イマワノキワ

TRPGやアニメのことをガンガン書き連ねていくコバヤシのブログ

アイカツ!:第166話『私が見つけた最初の風』感想

ルミナス・ジャパン・ツアーもファイナルを迎え、ついにあかりジェネレーションの物語もクライマックス。
来るべき決戦のステージ、スターライトクイーンカップに向け、お話が大きく転がり始める回となりました。
最初のランナーとして白羽の矢が立ったのは、ステージに咲く氷の花、氷上スミレ。
恵まれているが故に夢の形を持たない少女を軸に据えることで、ルミナスの、アイカツ!の、SLQCの意味を再確認できる、良いスタートダッシュになったと思います。

神崎美月という具象化された『アイドルの天井』を追いかけ続けた、いちご世代の物語の歪みを反省してか、はたまた別の形でアイドルを物語るためか、あかりジェネレーションはかなり計画的にSLQCの価値を上げ続け、『ここに至ることで物語が完成するのだ』というサインを出し続けてきました。
具体的には第124話『クイーンの花』という名エピソードを使って北大路さくら(に女王位を禅譲する有栖川おとめ)の物語を完成させ、その後もことあるごとにSLQCを意識したシーンを運営することで、人格を持つ一人の少女がアイドル界を背負って立つのではなく、開かれた戦いの場を制することで、『アイドルの天井』を一定期間務めるという、いわば象徴であり機関でもある制度としてのクイーンの説得力を、あかりジェネレーションは積み上げてきたわけです。
今回歴代クイーンが顔を出し、後輩に言葉をかける展開は正しくその演出ライン上に乗っかっています。

SLQCを頂上とするアイカツ!の物語に説得力があるのは、三人のクイーン全てが言及しているように、王冠を取ることそれ自体が目的化しないよう、注意深くお話が構築されてきたからです。
三人の女王経験者達はみな、『クイーンカップを手に入れること』ではなく、『クイーンカップを手に入れるための努力』『カップを手に入れた後変化する世界』について語る。
それは空疎な勝負論を離れた個人的な成長や変化、そして個人が変わることで変化していく他社や社会を重視する、アイカツ!らしい視点だといえます。
『本気で競い合うことは大事だけど、そこで付く勝敗それ自体ではなく、勝ちや負けに至る道筋や、その先にある風景こそが価値なのだ』と強く自覚することで、アイカツ世界は悪意を排除しても成り立つ、究極の綺麗事としてのアイカツを成立させているわけです。


この『永遠に続く道』への視線は今回、二人のアイドルが見る『アイドルの階段』で明確にイメージ化されています。
星宮いちごを初期衝動とし、ポーザーという立場から『アイドルの階段』を登り始めたあかりちゃんですが、髪を切り大空お天気という自分が輝く場所を手に入れ、星宮いちごに敗北することで、彼女はその立場をもはや乗り越えている。
自分を照らしてくれるあこがれの先輩が、もはや最終目標ではないことを、終りが見えない永遠の道はわかりやすく示しています。
輝く初期衝動に強く尊敬の念は抱いていても、もうあかりちゃんの夢は『星宮いちごになること』ではなく、多くの人に笑顔を届けるアイドルという、自分だけの輝く色を手に入れている。
それは、彼女が約二年間走り続けた彼女の物語(つまり僕が見てきた物語)が辿り着いた、一つの立派な道標だといえるでしょう。

ひなきちゃんにしても『有名になりたい』という一見俗な目標の中に、尊敬する両親との競演という初期衝動と、そこを乗り越えてより多くの人と繋がって行く未来を塗り固めている。
『クイーンになる』『有名になる』というのはあくまで手段であって、彼女の目的と目標はより広く、より強く、より正しい方向に突き進んでいく。
かつて自分を出せずに悩んでいた、あまりにも優しくて賢い女の子が堂々と『有名になりたい』と吠える姿には、逞しさと頼もしさを感じました。


このように初期衝動と未来の夢、それを実現するための現実的目標を的確に見据えた二人の仲間に比べ、スミレちゃんは未だに夢を言葉に出来ず、自分が何故アイドルをやっているのか、わからない状態で今回お話に参加します。
先代クイーンたちに発破をかけられ、高鳴りだした胸の鼓動に引っ張られるように走りだした二人の仲間に一歩遅れるその姿は、的確にスミレちゃんの現状を表現していました。
まるで頑是ない子供のように駈け出したひなきのような、居ても立ってもいられないアツい衝動が自分にはない。
クイーンの冠を何故目指し、それを手に入れることで何を実現したいのかというビジョンがない。
それを正しく認識していればこそ、スミレちゃんは二人と同じスタートラインに立つことをためらうわけです。

アイカツ世界は悪意が存在できず、ただただ健全さと直向きさを武器に勝負をしなければならないルールで動いています。
ひとりだけれでも独りではない真剣な戦いに赴くためには一種の誠実さが必要で、スミレちゃんは自分にそれが欠けていること、正確に言えば戦いに赴く理由が未だ形になっていないことを強く認識していればこそ、今回足踏みをする。
自分にアイドルを進めてくれた姉を筆頭に、誰かに愛されることを当然のものとして受け止めてきた『持っている』女の子だからこそ、自発的な欲望が薄いという描き方は、スミレちゃんを切り取るときに徹底されてきたアングルです。

そしてそんなスミレちゃんを柔らかく見守り、より良い方向に歩き出すまで見守ることを選ぶルミナスの仲間の姿も、今回は丁寧に描かれていました。
ジャパン・ツアーではルミナスの『仲間』という側面が強調されましたが、今後のSLQCとその準備においては『ライバル』という属性に光を当てていくのだと思います。
そこら辺はステージが終わった後のひなきのセリフに予感させられていますが、同時に『ライバル』と『仲間』は背中合わせではなく、むしろお互いがお互いを支え合う(というか、悪意が存在しないアイカツ世界ではそういう存在の仕方しか出来ない)関係なのだということが、今回三人一緒のスタートダッシュから見えてくる。
ここら辺の丁寧なロジック確認は、今後SLQCに纏わる話を積み上げていく上で、非常に大事な足場になるわけで、物語的地ならしを丁寧にやったことは、今後必ず生きてくると思います。
『何故SLQCというイベントをやるのか』『その過程に何があり、その先に何を目指すのか』という問いかけは、自動的にアイカツという作品が何を目指し、何を語ってきたかへの問いかけにもなるはずです。
それが乗っかる足場が今回、物語的にも演出的にも丁寧に整理されていたのは、とても良いことだと思います。


何もないと思い悩むスミレちゃんは、ルミナスの仲間と語り合うことで自分の風を見つけ、『SLQCを目指す理由』『その先にある風景』を形にしていきます。
『歌』という欲望、『アイドルを極める』という夢は、二人の仲間とは違う、14歳の女の子が今まさに見つけた夢です。
でもそれは、幼い時からずっと変わらなかった夢と同じようにキラキラと輝いて、意味のある夢なのだということを、今回のお話は強調していました。
その平等性は、凄くアイカツらしい優しさと正しさに満ちていた、優れた描き方だとぼくは思うのです。

思い返すとスミレちゃんの物語は、欲望を見つけ、形にしていく物語だった気がします。
争うことが怖くて人と距離を開けていた最初期から、偶然を味方につけてあかりちゃんと出会い(第102話)、ロリゴシックのドレスという具象化された夢を自分のものにし(第108話)、CM出演のチャンスを横にどけてまで実現したい歌という夢に出会い(第117話)、凛ちゃんと特別な存在になりたいという欲望のまま走り抜ける。(第130話、第131話、第158話)
『あれが欲しい』『こうなりたい』と口にしなくても与えられてきた、特別美人な女の子のお話をもう一度見返してみると、そこには引っ込み思案なスミレちゃんが一歩前に出て、己の欲望を肯定し、欲しいものを掴み取るためにがむしゃらになっていくストーリーラインが浮かび上がってきます。
今回全国放送という広い場所で、己の欲望を堂々と肯定したのは、その物語のどまんなかに位置する行動だと思うわけです。

そしてその宣言はちゃんと世界に広がっていって、特別な誰かに届いて、専用のプレミアムドレスという形で結実する。
アイカツ世界の大人って子供の夢を凄く肯定的に捉え、そのための具体的な助言・行動をしてくれる『良く出来た大人』だと思うわけですが、今回もマヤさんもスミレちゃんの決意を正面から受け止め、自分の感じた想いをまっすぐに言葉にし、真心をドレスという形で与えてくれる『良く出来た大人』の鑑でした。
スミレちゃんという、今まさに夢に出会った少女だけではなく、子どもたちが『アイドルの階段』を永遠に走り続けていくために絶対必要な助力についてもしっかり描いているところは、アイカツの健全な、そして優秀な作劇法だと思います。

欲望とドレスを受け取って望んだ舞台も、スミレちゃんの決意と不安に切れこんだ鋭い表現でした。
ややワード数の多い、語り調子の歌詞もゴシックな世界観にあっているし、世界観を作りこんでいくロリゴシックのディーヴァとして完成度の高いステージだったと思います。
アイカツのライティング表現は三年目真ん中辺りから別格の領域まで行ってましたが、今回スミレちゃんを通り過ぎ、輝かせていく光の表現はまた一段階表現力を上げてきていて、どこまでいくんだと少し怖くもなった。
『逆位置なら挫折』はタロットの3番、女帝のカードのことですね多分。(正位置だと繁栄、豊穰、女性的魅力などなど)
あかりちゃんとの出会いでもタロットの正位置・逆位置(に象徴される心の持ち方)が印象的に使われていたわけで、ステージ全てが氷上スミレという少女の過去と現在、そして未来を凝縮した、中身の濃い表現だったのではないでしょうか。


というわけで、4月までの道のりを折り返し、SLQC体制に入るランドマークなお話でした。
飛び抜けた美貌を『持っている』存在だからこそ、戦う理由を『持っていない』不思議な少女が、今まさに夢に出会う過程をちゃんと描くことで、その夢が向かう先としてのSLQCをくっきりと際立たせる、良いエピソードでした。
スミレちゃんの鏡になり支えになって彼女を奮い立たせるルミナスの仲間、SLQという立場についたことで輝くものを見つけた先輩たち、子供の獅子吼を真っ向から受け止め真心を返す大人と、周囲の人達も豊かに描かれ、アイカツらしい視野の広さが最大限に発揮されていました。

こういう素晴らしいエピソードで滑りだした、アイカツ四年目後半、あかりジェネレーション総決算。
スミレちゃんだけではなく、アイカツ世界を走り抜けてきた全ての女の子のエピソードに期待が高まる、良いお話だったと思います。
SLQCというクライマックスに向けて、女の子たちのアイドル活動をどう総括し、その先にあるもの、今胸を占めているものをどのような説得力を持って見せてくれるのか、とても楽しみです。
アイカツ、やっぱ凄いなほんと……。