イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイドルマスター・シンデレラガールズ 2nd SEASON:第14話『Who is the lady in the castle?』感想

周回遅れでやって来た(俺的)夏アニメのチャンピオン、新たな物語の始まりはかなりゆったりしたものでした。
これまで物語の軸を明確にし、『一体何をやるのか』が分かりやすかったデレアニにしては、やや狙いが薄く見える展開。
しかしよく見てみると、一期の経験によってCPが今いる場所、そこから変化するために必要な新しいアクターの紹介を随所に埋め込みつつ、プロデューサーの背後霊騒動を楽しく見せる楽しい回だったと思います。
まゆも可愛かったし。

今回のお話はCPの面々が達成した成長がどのような成果を連れてきているかということ、それがどのように心地よい場所なのかということを、色々な角度から見せています。
三ヶ月付き合った名OP『STAR!!』をBGMに描写されるのは、CPの各ユニットが着実に仕事をこなし、アイドルとして頭角を現しつつある姿。
物語がはじまったタイミングでは顔も名前もない、ただの傍観者だった女の子たちが、あの時見つめていた『アイドルで埋まった世界』の当事者になっている構図は、彼女たちが達成したものをよく見せてくれています。
そして、あれだけ劇的だった夏フェスを終えて一ヶ月経っているのですから、ある程度以上の成果は欲しくなる。
そういう気持ちに台詞を使わず表情と美術だけで答え、彼女たちの希望に満ちた今を見せてくれる出だしは、このアニメらしい手際の良さに満ちていて、気持の良いスタートでした。

OP明けてアバンで感じたことを、島村さんたちが言葉にしてまとめてくれています。
この『描写の後に台詞で追撃する』スタイルは例えば、夏合宿の狙い新田さんが喋る第12話終盤でも使っているやり方で、喋らなさすぎて意図がわからないことも、喋りすぎて雰囲気が壊れることもない、良いバランスだなと思っています。
出だしで特徴的な演出技法が出てくると、シリーズとしての強みを忘れていない感じを強く受け、信頼感が高まりますね。

この開幕三分ぐらいで『今のCPがどんな感じか』はだいたい説明されているのですが、小さな仕事がみっしり詰まり、バランスの良い充実感に包まれた幸せな現状の描写は、物語のラストまで継続していきます。
今回のお話は背後霊やストーカーを扱いつつもけして深刻にはならず、打ち解けた雰囲気と優しい空気に満ち、女の子たちはずっと笑っている。
というか、あれだけ仏頂面を崩さなかったプロデューサーがとても朗らかに過ごしている。
前川がカフェを占拠したり、本田がアイドル辞めるとぶちあげたりした時のお辛い空気とは、全く異なる雰囲気が『今のCPの感じ』なわけです。


等身大の夢と苦しみを乗り越えてここまで来た彼女たちを知っていると、今回見せられた多幸的な空気はとても心地よく、有り難いものに感じられます。
しかし彼女たちの物語を作るスタッフたちはそこから一歩先に踏み出すつもりらしく、そのために呼ばれたアクターが美城常務です。
彼女は心地よかった今回のエピソードに『全プロジェクトの白紙撤回』という爆弾を投げつけ、このままお話が進むのではないと明確にしました。

常務の意図が何処にあるのかは次回以降明らかにされていくわけですが、彼女自身のキャラクターは今回の描写から少し見えるものがありました。
怜悧で優秀、プロデューサーのネクタイを直すシーンからして独善というわけではないけど、苛烈に状況を変えていくことを恐れない女。
これまで大人役を担当していた部長がじっくりと後ろから見守るスタイルだったのとは、かなり対照的な位置にいるキャラだと言えます。
このアニメは『灰かぶり』を本歌取りしているわけですが、プロデューサーが馬車の車輪と魔法使い(もしかすると王子)を兼任しているように、シンデレラに試練を与える継母たちの役目を重ね合わされている印象も受けます。
彼女が意地悪な継母であると同時に、シンデレラに魔法をかけるフェアリー・ゴッドマザーであるか否かは、今後の展開を待たねばならないでしょうけども。

ともあれ、彼女が今回示された平和で中途半端な到達点を破壊し、新たなステージを強制的に目指させる起点であるというのは、間違いなさそうです。
CPが今いる場所が完全な到達点ではない、というのは彼女たちの仕事風景にも現れていて、学園祭のステージにしても、撮影の現場にしても、おそらく意図的に未完成の骨組みがカメラに映りこみ、完成度の低さを視聴者に示しています。
もし彼女たちが破壊と再構築の余地もない完璧な存在に到達しているのなら、舞台裏を見せるにしてもより緊張感のある見せ方をしていると思うので、今回のどこか緩んだ空気は結構意図的なのかな、などと思っています。

思い違いとディスコミュニケーションからはじまったCPの物語(は、半分くらい本田未央の物語でもあるのですが)を思い起こせば、今回見せられた柔らかな時間は欠けがいなく有り難いものです。
未央が『アイドル辞める!』と叫んだ時、合宿で『Goin'!!!』のフリが完全にキマった時、僕が見たかったのはこういう、みんながお互いのことを判っていて、お互いのことを思いやる風景でした。
その気持を救い上げるように、今回の彼女たちはとても幸せそうで、とても可愛く、素敵だった。
みりあちゃんは相変わらず可愛さの奥にワイルドさを持っていて素晴らしいし、恋バナで浮かれる島村さんは笑顔の天使だけではない魅力があった。
今回(も)良く考えられたレイアウトと芝居で伝わってきたのは、一期の積み重ねの果てに辿り着いた心地よさを否定するわけではないと、同時に今彼女たちがいるのはこの程度だよという、スタッフからのメッセージです。
学園祭のゲストステージをこなし、プロデューサーの周囲に蠢く怪しい影で盛り上がれる現在は大事だけれども、その穏やかな幸せの先にある風景、アイドルとして見る/見せる事のできるより高い到達点を目指していくのが、2ndSEASONの一つの狙いだと、安定感と影の同居する今回の描写は言っていたように、僕は思うのです。


変化の果てに辿り着いた安定だけではなく、安定の先にある変化の予感も、今回はアイドルの姿でたっぷりやって来ました。
渋谷さんは神谷さん&北条さんとの邂逅を果たし、多田さんはロックンロールの神様と出会っていた。
夏樹さんの王子様力が高すぎて、『あれ……俺物語!!見てたんだっけ?』という気持ちになったのは秘密だ。
彼女たちの出会いは確実に今後話を動かす軸になるわけで、双方印象的に描けていたのはとても良かったと思います。

『楽しんでいますか?』とプロデューサーに問われた渋谷さんは、『その途中』であると返します。(あそこのロケがAKB劇場の真ん前なのは、狙ったのか偶然なのかは分かりませんが二次元と三次元が交錯する奇妙な緊張感があって、僕は好きです)
今回見せた変化への予感を、この群像劇の中でも主役的な立場にある渋谷さんが口にしているわけですが、それを受け止めるかのように顔を出した二人の女の子は、なかなか面白い存在です。

渋谷さんは島村さんのようにアイドルに憧れてアイドルを目指したわけではありません。
熱くなれる、楽しくなれるものが何もない日常の中で、プロデューサーと島村さんが一瞬見せた輝きの予感に引き寄せられるように、なんとなくアイドルになった存在です。
明確な目標や憧れを持たない彼女が、気づけば神谷さんや北条さんを惹きつけ、憧れる存在になっているという出会いの構図は、13話分進んだ物語が渋谷さんを運んできた場所の高さをよく見せていて面白い。
今後神谷さん達と触れ合う中で、未来と自分に明確なイメージがなかった渋谷さんが、しかし誰かの憧れ、未来に進んでいく道標になってしまっているという現状が浮かび上がってくるのではないか。
僕はそう期待しています。
しかし、神谷さんは太眉で可愛いな。


にわかロッカー多田李衣菜も、自分の運命と出会っていました。
あの適当な多田さんが真面目に地道にコード練習する姿は、オッサンの涙腺を激しく刺激しましたが、それはさておき木村さんとの出会いもまた、面白い。
渋谷さんが憧れの対象として追いかけられる立場なのに対し、李衣菜ちゃんは口笛とともに颯爽と現れ、利き腕ではないギターを華麗に弾きこなす木村さんに憧れ、追いかけていく立場です。
今後他のキャラクターも新たな出会いの中で変化していくんでしょうが、追いかけられる/追いかけるという対照的な立場を一番最初に持ってきたのは、見せ方の多様性を予感させて凄く期待が高まります。

とりあえずギター褒めまくる木村さんの王子力はとんでもないことになっており、多田さんがロックの電撃に痺れる描写の巧さもあって、とても印象的でした。
まさに一目惚れってかんじですけど、前川お前大丈夫? ギター引けないけど勝てるの? 大丈夫? という気持ちになる。
木村さんサラッとカッコイイことこなすし器も大きそうだし、前川にも優しいんだろうなぁ……そんな木村さんとの差に前川が悩んだりするんだろうなぁ……頑張れ前川!!(妄想で期待高まりまくり前川大好きおじさん)


期待高まる2ndSEASON、その出だしに相応しい、穏やかながら様々な要素を孕んだ、多角的な回でした。
これまでの物語の到達点として見せられた穏やかで内向きで不完全な姿がとても優しかったからこそ、そこに爆弾を投げ込んだ常務の狙いが気になるという、寒暖の差を活かした構成だったと思います。
一体美城乗務は何を考え、何を目指して白紙撤回を言い出したのか。
彼女の投げ込んだ意思は、どのような波紋を起こすのか。
想像できる部分もあるし、想像しきれない部分もあるという、理想的な滑り出しかと思います。
デレアニ二期、待っていた甲斐があるアニメのようですな。