イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

のんのんびより りぴーと:第10話『すごく練習した』感想

晩秋の田舎を子供が駆け抜けていくアニメ、第10話の今回はれんげメイン。
このみお姉ちゃんと遊んだり、補助輪無しで自転車をこぐ練習をしたり、風邪を引いたり。
じわっとした語り口で小学1年生の日々を追いかけていて、落ち着いた素晴らしさが全面に出ておりました。

お話の作りとしてはこのみパートで温度を上げておいて、自転車パートで涙腺を殴りに来る展開なのですが、ジャブでも手を抜かないのが良いところ。
れんちょんの天才芸をフルに弄りつつ、賢い子供をついつい弄りたくなってしまう大人の視点をよく捉えた、良いスケッチでした。
悪気はないとはいえ騙しは騙しなのですが、ちゃんとネタばらしをするシーンを話に収めたりして、ヤダ味が出ないよう気を配っているのがこのアニメらしい。

純真に妖怪を信じるれんちょんが可愛らしくも面白いこのパートなんですが、後半に向けた布石が一個打たれていて。
このみの指が切れた(演技をした)シーンで、れんちょんはパニクリながらも絆創膏を出し、このみの怪我を治そうとする。
怪我をしたら手当をするという当たり前の、しかしなかなか出来ない気遣いというのは巡り巡って後半、れんちょん自身が駄菓子屋から受けるケアでもあります。
幼い真心を大人も持っていて、頑張る子供にひっそりと施してあげる心遣いの連鎖がこの作品にはちゃんとある。
そういう気持ちになれるアイテムの使い方で、とても良かったと思います。


後半はれんげと駄菓子屋とねぇねぇの自転車修行。
今回はねぇねぇがダメ大人ではなく、れんげの姉として親代わりとして頼りになる存在だった。
こたつ部屋の奥にカメラをガッと据えて、居間と台所を縦に切り取る構図がスゴい詩情で、あのフレームの中で繰り広げられる『れんちょん親代わり同盟』の繋がりがヤバかったですね。

ひらたいらさんが死んだ時もそうなんですが、このアニメにおいて小学1年生はそのストイックさに敬意を払われ、ハードボイルドな扱いを受けています。
今回れんげは何回も転びますが、ねぇねぇも駄菓子屋も止めろとは言わない。
その代わりに見守って絆創膏で傷を直し、一緒にいてあげる。
それはただ優しいだけではなく、れんげという小さな個人を尊重しているから生まれる態度だと思います。
何度も立ち上がるれんげをただ強いだけの存在として描かず、一回だけ涙を流す姿を、画面の外で見せたことが、そういう態度が無言で立ち上がってくる証明でしょう。
僕はそういう、小さい意志を尊敬する態度があればこそ、このアニメはとても良いのだと思っています。

れんげは永遠に小学1年生なわけではなく、いつか『何処までも行って』しまう意思を持った個人です。
自転車というアイテムを成長のモティーフに使い、冬が近づく寂静とした田舎の風景と一緒に見せた今回は、別れの予感に満ちた話でもある。
しかし今は未だ、ほしいお菓子の店に手が届かない子供でもあって、そこには駄菓子屋がいなければいけない。
いつか終わってしまう時間はしかし、終わってしまうことが決まっていても意味があるし、大切なものとして丁寧に扱わなければいけないんだというメッセージが、補助輪のない自転車とサイダー味のお菓子には詰まっていたように思います。
駄菓子屋もねぇねぇも、変化していく時間に執着するのではなく、変化自体を謳歌し祝いでいることが、すごく余裕があって素敵だなと感じる見せ方でした。
そういう一種の死の予感を濃厚かつ自覚的に漂わせているアニメが、時間巻き戻しのりぴーとで成立してるってのは、なかなか面白い現象だぁな。

あとれんちょんは駄菓子屋好き過ぎだし、駄菓子屋はれんげ好き過ぎ。(毎回のこと)
『見守ってくれそうな人』でイノイチ駄菓子屋出てくる所とか、風邪引いてご本読んで欲しい人が駄菓子屋だったりとか、その本を『何度も』読んでたりとか、二人が共有している時間の分厚さがスゴいことになってました。
『仕事あるから』とあしらっていた子供がいざ風邪引いたとなれば、シャッター閉めて駆けつけちゃう情。
そこを煽っちゃうからなっつんはクソガキなんな。


久しぶりにれんちょんを真ん中にどっしりと据え、穏やかな時間の流れを切り取ったエピソードとなりました。
色んなお話が愛おしいのんのんびよりですが、やはり幼い天才が画面を専有し、そのみずみずしい感性とひたむきな生き方がフィルムに収められると、最高に素晴らしい。
自分たちが紡いでいる物語と、そこで息をしているキャラクターに対する愛情がじわっと伝わってきて、『俺、このアニメ見てて良かったなぁ』と思いました。
そういう気持ちになれるのは、なかなか有り難いことですね。