって肥え太らせていく、世の宿命。
それを憎んでいたはずなのに、中島もまた老いた悪鬼の一人になってしまう。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
前田さんは大震災に押しつぶされることで、その道から強制的にはじき出され、己の意思で何かを選び、己の意思で鬼になる未来へと繋がっていく。
(画像は"MARS RED"第6話より引用) pic.twitter.com/iDVwWBpI3y
心を殺し、忠の歯車となることを選んだ男が、闇の中求めた灯火。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
かつて友を奪われた橋の上で、確かに共有した思い。
それを表に出すのは、腹をぶち抜いた鉄骨が致命傷だと、前田さんも判っているからだ。
終わるなら、本当のことを言おう。
多分、そう思ったからだ。
血に浸りながらの『生き返るな』に、シニカルな知性を強く感じるわけだが。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
天道の下をもう歩けない、天ぷらも食えないダメダメ吸血鬼はそんな言葉を背負って、死地を前にひょうひょうと進んでいく。
散々吸血鬼の力なんてないと、笑いを交えつつ書いてからのこの剛力は、あまりにズルいでしょ…。
愛妻とも、もう同じ場所を歩けない。好きだった天ぷらも食えず、チェンバロも弾けない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
教養人たる山上さんからすべてを奪い、大した見返りもなかった吸血鬼の力は、最後の最後で親友が地下の底で死んでいく運命を跳ね除ける、特別な力へと変わっていく。
鬼の力を、人である証明として使う。人ではないからこそ、人であることにしがみつく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
重機のように頼もしい山上さんの救命が、かつて秀太郎が一瞬の奇蹟を演じてくれたのと、同じ文脈に乗っているのが綺麗で、また哀しい。
鬼の力で殺す。奪う。
そういう風には、なりたくねぇんだ。
山上さんの力みない歩みが、一市民として、そして一軍人としての静かな誇りに満ちていて、なんとも辛かった。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
中島が踏みつけにしてしまったものを、力なき鬼に落ちてしまった山上さんは凄く大事にしていて、だからこそタバコの灯火に”人間”を照らしたダチの命を、繋ごうとする。
俺をぶっ刺しても、なんだ、お前は俺の好きな前田のままじゃねぇか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
んじゃあ、死んでやっても良いかな。
そんな思いを押し付けることなく、若い秀太郎の未来だけは託して、ひょうひょうと死んでいく血の防人は、青い炎となって陽光に消えた。
岬と同じく、聖痕は形にならない。
だがその魂に、何よりも強く突き刺さってしまったはずだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
死者が必死に託した温もりを、無視して鋼鉄の歯車に変わることを、前田さん自身が赦してはくれないはずだ。
冗句も言う、お茶目もする。
そういう人間だった事実を、前田さん自身が語っていたじゃないか。
それを引っ剥がしたのが、避け得ない死の運命なのか、遠くなりし日々の温もりなのか。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
そこに多分、中島との思い出もあるのだろう。
全てを投げうってでも忠義を捧げたいという気持ちは、けして嘘ではないのだろう。
それでも、それだけが全てではない。
鬼から託されたものが、もしまだ燃えているなら
炎に包まれた東京に、惨劇を見下ろしてなお青い玄月に、前田さんは進みだしていかなければいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
腹から流れる血が、砕かれた足がそれを阻むのなら、不死の悪鬼となってでも。
ここに、これまで描かれた安楽なる大正は終わっていく。
(画像は"MARS RED"第6話より引用) pic.twitter.com/njTTlEy3X0
震災は数多の命を啜り、騒乱の気配が大気に満ち、経済は瘟のごとく悪化していく。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
時代の風が移り変わる中で、まず一つ、男の命が消えた。
来年もう一度、灯籠の夢を演じたいと、ずっと願っていた男だった。
微笑んで死地に進んだ山上さんの思いを、前田さん、アンタ無下にしちゃいけない。
中島が進む修羅道に、伴すると一度決めたとしても、決意を込めて背中を向けなきゃいけない。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
岬の手紙も、思い出も、それを導いている。
さて次回、前田義信は何を選び取るのか。
灰燼の日本は、中島率いる悪鬼の軍勢にどう向き合うのか。
人は死に、物語は続く。次回が楽しみです。
追記
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
敵も味方もサラッと死ぬのが、この作品の良いところだと思う。
山上さんの死に様は散歩にも出るような気軽さで、でもだからこそそこに込められた思いは強く、重たく感じた。
今まで死んだ様々な人と鬼が、多分皆死にたくなどなかった。だが、否応なく死んでいく。
それはこの震災で、あるいはこの先の戦争で死んでいく命全てがそんな風に、さくりさくりと散っていったのだ。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
それが帳簿上の”1”にしかならないところに、近代の怖さがあるとは思うし、それが”歴史”になっていけば更にその重さは、鴻毛のごとく軽くもなるだろう。
だがそれが命である以上、それはひどく重い。
— コバヤシ (@lastbreath0902) 2021年5月11日
ずっと重かったのだし、これからも重いのだろう。
その重量感を、あえて軽く描くことで感じさせる筆致は、この作品の最も優れた部分だと思う。
これもまた、生死を超えた吸血鬼テーマと上手く呼応している部分だろう。